イブクーロ海軍仕様「特型」駆逐艦

画:海野土左衛門氏


画:海野土左衛門氏

基準排水量:公称1,500t
全長:118.0m
全幅:10.4m
吃水:3.1m
主機:三菱パーソンズ式オールギヤードタービン、2基2軸
主缶:ロ号艦本式水管缶3基
出力:39,000馬力
速力:34.5ノット(計画)
武装:11年式120mm45口径連装砲2基
   61cm3連装魚雷発射管2基
   40mm連装機銃1基
   7.7mm単装機銃2基
   81式爆雷投射機2基、水圧投下機4基
   単艦式大掃海具1基+予備2基
燃料:重油620t
航続距離:14ノットで6000浬

    

特型駆逐艦とセットでの提案によって
見事に旗艦巡洋艦受注を果たした三菱重工だったが(二番艦は川崎で建造された)
続いて特型のデリバリーを開始する段で関係各方面から有形無形の圧力がかかり
素のままの特型の提供が困難な状況に置かれてしまった

特型は日本海軍の最新鋭艦で革新的な艦艇であり
米国とも有効な関係を持つイブクーロ王国に提供するのは危険であるとの意見
凝った設計が災いして建造が進まず、王国への提供が遅れそうであるという事情
同様に、価格が極めて高いこと等が主たる原因である

イブクーロ王国側からは汎用性に優れていることが望ましいとの要望も出されており
それらを考慮した結果、多少性能の尖りすぎた特型を汎用外航艦艇としてリファインしたのが本級である

船体は特型のままだが、一部を直線化する等で、建造簡易化を行い
建造速度と取得コストの削減に努め
ボイラーを以前から研究されていた予熱装置付きにして数量を削減>4基を3基に
これは特型の後期仕様でも同じなのだが、コストを考え、出力を5万馬力から4万馬力弱に削減した
ただ、ボイラー、タービンともに、4万5千馬力程度までは搾り出せる余裕を与えてある
これは寿命が短く、保守整備にも手間のかかる高出力駆逐艦主機を
王国が十分に使いこなすことが出来ない恐れがあることと
15年程度と言われる主機寿命を20年以上に延ばすためである
これによって取得コストはあまり下がらないが、維持コストは大幅に削減されること
また代替艦艇の取得も先延ばしに出来ることもあって、総合的には大幅に安価になると試算された

主砲は、特型の127mm砲が大きく高価である事もあって120mm砲に変更されたが
この砲は高角砲として巡洋艦に装備した物と同じである
砲架そのものは、特型駆逐艦のそれと大差なく仰角75度の高角砲としての能力を持っている
127mm砲と違って、装填時に水平に降ろさなくて良いので、高角射撃能力は上回る
ただ、人力装填なのでそれほど射撃速度が高いわけではない

艦橋等は、長距離作戦行動に合致するように多少大型化され
当時各国で研究が進んでいた高角射撃指揮装置装備スペースも設けてある
高角砲を駆逐艦に備えるのは相当な勇み足であるとの意見もあったが
将来の兵器戦術の発展に追随できる能力を与える見地から高角砲の採用が決定した

軽量化とコスト削減の見地から主砲塔は2基に削減され
原型では第二砲塔のあった後部兵員室上部には40mm連装機銃を装備し
対空火器のみならず、不法行為取締り時の威嚇射撃や制止にも使う物とされた
また、この機銃は潜水艦を含む軽艦艇への打撃能力も期待されている

魚雷発射管は戦術的見地からも多数装備が望まれたが
魚雷威力が大きいこともあって2基に削減し
同時に予備魚雷は特型の9本から3本に削減
空いたスペースを居住関係と燃料タンクに回した
(つまり船内の居住区画を上に出してそこを燃料タンクにまわした)

三菱重工では、これらの簡易化で180tの重量を削減
基準排水量は1500tになったとしているが、実際には1600tを超えている
ただ、コスト削減に留意した事もあって、取得コストは特型よりも低い

本来1800t級の小型軽巡洋艦とも言える特型駆逐艦から更に武装を削減した事で
軽巡洋艦をはるかに凌ぐ良好な外洋性を確保することに成功し
水雷襲撃を除けば、ベースとなった特型よりも有用であり
汎用外航艦としては成功したものと思われる

