機会があるなら一読したい

科学雑誌の科学的でない広告


 「子供の科学」と云う科学雑誌がある。「ある」と書いたのは、今も書店にて販売されて明日の科学者(もちろんそうならない人も含む)に、科学知識の伝授と啓蒙を続けているからである。現在のそれについて語るつもりは毛頭ない。私がお子さまだった時分の「子供の科学」とは、電気工作ばかりが目立ち、モーター駆動の戦車や自動車のプラモデルすらマトモに走らせられなかった当時の私には、完全に別世界のものなのである。

 現在の「子供の科学」の事は措く。戦前のそれには、平易な兵器解説記事が掲載されていて、兵器の基礎知識を仕入れるには都合が良いのである。時々古本屋で見つけては入手していたりする(あくまでも当時の記事であるから、個別の兵器のスペックは鵜呑みに出来ないし、帝国陸海軍のそれは、さらに情報は無い)。
 この部分が、教育勅語社会と教育基本法社会での決定的な違いである。

 現代ニッポンでは良い意味で俗化された軍事・兵器知識を得る場所が、実は無いのである。高度経済成長期過ぎまでは、共通の知識基盤としての少年雑誌(のちマンガ)があり、それを読むことでファンへの道が始まるのであるが、現代にあっては、すでにファンとしての方向を持っている人向けの「専門誌」が乱立しているに過ぎない。しいて云えば模型(プラモデル)雑誌とゲーム雑誌だけが通俗軍事・兵器知識への窓を開いているに過ぎないのだ。
 インターネットに至っては、「好きな人が好きなモノを語る」世界であり、そもそも好きな人しか読まないし、送り手自身、自分が面白い=好きな情報を、不特定の「好きな人」に向けて発信しているものだ。少なくとも「兵器生活」はそう云うことにしている。
 もちろん、現代のメディアが平和志向になっているからと云って、最新鋭兵器に関する基礎知識の紹介までサボっている、と云うつもりは無い(それは不遜と云うものだ)。

 余談が過ぎた。
 「子供の科学」は大正13年創刊と云う老舗の年少者向け科学雑誌である。学童向け科学雑誌のパイアニアであり、「子供の科学代理部」が行っていた、科学教材販売は、日本通信販売史を語る上で見落とすことはできない。ラジオキットや鉱物標本、果てはエジソンバンドまで取扱い、読者の工作・観察の便宜をはかり科学教育を支援した功績は大きい(敗戦後は株式会社科学教材社となり、現在に至る。残念ながらエジソンバンドは取り扱っていないようだ)。
 昭和10年代の同誌を見ると、代理部の商品だけでなく、一般の科学教材業者、模型販売店、高級写真機から暗室不要の簡単カメラまで、「科学商品」の広告は盛んである。しかしそれと同じくらいに通信教育・教材の広告も多い。つまり、この雑誌の読者が、科学教材を買ってもらえる富裕層と、義務教育終了後は、技術者として身を立てようと云う、非富裕層に大別されているのである。

 例えば、昭和15年8月号に掲載されている、「帝国総合学院テレパカルト」と云う通信教育の科目には、中学科・商業科・機械科から始まり、判任文官養成科や鉄道員養成科、警察官養成科などと云うものがあったりするし、「国際無電協会」の無線通信技師講座の広告では、
 『子供の科学』愛読者諸君は今こそ無電を学び通信報導戦線の勇士たれ!

 文化の波を世界に発射する無線通信士の資格試験には十四歳になれば誰でも受験出来、陸海軍部をはじめ農林・鉄道・逓信各省から航空・船舶・無線会社。無電局、新聞社、満洲支那其他各方面に高給で活躍できる。本会は無線界の実際家が親切丁寧に講義した『無電講座』を発行、自宅独習で立派な通信士に成れる様指導に当たっている。今や時局多端!無線通信士の要望今日より大なるはない。男性的活躍を望む『子供の科学』愛読者諸君は今スグ本会の会員となり勉学せよ。
 と勇ましいことこの上ない。「男性的活躍」と云う語句が、「子供の科学」読者を、いわゆる「メガネ君」(こども向け漫画に登場するキャラクターの一つ。主人公の仲間。算数や理科が得意だが、運動は苦手。大人になるとヒーローものの『博士』になる)タイプに決めつけているようである。最後の「勉学せよ」が面白い。

 同じく「最新自動車講義録」では
 自動車の運転や修繕の技術を習得せよ!!

