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第二次世界大戦の、戦艦の砲弾防御に対する疑問です。 たいてい当時の新型戦艦の防御は、確か2000-2500m とか25000-30000mとかで、企画されていたと思いますが、 実際の戦艦同士の海戦の記録を(手持ちの本ですが) 調べましたところ、大体20000m以下から射撃し始め、 だんだん距離を詰めていったようです。 極端な例では、ビスマルクに対するロドネーは、2マイル まで接近したそうです。また夜戦ですが、山城に対する スガリオ海峡海戦でも、米艦隊の司令官は15000-18000m まで接近させて射撃させたとあります。 そこで思ったんですが、本当に当時の技術で、戦艦の大口径砲を 20000m以上、25000m,30000mなんかでバンバン当てることがで きたのでしょうか?(訓練ではなく実戦において)そのような戦例が あるのでしょうか? もしも戦艦同士の艦隊決戦があるとしたら、10000-20000mの殴り合い になり、戦艦の防御の見積もりが違ってたなんてことになったのでは ないでしょうか? また戦訓において当時のアメリカ、イギリス、日本、ドイツなどの各国 は、どうおもったのでしょうか? 長くなりましたがよろしくお願いいたします。 バウアー中尉 |
- 色々な思想があるのでしょうが、例によって戦前の我が海軍の場合には、各海戦
の戦訓や武器の性能向上、航空機の発達等から来るべき次の大戦では少なくとも3
万m以上で砲火を開くことを想定していましたし、実際に訓練もそれに沿って実施されていました。
しかしながら、それは始終3万mでの砲戦を意図していたわけではなく、ある程
度接近しての戦闘に持ち込むための布石的なものであることも事実です。
もし、昼間に戦艦対戦艦の戦いが生起したとすれば、結局、2万m程度の砲戦距
離に落ち着いたのではないでしょうか?
今度、コーラでも飲みながら語り合いましょう。
tackow
- 手元資料によれば1940年7月9日のカラブリア沖海戦(プンタ・ステロ沖海戦)において、
英戦艦ウォースパイトが伊戦艦ジュリオ・チェーザレに21000の距離で出した命中弾が、
一般的に戦艦砲戦における最長命中距離とされています。
ちなみにこのときウォースパイトは7分間で13斉射もしてて、まともに射弾観測してるのやら(^^;;)。
それから、一般に遠距離射撃でビスマルクに撃沈されたといわれるフッドですが、
フッドが砲火を開いたのは22700、8分後の例の一弾の弾着の際には13300まで
距離が詰まっていました。
まあ、これらの事例もコーラを飲みながら語る際のおやつ、ということで(すみません私いけずなんです)
それから、真実一路や議論ボード過去ログにも、
同様のテーマでかつ興味深い見解や議論がなされていますので、目を通されることをお勧めいたします。
ヒロじー
- 上記カラブリア沖海戦ですが、ウォースパイトは23700で
ジュリオ・チェーザレに向けて砲火を開いています。
当てたのが13斉射目、そのときの距離が21000だった、と。
また、上記事中の「戦艦砲戦における最長命中距離」は、
「戦艦同士の砲戦における最長命中記録」と訂正いたします(^^;;)。
ヒロじー
- 10~20kmで交戦する可能性は勿論ありますが
サマール沖の日本軍は30km以上で発砲して夾叉を出しています
これが当たらなかったのは運が無かったからで
残された写真からは散布界も悪くなく
30kmの実戦で当てる事は困難では有りますが不可能では無かったでしょう
フッドの事例は
20km超ではウェールズの練度やフッドの防御性能から
不利であると判断して強行接近を図ったモノと想像されます
ビスマルクは突進する英艦隊に対して
可能な限りの遠距離で砲火を開いています