武装削減の結果、余裕の生まれた艦上スペースを活用して
陸戦要員等の便乗者や訓練生用に大きな居住空間を備え
設備支援の少ない僻地にも駐留できるように、定員数から見て多めの搭載艇を備えている
これらは応急的な高速兵員輸送艦としての運用を念頭に置いたもので
内外の不穏分子に対応しての兵力の緊急展開に応える能力を持っている
当然だが、これらの装備は災害時の民間人救助等にも大きく役立つ物である

また、爆雷以外に機雷運用能力も付与されており
同時に掃海設備も同規模駆逐艦よりも有力である
これらは旧式駆逐艦の用法として既に確立していた物だが
新鋭駆逐艦にその機能を与えた事は注目される
尚、機雷庫は兵員輸送任務等では運搬物倉庫に転用される
有力な搭載艇群は機雷戦時にも各種支援等に転用される事とされている



☆:はいっ、毎度おなじみの倉田佐祐理ですーっ(ぺこり)
★:えっと、始めまして、突っ込み担当の天野美汐です・・・(ぺこり)

S:今回は特型ベースの駆逐艦ですな
★:船体そのままで、軽量化も無いと思いますけどね
S:特型の重量配分を見てみると
  船体600t、機関800t、武装250tって感じだ
  他に様々な装備が合計200tぐらい入るから、公称はともかく、実質1850tなんだな
☆:公称1680tにするのも酷いですけど
  それを1500tにしちゃって良いのですかーっ?
S:何処の国でも1割程度のサバは読んでるぜ
  英国や米国なんか特に計画値から大幅に超過してるのが目に付くよね
  駆逐艦みたいに小さい船だと、こんなの良くあることなんだ

★:公称1500tに収めには武装の削減と出力低下ですね
S:まずは出力から見てみよう、4万超可能な機関規模にしてある
  そうだな、後の初春型駆逐艦の主機に近いと思ってくれると判り易い
  これに特型後期と同レベルのボイラーを装備した
★:ボイラーは5万馬力でも可能ですね
S:わざと定格を落して使うのは寿命と信頼性を上げるためだ
  駆逐艦の場合、機関と船体では機関の寿命のほうがずっと短い
  この時期、米国で平甲板型の一部がボイラー寿命が尽きて大量廃棄されたんだ>50隻以上
☆:粗製濫造の結果と言われていますねーっ
S:これは弱小海軍では極めて深刻な問題だと思うよ
  整備も補充も新規建造もままならないわけだから
  多少の性能よりも信頼性が欲しくなる
★:イブクーロ王国は予算に余裕があるのでは?
S:余裕があるからといって無闇に浪費してよいわけではないだろ
  それに、維持に手間と予算がかかると言う事は稼働率も悪いという事だよ
  これは何処の国でも歓迎はしたくない事態だ
  つまり安心してカタログ性能を発揮できるという事は大事な事なんだ
★:どっかの国みたいに機関故障頻発で出撃できないとか
  外洋で戦艦に付いていけない駆逐艦とか・・・
☆:うっわー、天野さんドイツ艦嫌いですか?
★:いえ、何処の国とは言いませんよ
  2ノットしか違わない筈の高速戦艦に置き去りにされる戦艦ってのも存在しましたね
☆:英国艦も嫌いなんですねーっ
★:そういえばフレッチャー級駆逐艦って・・・
  カタログで3ノット以上遅い初春型に外洋で振り切られた実績が有るそうですね
☆:米国艦も嫌いなんですね(;_;)
★:そういうわけでは有りません
  単に、カタログ数値なんて整備状態次第では大きく落ちるものだと
  今上げた例の半分ぐらいはカタログ値自体が鯖読みしすぎですが
  残りの半分は整備不良です、高出力機関の馬力を維持するのは大変だったのです
  見かけの馬力を落としても実用性能に振り向けるという考え方は理解できます
☆:でもでも、機関重量はあまり減りませんよーっ
★:概算で150t取れるかどうかですね・・・
S:3連装の魚雷発射管が、まあ30tぐらい
  主砲は砲身だけ違うから、13tぐらい軽くなるよ
☆:えっと・・・200t弱の低下ですねーっ
S:上部構造物が多少増えるのと、汎用装備が特型よりも充実するから
  まあ、大体、150tマイナス程度だ
  公称1680tだから、ほら、約1500tになる
★:・・・本当の排水量は?
S:たぶん1700tぐらいです・・・
★:公試排水量は?
S:たぶん2,300tぐらいです
★:特型とあまり変わらないんですけど?
S:だってさ、燃料増やしちゃったんだもん
☆:燃料を増やしたのは航続距離ですねーっ?
S:航続距離って言ってもね、色んな意味が有るんだ
  例えば14ノットで6000浬ってのは、28ノットで1500浬って事でも有る
  この両者は燃料消費量では同じだけど、時間が全然違うでしょ
☆:えっと、14ノットだと428時間、18日ですね
  これが、28ノットだと53時間半、2日ちょっとになりますーっ
S:船団護衛とかだと7ノットとかになるでしょ
☆:24000浬、3428時間、142日、4ヶ月以上ですーっ
S:外洋航行の船団護衛とか通商破壊活動とか
  それに対するハンターキラーグループで2ヶ月近いステイをする例も珍しくない
★:駆逐艦では出来ないって言う一つの理由ですね
S:そ、だからタンクをでかくしただけでは意味は無いんだ
  それによって増えた航続能力を何に使うのか、それが重要だし
  長時間の外洋行動になった場合、居住性の問題が重要になってくる
☆:船団護衛だと気を抜けないですから、緊張状態が長期間続きますよねーっ
  でも、普通の駆逐艦では出来ないんですか?
S:日米英の連中なら我慢するよ、実際にやってのけたしね
  ただ、未熟な連中は軍艦に乗るだけでも消耗するし、あっちは暑いだろう?
  通風性の良い上部構造物に居住区画を移設することと容積拡大は必要だと思う
☆:熱帯仕様ですかーっ
S:冷房は入っていないけどね
  走っていれば風は入ってくるわけだから、通気性を確保すれば問題は無い
★:船内ではなくて上部構造物にしたのは
  通気性の確保と暴露面積の増加による風の取り込みを狙ったんですね
☆:船内では駄目なんですか?
S:軍艦だからね、ダメージ受けたときのことを考えてごらん
★:良好な通風通気性は、火災や浸水の広がりに繋がりますね
S:つまり、上部構造物でしか行えないんだ、こっちは船体防御とは無関係だからね
  そして、その為の場所は、元々大きな船体に発射管削減で稼ぎ出す

