「マリアナの鯨捕り(Maniana's harpoon)」

四式艦上爆撃機「聯星」(D3A3)


~ 最悪の初陣 ~
昭和19年6月20日未明、「サイパンの264度160海浬に敵空母大型4、戦艦4、その他十数隻、
進路西」との索敵機からの一報によりマリアナ沖海戦の火蓋が切られた。

敵艦隊に最も近い3航戦(千歳、千代田、瑞鳳)からは先陣を切って戦爆連合64機が発進した。
この海戦が初陣となる四式艦上爆撃機「聯星」は、噴進爆弾による急降下爆撃を行うために開発された
新鋭機で攻撃隊には9機が翼を連ねていた。
攻撃隊は順調に進撃を続けアウトレンジ攻撃は成功したかに見えたが、敵艦隊を目前にレーダーで誘導
された敵戦闘機隊による待ち伏せ攻撃を受け、大きな被害を被った。
敵戦闘機隊の迎撃を切り抜け敵艦隊上空に到達した残存機も、輪形陣外郭を構成する対空防御陣からの
VT信管による熾烈な砲火を受け、僅か数機にまで戦力を減らしていった。

「マリアナの七面鳥射ち(Maniana's turkey shoot)」と称される戦況である。

~ 噴進爆弾 ~
緒戦には圧倒的な威力を誇った九九艦爆を基幹とする艦爆隊であったが、珊瑚海海戦から南太平洋海戦
に至る米海軍機動部隊との航空決戦においては、出撃機数の大半が失われる深刻な状況となっていた。
艦爆による急降下爆撃は低空まで降下して投弾するため命中率は高くなるが、敵対空砲火の間近に機体
を晒すため被弾率も高くなるのが避けられない戦法であった。
航空本部はこの対策として空技廠爆撃部において、投弾高度を1000mまで高めると共に命中率と撃
速を飛躍的に向上させる4号爆弾(ロケット加速爆弾)の研究開発を進めていたが、投弾後に点火され
る推進剤の燃焼が安定せず実用化には至っていなかった。

ロケット推進兵器としては4号爆弾とは別に陸軍からの技術協力により、火薬廠が開発を進めている噴
進砲があった。この噴進砲は巡洋艦の陸用20cm主砲弾に旋動式ロケットの推進部を連結した噴進弾
を撃ち出すもので、噴出する燃焼ガスにより弾体に旋動を与え弾道を安定させる仕組みになっていた。
航空本部はこの20cm噴進弾を大型化したものを艦上爆撃機より発射する噴進爆弾の検討に着手した。

弾頭には戦艦の36cm主砲弾を使用することで進められていたが、36cm主砲弾では重量が過大な
上、零式通常弾では弾体が脆弱で貫通力不足、一式徹甲弾では炸薬量が過少で威力不足となることから
二式50番通常爆弾1型及び50番通常爆弾2型改1から尾翼部を外したものを使用することに変更さ
れた。
推進部は九三式1号火薬を中空円筒型に成型した推進剤7本を用い、円周方向に25度傾斜した噴気孔
により弾体に右旋動を与える構造となっていた。
弾頭と推進部の接続は通常の尾翼部と同じ螺子込み式とされたが、二式50番通常爆弾1型と50番通
常爆弾2型改1では連結部の胴径が違うことから別々の接合環が用意された。

試作された噴進弾は樋型発射装置を用いた地上発射試験により所定の性能を確認した後、一式陸攻改造
機による空中発射試験に移行した。
この機体には爆弾槽から胴体上部を突き抜ける円筒型発射装置が機軸に対し下方30度の角度で取り付
けられ、降下角30度の緩降下爆撃により合成投下角60度の空中発射試験を行うことができた。
空中発射試験の結果、発射管内で燃焼むらや加速初期の弾体の揺動等によるぶれを抑え、旋動と初速を
与えられた噴進爆弾は、高度1000mから約3秒で落達し弾着公誤25mという良好な性能を発揮し
対艦攻撃に極めて有効との評価により、昭和18年6月には円筒形発射装置と共に制式採用された。

