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胴体や翼の「羽布貼り」は、どうやって止めたの。まさか、アラビア糊とは思えないけど。 それから、木製の場合と、ハリケーンみたいな金属製の場合とでは、止める方法が違うと思いますけど。 よろしく、お願いします。 エリちゃん |
金属でも木製でも手法は変わりません。この続きはオフ会で。
BUN
BUN
http://www1.odn.ne.jp/~can55330/rndphoto/xga/ibu25dusk.jpg
の胴体下面。
Schump
ほんとうかな?
矮鶏
BUN
>大戦時の木製機は木は木でも強化木で材質が異なるから、それは無いんじゃないかな。
実際調べてみたことがないので、憶測の域を脱しない無駄話ですが私見を少々。
個人的には、家具屋さんや楽器屋さんなど、所謂木工製品を古くから製造してきた
企業が、モスキートの開発時に有益なアドバイスを行った可能性は十分あると
思っています。
木材の接着材としては、ガゼイン、膠等に代表される天然高分子が古くから使用
され、今世紀に入り尿素/メラミン樹脂、フェノール/レゾルシノール樹脂
その他の合成接着材の使用が一般化しましたが、いずれの合成接着剤も合板に
代表される木質系構造材は無論のこと、家具/楽器等旧来の木工製品の製造にも
重要な役割を果たしています。
力学材料としての木材の特徴を2点挙げるならば、
1). 重量比強度が大きい
2). 直交異方性材料であり、伸縮/強度が軸方向によって著しく異なる
といったところでしょう。
事実構造材としての合板や積層木材は 2).の欠点を均一化すべく開発されたもの
でしょうが、この接着強度は材料の含水率や、空隙率によって大きく変動が起こり
得る為、一定の性能を持った製品を量産するためには”木”材を見る目が欠かせません。
このあたりのスキルは、家具/楽器等の製造にあたって重要視される事柄と大きく
異なるものではないでしょう。
また、家具/楽器等の製造では、古くは4000年以上昔から”構造強度の獲得”より
むしろ他の重要な動機、すなわち自由な曲面形状を得る為に木材薄片の積層を
行ってきましたが、このあたり蓄積された技術もモスキートの製造に必要とされた
技術と重複する部分が多いのではないでしょうか。
(これらについてはいずれ詳しく調べてみたいと思っています。)
ところで”強化木”というのは、なんのことでしょうか?
みなと
BUN
米陸軍の試作木製戦闘機の場合、航空機会社では精度が出せなかったテーパーの掛かった梁材(?)を家具工場に発注したら簡単に作ってきたという話を読んだ覚えがあります。という訳で餅は餅屋だと思うのですが。もっとも、所詮不採用で終わるような機体ですので先進的な樹脂技術などは使われていなかったのかもしれませんが。
けい
BUN
硬化積層材を研究していました。
これは、1o程度の薄材を合成樹脂接着剤で張り合わせて加熱、圧縮したもので
あり。相当な高性能を発揮したようです。
そこまで行かなくとも、我が国においてさえ航空機用の木材は家具レベルとはか
なり異なる研究、開発を行っていたようで、これは求められる性能が家具と航空
機では異なる為と思われます。
ただ、加工などはまた別かもしれませんね。
tackow
様なものがあるかもしれません。が、それが、フィードバックなのか、偶然の
一致なのかは判りませんが・・・
tackow
在来工法は十分に経験の蓄積があったものと思います。
というより、軍は木材の伝統的加工技術の最先端を進んでいた、というのが
正しい認識のような気がします。
BUN
>硬化積層材を研究していました。
>これは、1o程度の薄材を合成樹脂接着剤で張り合わせて加熱、圧縮したもので
>あり。相当な高性能を発揮したようです。