発見、識別、照準が終わり次第と言っても良いでしょう
フッドの突進が素晴らしかったので
あっという間に15km近辺の戦闘になりましたが
プンタステロのウォースパイトがどんな砲弾を使ったのかは
浅学にして判らないのですが、大重量砲弾ですと30km届かないんですよね
イタリア戦艦の射程も30km無いので
両者は実用最大距離で殴りあったのだとも言えます
ウォースパイトが無理に距離を詰めなかったのは火力性能の優位は遠距離で発揮される事や
後続戦艦2隻が来るのを待つという意味も有ったでしょう
スリガオ海峡の事例は
敵艦を電探で照準できる限度がそんな物だったからではないでしょうか
電探が古い戦艦はその距離でも日本艦を捕捉できませんでした
観測手段(肉眼だと気象や時間)と武器の持つ射程距離が
30km超の戦闘を可能とするならそこから開始することも有るでしょう
ひきつけてから発砲するとか、接近を図るのは彼我の状況次第だと言えます
20km弱での戦闘も有るでしょうし
30km超の戦闘も有るとしか言い様が無いです
そして防御の見積もりですが
大抵の戦艦は20~30kmで見積もられています
つまり20km以内の戦闘も想定内です
例えばネルソンは17km程度が近距離側の見積もりで
また日本軍の決戦想定距離は20km以内です
10kmで戦えば貫徹されて大損害を受ける可能性が有るのは判っています
ただし、軍艦とは基本的に殴り合いですから
大損害を受けるけど、相手も大損害なんだから構わないのです
また、近距離側のダメージは舷側装甲貫徹から発生しますが
敵艦は真横には居ません、特に接近戦闘ではその傾向が有ります
タイガー戦車の昼飯時と同じで、そんなに簡単には貫徹しない事があります
それこそ1万mでも耐えるかもしれないし、2万mで抜かれるかもしれないのです
抜かれる公算が出てくる距離が
近距離側の想定安全距離だと思っていただけると判り易いかと思います
なお遠距離側は甲板への打撃ですから
艦が向いている方向や砲弾の飛来方向にはまったく影響を受けません
遠距離側の安全距離は本当に危険な距離の見積もりだといえます
よって、接近戦でどの程度の防御が計算できるのか
つまり防御の見積もりというのは『状況次第』なので
見積もりが違うという話にはならないと思います
抜かれたら『あ、やっぱり』だし
弾いても『あ、やっぱり』です(ぉぃ
SUDO
- tackowさん、ヒロじーさんありがとうございます。
tackowさんもご存知のとおり、私もお酒だめですので、
是非コーラで議論いたしましょう。
SUDOさんお待ちしてました。ご丁寧な説明ありがとうございました。
多分おさっしのとおり、私のビスマルク擁護が考えの基本です。(爆)
飛行機や戦車と違い特に戦艦の砲撃には、実際の戦例が少なく、たとえば
フッドは、不幸にも轟沈しましたが、もっと近距離で40cm砲でバカスカ打たれた
もっと装甲の弱い霧島は、轟沈まではいきませんでした。このように弾の当たり
所の運不運で大きく結果が違う事となりますので、もちろんおっしゃるとおりです。
しかしながら、例えばもしロドネーの指揮官が、ビスマルクのことをすべて知っていて、
「うーん、これだけ40cm砲弾ぶち込んでもまだ沈まねえや。よーし水平防御が
ビスのやろう薄いから、距離とって25000mからぶっ放して轟沈してフッドの仇
うってやるぞーーー。」
なんてことには、命中率(実戦での)を考えたらできないように思ったのです。
やはり実戦での命中率を考えれば(別にビルマルクの例にかかわらず。)双方
やる気があるなら、たとえ30000mから発砲しても、どんどん距離を詰めるのでは
ないかと考えたのです。
ついでに聞きたいのですが、第一次世界大戦のジェットランド沖海戦においては
最大何mぐらいでの命中があったのでしょうか?
