リノ・エアレース観戦記 2014年 9/14 日曜日


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日曜日もまた早朝から会場に行き、地上展示機を再チェックしたあとセクション3に上がります。フォーミュラ1は強豪No.11「エンデバー」のスティーブ・セネガルが危なげない優勝。2012年に衝撃のデビューを飾ったNo.13「セプテンバー・フェイト」は今年も欠場。噂ではオーナーパイロットのブライアン・レベリー氏は同機を売りに出しているとか…。バイプレーンクラスではちょっとした異変、通算9勝・現在6連勝中、無敵の魔改造複葉機No.62「ファントム」が、パイロットのトム・エベリー氏の体調不良により無念の棄権。ほとんど10年ぶりに「普通の複葉機」に優勝のチャンスが回ってきました。現在唯一の日本人リノレーサー、トニー比嘉さんのNo.31「タンゴ・タンゴ」にも可能性が?しかし、ファントムほどでなくとも「それなりに金をかけたレーサー」の性能差は大きく、優勝したのは2番手からのスタートでNo.25「ドラッグレーサー」を競り抜いたNo.10「バッド・モジョ」のジェイク・スチュワートでした。トニーさんは激しい追撃を受けるも逃げ切って最下位は免れ…たかと思いましたが、公式には最低高度違反で失格でした(´・ω・`)ショボーン

リノレースの楽しみ方はいろいろです。ピットに入り浸って出場チームメンバーと話にふける人もあり、大砲みたいな望遠レンズ抱えて撮影に集中する人もあり、家族連れで会場ぶらぶら歩きながら時々空を見上げるような人もあり。私の場合はだいたい金曜日がピットの日、土曜日がうろつき日、日曜日はスタンドでかじり付きレース観戦というパターンになっています。しかし今年は土曜・日曜ともセクション3でかじり付きでした。以前はあまり興味のなかった下位クラスのレースが面白く感じるようになってきたこと、一緒になってバカみたいに応援するオレンジTシャツ軍団の熱気に浮かされたこと、ミリタリーの地上展示機が減ってしまったことが原因かも知れません。
大きなハプニングもなく、レースとエアショウが続きます。昨日はトラブルで演技を中止したF-22も今日は無事に飛びました。今年のエアショウパフォーマー(民間)はジェットエンジン搭載複葉機「スクリーミング・サスカッチ」、ウイングスーツ(ムササビみたいな羽の付いたスカイダイビングの一種、約3:1の滑空比があるそうな)とエッジ540によるペンバートン夫妻の演技、ブライトリングがスポンサーのデビッド・マーチン、民間ジェット編隊アクロチームの「パトリオッツ」。パンフには載っているマーク・ピーターソンのアルファジェットは欠場。パトリオッツの演技も見事なのですが、リノには毎年ほぼ交互にブルーエンジェルスかサンダーバーズが来ていたのに、ここ数年は米軍公式アクロチームもご無沙汰なのもちょっと寂しいなぁ(´・ω・`)。ミリタリー展示も、以前は午前にFA-18が飛んで午後にF-16が飛ぶとか、空海軍の見得の張り合いみたいなのが見られたのですが、これも緊縮予算の影響でしょうか。

日曜の昼下がり、スポーツクラス・ゴールド決勝は荒れ模様でした。最初のラップでいきなり二番手のNo.352サンダーマスタングがプルアウト。次いでNo.30ランスエア・レガシイ「ワン・モーメント」、そしてNo.88ランスエア・レガシイもプルアウト。No.88は白煙を曳き、腹部からちらりとオレンジ色の炎が覗きます。「He's on fire, fire!」ざわめくスタンド。着陸経路をショートカットして急降下、斜めに14滑走路に入った同機はオーバーランして土煙を巻き上げながら転覆…上空で続けられるレースそっちのけでパイロットの安否が気遣われますが、双眼鏡の向うでキャノピーが持ち上がり、自力で這い出してくる人影が。「He's coming out, he's okay!」スタンドは安堵と歓喜に沸き、届かないまでも拍手が送られます。荒れたスポーツゴールドを制したのはまたしても名無しのNo.39、グラスエアIIIツインターボを駆るジェフ・ラベルでした。

