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158 航空機、装甲車両や艦船などのエンジン出力についての議論に関して、馬力に比し
てトルクはあまり話題になっていないような気がするのですが、これはどうして?

いんとう

  1. 計測方法(単位)が策定されていなかったとか・・・

    現実的に考えると、変速するので重要ではないと思われたのかも

    SUDO

  2. 馬力=トルク×回転数(×係数) ですので,馬力さえ十分ならトルクは減速機などで調節できるので,トルクの絶対値はあまり重要でないからではないでしょうか。

    またエンジンで直接計測できるのはトルクと回転数で,馬力(出力)は計算値です。トルクの測り方によって「制動馬力」と「軸馬力」の2種類があります。

    制動馬力(BHP:Brake Horse Power)は内燃機関(航空機や自動車,ディーゼル船)に用いられ,工場内でエンジンに動力計で制動を掛けながら運転し,動力計にかかる(=エンジンが発生している)トルクを測り,回転数と掛けて求めます。

    軸馬力(SHP:Shaft Horse Power)は外燃機関(蒸気タービン船)で用いられ,プロペラ軸に付けた捻じり計で航行中にトルクを計測し,それに回転数を掛けて計算します(外燃機関はボイラー・煙路・復水器・蒸気配管なども設置しないと動かせないため,工場内で制動馬力を測れません)。
    「戦艦武蔵は過負荷全力166,520SHPで28.1ktを発揮」などと細かい数値が出てくるのは,航行中にトルク・回転数(=馬力)を実測しているからです。
    isi

  3. 回答ありがとうございます。ということは(しろーと質問で恐縮です)、制御馬力というのは「ネット」で、軸馬力は「グロス」にあたるんですか?仮にそうだとすれば、内燃機関の場合制御馬力、軸馬力とも計測することができて、軸馬力は制御馬力に比してプロペラ軸等を経由する分だけ測定値は小さくなるんですか?
    あと、高馬力を出すためには回転数を高くできるエンジンが好ましいと思うんですが、そのようなエンジンは開発、製造、整備が相対的に手間取るだけでなく、信頼性や耐久性も低下することが考えられるので、減速機の能力を問題としない場合、低回転でも十分な出力(馬力)を得られるトルクの太いエンジンが好ましいということにはならないんですか?
    いんとう

  4. ↑蒸気機関だと
    レシプロとタービンが、トルク型と回転型に分けられると思いますが
    同程度の馬力なら、タービンの方が軽量に済んだと思います
    コストで言うなら確かに、有利な面も有るのですが
    軍用の場合、コストが後回しにされる傾向が強いので・・・
    もっとも、戦時急造型では製造の容易なレシプロ機関を採用する場合も有ります

    また、今の自動車でも判るように
    同形式の機関でも、小型の低トルクで高回転の方が
    大型で大トルク、低回転よりもパッケージとして小さくなると思います
    これは航空機なんかでは魅力的なのではないかと思います

    SUDO

  5. →3.
    ○ネット・グロス
    ネットとグロスの意味を逆に理解されているようですが,軸馬力はネット値(正味=各種損失差し引き後)と言えます。では制動馬力がグロスかというとそれは測り方によります。

    自動車のグロス表示は,テストベンチ上でエンジン出力を測定する際(エンジンだけを取り出して試験します),完成車では取り付けられている
     1)吸気系:エアクリーナー等
     2)排気系:触媒,マフラー,実車用エキパイ等
     3)補機類:発電機,油圧ポンプ(パワステ,ブレーキ倍力用等)
    を取り付けていなかったと思います(推測)。これらによる損失が無いので実車よりかなり大きな値になります。そこでこれらを取り付けて測定(ただしテストベンチ上)したものがネット値で,車種によって違いますが10〜20%位小さな値になります。
    よって自動車はネット・グロス共に制動馬力です。

    ○内燃機関の軸馬力
    は計測できます(していると思います,船の場合)。ご指摘の通り「制動馬力>軸馬力」となるでしょう。

    ただし軸系による損失は余り大きくありません(多分2〜3%)。どちらかというと吸気路・排気管の吸排気抵抗による出力低下の方が大きいでしょう(制動馬力がこれらの損失込みかは,測定方法によります)。

