904 お言葉に甘えまして、別スレッドにて、帝国海軍の航空艤装につき、ご教授をお願い申し上げます。用語は日本語で判りにくそうな場合には、代わりに米海軍用語を準用させていただきます。

1)着艦フックと制動索(アレスティング・ワイヤー)に、艦上機のブレーキだけで、たとえ飛行甲板前部に既着艦機が多数駐機されている急速収容においても、もしも着艦フックが制動
索を捉えるのに失敗しても、安全に着艦できたのでしょうか?同時代の米英の空母は、着艦フックで制動索を捉えそこねた場合に対応して、「バリヤー」(これは米国では、「着艦フック・制動索」とほぼ同時期にセットで開発されて搭載されています)や、「バリケード」(これはバリヤーより後に開発され、海外でもよくバリヤーと混同されています)により、2重(着陸復行を入れると3重)の安全対策を持っていました。帝国海軍では急速収容の際にも「着艦フック・制動索」の補完手段として、大戦中に艦上機の着陸距離が長くなっても、機載ブレーキだけで十分に安全に着艦できると考えていたのでしょうか?

2)もし、着艦フックの補完として、ブレーキだけで十分だと考えていたのなら、どうして戦争末期まで、制動索に加えて、滑走制止索の改良を続けて新型を制式化して、急いで建造した末期の空母群にもわざわざ装備したのでしょうか?

3)もし、帝国海軍空母の滑走制止索に何らかの不具合があって「普段は使っていないので不要」とされていたのなら、なにか対応策はとられなかったのでしょうか?例えば米国式のバリケードのように、普段は倒しておいて、着艦フックもバリヤーも役に立たない場合の最終手段として急速展開させると、急速収容にも何ら支障をあたえないはずです。何ら対策もとらず、単に「不要」として使用しなかった理由は、何だったのでしょうか?また、それに対して、どのような対策がとられたのか、それとも、全くとられなかったのかのかも知りたいです。

4)着艦を試みている単座の操縦員に対して、世界に誇れる「着艦指導灯」に従ってそのまま着艦させる以外に、海外の映画でよくあるような、着艦直前に、空母側から機体のトラブルを指摘して、着陸復航(ウェーブ・オフ)や、不時着水や、脱出や、陸上基地へのダイバートを指示したりする手段はあったのでしょうか?もしなかったのなら、問題化されたのでしょうか?もし問題として指摘されていたのなら、どのような対策がなされたのでしょうか?

5)大戦末期の空母にも、艦首直後に新型の滑走制止索が装備されておりますが、これはどのような場合に使用する装備なのでしょうか?もしも中央の滑走制止索よりももっと「不要」ならば、建造を急いでいた空母にも、どうして装備したのでしょうか?それとも、大鵬や雲竜や信濃には装備されていなかったのでしょうか?

6)ついでに、波浪で動揺している空母に対してより安全に着艦するため、「着艦指導灯」をジャイロなどで安定させる試みは無かったのでしょうか?それとも、安定化の必要性は誰も指摘しなかったのでしょうか?もし安定化に成功していれば、三大発明の一つが日本のものになりますので、残念です。

答えは出しにくいと存じますが、なにかご存じでしたら、どのようなことでもご教授頂ければ幸いに存じます。

豪腕少年タイフーン

  1. 1)一例。
    昭和19年6月13日六〇一空、天山が着艦時に失敗して前方の収容区域に突っ込んで炎上。マリアナ沖海戦直前に、7機焼失、1機大破、1機小破という事故を起こしています。
    これは、収容区域と着艦区域のあいだにバリアーが存在していなかったという事実を反映するものです。
    と同時に、これまではあまりこうした事故が起こらなかったので対策が省かれ、このようなことになってしまっているように見えます。

    4)旗を振られて着艦をやり直された話をお読みなったことはありませんか?

    5)ウィキペディアの赤城の写真をまずご覧になってはいかがでしょう。
    そのほか、ウェブ上には模型製作のために各空母の飛行甲板上の装備の実際を写真を基に調べられている方もおられます。まずはそうしたページをご覧になってはいかがでしょうか。



  2. 2)
    例えば建物火災に備える消火設備などは火災が起きなければ不要なものですが、使ったことないからいらないとは言えませんよね?
    普段の訓練実戦で使用実績がなくても、着艦フックが出ない、ブレーキ故障などいろんなことが想定されます。だから、装備してると思われますが?

    マルヤ

  3. 1)
    >1 その事故の目撃談には「・・・艦尾に近づいた艦攻はやり直しを決意したらしく、機がぐらっと浮き上がった。(中略)艦攻がふらふらと大鳳の艦橋前にはられたバリケードの辺りから前に置かれてある飛行機の上に落ちて行く。(後略)」とあります。
    公式記録にバリケードが張られていなかったといった記載があるのでしょうか?

