高枝切り鋏は付いていません

これは重宝かもしれない39万5千おまけ


 原子力時代はおろか、宇宙時代(になるはずだった)の21世紀になってなお、風呂ナシ6畳アパートに住み、電子レンヂも携帯電話も持たない生活を続けている。
 とは云うものの、広い部屋(『家』とならないところが実につつましいものだ)で暮らしてみたいものだし、ホーム・バーなんぞもあって、サントリーの白でハイ・ボールの一つもこしらえて、薄切りキュウリと雪印のプロセス・チーズを爪楊枝で突き刺した「お手軽おつまみ」で一杯やってみたい、と云う人並みな願いだってちゃんとある。
 高度な現代文明を否定するつもりはさらさらなく、使って便利そうなモノはやはり欲しいのが人情と云うものだろう。


 と云うわけで、今回ご紹介するのは、大日本雄弁会講談社が世界に誇る九大雑誌の一つ「キング」(一世を風靡した大衆雑誌で、現在コンビニで売れているのかドーなのかサッパリわからない『KING』は、その不肖の息子にあたる)の附録「キング文庫 趣味百話」(昭和12年7月)の広告「講談社代理部お買物案内」に掲載されていたモノである。
 「代理部」なんて言葉も近頃見なくなっているが、読者の皆様に独自のルートで仕入れた「とっておき」の良品を廉売する、要するに販売部門のことである。詳細なところは、大きな図書館で講談社の社史を読めばわかるのだろうが、そこまで手間をかけるものでも無いだろう。
 先を急ぐ。


ズボンの皺伸し器ドライプレス

 ズボンの皺伸し器
 ドライプレス

 ズボンの型のくずれている程見苦しい下品なものはありませんが これをお用いになりますとアイロンや寝押しなどの必要なく トテモ簡単にズボンのしわを伸ばし、いつも折り目正しい新調の様なズボンをはくことが出来ます。御使用方法も至極簡単で お脱ぎになった時 図の様にかけてつるして置くだけで結構です。尚ズボンをはさんだまま洋服かけにもなりますから お家庭に一組ゼヒほしいものです。
 定価 一円五十銭 送料内地二十五銭其他六十五銭
 
 通信販売広告のお手本のような文章である。
 「見苦しい」「下品」で読者に揺さぶりをかけ、「トテモ簡単に」「折り目正しい」「新調の様な」とメリットを述べ、「洋服かけにもなります」とお得感を強調して「ゼヒ欲しいものです」と頼みもしないのに結論づけて、その気にさせてしまうのだ。

 単身サラリーマン諸氏(含む筆者)にとって、ズボンのアイロンがけは面倒の代名詞で、たまに真面目にやろうとすれば、線が二重になって「過ぎたるは猶及ばざるが如し」を地で行くことも珍しくない。自分の場合、内勤になってからは、クリップの付いたハンガーに逆さ吊りしてなるべく折り目が消えないようにしている。
 本文で言及されている「寝押し」とは、布団の下に折り畳んだ服を敷き、そのまま一晩ゴロリ上に寝て、体重で折り目をクッキリつける技術で、昔のマンガでは、朝方「うーんうーん」と布団で唸っている相方を見て驚いた主人公が、「風邪か腹痛か?」と心配すると、「寝押しが決まらなくて…」と答える場面(あえて書く、ここは笑うところです)があったものである。一度試してみたいのだが、失敗するとなおしが利かないし、そもそも布団を上げることすらおっくうなので、未だ実現を見ていない。
 現代ではズボンプレッサーと云う、至便なモノがあり、昔出張先のホテルで一度使って、その便利さに感激したこともあるのだが、使わない時の事を考えるとおいそれと買うわけにもいかない。

 そう云う極めて個人的事情をご理解いただいた上で、この広告を見ると「ゼヒ」と云う気持ちになってくる(きませんか?)。図を見る限り構造は単純で、二枚の板の間にズボンをはさみ、紐かバネかわからないが、締め付けて圧力をかけているだけのようだ。ズボン吊り用クリップのついたハンガー一つあれば、自分でこしらえることも出来るだろう。

 折り目をつけるだけで「新調の様な」ズボンになるか、と云われると「膝が抜けた」状態が直せるものかアヤシイし、そもそも汚れはそのまんまなのだから、結局はクリーニング屋さんのお世話を免れることはできない事だけは確かである。
続いては、これをご紹介しよう。


新案勉強机

 折畳式で七通りに使える
 新案勉強机

 一脚で机、椅子、本立、黒板、写生板等七通りに使用出来る折畳式勉強机です。携帯移動が自由に出来ますから好きな所で用いられますので大評判です。特にお子様方の勉強用としてゼヒお求め下さい。

 (特価)
 大人用 四円五十銭
 少年用(十二三才迄) 三円五十銭
 幼年用(八・九才迄) 二円二十銭
 荷造費各三十銭、運賃鉄道着払
 
 これはかなり胡散臭い。「特価」と云うのがすでに怪しく、「大評判」と書かれて大評判だったためしが無い。そもそも「七通り」と云いながら5通りの使い方しか記載されていないのはドー云うわけだ?
 図を見ると、下の板にクッションが付いているようで、上の板に向かって腰を下ろすと「机」、上の板を跳ね上げ、背もたれにすると「椅子」。おおかた上の板を裏返すと「黒板」があって、それを垂直に立てれば「写生板」。普段は板の上に本を置いて「本立」と、五つの機能が推察出来る。残りは「脚立」(そのまま板の上に乗るだけ)と、完全に折り畳んだままの状態で「何か」に見立てる趣向なのだろうが、ちょっとわからないので読者諸氏の宿題にしておこう(まさか『洋服かけ』ではあるまいな)。

 通信販売で買うよりは、日曜大工でこさえるモノである。「携帯移動が自由に出来ます」と云うところが購買意欲を高めるのだが、大中小揃えてしまった家庭は存在したのだろうか? 実にビミョーな商品である。
 どちらの商品も「ゼヒ」と云われて欲しくなるシロモノでは無いが、古道具屋の片隅で投げ売りされていたら、心が動いてしまうかもしれない…。