    ○高トルク・低回転エンジンの是非
    内燃機関の場合,トルクを増やす根本方法は「吸気量増加」しかありません(吸入酸素量が増える→1サイクルで燃焼する燃料を増やせる→1サイクル当たり出力(トルク)が増える)。これには
     1)排気量を増やす
     2)過給する
    しかありません。
     したがって,非過給エンジンでは排気量が決まればトルクもほぼ決まります。自動車を見ると,どの車も排気量1000ccにつき約10kgf mのトルクになっています(高性能自然吸気車の場合)。1000ccの空気に含まれる酸素量は決まっている以上,どのエンジンも似たような値になります(吸排気効率,摩擦損失などで多少は上下しますが)。

    過給についても舶用内燃機関は既に過給しており,高トルクにはやはり大排気量化が必要になります。また自動車のような小型(低価格)エンジンでは過給機によるコスト増加はかなり大きくなります。さらに過給すると燃焼圧の増加でエンジンの負担が増え,低回転化によるコスト低下・耐久性増加の意味が無くなります。

    要するに「高トルク化=大排気量化」ということになります。2000ccで6000rpmのエンジンと同じ出力を3000rpmで出すには排気量を4000ccにする必要があり,コスト増,重量増,容積増になって良いことがありません。自動車のサイズで5000〜6000rpmは無理なく回りますので,低回転にしても特にメリットは無いと思います。
    isi

  6. 年末年始の忙しい中回答いただきありがとうございます。それにしてもネットとグロスを勘違いしているは、制動馬力のことを制御馬力と書いているは、恥ずかしくて気持ちい〜。まっ、いっか。

    いんとう

  7. 便乗ですいませんが、isiさん教えてください。
    私はトルクは「ものを回転させる力」だと理解しているのですが、トルク値が大きいほど重くて抵抗の大きいものを回転させる力があるという理解でよいのでしょうか?
    なにが言いたいかというと、同じ2000馬力に近い出力でも排気量35リットルの「誉」より、排気量54リットルの「ハ104」のほうが大きくて重いプロペラを回転させられるという判断は合ってますでしょうか?言い換えれば、同じプロペラなら、「ハ104」のほうがエンジン回転数をあげるのが早い、つまりダッシュがきくと思うのですが、いかがでしょう?もちろん、ボア、ストロークの違いによる各種の抵抗を考慮しないとした場合です。
    胃袋3分の1

  8. →7.
    ○トルクについて
    トルクは「回転運動における力」と言えます。
    運動には「直線運動」と「回転運動」があり,両者の対応に気付けば理解が容易です。
    【直線運動】:【回転運動】
      速 度 : 角速度(回転速度)
       力  : トルク(モーメント)
      質 量 : 慣性モーメント
      加速度 : 角加速度(回転速度変化率)

    加速度についても同様に
     【直線運動】 加速度 =  力  / 質 量
     【回転運動】 角加速度= トルク / 慣性モーメント
    の対応が成り立ちます。

    大きな力は物体の速度をより短時間で増やせる(大きな加速度)ように,大きなトルクは回転体の回転速度をより短時間に増やせます(大きな角加速度)。

    ○プロペラとトルク
    「エンジントルクはプロペラの角加速度に影響を与えるか?」ですが

     「エンジン出力が同じ」「プロペラ回転数が同じ」

    なら影響は無いはずです。プロペラの角加速度に影響するのは「プロペラ軸に掛かるトルク」ですので,出力とプロペラ回転数が同じである以上,プロペラトルクも同じだからです。

    「ブースト圧が同じ」ならエンジンの発生トルクはほぼ排気量に比例しますので,ハ104のトルクは誉の1.5倍になるはずです。それで誉の出力が同じなら「エンジンの」回転数がハ104の1.5倍になっています(出力=トルク×回転数)。プロペラ回転数が同じなら減速比もハ104の1.5倍になり,結果プロペラに掛かるトルクは同じになります。