★:特型ベースであって、新型駆逐艦にしなかったのは何故です?
S:それはね、大型駆逐艦は一番コストパフォーマンスが良いからなんだ
  これより小さくすると急速に戦闘能力が低下する
  もしくは、外洋行動能力が低下するっていうか無くなる
★:その目安が船殻600tですか?
☆:もっとちいさくしたら・・・?
S:船殻重量は肋材の類と外板、それに隔壁だね
  話を簡単にするためにティッシュの箱で考えてみよう
  表面積=箱の重さだよね
☆:外側の紙の重さはそうなりますねーっ
S:じゃあ、この箱を縦横高さ、それぞれ倍に積み上げて考えてみよう
  容積は8倍になるけど、表面積は?
★:4倍です
S:つまり重さは4倍だな
  実際の船でもこれに近い
  勿論、内部の隔壁や肋材は増えるわけだから、ここまで極端には変わらないんだけど
  所謂、2乗3乗の法則って奴だ
☆:小型化しても、重量削減効果はあまり得られないんですねーっ
S:容積=浮力だから
  武器も燃料も機関も全て、この容積以上には「入らない」
  そして、使わなかった容積は「予備浮力」になる、凌波性に繋がるわけだ
  勿論、これも設計で誤魔化す方法はあるよ
  でも、それらは、元からある余裕を有効活用するための小細工に過ぎない
☆:最初のパイを増やしてしまうほうがお得ですねーっ
S:駆逐艦規模だと600tの船殻は、1,200tの装備重量に使える計算になる
  つまり2倍の余力を持つわけだ
  これが500t級になると、2乗3乗から見て、1,000tを切る事になる、倍使えない
★:つまり、600t級だと1,800t、500t級だと1,400tの艦になるんですね
S:別の言い方をするなら、400t軽い艦でも船体は100tしか変わらないんだ
  そして、ここで削減した船殻100tはサイズ、浮力、強度の不足として大きく響いてくる
☆:やれることの制限が大きくなるわけですねーっ
S:今回みたいな汎用多用途駆逐艦だとこれはかなり困ったことになる
  そこで、装備の削減で耐えて、船体サイズは大きいままにしたんだ
  これは将来の装備にも対応できるので寿命も伸びることになる
  条約では駆逐艦の寿命っていうか代艦建造権を定めているけど、別に律儀に守る事も無い
  使えるならなるべく長持ちさせたいわけだからね

