23000おまけ

たまにはゲームでも


 昨今では「ゲーム」と云うと、「ブラウン管の中で、平坦な顔をして、髪の毛が赤や緑だったりするおじょーちゃんとエエ思いをする」ものを想像される読者諸氏がいらっしゃるかもしれないが、私が汚れ無き天使であった時代、「ゲーム」と云えば厚紙に小綺麗な四角や丸が描かれたものであったり、黒を白と云いくるめるどころか、物理的に黒を白にしてしまうものや、玉を奈落に落としたり、相手を「貧乏農場」送りにするものと相場が決まっていたものである。
 ちなみに勝ったためしが無い。オセロで「全滅」と云う輝かしい戦歴を持つ私にとって、「ゲーム」とは禁句に他ならないのである(大袈裟やなあ…)

 そう云う主筆であるから、副題に「ゲーム」と付けたところで、ゲーム哲学を語り出すわけでもなく、ただ単に古書店で購入した物件を使って当座をしのごうと云う、例によってエエカゲンな動機による事は云うまでもない。

 前置きが長いのは芸のうちと堪忍していただくとして、これは「ホマレゲーム」と云う、恐らくは戦前のゲームである。画がほのぼのとしていたので、つい購入してしまったシロモノ。複葉戦闘機、攻撃機と、聴音機に高射砲と云うのが「時代」である。撃破された航空機が米国風国籍標を付けているのも味わい深いのである。


 この裏面にゲームの説明が書かれている。いわく

 近頃各種(いろいろ)ゲーム全盛ノ時ニ当リ本品ハ最モ斬新ナル工夫ヲ加ヘ御子達ノ為メ学術参考資料ヲ多分ニ加味シタル飛行機ニヨル首府乗取リ競技ニシテ御子達ヲ中心トシタ一家和××(二字汚損)基トシテ興味津々(きよみつつ)全ク時ノ経ルヲ忘レル理想的好ゲームデアリマス
 *カッコ内ひらがなは原文ではルビ

 「興味津々」に「きよみつつ」とルビを振るとは、凄い学術参考資料もあったものである。「各種」に「いろいろ」と云うルビには、明治の香りさえ感じられる。

 で、盤面を開くと

 このようなゲーム盤が展開されると云うカラクリである。
 四隅に「根拠地」(スタート地点)、外側の画は、「軍艦 功4級」「飛行機 功5級」「大砲 功7級」「戦車 功6級」と描かれており、その内側には「撃墜」「故障」、「故障」の内側は「不時着」である。
 盤の中央が「首府」であり、「高射砲」と「高射機関銃」のシルエットが気分を盛り上げている。


 競技ノ方法
 本競技ニハ2人ヨリ4人迄ノ人数デ遊ブノデアリマスガ各々組合ツテ×××××(5字破損)デモ出来マス先ヅ第1ニ各自ノ飛行機別ヲ定メ各根拠地ヲ出発点トシテ順次骰(さいころ)ヲ振リ其ノ出タル数ニ従ヒ前進(すすむ)スルモノトス
骰(さいころ)ノ数ハ「1」ヨリ「5」マデトシ平タク切リタル方ガ上ニ向キタルヲ数トス全部下ニ向キタル時ニハ「5」トス

 恐らく飛行機型のコマと、特殊な形態をしたサイコロ(と云う言葉も最近聞かないなあ…)がセットされていたのだろう。残念ながら、私が購入した時点では、盤以外は失われていた。


 1.関所
 外枠中ニ関所(軍艦、飛行機、タンク、大砲)4ヶ所ガアリマス
 各関所ヘ丁度ノ数ニテ入リシ時ハ各等ノ金鵄勲章ヲ貰ヘマスト同時ニ中枠ヘ近道前進(すすむ)スルコトガ出来マス

 1.撃墜
 中枠撃墜ノ箇所(ところ)ニ入リシ時ハ貰ツタ金鵄勲章ヲ返還スルト同時ニ外枠ヘ逆戻リ再度(ふたたび)前進(すすむ)スルモノトス

 1.故障
 中枠撃墜ノ箇所(ところ)ヘ入リシ時ハ不時着シタモノト××(2字破損)競技者一廻リスルマデ一回休止(やすむ)スルモノトス

 1.ゴール
 「首府」ニ入ルニハ丁度ノ数ガ出ナケレバ×××××(5字破損)、例ヘバ「首府」前三ツ手前ニテ「4」ガ出タトキハ結局一ツ手前マデ逆戻リシ丁度ノ数ガ出ルマデ何回×(1字破損)デモ繰返シ一番早ク「首府」ヲ乗取ツタ人ガ功一級金鵄勲章ヲ貰ツテ優勝者トナリマス、尚、二等、三等ハ各々ガ貰ツタ各等金鵄勲章ノ等級ニ依ツテ区別スルモ面白イカト思(おも)マス


 まあ要するに「時局便乗型双六」でなのでありますなあ。
 「理想的好ゲーム」と自信満々なわりにルビの振り方が奇天烈であるのは教育上よろしくない。「御子達ノ為メ」と云う前に自分達のために辞書を買い直した方が良いと思う。製造元が解らないのがつくづく残念である。
 こう云う杜撰な所があるにもかかわらず「意匠登録出願中」などと印刷されていたりするのである。


 一人で双六をやる趣味は無いので、ゲームとしての面白さを評価するつもりは無い。当時、このようなゲームがあった、と云う事を知っていただければよろしいのである。
 「首府」と云う云い方は最近まったく流行らないのであるが、これが同時の用法であったかどうかは残念ながら不明である。「首都」の方が一般的であると思うのだが…。