アンリミテッド・ゴールド決勝。期待された「ブードゥー」と「ストレガ」のガチ勝負は実現しませんでした。土曜日の予選でブードゥー追撃に夢中になり過ぎたタイガーは水温・油温が振り切っているのに気づかずブーストをかけ続け、レース終了後慌てて降りたものの応急補修不可能なダメージを負っており、もはや予備エンジンも使い尽くして決勝からは欠場…との噂。御歳70幾つになられると聞くけど、やっぱりタイガーはタイガーなのね…良くも悪くも。
ゴールド決勝はNo.5ブードゥー(P-51マスタング)、No.77レアベア(R-3350ベアキャット)、No.86チェックメイト(R-2800 Yak-11)、No.38プレシャスメタル(グリフォン・マスタング)、No.8ドレッドノート(R-4360シーフューリー)、No.71ソウボーンズ(R-3350シーフューリー)、No.114アルゴノート(R-2800シーフューリー)、No.924(セントーラス・シーフューリー)という顔ぶれになりました。予選でエンジンを吹っ飛ばしたNo.232(R-3350シーフューリー)とNo.7ストレガ(P-51マスタング)、ここ数年レースから遠ざかっているNo.4ダゴレッド(P-51マスタング)とNo.15フューリアスを除けば、リノ・アンリミテッド・ゴールドレーサーの総集合です。同時に、これが総集合という一抹の寂しさも。かつてゴールドを争った「リッジランナーIII」「リスキー・ビジネス」「クリティカル・マス」「リフ・ラフ」「スピリット・オブ・テキサス」みんな引退しちゃったからなぁ…。
ストレガが欠けた今、絶好調で飛ばすブードゥーを脅かすのはレアベアだけ。しかしレース1周目、そのレアベアがプルアウト。スタンドは「うおおぉ…」という嗚咽に似た嘆息に包まれます。無茶する必要がないと感じたスティーブンはスロットルを引き、土曜日よりもおとなしい爆音でパイロンを周回。4周目で二番手の「チェックメイト」が追いすがりますが、地上チームからの連絡を受けたのかブーストを入れてあっさり引き離します。27歳の若さとは思えぬほど沈着冷静なレース運び。長年リノに通い続ける航空写真家の藤森篤氏をして「エアレースの女神に愛された男」と評されるだけの技量と幸運を発揮して、今年も「リノの若きプリンス」スティーブン・ヒントンJrのNo.5「ブードゥー」が通算6勝目の優勝を勝ち取りました。

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なおゴールドレースのスタート時になかなかエンジンが掛からず観客をやきもきさせたNo.117「アルゴノート」はやっぱり途中でエンジン不調になったらしくプルアウト、スポーツクラスのNo.88と同じような位置に降りていって地形の向こうに隠れて見えなくなり「大丈夫か?」と心配されましたが、滑走路ではなく誘導路に無事着陸したようで、何事もなく牽引されてピットに戻っていたそうです。

夜はMさんたち一行とギリシャ料理屋で会食。カバブの盛り皿を突付きながら、「零戦里帰り計画」の胡散臭さや、アメリカと日本における民間航空の裾野の違い、エアレースの過去と現在と未来などの話題に花を咲かせます。やはり2011年の墜落事故が観客にも出場者にも影響を引きずっているけど、リノレース開催委員会(RARA)は新時代のエアレース・イベントの確立に向けて試行錯誤しながら頑張っているという話。そのへんの話については、また章を改めて語りましょう。
月曜日のLee Bahel氏の事故は痛恨の損失でしたが、ともあれそれ以外には大きな事故もなく、日曜に相次いだプルアウトも死傷事故にはならなかったのは幸いでした。


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