バウアー中尉
- ユトランド海戦での独巡洋戦艦の射撃成績は、「リュツオー」「デアフリンガ
ー」「モルトケ」「フォンデアタン」の平均値で。平均射距離14000m、命
中率8.8%、命中速度0.8という具合です。
ちなみに、1911年の独海軍の訓練時の命中率と実戦時での命中率の比は、訓
練の数値の約63%と推定されました。
脇道に逸れますが、昭和19年度における我が海軍戦艦の最大砲戦距離は、観測
機使用で最大射程マイナス1000m、艦上観測の場合で36センチおよび40セ
ンチ砲搭載艦で32000m、46センチ砲搭載艦で35000m程度が見込まれ
ていました。
但し、決戦距離としては電探を使用して23000m、電探を用いない場合では
20000mと戦訓からかかなり短めになっています。
私は外国艦船には疎いのですが、装甲の厚さや砲の威力だけで戦艦の戦闘力、防
御力が決定されるわけではないでしょうから気長にやりましょう。陰ながら応援い
たします。
tackow
- 以下は代表的な戦艦の戦闘安全距離です。(ビスマルクの数値は他のHPからの引用です)
アイオワ 16088-28519m(対40cm砲弾 弾量1016kg 初速768m/s)舷側 307+22/19°(垂直装甲443mm相当)
18647-24406m (対40cm砲弾 弾量1225kg 初速701m/s)
サウスダコダ 16185-28255m(対40cm砲弾 弾量1016kg 初速768m/s)舷側 310+22/19°
ノースカロライナ 19202-23774m(対40cm砲弾 弾量1016kg 初速768m/s)舷側 305+19/15°
大和 20000-30000m (対46cm砲弾 弾量1460kg 初速780m/s) 舷側 410/20°(垂直装甲584mm相当)
長門 20000-28000m (対40cm砲弾)
伊勢 20000-25000m (対36cm砲弾)
ビスマルク 10793-23319m (対38cm砲弾)
日本海軍の戦前想定していた戦艦の決戦距離は20000m-25000m。米戦艦の決戦距離は日本より2-3km近いそうです。
スガリオで海峡での砲戦開始距離は、オルデンドルフ提督の指示による物です。米戦艦の散布界が広い事と徹甲弾の不足により、遠距離砲戦を避けています。
米戦艦の内3隻は新型レーダを搭載し、その性能なら更に遠距離でも射撃可能でした。
艦艇同士の遠距離射撃世界記録は、スラバヤ沖海戦での日本重巡が持っています。26000-27000mで英巡に対し命中弾を与えた記録です。日米戦艦同士の本格的な昼間砲戦がもし起これば、記録は更新されると思います。
フッドと霧島の結末の違いは、多分信管の遅動秒など砲弾の性質の違いにより。もし霧島の被弾した砲弾が日本やドイツ製だったなら、爆沈していた可能性が有ります。
ISHI
- >バウアー中尉殿
砲撃の命中率や状況で
適度な距離や条件で『処分』を選択する事は良くあることだと思われます
ただ、ロドネイは禁止されている後方射撃まで行っているので
頭に血が上った冷静な判断を下せる状況では無かったのではないかとも思われます
勿論、根底に「出来れば砲撃で始末したい」という頭はあったでしょうが
またロドネイのビスマルクへの『処分作業』ですが
轟沈は砲塔や弾薬庫に火薬があって、それが発火する状況でないと成立しません
人員が居る事から、弾薬庫に幸運にも命中させる事が出来ても消火注水されたらそれまでで
そんな確度の低い方法を選択するとは考えられないと思います
勿論25kmだと命中率が悪いというのは判りますが、夾叉を得るのが大変なのであって
敵艦が止まっていて、自艦も停止すれば25kmなら数斉射で命中を出せると思います
つまり命中率が悪いからそれを選択しないと言う事は無いのです
旧式艦を射撃処分するときに古くなった砲弾とかを空所に積載した状態にして砲撃する事があります
磯風を雪風が砲撃処分したときは彼女の魚雷発射管に砲弾を当てて爆沈させてます
どちらも、誘爆し易い条件を意図的に用意する事で爆沈を成立する物で
戦車だって貫徹弾を受けも誘爆して吹っ飛ぶ事が稀なように、普通の状況では中々爆沈は有りません
またそれをしようと思っても、敵艦が本当に沈黙しているのか確信が無い状況で
内部では必死で修理作業が行われているだろうと想像される状況で
命中をコンスタントに出してる射撃を止めて、距離を離して、仕切りなおしなんて出来ます?
それが取り返しのつかない結果をもたらす可能性が有るのに25kmに離れるなんて常識としてあると思いますか?
