海洋型砲艦 松島

自航砲、だよ
画:天城氏



 要求仕様を前に、若い設計技師は頭を抱えていた。

M:お茶入りました〜
H:お、おう、ありがとな。(いきなり脱力)
S:なにを見ているのですか?
H:見てくれよ、この要求仕様を
S:…いわゆるモニター艦ですね
H:さすが歩く資料館、だな

 (本当にいたら便利でいいですね)

M:もにたーかん? ってなんですか?
S:由来は米国の南北戦争に遡りますが、簡単に言えば船体に不釣合いな程の
  大口径砲を搭載した艦だと思っておけば遠からずです。
M:なるほどー、そうなんですか。
H:ホントにえらく簡単に言ったな。
S:これがどうかしましたか?
H:なんかいきなりオレに設計をまとめるように言われたんだけどさ
S:…大抜擢ですね
M:凄いです。おめでとうございます!
H:みんな主力艦の方で忙しくて、わけわかんないのをこっちにまわしただけだろ?
M:そんなことないですよ。
S:採用されれば実績ができます。
H:…イロモノの実績つくってもなあ

 実績になったのかどうかは別として、揚陸艦神州丸が建造される時に
 声をかけられたりしたのは、また後のことである。

H:しっかしなー、わざわざ新しいフネを造らなくても、それこそ戦艦でも使えばいいじゃん。
M:戦艦を、ですか?
S:…そうですね。合理的だと思います。
  海軍が一応主力艦である戦艦を補助的な支援任務に投入したがるかどうかは別として、
  完成当時から失敗作といわれ、使い道の無さそうな扶桑型でも
  36センチ砲12門は対地支援には充分強力な火力であり、有効だと推測されます。
H:おいおい…、
M:…
H:って、これ陸軍の発令じゃん!
S:気付いていなかったのですか?
H:…確かに陸軍じゃ、火力支援に戦艦貸してくれとは言い難いかもな。
S:仲悪いですからね。
M:みんな仲良くしたいですよね。
H:…
S:どうかしましたか?
H:…いや、いいけど。考え方としては自走砲ならぬ自航砲か。
  小型のフネにでっかいの1門だけとかでもおもしろいと思うんだけどな。
M:この、「現在、陸用砲台となっている40cm連装砲塔」っていうのはなんですか?
S:本来、正式な記述があってしかるべきだと思うのですが、無いようですね。
  時期から考えて八八艦隊用に造っていたものだと思われます。
H:そーいや、そんな話を聞いたことがあるな。
S:しかしこの時期、40cm砲搭載艦など造ってよいものでしょうか?
H:さあ? そーゆーことは上の人が考えるだろ。
  オレは一介の技術屋だし、自分の仕事するだけだな。
S:そういう人が、いずれ原爆など作るのでしょうね…
H:ぐあっ、遠い目をしてとんでもないこと言うな!
M:原爆、作るんですか?
H:作らん、作らん。つーか、普通知らんだろ、そんなもん。
M:…
H:むーん、いや、陸軍の発注だから海軍艦艇扱いじゃないってことで…、
M:そういうものなんですか。
H:ごほっ、いや…
S:…そういえば、他国では駆逐艦や巡洋艦に分類されているような数千tの戦闘艦を
  護衛艦と言い張っていてる国もあるそうですし、そのうち、空母にしか見えない艦を
  航空機搭載護衛艦などと言い張るのではないかと推測される昨今、
  これくらいは大した問題ではないのかもしれませんね。
H:だからそーゆー不穏な発言は…、
M:え?
S:設計するのと実際に建造するのは別ですし、来年の会議がどうなるかわかりませんから、
  私達は、今できることをしておくべきしょう。
M:今できることをしておく…。そ、そうですね。
H:先刻と言ってること違わないか?
S:そうです。我々は我々にできる範囲で最善を尽くしましょう。
M:はいっ!
H:聞いてねぇし… つーか、2人の世界だし…
  まあ、確かに来年の軍縮会議が決裂する可能性もあるわけだが…

