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現代の歩兵はなぜ「盾」を持たないのでしょうか?機動隊の持っているようなアクリル製とかカーボンファイバー製の軽くて良い物が今の技術なら作れると思うのですが。 それとベトナム戦争の映画(ハンバーガーヒルだったかな?)で新兵が訓練で教わった通りに防弾チョッキをしていて笑われるシーンがありましたが、今でも歩兵は防弾チョッキなどの装備は普通しないのでしょうか? MCAS |
防弾ベストの歴史は意外に古いものです。
銃砲や弓矢等の射撃武器が一般化してからの歩兵は、機動性を高めるために鎧や兜を捨てて軽装となりましたが、未曾有の砲撃&銃撃戦となった第1次大戦では、頭上から降ってくる砲弾の破片から頭を護るために兜がヘルメットとして復活し、塹壕戦で敵の銃弾や銃剣から少しでも身を守るために鎧がボディ・アーマーとして復活しました。いわばこの2つは鎧兜の先祖帰りなのです。
米軍は太平洋戦争中の日本軍との戦いを教訓に、朝鮮戦争の頃から防弾ベストの開発と装備化に着手しました。ベトナム戦争では、米陸軍および海兵隊はM69やM1955等の防弾ベストを部隊に支給しています。当時の防弾ベストは鋼板やナイロンシート、グラスファイバー等を縫い込んだものでしたが、防弾ベストの支給によって損害が減ったほか、士気の向上にも繋がったそうで、戦場における防弾チョッキの心理的効果は高いものがあったようです。
なお、現代の軍用防弾ベストは、基本的に『対破片用防護ベスト』であり、砲爆弾の破片から胴体を護ることを主な目的とするものです。現代のものはケブラー繊維を数十枚重ね合わせたパネルを縫い込んだ構造が一般的ですが、拳銃弾程度ならある程度阻止できても、ライフル弾や刃物(銃剣類)には無力です。
現代軍では歩兵の防弾ベスト装備が一般的となりつつあるようですが、防弾ベストは長期着用するには辛いので(重い&通気性があまり良くない)、着用するか否かは戦線の状況によると思われます。
陸上自衛隊では新型戦闘服(戦闘装着セット)の導入に合わせて『戦闘防弾チョッキ』を採用していますが、普通科の一般部隊が着用しているのはあまり見ません。カンボジアPKOで選挙監視に動員された陸自施設科部隊や、国内での対ゲリラ戦闘訓練における制圧部隊、邦人救出を警護する誘導隊が着用しているところを見ると、非正規戦闘などの特殊な状況の時に着用することが多いように見受けられます。また、重迫撃砲中隊では120mm迫撃砲の爆風対策として戦闘防弾チョッキを着用しています。
ちなみに、ベルギーのFN社がP90&5.7mm弾システムを開発した背景には、現代軍での歩兵の防弾ベスト装備が一般化したことが理由の一つとして挙げられます。スペッツナズのような特殊部隊が防弾ベストを着て敵後方部隊を襲撃する状況を考えたとき、サブマシンガンや拳銃が主な武装とされやすい後方部隊は対抗できない可能性があります。かと言って後方部隊に前線部隊と同じライフルを支給するのは負担が大きすぎます。そこで、近距離から防弾ベストを撃ち抜ける性能を付与した小型弾薬を使用し、サブマシンガン並みの携帯性と扱いやすさを持つ銃が後方部隊の自衛武器として検討され、P90と5.7mm弾システムを生み出すことになったのです。
>鎧兜はヘルメット&防弾ベストとして復活したのに、なぜ盾は軍隊で復活しないのか?
盾で身体の重要な部分を保護するためには、ある程度の大きさが必要です。が、そうなるとどうしてもかさばってしまい、だからと言って小さくすると役に立ちません。
ヘタすれば10kg以上(昔に比べれば軽い方)の装備を身に付ける歩兵にとって、重い装備やライフルの上に大きな盾まで持たされるのは、どんなに盾が軽くても負担の方が大きいと思われます。車輌やヘリに乗る上でも邪魔になるでしょう。
それに、建物内のような進行方向が限られる閉鎖空間ならともかく、平原のような開闢地では、盾で正面を防いだところで横から銃砲弾や爆弾が飛んでくれば終わりです。
現代の歩兵が盾を使わない大きな理由はここにあるのではないでしょうか?