     ・プロペラトルク = エンジントルク × 減速比
     ・プロペラトルク×プロペラ回転数 = エンジントルク×エンジン回転数 = 出力

    ○蛇 足
    エンジンの出力は単位時間の吸気量に比例しますので,誉はハ104より排気量が小さいハンデを
     1.回転数増加    単位時間当たりの吸気「回数」を増やす
     2.ブースト圧増加  吸気「1回当たりの吸気量」を増やす(=トルクを増やす)
    ことによって,同じ量の吸気を確保していることになります。

    誉とハ104のスペック
              誉21   ハ104
     総排気量     35.8  54.1 L
     離昇出力     1825  1900 hp
     回転数      3000  2450 rpm
    より
     エンジントルク   441   563 kgf・m
     排気量当りトルク 12.3  10.4 kgf・m/L
     正味平均有効圧  15.5  13.1 kgf・cm2

    と計算できます。排気量当たりトルク(もしくは平均有効圧)で誉が18%増しであることから
      吸気圧 = 外気圧 + ブースト圧
    も誉の方が約18%増しと推測できます(吸入空気量は吸気圧に比例するため)。
    外気圧=760mmHg,この時誉のブースト圧を300mmHgと仮定すると吸気圧=1060mmHg。
    したがってハ104の吸気圧は900mmHg,よってブースト圧は140mmHgと推測できます。
    isi

  9. isiさん、詳細な回答をありがとうございました。m(_"_)m
    私の判断は間違っていたわけですね(^^;;;;;

    ところで、ついでといってはなんですが、もうひとつ教えてください。
    自動車の場合で、同じ馬力、同じ重量の場合は、トルクの大きいエンジンを積んだ車のほうが加速時間が良くなるようですが、これはどういった理由によるのでしょうか?両車のギア比のデータが無くて申し訳有りませんが、やはりギア比が大きく影響しているのでしょうか?
    胃袋3分の1

  10. →9.
    私も知らないのですが(笑),考えついたのは次の2点です。

    1)フライホイールの慣性
     車速と共にエンジン回転数も上がり,この時フライホイールやエンジン本体の慣性モーメントがトルクを食ってしまいます(差し引かれた残りが変速機へ伝わる)。ギアが低いほど車速(車輪回転数)の上昇に対するエンジン回転数の上昇が大きいため,フライホイールの質量を半分にするとローギヤでの加速は20〜30%も向上するそうです。ご指摘のように高回転低トルクエンジンはギア比が大きい分機関回転数の上昇率も大きいため,この影響が大きいでしょう。一方高いギアではエンジン回転上昇も緩やかで差は減ると思います。
     見方を変えると,エンジンの発生したエネルギーがフライホイールの回転運動エネルギーの増加に使われて推進力にならないわけですが,蓄えられた回転エネルギーはシフトアップ後のクラッチミートの時に車輪へ放出されますので,中間以降のシフトチェンジでは差し引き余り変わらず,恐らくローギアにおける出足の違いが加速の差になるのではないでしょうか。(ローリングスタートでは差が出にくいかも)

    2)最大出力回転数からのずれによるトルク落ち込み
     最大出力を出す回転数は1点ですが,無断変速機でなければこの上下の回転数も使わざるを得ません。高回転形エンジンの方が出力特性(トルク特性)がピーキーで,最高出力回転数からずれた回転数での出力落ち込みが大きく,加速が鈍る可能性があります。

    1,2)とも,理想的な無断変速機により車速増加に合わせて減速比を連続的に減らし,エンジン回転数を常に最高出力点に保てば生じないはずです。航空機や船では可変ピッチプロペラという無断変速機があり,特に定速プロペラが「肩書き通りに」機能するならエンジン回転数は一定なので回転慣性抵抗による加速の差は出ないはずです。

    それで私もひとつ教えていただきたいのですが,坂井三郎氏の著書で零戦のプロペラピッチを離陸・空戦時は低,巡航時は高に切り替えるという記述がありましたが,これはガバナーでピッチ調整できるレンジが狭いので,手動で低速レンジ,高速レンジに切り替えるという意味なのでしょうか?まさかピッチが2段しか無いということはないと思うのですが。
    isi

  11. isiさん、ふたたび回答ありがとうございます。

    ですが、前回、回答いただいた内容をあらためて読み直してひとつさらに疑問に思ったことがあります。

    大きなトルクは回転体の回転速度をより短時間に増やせます>
     と、ありますが、そうであれば、少なくとも直結のプロペラであればトルクが大きい方がより早くプロペラの回転数を上げられるということではないのでしょうか?実際の定速プロペラピッチ・コントローラでは、プロペラの回転数はほぼ一定であるはずですので、正確に言うなら「より短時間にピッチの変更が可能となる」となるというところでしょうか?

