三菱/九州飛行機 J2M2-K 「雷練」

雷練


写真上:雷練の地上姿勢。352 空に配備された三機のうちの二号機。独特な風防の開閉構造がよくわかる。主脚カバーが外されていることにも注目。

写真下:飛行中の雷練、同じく 352 空の二号機。大型化した風防とその後方の整流バルジ、固定式に改造された尾輪など確認できる。

 三菱 J2M 局地戦闘機「雷電」は、その優れた上昇力と強力な火力によって帝都防空の一翼を担っていたが、零戦を初めとする他の海軍機とは極端に異なるその操縦特性による事故の多発が頭痛の種だった。わけても高い着速と前方視界不良による着陸の難しさは特筆もので、機種転換直後の搭乗員を殺しかねないし、そうでなくとも病院送りで戦力減少、さらには事故による機材損失も無視できない有様だった。
 海軍はこの事態を憂慮し…と言うより厚木302空小園司令らの強硬な要請により…とにかく、雷電の複座練習機型を開発することを決定し、A6M4-K「零練」などで実績のある九州飛行機に発注した。困ったのは九飛である。雷電の座席前方は貴重な燃料タンクであり、ここに副操縦席を配するとただでさえ短い滞空時間が激減してしまう。さりとて、雷電には後方に副操縦席を配する余裕もない。
 そこで窮余の策として、雷電の太い胴体を活かし並列複座とすることが決定した。「能フル限リ工数ヲ掛ケザルコト」との要求に基づき胴体には直接手を入れず、左右に風防を張り出すことで二人が横に並ぶスペースが確保された。並列座席はかつてドイツから参考輸入したメッサーシュミット Bf108 が参考にされたため、風防の外観や開閉構造がよく似ている。大型化した風防が発生する乱流を押さえるため、後部胴体には「取ってつけたような」バルジが追加されたが、それでも空気抵抗増大のため最大速度は 40Km/h 以上低下した。
 零練にならって主脚カバーは外され、尾輪も固定式に改造された。武装はすべて外され、無線電話も降ろされた(そのため本機にはアンテナ支柱がない)。しかしタンデム座席の零練と異なり、並列座席を採用した本機は複座化に伴う重心移動が少なかったため、胴体側面のヒレはない。
 並列座席の利点は多いが、いくら雷電の胴体が太いと言っても所詮は単座機である。計器板は二人分を確保する余裕がなく、単座用のものがそのまま用いられ、当然だが照準器・防弾ガラスも省略された。スロットルは旅客機のように並列座席の中央に配置され、二人が共用する仕組みであった。それでも二人が並んで座るとさすがに狭く、ほとんど肩を寄せ合うような格好になるため、口の悪い搭乗員から「おかま飛行機」という不名誉な渾名を頂戴することになった。
 しかしおかまと呼ばれようが不格好と呼ばれようが、本機が有効に働いたことは確かであり、練度不足による雷電の事故は大幅に減った。終戦までに二十機前後が J2M2 から改造され、各地の防空隊に二、三機づつ配備され機種転換訓練などに活用された。

 なお、本機に与えられた名称は J2M2-K という形番だけである。「雷練」という名称は非公式な九飛の社内呼称であったが、前線部隊では単に「練習機」と呼ばれたようだ。

全長:9.7m
全幅:10.8m

武装:なし

エンジン:三菱 MK4R-A 火星二三型 空冷14気筒 離昇出力 1,870hp

最大速度:547Km/h(6,000m)
乗員:二名