情操的兵器知識普及教材

お子さまの夢をはぐくむ130000おまけ


 古本市で、このようなモノを手に入れたので、紹介する。


キリガミ・クミタテ潜水艦と潜水母艦

 昭和17(1942)年発行の「キリガミ・クミタテ潜水艦と潜水母艦」(中川光一)と云う、小学校低学年向けと思われるペーパークラフトである。発行は童画書房。おそらくは絵本の発行元なのであろう。「9−12」とあるのは、対象年齢と思われるが、12歳くらいになれば、もう少し高度な工作の方がふさわしい。


作者の言葉(解説)

 詞書は上の通りで、国民学校1年生でも読めるように、すべてカタカナ表記である。カタカナ表記かつ歴史的仮名遣いをテキスト入力するのは骨であるので、漢字混じりの現在仮名遣いに改めてみた。

 潜水艦母艦は、潜水艦のお母さん船です。広い海で潜水艦が 自由に働けるように、油をやったり、水をやったりします。お母さん船の お乳を呑むのですね。
 太平洋で、印度洋で、南洋で すばらしい働きをしている、無敵戦艦を組み立てて、はなばなしい手柄を立てた 潜水艦をしのびましょう。

 潜水艦母艦(軍事趣味の世界では、タイトル通り「潜水母艦」の方が通りが良い)とは何かが、小学生にもわかるように書かれている。私もこう云う教材を与えられていれば、潜水母艦を「潜水する航空母艦」と誤解することはなかったのだ(笑)。
 蛇足であるが、「わが海軍」昭和10(1935)年度版に掲載されている、潜水母艦「長鯨」の写真説明に

 潜水母艦というのは航空母艦と違って、潜水艦を艦内に包容しているのではなく、潜水艦に附随して食料や燃料其他を補給する役目の艦である。

 とあり、潜水母艦をこう云う風にも誤解する人がいたことがわかって嬉しい。


組み立て方

 これが組み立て図である。実際の切り紙・組み立て画像は、以下に掲載してある。現物はB4(大型潜水艦と潜水艦母艦・小形潜水艦(1))と、B5(潜水艦母艦・小形潜水艦(2))の厚紙である。ケント紙に印刷するなり、厚紙に貼り付けるなり、各人が工作しやすいように工夫されたい。うまく組み立てられないからと云って、総督府に泣きつかない事。

大型潜水艦

潜水艦母艦と小形潜水艦(1)

潜水艦母艦と小形潜水艦(2)


 何度も書いているが、私は艦船に疎い。だから帝国海軍の潜水母艦はおろか、潜水艦の説明もしない。ここで問題にするべき点は、

 ムテキセンカンヲ

と云う語句である。
 兵器ファンと、一般人の決定的な違いを一つ述べよ、と云う設問に対する読者諸氏の回答は様々であろうが、「『戦艦』でない艦艇を『戦艦』とは絶対に云わない」と云う事があげられるだろう。読者諸氏の中にも、艦艇の種別に対して無頓着なマスコミを非難したことがある人が一人はいるはずである。
 一般人が兵器の種類を判別できないのは、戦後教育のせいである、と云う論も聞かれるのであるが、軍事教育一色と云われた戦時中の出版物(それも兵器が主役のだ)においてでも、誤った「戦艦」の用例が発見されてしまったのである。

 戦時中でも間違う人は間違うのである(笑)。攻撃機が「戦闘機」になっても、兵員輸送車が「戦車」と呼ばれても、日の丸がついた飛行機がすべて「ゼロセン」と称されていても、「仕方が無い」のである。
 と云うわけで、このペーパークラフトになっている潜水艦が伊号でも呂号でも「へ号」でもかまわないのである!

 「兵器生活」読者としては、「潜水母艦は水に潜らない」ことと「潜水母艦の中に潜水艦は入っておりません」と云うことだけ覚えておけばよろしいのである。

「潜る」、じゃなかった「戻る」