中島 17試艦上戦闘機「捷風改」11型(「捷風」22型、A7N3)

「捷風改」

全長:11.12m 全幅:12.45m 全高:3.41m 全備重量:4167kg
発動機:中島「輝」11(NK10A) 空冷複列星型18気筒 出力2080馬力
最大速度:662km/h(高度6000m)
航続距離:1600km
武装:20mm機関砲×4 爆弾500kg

[概要]
珊瑚海海戦後に急遽改訂された17試艦上戦闘機性能要求案に応じて開発された機体 である。当初設計されたA7N1「捷風」11型が性能不足だった為、改設計・・・とい うよりは新設計を行って制式となった。

[開発経過]
 当初、中島17試艦戦(A7N)は当時開発中の陸軍四式戦闘機の海軍型として計画され た。中島としては同時に同一性格の新型戦闘機を複数開発する余力がなかったから である。設計主任は四式戦と同じく小山技師であったが、実際には小山技師本人が 作業に携わる事はあまり無かったらしい。

 ただ、「紫電」でもそうだったように、そういう急造が、「捷風」の出足をつま づかせることになる。

 A7N1は海軍の仕様に合わせる設計変更により重量が増加したため、若干の翼面積 増加と発動機の変更(「誉」の出力向上型を採用)でこれに対処していた。性能は 「四式戦と同等であればそれでよし」と考えられていたが、それは関係者がどう言 い繕っても当時対抗試作中の川西を侮った考えであることは後に明らかとなる。

 基本設計が完成していた分試作機の飛行は早く、試験は順調に進んだ。試乗した 海軍関係者の評判もまずまずで、「捷風」の名称も決まり採用は確実と思われた。

 しかし、その楽観的な観測を覆したのは完成した川西17試であった。彼らの本命 案であった「熱風(A8K)」にはすべての面で劣り、さらに控え案であった「暴風(A7 K)」がそれらを上回る最高速を出したのである。双発故の高速、大搭載量、大航続 力、重武装と、非の打ち所が無い暴風は海軍に強い印象を与えた。双発機にしては 運動性も軽快だった「暴風」は「格闘戦に入らない限りA7Nより強い」とまで判定さ れ、「捷風」の運命は風前の灯と化したのである。

 九五式艦戦以来の「名門の復活」をかけていた中島首脳陣の期待は裏切られた。  プライドをいたく傷つけられた中島飛行機社長中島知久平はは実用化が見えた四 式戦からにA7Nへ社内資源をシフトする事と、四式戦を完全に捨ててA7Nを作り直す ことを決定。
 小山技師のもとA7N開発チームは面目を一新する事となった。

 小山技師の方針は「「熱風」以上の運動性能、「暴風」以上の高速と上昇性能」 を狙うという過酷なものだった。その為には「誉」でも出力不足が予想された為、 発動機部門では「A7Nの為だけに」新型発動機の開発を決定、2200馬力級大型発動機 「輝」を間に合わせた。

 この発動機はこれまで「誉」のスケールアップ版と言われていたが、実際はまったく 別のエンジンから発展したエンジンである。というのも、「誉」は最小2000馬力エ ンジンを目指すあまり、高回転すぎるきらいがあった。その結果、各パーツに大き な負担をかけ、『「誉」は整備が難しい』という評価を産んでしまったからである。

 かといって「誉」をいまさらトルク型のエンジンに戻すことも不可能だった。 「誉」のシリンダーはそのまま「栄」の流用だったからである。

 そこで、陸軍名ハ109の18気筒化によって、2200馬力への向上を成し遂げたのである。  その結果、稼働率や整備性も「誉」より格段の向上を見る事となっている。(性格上、 後にこの発動機は三菱MK9A(ハ−43)の対抗機種となった)

 機体設計は0からやり直され、一層の構造の強化が図られた。全面的に厚板構造 も導入されており、強度を維持しつつ重量を落とす事に成功している。空戦フラップ (蝶型ファウラーフラップ)は自動制御とされたが整備性の観点から当面手動制御とさ れている(後に信頼性の高い制御装置が開発され、自動化された)。

 これらの徹底した改修は思いの外長引き、その間に「暴風」が制式採用されA7N1 「捷風」は3機が海軍に領収されただけで終わった。

 A7N改がようやく試験飛行を開始したのは1944年の2月であった。既に川西17試 「暴風」は配備が始まり、前線の高い評価を受け、A7K2,A7K3,A7K2-S,A7K2-Dと いった進化型、派生型が艦上を一色に染めていた。戦闘機と攻撃機のマルチロール を果たした「暴風」によって、日本海軍は迎撃力が欲しいときには全機を迎撃に、 逆に制空権を奪った後は6割を攻撃力に、と空母戦力の柔軟な運用ができたためで ある。
 それぞれの用途における戦闘力は最大で今までの1.7倍にも達していた。

 日本海軍に、米英並みの造船能力があれば、「捷風」には出番はなかっただろう。 しかし、新規建艦計画はあったにもかかわらず、それを為し得ていないのが事実で あった。新規空母は飛鷹をはじめとする改装空母、軽空母が殆どだった。中島知久平 はそこに着目した。

 新造軽空母に搭載する艦戦として、もっともふさわしいと売り込んだのである。

 既に「暴風」の小型空母対応改修計画に手を着けていた海軍はA7N改にはさほど期 待していなかったと思われる。しかし追浜基地での試験飛行では低速性能と上昇力 でいずれも現用のA7K2どころか、A7K2の小型空母対応改修(A7K2a)の計画値より上回 る性能を示し、速度でもほぼ並んだ。