 支那事変の第一線に銃後の輸送機関に自動車技術者は最も重要視されている。青年諸君!! まず処世の常識たる自動車知識を習得せよ!
 伸びゆく北支、中南支に、また満洲に、新時代に処して成功せんとせば自宅で独学できる、新発明の自動車模型付の本会講義録で勉強するのが最も合理的で然も成功の早道です。
 本講座は運転免許証に順じて普通、小型、修繕の三科に分ち編輯した最新にして本邦唯一の模範的講義録であります。
 と、これまた成功の第一歩は講義録による独習であると謳っている。

 昔の雑誌広告は読んでいて飽きないのだが、かように多種多様な広告の中に、こんなモノがまぎれこんでいたりする。

奇蹟実現法

 本書は帝国神秘会会長田宮馨氏が平易な文章で古来から現代に渉って、人々が奇蹟であるとしている諸種の事象に対して、気持ちのよい解決を与うるとともに、その行い方を惜しげもなく公表したものである。本書が現るるや、今まで術法の大家として種々の不思議を演じていた人や行者達などは大恐慌を来たしたと云うことである。
 内容は、先ずキリシタンとは何かの題下に真のキリシタンバテレンの意義を明白とし、次に白雲を懐中に入れたと云う昔の仙人や武道の達人等の行うた方法を発表した懐中白雲術、キリストが十字架で刺殺されて生還したのはどうしたやり方かを明かにする十字架生還術、人体が自由に消えたり現れたりする人体出没術、昔の寺院などで行うた仏像その他の器物が声を出す器物発声法、瓦を頭に打つけて割る頭力瓦割術、火を喰うて涼しい顔をしている火喰術、心身鍛練法とか気合術などと称して五十円位の伝授料をとって教えていた人のある白刃の上に素足で立つ法、錐を腕や耳たぶなどに通して痛くもなければ出血もせぬ刺錐術、拳固で石や瓦を割る石割術、熱湯に手を入れて平気な熱湯入手術、宗教信者が大騒ぎをする空中にありありと神の姿を現すと云う空中現神術、暗中で物が光って見える物体発光法、身体がひょいひょいと飛上がる身体飛躍法、誰でも即座に千里眼となって人の出した物品を眼でみずに云いあてる即座千里眼、眼かくしをされていながら、如何なる物品を出されても、ずばずばと云いあてる即席霊心術、昔の武道の達人が一睨して飛鳥をおとしたと云うが、これのやり方を説いた飛鳥落下法、他人に夢をみさす法、一身が二人となる二重身術、真言秘密の法の実際、加持祈祷のやり方、呪文や結印調伏の実際的やり方等を全部惜しげもなく公開伝授するのである。
 本会発行、定価八十銭 送料六銭(郵券代用は送料とも九十四銭)
 「奇蹟であるとしている諸種の事象に対して、(略)その行い方を惜しげもなく公表したものである。」と云う、この<惜しげもなく>が素晴らしい! しかし、文章をちゃんと読んでみると、適度ないかがわしさがただよっているのだ。なにしろ「キリシタンバテレン」である(こう云う言葉の使い方も最近見なくなった)。さらには瓦を頭に打ちつけて割る「頭力瓦割術」(まんまではないか!)、文字だけ読むとキャンプに役立つ技術かと思う「熱湯入手術」、しまいには「結印調伏の実際的やり方」と云う、どう贔屓目に見ても「ムー」の広告の方が似合っている。そしてタッタの80銭! 「子供の科学」本誌が65銭であるのにだ。
 しかし、これだけの奇蹟を挙げているにもかかわらず「博打で勝つ法」や「意中の人をモノにする術」の類が無いところが健全と云えば健全である。そのへんは「子供の科学」と云う掲載誌のタイトルがものをいっているのだろう。