盾はむしろ特殊部隊等のCQB(室内戦闘)における前面防御手段として使われています。
ブラック・タロン
各国の兵士が対破片ジャケットを着用しているのは、よく写真で見ますので、世界的に一般的装備のようですが、対小銃弾ジャケット(盾も)は室内戦を行う対テロ特殊部隊等が必要に応じて着用する程度が一般的のようです。
旧ユーゴの平和維持活動に出動した仏軍キャンプに、対小銃弾ジャケットがあったので、日本人記者が「これ着ないの?」と質問したところ、「10kgくらいの重量があり、へばってしまうので対破片ジャケットで我慢している。」と答えが返ってきたそうです。
小銃手でも完全装備で30kgという話を聞いたことがありますので、「軽くて
破片が防げるジャケット」(それでも4kgとかあったりするらしいですが。)が
歩兵野戦用として、もっとも一般的かつ効率的であると各国は判断しているようです。
そうしてみると、自衛隊員があまり戦闘防弾チョッキを着用していないのは、「予算の関係」もあるかもしれません。(苦笑)
戦闘防弾チョッキと別に対テロ・ゲリラ作戦用等に防弾チョッキを自衛隊が採用しようとしているという新聞記事がありましたが、陸自用は「対小銃弾仕様」なのに対して、海自用は救命衣と兼用のため「対拳銃弾仕様」であるので海自隊員が不安感をもっているとのことでした。
これと同じものかどうかわかりませんが、護衛艦機関銃手が、ハードタイプ(防弾板入りということです。)と思われる防弾衣を着用した映像がTVに出たことがあります。
SAW
もっとも遠距離からの流れ弾等であれば、小銃弾でもストップする場合があるようです。
こちらも「対小銃弾仕様」があるようですが、やはり対テロ特殊部隊を中心に装備されているようです。
当然、高価かつ重量もあるのでしょう。
SAW
しかし機関銃の制圧下ではものの役に立たなかったので戦線が膠着してしまいました。
歩兵が扱える程度の盾では使い物にならず、かといって充分な防弾能力のある盾を作ると歩兵には扱いきれなくなってくるのです。
そこで考えられたのが、充分な耐弾性のある盾にエンジンと車輪やキャタピラをつけて自走化する方法です。戦車の出現です。
つまるところ現代の歩兵の盾は戦車や装甲車なのです。
とはいっても戦車など使えないケースもあるわけで、そう言うときは「弾が当っても平気」な方法ではなく「弾が当らない」方法を考えます。物陰に隠れるなり伏せるなり。
室内戦闘ともなると逃げ隠れも難しくなってきますが、その代わり敵側もそれほどの重火器を振り回せなくなるので、古典的な盾の出番もあるわけですね。
石垣
ここなんかに、現在の警察・軍隊で使われている盾の一例があります。
http://www.armorholdings.com/products/pro/lep/shi/bs.htm
Threat LevelというのはアメリカNIJ(National Institute of Justice)の耐弾性の規格で、
Level IIIA .44Mag, 9mm Para(ほぼ全ての拳銃弾)を防げるもの
Level III .308 FMJを防げるもの
Level IV .30-06 APを防げるもの
です。現用軍用小銃弾に耐えるにはLevel IIIが必要です。
例えばLevel III の盾で20x34”(50.8cm x 86.4cm);37lbs(16.7kg)とあります。こんなもの戦場で長時間持ち歩けるものではありません。
参考、Threat Levelなどの規格に関して:
NIJ(National Institute of Justice) http://www.ojp.usdoj.gov/nij/
National Law Enforcement and Corrections Technology Center http://www.nlectc.org/
epitaph
防弾ベストの素材がナイロン類からケブラー系に代わったように、第2次大戦頃までスチール製が主体だったヘルメットもケブラー系樹脂製が多くなっています。形状も、避弾径率がよいとされるフリッツ型(旧ドイツ軍のM35、M42ヘルメットに形が似ているためこう呼ばれる)を採用するところが多く見られます。
ケブラー製ヘルメットは従来のスチール製ヘルメットに比べて耐弾性が高いようです。80年代から実用化された米軍現用のPASGTヘルメットは、パナマ侵攻ではAKの7.62mm弾をストップしたと聞きます(距離は不明)。また、イスラエル軍のケブラー製ヘルメットは距離13mから9mm弾をストップさせられるとか。
対テロ特殊部隊が使うヘルメットは、ケブラー製に加えてチタン板等を内蔵しているものがあります。ヘルメットに付属する顔面防護用のバイザーも、9mm弾を止められるだけの耐弾性を与えられています。
前に書いたことがありますが、対テロ特殊部隊が使うような防弾ベストは、ケブラーよりも強靱なスペクトラ繊維を使用しているほか、耐弾繊維パネルに加えてチタン板等を縫い込んでより耐弾性を高めています。
ケブラーやスペクトラ・パネルのみの防弾ベスト(軍用タイプ等)でも、チタンやセラミックの追加装甲を貼り付けて耐弾性を高められるものがあります。
ブラック・タロン
MCAS