もしそれをするとしたら、ビスマルクが降伏した場合ですし、そうなったら沈めないで捕獲したでしょう
つまり、様々な角度から見ても「25kmに離れて爆沈を狙う」という行為を否定します
そしてそれは、あの状況がそれを齎したのです
接近戦闘になるか、遠距離戦闘になるか、中距離戦闘になるかは彼我の置かれた状況次第なのです
命中率だけが戦闘のファクターでは有りません
SUDO
- ゴミレス。実戦でもっとも遠距離で当てた記録はイタリア海軍が保持していたと思うけど。
確か第二次シルテ岬海戦でヴェネトが36km以上先の英巡洋艦に主砲弾を命中
させたという
記載を何かの本で読んだ記憶が…。
大塚好古
- みなさん、力をいれたレスありごとうございます。
>tackowさん
情報ありがとうございます。14000mで8.8%ですか、さすがドイツ海軍です。
実戦でこのぐらいだとすばらしいとおもいます。
また応援ありがとうございます。なにせ相手が強敵なもので。(笑)
>ISHIさん
議論の骨格となる。データありがとうございます。
しかし、やはり今の所自分としては実戦での(ここでも書かれたことを
含め)自分の知りうる所を総合すると確かに20000mm以上での命中は
かなりあったとしても、低い確率ではないかとおもいます。
>SUDOさん
またまた迫力万点のレスありがとうございます。
私も、ロドネーは25000mからの射撃はしないと思います。
しかしながら、兵器の三大要素「生存性」「入手性」「効果性」の中の
「効果性」の中核にある命中率は、非常におおきなファクターであると考えます。
また自分も本をまた読み返し、皆さんのレスを見てやはり思うことは、
「遠くから撃ったら弾あたんねよなー」とやはり思いました。
よほどの効果性が無ければアウトレンジはできないのではないかと考えます。
もっとも、どの海軍も「大人になって」いますので、絵に描いたような戦艦同士の
殴り合いも実際的には起こる確率は、低いと思いますが。
>大塚さん
36000m以上ですか。凄いです。でもまぐれに近いんじゃないでしょうか・・・
みなさん。とてもいい勉強になりました。活発なレスありがとうございます。
しかしながら今だ自分としては
「戦艦の砲弾は、20000m以上では、まぐれの命中しかない。」
「双方やる気のあるときは、20000m以下1000m-15000m下手すると10000m以下」
と今だに思っております。
実例が少ないので分かりにくいです。(やはり自分としては、スペックよりも
「Evidence」を重視したいとおもっております。)
「あほー」「馬鹿やろー」とお考えの方は、また是非オフ会の夜戦のさい、
参考資料を私に突きつけてご説得願えれば幸いです。
バウアー中尉
- オマケね>フォークランド海戦の英軍16000mで7%
やる気が有っても、30kmで交戦を開始して10kmまで接近するのには
フッドのような頭を押さえられた状態を甘受しても相対40ノット
通常ですと相対速度25ノット程度の接近速度になります>秒速12.5m
10kmまでに必要な時間は1600秒、つまり25分以上
命中速度をジュットランドの独艦よりも悪く
0.4~0.6程度と見積もっても10~15発が命中します
14~16インチ砲弾の扶桑型戦艦に対する廃艦所要弾数は20~12、大破確定ですね
また命中率は戦闘における重要なファクターですが
それは距離だけで決まる物では有りません
威力や射程で劣る側は撃たれ出したら回避運動をします
つまり相手にやる気が無い場合当たりません、距離が近くても同じです
また砲撃以外の手段を使うつもりの連中を撃つ場合もです
雷撃を企図して突っ込む場合素直な運動はしてくれません
回避運動をしなくても中々当たらないです>ルンガ沖の二水戦各艦の突進軌跡を見れば判ります
つまり、やる気満々同士の戦闘は一番命中率が高いのです
勿論同じ条件なら距離が短ければ、より命中率は高まりますが
上で計算したように、距離を詰める前に脱落する可能性大なのです
勿論、戦艦は重厚な装甲を持っていてかなりの被弾に耐えますが
命中し出したらそれほど長時間は持ちません
開始距離が30km程度だった場合、10kmまで持ち込むのは難しいのです
古今様々な海戦の事例を見ると、開始距離から10km縮めるぐらいが普通で
それから見ると20km弱になるあたりが無難でしょう
SUDO
- >9 そうでしたか!。もっとよく調べてみます。
第2次大戦での本格的な艦隊決戦の発生する可能性を考えてみました。当時は日・米・英
が強力な戦艦部隊を持ってました。他には”フランス対イタリア”の地中海内での限定
的な艦隊決戦が考えられます。しかしフランスはドイツに破れる。また欧州諸国とソ連
の海軍が束になっても英国1国に敵わないでしょう。英国は欧州方面で手一杯。
太平洋戦争の直前に本格的艦隊決戦の発生する可能性は、”日本対アメリカ”だけで
しょう。無論開戦直後には可能性無し。真珠湾奇襲によって。
ISHI
- 蛇足。
ビスマルクの最後の戦いは最初から20km前後で開始されてますね。
(0853時KGVビスマルクの視認時距離12.5nm。発砲開始0857)。
ビスマルクの前部主砲は比較的早期に撃破されてますが、これは
設計時の対38cm弾防御の見積もりが甘かった証拠のような気がします…。
(良く考えるとビスマルクの最後の戦いって総計1時間40分、砲撃喰らったのは
1時間ちょいなのね。砲撃の前半30分以降はただの嬲り殺しだが)。
大塚好古