これはどんな部材か察しがつきます。桁やプロペラ等への使用を前提として開発されていた
ものなら、今日でいうLVL(Laminated Veneer Lumber)、単板積層材です。
”合成樹脂接着剤で張り合わせて加熱、圧縮”とありますね。ここから使用接着剤は
アルカリフェノール/レゾルシノール系を使用したことが推察できます。
この接着材はコストも勘案すると現在でもなお、当該用途には有力な代換がない程優秀なもの
ですが、欧米ではWW2以前から特殊なものではありませんでした。
米国を中心として1930年代すでにこのアルカリフェノール樹脂接着剤を使用した合板が量産
されており、航空機/舟艇といった特殊な用途に限らず、建築/梱包材から家具に至るまで
広く使用されていました。
尚、LVLの性能について、木製プロペラが一般的だった1930年刊のF.E.Weick著
”Aircraft Propeller Design” によれば、木製プロペラに使用される材料の標準的な
引張強度として 5000〜6000 lb/sq.in. 圧縮側で3000 lb/sq.in を挙げていますが、
これらの数値はLVLでは容易に到達可能なものです。
また、材料強度の変動係数、所謂ばらつきは単板の厚みにも依存しますが天然材料に比して
通常4〜7分の1と、非常に小さいのも重要な特徴と言えるでしょう。
現在でも固定ピッチプロペラの材料として、LVLは優秀な材料です。
すでに19世紀のイギリスでは家具等、木工製品の量産が行われていますが、指摘したい
重要な点は、木材という不安定且つ均一性を欠く材料から、”同じ”デザイン、同じサイズの
製品を生産する技術が確立した、ということなのです。
実は合板やLVLは家具の製造にいち早く取り入れられていますが、この事実は逆に木材から
同一サイズの工業製品を量産することの困難性を示唆しているのでしょう。
(余談ですが、わが国で建築構造用としてLVLが使用されはじめたのは、LVLが建築基準法でいう
特殊な構造材料にあたる為、ほんの10数年前からに過ぎません。
それ以前LVLの使途は家具/楽器のみに限定された、小さな市場でした)
アルカリフェノール樹脂接着剤を用いLVLを製造する場合、品質管理上重要な点は、
ロータリーレース、あるいはスライサーという機械をつかって薄く加工された木材の含水率を、
9%以下に乾燥させる点です。 ご存知の通り木材は乾燥に伴い変形、割れが生じます。
例えばこのあたりでも従来の木工業者は、最終生産品の歩留まりを上げる為に有益なアドバイスを
行え得た、と想像します。
>木材っていうとカンナかけたり・・・と思いがちなんだけれど、やっぱり金属と同じように
>旋盤とかの機械加工をやるんですよね。
これは木工の分野に先入観をお持ちなのかもしれません。歴史的には旋盤(の祖先、と言った
方が正確でしょうか)はまず木工用途として発明されたことでしょう。
((家具の、連続的なくびれを持った足はどうやって製造されますか?))
LVL製のプロペラは、プロペラディスク面に掛かる荷重に由来する曲げ、せん断力を主に考える
為構造材としては比較的簡単な扱いが可能で、製造にあたっては繊維方向がプロペラディスク面
直径と平行となるように積層したLVLを削り出せば良いのですが、
例えば主翼のリブをLVLで製作しようと考えた場合、削りだしという製造方法を採る訳にいきません。
というのは、前回の書き込みで指摘した通り、木材は直交異方性材料であり、
伸縮/強度が軸方向によって著しく異なる為です。
(具体的な数値を挙げるなら、繊維方向の引張強度を1とした場合、それと直交する他の2軸の
引張強度は通常、接線方向で0.03、半径方向で0.05程度有るに過ぎません)
では、どのような製造方法を採ればLVLを主翼のリブ材として使用出来るでしょうか?