    また、私の読んだ複数の手記において急速収容ではバリケードが張られていたと書いてありました。

    上記の事故ではありませんが、場合によっては(機体の速度、方向が中心線からずれる、風にあおられるetc)制動索が切れることがあるとの記載があります。
    とおり

  4. >3
    なるほど。「追突」とあるので単純なオーバーランと思いましたが、詳細はさらに調べる必要がありそうです。

    戦前の事故調書では、着艦失敗の際には舷側にそれてポケットに突っ込む、高角砲に突っ込むなどの例が多いです。


  5. 短時間に多くのレスをいただき、有難うございます。

    1)もしこの事故が着陸復行(ウェーブ・オフ)の失敗でしたら、米海軍でしたら、着艦機から連絡を受けた空母は、ウェーブ・オフの邪魔にならないように、バリケードを倒したままにしていたでしょうし、滑走制止索が下されているのに低すぎて既着艦機に接触したのなら、空母側から着艦機に対して、ウェーブ・オフがもっと早い段階で指示されていたでしょう。
    また、単なる制動索を着艦フックで捉え損ねたのが原因なら、一基しかない米海軍のバリケードよりも、四基も装備している帝国海軍の滑走制止索の方が、防げた可能性が高いと思われます。事故の際に実際に滑走制止索を使用していたのかどうかを、ぜひ知りたいところです。

    2)どうしてそんな重要な制式装備を「不要」としたのでしょうか?

    4)ファイナルターン後には、操縦員は空母と同様に揺れ動く着艦指導灯を注視していたはずですので、別の位置で振られた旗に、常に注意できるのでしょうか?ジャイロで安定されたミラー・ランディング・システムですら、速度計など基本計器を見る余裕を奪ってしまい、艦上機の改造を強いられたのは有名です。今の空母でも、無線通信機の一時的不具合にもかかわらず着艦に成功したパイロットは、英雄扱いされています(参考:ディスカバリー・チャンネル等)。

    5)申しわけございませんが、苦労して引っ張り出してきた「軍艦メカニズム図鑑 日本の航空母艦」の135ページには、赤城(加賀も)には、艦首直後には滑走制止索は装備されていないとされていました。映画「永遠の0」でも、逆着艦用の飛行甲板前部の1〜2番制動索ははっきりと描かれておりましたが、艦首直後には滑走制止索などはありませんでした。ただし同書には、多くの戦訓が反映されているはずの大鵬や雲龍や信濃にも、飛行甲板の形状を変えてまで、艦首直後の滑走制止索が描かれております。それら戦争後期に緊急建造された空母にも、実際に装備されたのかどうかを知りたいのです。

    豪腕少年タイフーン

  6. >1、片さま。

    自分でも遅まきながら調べてみました。

    ご教授いただいたとおり:
    「the Imperial Japanese Navy had no LSOs」だが
    「each Japanese carrier assigned a sailor to wave a red flag in case a landing was to be aborted.」
    とありました。

    当時の日本海軍空母搭乗員は、計器と同時に、着艦指導灯と、赤旗(誰が責任者なのだろう?わかりませんでした)が振られているのかどうかを、同時に視認しなければならないことになりますので、かなり高い技量をほこっていたのですね。勉強になりました。大変有難うございました。
    豪腕少年タイフーン

  7. >6
    大鳳の最前方の滑走制止策は、赤城の場合と同じく「移動式」です。
    これは「装備可能」というだけのもので、公式図に図示はされていても実際には装備されなくなっていたことは、先に例として挙げた赤城のみならず、蒼龍、翔鶴、瑞鶴、隼鷹など多くの艦で、写真で確認することが出来ます。
    これらすべての艦で「移動式」と図示された最艦首寄りの滑走制止策は実態として写真に見いだせないのです。

    もちろん大鳳や雲龍、信濃ではそこまでの細部がわかる写真はないのですが、これらの艦だけにあえて装備されていたと考える理由も見当たりません。


  8. >5
    >四基も装備している帝国海軍の滑走制止索

    4基図示されている場合の内訳は固定式2、移動式2です。

    「軍艦メカニズム図鑑 日本の航空母艦」135ページの加賀の図でいえば、前から「固定」「固定」「移動」です。

    翔鶴は「移動」「固定」「固定」「移動」「固定」でひとつ多いのですが、例の18年3月18日着艦公試の写真をみても、移動式は後方のものも無いように見えます。


  9. 片さま、ご丁寧なレスを賜り、誠に有難うございます。

    移動式の滑走制止索(装置)だったのですか。貴重な情報をいただき、感謝いたしております。

    私はモデラーなどではなく、メカおたくですので、どちらでも役に立ったのかどうかと、どのようなメカニズムだったのかに興味があり、固定式に比べた移動式のベネフィットとリスクが知りたくなりました。

