Warbirds Banner(2.9K)
ノースロップ P-61 ブラックウィドウ(Black Widnow:毒グモ)　双発双胴夜間戦闘機

P-61(26.9K)P-61
独特の平面形を見せる P-61、背部機銃は二挺に減らしてある。主翼後縁部分は殆どフラップであり、主な横操縦はフラップ直前のスポイラーによって行った。


　P-61 はバトル・オブ・ブリテンにおけるドイツ爆撃機夜間空襲の戦訓から夜間戦闘機の必要を感じた米陸軍が特に夜戦専用機材として 1940 年暮れに発注したものです。重武装・レーダー機材と三名の搭乗員(操縦手・射撃手・レーダー手)を載せて長時間の索敵を行うために、強力なプラット＆ホィットニー R-2800(2000hp) 二基を備えた双発機で、P-38 に似た双胴ブーム形式のユニークな機体でした。コクピット部分は二段になっており、ここに操縦手と射撃手が縦列に座ります。中央胴体後方は爆撃機の尾部銃座のように透明になっており、ここに座るレーダー手は後方の見張りも兼ねます(レーダーを覗きながら後方見張りができるのか？は大いに疑問ですが)。胴体下面には 20mm 機関砲が四門前方固定に装備されており、中央胴体上部には遠隔操作式の 12.7mm 四連装旋回銃座が装備され、前方に向けての補助火力に使うほか後方への防御銃火も兼ねるなど、凝りに凝った(必要以上に凝りすぎた？)設計でした。
　試作機 XP-61 の初飛行は 1942 年 5 月 26 日ですが、上方銃座が起こす乱流による尾翼バフェッティング問題、搭載すべきレーダー開発の遅れなどにより量産型 P-61 の製作は 1943 年 10 月にまで遅れました。問題となった上方銃座はほとんどの機体から取り除かれ、空いたスペースには予備燃料タンクや固定機銃が装備されました。のちに銃座の形状改善によってバフェッティング問題は解決され、改良型 P-61B 型以降には再装備されていますが、夜間の迎撃戦闘において旋回銃座がどの程度役に立ったかは極めて疑問です。P-61B の一部には銃座・照準器をレーダーと連動させ偏差射撃補正を行う高度なシステムが搭載されましたが、あまりに複雑かつデリケートすぎてテストのみに終わっています。

　P-61 は主翼の操舵にスポイラー(抗力板)を主とし補助翼(エルロン)を従とする、のちのジェット戦闘機のような操縦系を採用していました。このため重く大柄な割に高速時の運動性が良く、また主翼後縁のほとんどを占める大型のフラップにより着陸速度を 93mph(150Km/h) にまで下げることに成功していましたが、低速時の操縦特性にはトリッキーなところもありました。事故が多発したことから「ウィドウメーカー(後家づくり)」という渾名を頂戴したという説もありますが、本機について F4U や B-26 に見られるような事故多発の悪評は伝わっておらず、この説はいささか眉唾ものです。
　本機の重武装と高性能な電子装備は恐るべき夜戦となる筈でしたが、数々のトラブルで実戦投入が遅れたこともありそれほど目立った戦果も挙げておらず、戦後はジェット化の波に飲まれて早期に引退してゆきます。その中で縦列複座の写真偵察機に改造された F-15「レポーター(Reporter)」(のち戦闘機の F 型番に合わせ RF-61 に名称変更)は 1950 年代まで使われ続け、朝鮮戦争にも参戦しています。
(文・ささき)

緒元(P-61)
製作1942年
生産数706(全タイプ合計)
乗員3
全幅66ft(20.12m)
全長48ft 11in(14.91m)
全高14ft 2in(4.32m)
主翼面積664ft2(61.7m2)
乾燥重量20965LBs(9510Kg)
全備重量27600LBs(12519Kg)
武装12.7mm 機銃×４(上部旋回銃座)＋20mm 機銃×４(胴体下面)
発動機プラット＆ホィットニー R-2800-10 空冷18気筒 2000hp
最高速度369mph(594Km/h) 高度 20000ft(6096m)
実用上昇限度33100ft(10089m)
航続距離1900ml(3058Km) 増槽使用時

P-61 サブタイプ一覧
サブタイプ生産数特徴
XP-612試作型 R-2800-10(2000hp)
YP-6113量産先行型 SCR-520 レーダー搭載
P-6180初期量産型 38 号機以降は上部銃座なし
P-61A120R-2800-65(2250hp)搭載
P-61B450SCR-720 レーダー搭載、燃料タンク増積
P-61C41排気タービン付き R-2800-73 (緊急出力 2800hp)
XP-61D2P-61C のグッドイヤー生産型
(P-61A 改造の試作機のみ)
XP-61E2爆撃援護用昼間戦闘機
(P-61B 改造の試作機のみ)
F-15A36XP-61E をベースにした写真偵察型
[戻る]