 神通力自在

 本書は、古来の大宗教家や武芸の達人達が行うた奇法妙術や、伝説として残されている不思議現象に対して一々解決を与え、進んでこれで(本分ママ)実行方法を詳述したものである、神通力は何人も保有しているのであるから、本書に説いた方法によってこれを実行せられなば、容易に行えるのである、空理空論を斥け実際のやり方を教えるとて定評のある帝国神秘会々長田宮馨氏の責任著述であるだけに、読者は一読して満足し三読して実行し、以て人々をあっと驚かす様な神通力を発揮することが出来る様になるのである。
 内容は、久米仙人飛行術、天井逆歩術、速歩急走術、棒奇術、爪で性格病気観破法、即席透視術、自働書記術、呪縛秘法、伝想術、人体架橋術、小指防棒術、指力人体差上術、五寸釘屈曲法、天狗飛切術、気合即倒術、手力活殺術、拳固強大法、暗中に物を見る法、無痛分娩法、大胆不恐法、猛獣降伏術、水魚交心術、蟲類左右術、物体念動法、等である。定価八十銭、送料六銭、切手代用は一割増
 本書のうち、特に久米仙人飛行術、天狗飛切術などは、昔の忍術者が秘法中の秘法として濫りに伝授しなかったもので、この二つを知るだけでも五円や十円の価値は十分ある。その他、拳固強大法や気合即倒術などを心得ていると、如何なる強敵に出逢うても意を強うすることが出来、甚だ便利である。すべて皆実行出来るから、昔の仙人同様になると云うても過言ではないであろう。何をおいても本書だけは是非求めなければならぬ。
 東京市品川区寺下町一五八〇 玄妙社
 こちらも凄い。「神通力は何人も保有しているのであるから、本書に説いた方法によってこれを実行せられなば、容易に行えるのである」いいのだろうか、ここまで書いてしまって…。
  「久米仙人」と云えば、飛行中に女性の太股を見てしまったばかりに、神通力を失った仙人として有名であるのだが、やはり注意事項として「女性の太股を見てはならない」などと書いてあるのだろうか? こちらも興味の尽きない内容である。
 「一読して満足し」とは一回読むと実行方法のトンデモさに本を放り出すと云うことなのか? 「三読して実行し」とは、放り出さずに三回も読むヤツならば、よし試してやろう、とつい思ってしまう事を意味するのだろうか? なんとも深い文であるが、一番不思議に思うのは、二度読むと何が起こるのか、まったく触れられていないことなのである。

 「無痛分娩法」を覚えるつもりはさらさら無いが、これだけの内容がマスターできるのならば、5円や10円の価値はある。古本屋の店頭で見つけることが出来たなら、買って損は無い。神通力がつけば儲けものだし、本当のインチキ書籍であっても、「兵器生活」のネタ一本分の価値は多いにあるのだから…。


 兵器とも生活とも縁の薄い本ではあるが、こう云う良くわからないモノも世の中には必要なのだろう、と結んでみる。
(後記) …と、完全に帝国神秘会会長の田宮馨氏をキワモノ扱いしてしまったのだが、ネットで検索をしてみると、催眠術関係では名の知られた人のようである。さらに検索を続けると(と云っても全部で20件も無いのだが)、作家 北原尚彦氏のページ「いろいろ作家 北原尚彦の書物的日常」の「古本的日常」と云うコーナー、2003年4月4日のくだりに

 ○田宮馨『神通力自在』(帝国神秘会/昭和33年)
 ――「久米仙人飛行の術」は、走幅跳と走高跳の練習をすべしとか、
木から吊り下げた紐を揺らして飛び移るとか。インチキじゃん。

 と云う衝撃的な記述を発見してしまったのである! 昭和15年の雑誌広告に掲載されている本が、昭和33年にも売られているのも衝撃的だが、「久米仙人飛行術」マスターのために「走幅跳と走高跳の練習をすべし」とくるとは思わなかった…。
 案外このあたりの本が、白土三平の忍術漫画のネタ本だったりするのかもしれない。