三式60番噴進爆弾及び三式60番噴進爆弾発射管1型
【 三式60番噴進爆弾 】   胴径:   357mm   全長:  2.14m  (2.05m)   重量:   613kg (604kg)   炸薬:    56kg (221kg)   推進剤:   42kg   噴気孔:   25mm×6   燃焼時間: 1.1秒   最大速度: 210m/秒   *)諸元は二式50番通常爆弾1型を弾頭とした場合、( )内は50番通常爆弾2型改1     信管は弾底の延期信管のみで延期時間は0.08秒 【 三式60番噴進爆弾発射管1型 】   口径:   361mm   全長:  3.75m   重量:   145kg 発射管からの噴進爆弾射出状況
  *)発射管は噴進爆弾の底螺部分にある溝を四箇所で固定する機構を備えている。     固定機構は推進剤の点火と同期して噴進爆弾を解放する仕掛けになっている。 ~ 四式艦上爆撃機「聯星」~ 噴進爆弾の開発に合せ、これを運用する艦上爆撃機の開発も進められた。噴進爆弾は発射時に噴射され る大量の燃焼ガスにより機体中心線上から逸れた位置に配置されると大きな回転応力を発生するため、 九九艦爆や「彗星」のように機軸上にプロペラを持つ単発機からの発射は難しいと考えられた。 しかしながら双発の艦載機は開発計画すら無いことから、苦肉の策として九九艦爆を双発機とする改造 案の検討を愛知航空機に打診した。 これを請け、愛知航空機は仮称九九艦爆改として九九艦爆22型を双発機とする改造設計に着手した。 噴進爆弾自体は構造が簡単なもので短期間に実用化されると考えられることから、愛知航空機設計陣は 噴進爆弾の開発と歩調を合せるべく設計範囲を機首部とエンジンナセル及び主翼への接合部のみとし、 他の部分は極力流用とする方針で設計を進めた。 主な改造点を下記に示す。 ・左右主翼に九九艦爆22型の機首を流用した、エンジンナセルを設け双発機とする。  カウルには若干の修正を加え、エンジンは九九艦爆22型と同じ金星54型とする。 ・主脚はエンジンナセル収納の引込み式とする。  尾輪も大型化し引込み式とする。 ・抵抗板(ダイブ・ブレーキ)は外翼下の矩形抵抗板を廃し、エンジンナセル後方左右に開閉式のもの  を新設する。 ・機首は前方視界に配慮した新規設計とし、操縦席前方に280ℓの胴体タンクを追加する。  胴体銃は従来通り九七式7.7粍固定3型改2機銃2挺とするが、設置位置は胴体タンク前方とする。 ・右主翼前縁の高オクタン価燃料用タンク(79ℓ)を左主翼前縁にも追加する。 射爆照準器はプリズム連動式の二式射爆照準器1型とすることも検討されたが噴進爆弾では爆撃諸元の 内、弾道要因(降下角度、投下高度、投下時気速、追従量)と気象要因(風向、風速)からの影響が小 さく爆撃法が簡略化されるので九九艦爆22型と同じ九九式射爆照準器のままとした。 *)照準目盛は降下角度60度、高度1000mで1分角が海上の10mを示すように変更されている。 四式艦上爆撃機「聯星」(D3A3)
【 四式艦上爆撃機「聯星」(D3A3)】   諸元:    全幅  14.360m     全長  10.231m     全高   3.360m     翼面積  34.970m2    自重    3670kg    総重量     (正規)  5800kg(三式60番噴進爆弾1発、燃料 918ℓ)    (過荷)  6000kg(三式60番噴進爆弾1発、燃料1329ℓ)   発動機:    空冷星型複列14気筒 金星54型     離昇出力  1300hp    基数  2   性能:     最高速度  574km/h(高度5650m)    巡航速度 296km/h(高度3000m)    着陸速度 132km/h    航続距離    (正規)  1102km    (過荷)  1594km    実用上昇限度  10560m    上昇時間   8分21秒 (高度6000mまで)   武装:    九七式7.7粍固定3型改2機銃 2挺(装弾数 :各500発)    九二式7.7粍旋回改1機銃 1挺(弾倉6個:各 97発)    三式60番噴進爆弾発射管2型 1門(三式60番噴進爆弾:1発) 仮称九九艦爆改は昭和18年9月に初飛行を行い航空機としての基本的な性能を確認した後、三式60 番噴進爆弾発射管を搭載して空中発射試験を開始した。 空中発射試験は静止目標に対する降下角60度、高度1000mからの急降下爆撃で行われた。 この結果、噴進爆弾発射管は火砲に準じた照準器及び発射管の微調整が必要となり、反復攻撃を可能と するのため発射管は固定兵装とすることに変更された。 三式60番噴進爆弾発射管2型