 慌てた川西もA8K熱風の出力向上型を送り込んだが、速力・上昇力でわずかに劣った のみで、A7Nの総合的優位は疑い様も無かった(もっとも、A7Kの増産がまず第一で あった川西に対してA8Kの極限チューンを要求するのは酷であろう。かりにA8Kが 制式になっていたにしても生産面での問題が出たことは明らかである)。

 高速旋回性能では紫電改を超える能力を見せ、続いて開始された横須賀空による 審査でも素晴らしい成績を示したA7N改はついに制式採用が決定、A7N3「捷風」二二 型(通称「捷風改」)として量産が開始された。

 「捷風改」は日本の単発レシプロ戦闘機の頂点を示す機体であり、その能力はア メリカのP-51D「マスタング」やドイツのFw-190系列に匹敵するものがあった。後に 開発される性能向上型「捷風改二」(「捷風」四三型。発動機を排気タービン付きの 「輝」43−ルに換装した高高度型)では最大速度712km/h(高度10000M)を記録してい る。また、「捷風改」を再び陸軍仕様に戻した機体は「疾風改」として陸軍にも採用 され、陸海軍の統一機種構想への先鞭を付ける事となった。

 低速性能において「暴風」系列よりも圧倒的に優れていた「捷風改」は、巴戦を 好む熟練パイロットに愛されたが、多用途能力では「暴風」に劣ったために、正規 空母の艦上に上がることはなかった。1944年後半から小型空母艦上航空隊には「捷 風改」が重点的に配備される事となった。「暴風」系列の機体の多くは後に設立さ れた統合航空軍に海軍陸攻隊と共に移管され、統合航空軍の主力侵攻戦闘機/戦闘 爆撃機となる。

 結果として海軍最後のレシプロ艦戦となった中島と川西の17試艦戦はジェット時代 になるとその運命の明暗を分けた。「捷風改」はジェットの実用化と共に順次退役し ていく事になるが、「暴風」はナセル内にジェットエンジンを搭載(A7K5)。驚異の双 発機として米英の注目を集めた。
 後退翼を採用した新艦戦が1949年に登場したことによって、戦闘機としての使用は なくなったが、それでも艦上軽攻撃機として1960年代前半まで現役に留まっている。  しかし、退役した「捷風改」はかなりの数が民間に払い下げられ、うち何機かは改造 されて現在でもエアレースで活躍している。レシプロ機の速度世界記録(直線3km路)で ある853.7km/hを保持している機体もそうした機体の一つ、「Mystic Wind X」である。

--------------------------------------------------------------
[付記・「捷風」各型概要]

・「捷風」11型(A7N1):原型機。基本的に陸軍の四式戦闘機の海軍仕様。一応制式採 用はされたが、3機が領収されただけで終わった。
最大速度:607km/h(高度6000m) 武装:20mm機関砲X2 12.7mm機銃X2
・「捷風」12型(A7N2):11型の発動機を「輝」に換装した試験機。1機が海軍に領収 され、主に発動機試験に使用された。
最大速度:625km/h(高度6000m) その他要目は11型とほぼ同じ
・「捷風」22型(A7N3):「捷風改」11型として制式採用。
・「捷風改」11型乙(A7N3-b):11型の武装を30mm砲X4に換装した機体。
・「捷風改」11型丙(A7N3-c):11型の武装を20mm砲X2とし、搭載能力を強化した爆 戦仕様。試作のみ。
・「捷風改」12型(A7N4):発動機を「輝」23(出力2130馬力)に換装した機体。11型に 続いて量産された。
最大速度:678km/h(高度6000m) そのた要目は11型とほぼ同じ
・「捷風改」32型(A7N6):12型を基本に翼面積の増加をはじめとする細かい改修を施 し、武装を30mm砲X4に強化した機体。
最大速度:660Km/h(高度6000m) 武装:30mm機関砲X4
・「捷風改」34型(A7N7):22型の発動機を「輝」33(出力2290馬力)に換装、細かい改 修を施した機体。艦戦型としては最後のものとなった。
最大速度:685km/h(高度7000m) その他要目は22型とほぼ同じ
・「捷風改」43型(A7N5-J):「捷風改二」として知られる高高度戦闘機。計画は「捷 風改」11型の頃からあり型番も先に振られていたが、実用化に手間取り実戦配備は3 4型とほぼ同時だった。発動機は排気タービン付きの「輝」43-ル(出力2360馬力)と なり、機体も大幅な改修を受けほぼ別物となっている。レシプロ戦闘機の極致と言 われたが少数の量産で終わった。
最大速度:712km/h(高度10000m) 武装:30mm機関砲X6
・「捷風改」45型(A7N8):34型を基本に、発動機を三菱「木星」ターボプロップに換 装した機体。計画のみに終わった。

--------------------------------------------------------------
 えーと、このストーリー、龍牙さんの原案に、私が若干の変更を加え、了解を 得たものを乗っけさせていただきました。やっぱり日本機はペラと燃料で劣る以上、 同じ出力のエンジンを搭載していてもだいたい50km/hほど米軍機よりも遅いはずだ、 というのが私の持論でして・・・。(50という数字も根拠が無いんですが)
 ま、絵については私のこれまでの集大成ですね。でかいエンジン、前進&上昇させた コクピットで絶大な視界を獲得、って、熱風と一緒だな。機体はなんとか中島風に なってくれたようで、一安心。
--------------------------------------------------------------