    また、移動式の滑走制止索(装置)が、同書の165〜166ページに解説されている三式滑走制止装置や、空技廠式着艦制動装置3型を、どうやって移動式にしたのかも、とても興味があります。

    残念ながら、ネットで「滑走制止索(装置)」と「移動式」で検索しても、具体的なメカニズムやベネフィットとリスクなどはわかりませんでした。

    米海軍で申し訳ございませんが、現在も展示されているエセックス級空母やミッドウェー級空母のバリケードは、馬鹿でかい強力な油圧装置で制御されておりますので、そんなものをどうやって移動式にできたのか、とても不思議に思っております。

    米海軍では、バリヤーは、着艦フックとほぼ同時に開発された初期モデルから、デービス式に改良されており、またバリケードも、ワイヤー製の自動展開式から、ナイロン製の人力展開(3分必要)に進化しましたが、移動式の必要性についての要求などは全く存じません。

    多数の滑走制止索が不必要になり、一部が使われなくなったのなら理解できるのですが、滑走制止索を移動式にすることによる利点と欠点なども、ご教授いただければ幸いに存じます。

    また、制動索も同じように、移動式と固定式があったのでしょうか?本数を減らすのは、2隻の最新鋭米海軍空母をみるまでもなく、簡単だと思いますが、移動式にするのは、とても大変なのではないかと思ってしまいます。

    単に、着艦制動装置の油圧装置本体はそのままで、展開する制動索や滑走制止索の本数を変えたり、滑車を通じて接続する支柱の位置を移動させるのなら、可能かと愚考しております。

    しかしながら、移動式の支柱ならば、かなり頑丈にしておかないと、機械的な不安がでてまいります。固定式の米海軍のバリケードも、大戦末期の大型機には容易に突き破られておりました。帝国海軍の空母の滑走制止装置が、たとえバリヤーに相当する別の安全装置が無いとはいえ、複数基装備されていた理由が、1基だけでは制止するのに不安だったのでなければよいな〜と思っております。

    詳しいご解説を頂き、重ねて御礼申し上げます。今後とも、何卒宜しくお願い申し上げます。

    豪腕少年タイフーン

  10. >豪腕少年タイフーンさん

    どうもご質問が散逸してみなさんperturbされてしまうんですが、1)の設問自体がナンセンスなんじゃないでしょうか。
    「安全に着艦できた場合」には制止索に突っ込むこともないし、無くても済むわけです。

    ちなみに搭乗員の手記の中には、着艦フックを出し忘れてもちゃんと止まれたという体験談もあります。つまり、このときは「安全に着艦できていた」わけです。

    元技術中佐の人の著作からですが「(前略) 降りてくる飛行機はワイヤのどこかには引っかかるが、ワイヤの中央部ばかりひっかかるとは限らないので、ワイヤの伸び方が左右うまくバランスしないと、飛行機が横を向いたり傾いたりしてしまう。このようなバランスのとり方、左右のブレーキの掛け方、停止距離、復帰時間などは、そのたびごとに、自動的かつ微妙な調整が必要で、この作動が搭乗員の生命や機体に直接の影響があるため、外見は簡単でも、担当者の苦心は相当なものであった。(後略)」
    速度や向きが悪く、運が悪ければ>4の後段のような結果になるわけです。これが「着艦が安全じゃなかった」ということでしょう。
    とおり

  11. 米軍の遭難したパイロットに対する手厚い救助体制に比べて、帝国海軍が歴戦の熟練搭乗員達をボロ船の脱出ほぼ不可能な蚕棚で輸送したのにも驚きましたが、航空機も大事にしていたのでしょうか?熟練工をどしどし徴兵して、勤労動員の子供に造らせたり、熟練整備員を置き去りにしたりまではなんとか理解できます。

    しかしながら米海軍では、戦意高揚のために景気の良い記事で埋まっているはずのNaval Aviation News magazineにも「1飛行隊が7週間で35回もの着艦事故をおこしたのに、敵から受けた損害は全部で『one bullet hole』のみで、『Just who is the enemy?』と言い合った。」との記事まで載せています。

    米海軍の特に着艦事故の報道の多さと、それに対する対策の多数の報告に比べて、帝国海軍空母における着艦事故事例の報道と、着艦事故に対する対策についての資料が極めて少ないと感じているのは、単なる私の偏見にすぎないのでしょうか?もしも私の異常な偏見にすぎないとお考えでしたら、このスレッドはこれで終了させていただきます。

    お騒がせして、申し訳ございませんでした。多くのご教授に対して、深く感謝いたしております。今後とも何卒宜しくご指導の程をお願い申し上げます。
    豪腕少年タイフーン


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