答えは、薄くスライスした単板に接着材を塗布し、ジグにいれて所望の形状に曲げ、接着剤が
硬化するまでクランプで抑えつける製造法です。
そう、これはまさしくピアノや、家具の製造方法と同じですね。
このあたりも家具屋さんのノウハウが生かされたのではないか?と想像する所以です。
>第二次大戦時に復活する木製機は金属材料の木材への置き換えによって登場しています。
>木製機に使用される「木材」は樹脂で強化された合板で、当時の木製機は木製というより
>繊維強化樹脂機と言った方が正しいようなものであり、その材料は家具などに使用される
>一般的な木材ではないということです。
これが良くわからないんです。確かに、木繊維中の導管等、開放部分に樹脂を加圧注入して機械特性
を改善しようという試み等ありますが、著しい効果を上げたものというと、ちょっと思い浮かびません。
概して、これらの研究は限定的な機械特性の向上の犠牲として木材の最も著しい特徴、すなわち
重量比強度を失う傾向があり、特に航空機用としてどのような ”一般的でない木材”があったのか、
というのは非常に興味深く感じます。 研究のご進展をお待ちしています。
手許にあった資料では、戦後のベル47シリーズのローターに採用された木構造が掲載されていました。
スパー部:Birch(かば)、軟鋼製コア入り
Wing Main Body:シトカ・スプルース集成材
(シトカ・スプルースは数ある木材の中でも最も比強度の高い材料です)
Wing Aft Body: バルサ集成材
翼後縁部:Birch(かば)
これらの木製翼の外面にエポキシ樹脂を浸漬させたグラスファイバーが巻かれ、翼前縁部にプラスチック
テープが張られていました。木構造部分はまさに ”適材適所”という言葉そのものですね。
みなと
教えて。
エリちゃん
山形県民
>15 秋水の無動力滑空練習機「秋草」のことではないでしょうか。
ささき
縫いつけていくのが基本ですが、第二次大戦で活躍した高速機の舵面に
用いられた金属骨格/羽布張りの場合、レール状の羽布受けに設けられた穴に
糸で縫いつけて行く方法の他に、羽布受け自体V字形にくぼみがあり、羽布を
配置した上にリテーナーと呼ばれる三角断面の金属板をはめ込んで
ねじ止めする方法などもありました。この方法の場合、非常に容易に
平滑な仕上げ面が得られます。
さて、以上はリネン/コットン(あるいは限定的にシルク)といった天然繊維
から作られた羽布の取り付け方法ですが、戦後、デュポン社のポリエステル繊維
(商標名 Dacron)が一般に用いられるようになってから状況は一変しました。
ポリエステル製羽布を使用した場合、リブ等構造への接着が可能になり、時間の
かかる縫いつけの作業を極小に減らすことができたのと、張りつけ後、適当な
温度でアイロン掛けし、繊維を収縮させることによって、手軽にたるみのない、
美しい仕上げが得られるようになったのです。もちろん耐久性も飛躍的に
向上しています。
デュポン社のポリエステル繊維の特許は1959年に切れていますが、それ以降
の1960年台初頭にこの素材の変革は急速に進行し、デカスロン等現用の機体の
羽布は(レストレーション以外)すべて合成素材となりました。
みなと
良くわかりました。
エリちゃん
さて、木製機の生産の様子については、解説文はともかくも数十枚にわたる写真を使用して当時の木製機製造現場を伝えた記事が「航空朝日」昭和19年4月号に掲載されており、まったく御説の通りの生産方法で製作されていますが、問題はこうした技術が民間から取り入れなければならなかった程に「忘れられた技術」などではないだろうと推測できる点です。「家具屋の助言」といった言葉に象徴されるような事例はごく稀なことだったのではありませんか?そこは調べられましたか?
BUN
として具体的な強度数値は家具屋さんでは把握していなかったでしょうから、
軍独自に研究、開発していたのではないでしょうか?
航空機の構造材として使うには、当然の事ながら強度を数値で表さなくてはな
らないでしょうから・・・我が国でも先に書き込んだ以外にも様々な研究を実
施しているのですが、それを基に日本航空機規格の改訂用の資料を作ったりし
ています。
tackow
ささき
>さて、木製機の生産の様子については、解説文はともかくも数十枚にわたる写真を使用して
>当時の木製機製造現場を伝えた記事が「航空朝日」昭和19年4月号に掲載されており、
>まったく御説の通りの生産方法で製作されていますが、問題はこうした技術が民間から
>取り入れなければならなかった程に「忘れられた技術」などではないだろうと推測できる点
>です。
僕の見解は逆です。
前回の書き込みで素材(原材、接着材)から加工方法/量産方法に至るまで、木製機の製作に
応用された技術の多くは家具・楽器製造業等、旧来の木工産業にとってWW2時すでに目新しいものではなかったことを、LVLと合板の例をとって説明申し上げました。(といっても欧米での
お話し、と注釈しなければなりません。戦前の日本の構造用接着剤や、合板の生産量のデーター
は手許に無く、現時点では確証できかねます)
すなわち、家具・楽器製造業者にとって木製機の量産に応用された技術の多くはまさに
自家薬籠中のものであった、と思えるのです。
戦時中の検閲が厳しい時節に発行された一般向けの「航空朝日」に木製機の製造工程を示す
数十枚もの写真が掲載されていたとするなら、それは何を意味しますか?