★:そういえば高角砲装備ですね
S:この時期のトレンドだよ
  駆逐艦の主砲を高角砲にするのは、世界中で流行ったんだ
  まだ、飛行機の能力は判っていなかったけど、撃てるなら撃てないより良いって奴だな
★:高角照準装置も無いのですけどね
S:英国や米国で両用方位盤が完成したのは1939年ぐらいだよん
  それなりの対応能力を持つもので1935年ぐらいだね
  日本でも実は大差ない
  結局1930年代半ば以降にならないとマトモな汎用GFCSは登場しないんだ
☆:ただ、開発してるのは周知の事実なので、場所を確保しておくと
S:これは現代の海軍艦艇でも良く見られることだよね
  一応、標準的な測距儀等は装備しているけど、これは対水上用だ
★:魚雷を減らして大丈夫なんですか?
S:艦隊決戦用じゃないから問題なんだ
  決戦だったら多数の駆逐艦投入で個艦搭載数は補えるんだけど
  汎用外航艦となると自前で処理しなくちゃならない事態も多いと思うので不安だね
  まあ、駆逐艦としては火力が大きいし(駆逐艦の砲撃が当たるのかというのは有るけど)
  減らしたとは言え、元が強力すぎた訳で
  61cm6門あれば、戦艦を含む全てに対応する能力を持っていると思う
☆:うっわー、苦しい言い訳ですーっ(^^;;
S:ちなみに急速次発装填装置は持っていないぞ
  もうじき完成するかなって時期だけど、それを輸出してくれる可能性は少ないだろう
★:雷撃能力はかなり落したと見てよいですね
S:速度の低下も含めて、水雷戦機能を思い切り落した
  艦隊決戦しないんだから、我慢できると思うよ
  それに、どうせ練度が低くて艦隊運動だってろくに出来ないだろう
  そういった事が出来るようになるには時間がかかる、つまり訓練が必要だ
  この艦は優れた居住性と特型譲りの操舵応答性を持っているから
  前の巡洋艦と同様に、戦闘以外の日常業務と訓練には向いていると思う
★:日常業務ですか?
S:軍艦の平時って何をしているかな?
☆:えっと・・・訓練ですーっ
S:うん、それと・・・
  各種の取り締まりや海難救助、それと国益の保護だ
  つまり国境警備の哨戒活動と海賊行為の取り締まりも行うんだよ
  これらには極端な戦闘能力は要らない、欲しいのは頭数と外洋行動能力だ
★:警備艦艇の類ですね
S:そして、それを駆逐艦級に要求することも良くあることなんだ
  現代の小型フリゲートやコルベットなんかもそういった意味合いが強いよね
★:汎用小型外洋戦闘艦艇ですか・・・
☆:確かに、一番便利な艦艇ですねーっ
S:勿論、そういった艦艇をより小さい物にすることもあるよ
  だけど王国海軍の場合、現時点でそういった任務に適した艦艇は極めて少ないだろう
  領海の広さから見て大変な問題だ、となると長期的には警備用艦艇の充実で対応するとしても
  短期的には、保有艦艇全てにそういった実用機能を要望せざるを得ないだろう
★:艦艇の性能や機能は、内外の事情によっても変化するのですね

☆:そいえば魚雷は何を装備しているのですか?
S:8年式2号とかだろうな
  90式はまだだろうし、当然だけど93式なんか姿も形も無い時代だからね
★:そういった新型魚雷の装備は有るのですか?
S:日本と同盟でも組めば90式は出してくれるかもしれないよ、条件次第だな
☆:酸素魚雷は無いのですか?
S:まず無理だし、入手できても関係各装置の全面的な刷新が必要だ
  発射管改造、空気圧縮機の強化、酸素発生装置の搭載、指揮関連設備の全面的交換ぐらいかな
  当然だけど人員の再訓練も大変だよ
  すぐには実戦レベルに到達しないんだ、魚雷の変更って言うのは簡単ではないんだよ
  それに8年式2号は決して悪い魚雷ではない、かなり強力だ、充分じゃないかな