【 三式60番噴進爆弾発射管2型 】   口径:   361mm   全長:  3.75m(風帽を含まず)   重量:   160kg   *)搭載機構の追加や空気抵抗を考慮した流線型の覆いを設けるなどの改修が加えられた。     風防は発射時の風圧で吹き飛ばされる。 改修後の空中発射試験では、満星照準で弾着公誤15mと言う好成績を記録した。 昭和19年1月、仮称九九艦爆改は極めて有効との評価により、四式艦上爆撃機「聯星」として制式採 用された。 ~ 一撃必殺 ~ この海戦に参戦するため、第653海軍航空隊に急遽編入され、千代田より発艦した285号機は敵戦 闘機隊の奇襲を急降下で振り切ると燃料を高オクタン価の前縁タンクに切り換え、急上昇での再び高高 度を確保した。 合計離昇出力2600hpの「聯星」は噴進爆弾と発射管を合せた750kgを越える重量を抱えても なお「零戦爆」より軽快だ。 眼下は対空砲火による濃密な弾幕に覆われており敵戦闘機群の奇襲により攻撃隊形を組むこともできな かった味方攻撃隊は、ほとんどが投弾すらできない状況となり戦果と呼べるものは敵巡洋艦に与えた至 近弾のみであった。 幸運にも対空砲火網を飛び越えるように敵艦隊上空に到達した285号機は機を逃さず攻撃態勢に移っ た。ロールから急降下に入ると頭上に海面が一望できる体勢となる。遠く海面に点在する航跡から際立 って大きな艦影を認めこれを攻撃目標と定める。 敵艦との距離は急速に近づき照準器の中の艦影が見る間に大きくなる。3連装砲塔3基と中央の大きな 四角い煙突からダコタ級の戦艦と識別される。空母でないのは残念だが相手にとって不足はない。 目標が戦艦なので抵抗板を閉じ機速を上げる。噴進弾に最大の撃速を与えるためだ。 弾頭は二式50番通爆1型を搭載しているので100mmを越える甲鈑でも貫通可能だ。 照準線と発射管の射線は微調整により機軸に一致させてあるので、敵戦艦の進路と速力から算出した見 越し量をずらした位置が照準器の中心円に入るように機位を調整する。 敵戦艦もこちらの接近に気付き回避運動と猛烈な対空砲火を開始する。 付近で対空砲弾が炸裂するのを感じるが爆撃に支障は感じない。敵戦艦中央の四角い煙突を目標に回避 運動による見越し位置の変化を考慮して発射レバーを引くと、燃焼ガスが噴気孔から噴出する音と旋動 を開始する弾体が発射管内壁を擦る小刻みな振動に続き、渦巻く火炎と白い噴煙を引いた噴進爆弾が猛 然と突進を開始する。 噴進爆弾は瞬時に推進剤を燃やし尽くた後も、重力によりさらに速度を上げながら敵艦に迫って行く。 発射時の気速にロケットによる推力と重力による加速を加えた噴進爆弾の撃速は優に音速を超える。 噴進弾が安定した弾道で戦艦に向かうのを確認すると、直ぐに抵抗板を開いて機体を引き起こし敵戦艦 の上空を航過し左旋回で機首を西に向ける。 退避しながらも噴進爆弾の敵戦艦への突進を目で追い続けると、敵戦艦に吸い込まれるように噴進爆弾 を見失う。周辺には水柱も波紋も立たないので命中と確信する。 大きな変化はないが船足が落ちて航跡が描く円が僅かに崩れたように感じる。 対空砲火網を逃れ安全圏に達した頃、微かな熱波に後方を振り返ると紅蓮の炎と黒煙が絡み合った巨大 なきのこ雲と、木の葉のように舞い落ちる3連装砲塔が目に映った。 米軍よりコードネーム(Vivian:Hell-sniper)と呼ばれる「聯星」が放った最初の一撃であった。 三式60番噴進爆弾発射管2型の搭載状況
*)三式60番噴進爆弾発射管2型の搭載状況 ~ 作者コメント ~ 稚拙な文章でお恥ずかしい限りです。 四式艦上哨戒機「空海」に引き続き、零戦改造シリーズ第2弾として艦上爆撃機の構想に着手しました が直ぐに挫折してしまいました。 本家本元の艦上爆撃機「彗星」でも七面鳥扱いのマリアナ沖海戦では零戦改造艦爆が活躍できる余地な ど有ろう筈もありません。 さらにVT信管による対空砲火網の前では最新鋭の「流星」でも大差が無いこと考えると空対艦ミサイ ルでも持ち出さないことには一矢報いることも難しいと考えました。 しかしながら当時のテクノロジーで実用的な誘導兵器としての空対艦ミサイルと言うのも無理があるの で、戦艦の主砲弾をロケットで打ち込むという発想から三式60番噴進爆弾が生まれました。 次に「零戦22型」を双発機とした四式艦上砲撃機「聯星」に着手したのですが、合計750kgもの 重量から零戦改造機では現実感が伴わず「月光」や「屠龍」など双発機を艦載機とする検討の後、九九 艦爆改造機に落ち着きました。 結果として、楕円翼の双発艦上爆撃機の仕上がりには、かなり満足しています。 50番通常爆弾に関する資料は、ほとんど見つけられず寸法などデータの多くは25番通常爆弾や80 番徹甲爆弾を参考にした推定値となっております。 信憑性に関してはフィクションと言うことでご容赦願います。 この辺に関して、ご教授頂けると幸いです。