おそらく日本でもそれら技術がすでに一般的に知られたものであったか、
あるいは欧米側ではすでに目新しい技術ではない、との認識が当時存在したと解釈するのが
合理的ではありませんか?
さて、たとえ民間側で既知であったとしても、BUNさんが仰るように 軍にとって
「忘れられた技術」ではなかった とするなら確かに技術移入の余地はなかったことでしょう。
(必要性がありません。)しかしながら個人的には、日本の木材工業の辿った技術史を鑑みて、
軍がはたして当時、木製機の機体量産(量産、です。試作ではなく)に必要と考えられる
技術を軍が全て独力で完成させていたか、という点が非常に疑問なのです。
合板の工場、ご覧になられたことがありますか?実はかなりの設備投資を必要とします。
軍は合板の工場を持っていたのでしょうか?民間から買い上げていたのではありませんか?
製造した経験がないと、量産技術というのはなかなか進展しないでしょう。
設計基準の策定は軍が独力で行い得た分野と思います。必要な機材はせいぜい
引張/曲げ/せん断試験器と、デシケーター、煮沸なべ、顕微鏡くらいのものですから。
(それと必要だったものがもう一つ、丸善から届けられる洋書でしょうか(笑))
木材の物性を考えると、やはり湾曲材の製造技術と、品質管理・歩留まりの向上あたりには
所謂「家具屋の助言」が生きそうな気がするのです。ただし、裏付けのない憶測に
すぎませんが。なにか面白いお話しが見つかり次第、ご報告したいと思います。
>我が国では、家具屋さんの助言はあったとしても、経験則的なものは
>ともかくとして具体的な強度数値は家具屋さんでは把握していなかったでしょうから、
>軍独自に研究、開発していたのではないでしょうか?
仰る通り、家具屋さんが素材の研究開発に関与したとは考えにくいですね。
やはり、可能性があるのは製造技術でしょう。
欧米では、第一次大戦後やはり航空機産業への応用を動機としてドイツを中心に
木質構造材の研究が勃興し、その結果を受けてデーターブックの刊行や、合板の規格化
の動きが起こり、すでに1919年にはアメリカ合板工業組合が設立されています。
この後、1930年台に接着剤の変革が起こったというのが流れです。
家具屋さんが強度数値を積極的に活用したとは考えにくいですが、規格化された
部材の恩恵に浴していたことは確実です。少なくとも、それら部材の扱いには
通暁していたことでしょう。
わが国での木材の学術的な研究は「日本有用木材試験表」として結果がまとめられた
1875年の東京開成学校工学本科での木材の強度実験が最初と言われていますが、
以来あまり顕著な進展を見せず、1930年代の森徹氏の研究まで停滞の時期がありました。
軍(空技廠)にどのような独自の研究があったのでしょうか? 興味深く思います。
またしても長くなってしまいました。議論ボードの方に移りましょうか?
みなと
ました。上記の書き込みで言う木製機はモスキートのような、木製モノコック構造
を念頭に置いています。
みなと
すでに木製機の製造技術は、BUNさん仰るところの 「忘れられた技術」であった、
とも解釈できますね。
その点もあるのでしょうが、僕としてはやはり木製モノコック構造機の製造に
必要な技術と旧来の木工産業の技術の類似性、加えて第一次大戦後研究が進展し、
航空機産業が軽金属に移行した1930年代にほぼ必要なものが出揃った木質系
構造材の技術が、モスキートの開発を可能ならしめたのではないか、と
解釈しています。
BUNさんが先に指摘された通り、第一次大戦時の木製機と、モスキートに
象徴される木製モノコック機とでは、素材から製造に至るまで
技術的にかなりな格差があるというのは重要な点でしょう。
(と、えらそうなことを言っていますが、実はモスキートの資料、一冊も持って
ないんです。これから資料を漁りたいと考えています。)
みなと