     ところでお尋ねの坂井三郎氏の話ですが、零戦のプロペラピッチ・コントローラは定速式のはずですので、自動だったと思いますが、残念ながら詳しくは知りません。ちょっと調べてみます。もしかすると坂井三郎さんの空戦テクニックの研究をしている加藤寛一郎さんの書物辺りに回答が書いてあるかもしれません。
    胃袋3分の1

  12. →11.
    > 直結のプロペラであればトルクが大きい方がより早くプロペラの回転数を上げられる

     その通りです。その場合回転数が同じならトルクの大きい方は馬力も大きいことになりますが,馬力が同じでトルクが違う場合は回転数の違いをプロペラピッチで吸収していることになります(プロペラ径が同じ場合)。
     以下では誉とハ104で減速比が同じ(もしくは直結)で,したがって誉はピッチが小さくハ104は大きいと仮定して議論します。

    ○固定ピッチプロペラの場合
     機速はプロペラ回転数に比例しますので,ご指摘のようにプロペラ軸トルクの大きい方が回転上昇は速く,よって加速も良くなるでしょう。
     回転数の上昇が速い以外に,誉は回転数がハ104の1.22倍ですから同じだけ加速するには回転数の増加量も1.22倍にする必要があり,余計時間が掛かります。

    ○理想的可変ピッチの場合
     可変ピッチペラの場合,ピッチの大小でプロペラの空気抵抗トルクが変化し,それが軸トルクと釣り合っています。スロットルを開くとエンジンのトルクはほぼ瞬時に増加するはずですが,ピッチも瞬時に増加すれば軸トルクと空気抵抗トルクが釣り合ったまま回転数は変わりません。したがって軸トルクの大小による加速の差はないはずです(同出力の場合)。

    ○現実の可変ピッチの場合
     スロットル全開 →トルク増加 →回転数増加 →調速機が反応 →ピッチが増加
     →抵抗トルクが増える →回転数が元に戻る

    という過程を経ますので
     1.最初は回転増加により加速(調速機反応とピッチ変更のタイムラグによる)
     2.次にピッチ増加により加速(その間に回転数は元に戻る)

    となり,前半では固定ピッチの場合と同様,高トルクエンジンの加速が速いと思います。

     が,実際には誉は回転数増加が速すぎて過回転となり「過回転防止連動装置」を付けた位なので(「局地戦闘機紫電改」p.177),ハ104も同様の防止装置を付ける必要があるはずで,回転数上昇の速さが加速向上につながるかは微妙です(ハ104が回転数上限に余裕があり,過回転が可能なら非常に有利でしょう)。ただ回転数を落とした状態からの加速ならハ104が速いでしょう。

     この過回転防止連動装置はスロットルとピッチ変更装置を連動させることで,回転数上昇による調速機の反応を待たずにピッチを増加させ,タイムラグを減らす機構と思われます。つまり定速プロペラのピッチ反応速度はトルク変化よりかなり遅いようで,肩書き通りには働かないのでしょう。
    isi

  13. さらなるご回答、ありがとうございました。

    やはり、低回転からの加速ではトルクが大きい方が良くなるのですね。
    つまり、巡航時から敵に向かって加速する、または、巡航時に敵に襲われたときに逃げるのには、トルク値の大きな(巡航時の回転数でのトルク値)エンジンを積んだ機体の方がいいということですね?
    胃袋3分の1

  14. →13.
    そう言えると思います。
    ただその場合,問題なのはエンジン(クランク軸)のトルクではなく減速後のトルクであること,プロペラ軸トルクが大きい場合はプロペラ自体も大直径・多翅など慣性モーメントの大きなものである可能性が高いことなどに注意する必要があると思います。
    isi

  15. 納得いたしました。isiさん、本当にありがとうございましたm(_'_)m
    胃袋3分の1


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