S:それでどんなものを考えているのですか?
H:まあ、いくつか、っても、
  40cm連装砲塔搭載の海洋型ってあたりで、だいたい決まっちゃうけどな。

第1案(お手軽型)
排水量7,000t、全長100m、全幅27m
レシプロ機関2基2軸 速力10kt
四五口径40cm連装砲×1基
三年式四五口径12cm砲×2

H:海洋型なんで、それなりの航洋性を得るために極端な低乾舷は却下だな。
S:そうですね。駆逐艦並にはしたいところですね。
H:うん。機関はディーゼルとかも考えたんだが、手頃な大出力のが見つかんなかった。
S:情報求ム、と。
H:主砲の後ろに三脚檣をもうけて指揮系統の施設を配置、
  その後ろに煙突があって、後部はカッターとか置いて、
  あとは何も無くて寂しそうだから12センチ砲とか機銃とか…
S:三脚檣は戦艦などでも一般的に使われていますね。
  備砲は場所が余ったからですか…
H:地上への火力支援が目的で、対艦戦闘とか考えてないから装甲は薄い。
  主砲も軽量化の為に装甲削るし。そのかわりといっちゃなんだが、
  船体のほぼ全域にバルジを付けて、内部に水密鋼管を充填してみたりする。
S:対魚雷防御ですか。戦艦の改装にも使われる手法ですね。
H:まあ、こっちは安定悪そうだからという理由もあるけどな。
  こんな感じかな。どうだ?
M:私、口はさめませんでした…
S:…面白味が無いですね。
H:どうしろっちゅーんじゃ!

S:お手軽に過ぎませんか?
H:陸軍さん向けの支援艦だしな…
M:差別したらかわいそうです。
H:いや、そういうわけじゃないが、安く速く造れるのも大切なことなんだぞ。
S:高くなりそうな凝ったものも考えたのですか?
H:うーん、まあ…

第2案(戦艦造れない鬱憤晴らし型)
排水量9,000t、全長120m、全幅28m
機関:缶本式衝動タービン2基
ロ号艦本式重油専焼缶2個
10,000馬力 速力:12kt
40cm連装砲塔×1
三年式四五口径12cm砲×2
十年式四五口径8cm高角砲×2

H:こっちは防御もそれなりに、だな。
  砲塔の装甲ももとのままだし、甲板75mm、舷側200mmくらい。
  機関は千鳥型水雷艇に予定してるやつと概ね同じものだな、ちょっと出力低いけど。
  高そうでいいだろ?
M:いいんですか?
S:凝ったものを欲する人もいますから。
H:あとは艦首舵を付ける。
S:運動性の改善ですか。
H:それから着弾観測用に水上機を1機搭載とかも考えたんだが、これは無茶っぽいかな。
S:当然クレーンも必要になりますが…
H:そう、主砲が前部に1基のみだから、後部にそのあたりの設備を持っていけばこう…
S:あくまで考えてみただけですね。
H:…まあ、そうだけどな。あと、考えてみただけというなら、こんなのもあるぞ。

第3案(いっそ主力艦の補助戦力型)
全長150m、全幅30m、排水量13,000t
ロ号艦本式重油専焼缶4個
缶本式衝動タービン4基
20,000馬力、速力:16.5kt
40cm連装砲塔×2
十年式四五口径8cm高角砲×4

H:全長150mで、主砲、2基のるかな?
S:サイズ的には可能だと思います。
  使い物になるかどうかは別ですが。
H:爆風とか反動とか、凄いことになりそうだしな。
S:それは斉射をしなければさほど問題にならないと思われますが、
  それ以前に、これを戦艦ではないと言い張るのですか?
H:…却下、だな。

S:それで結局、どうするのですか?
H:やっぱり無難に第1案かな。
S:ネタ的には着弾観測機搭載案や第3案が面白いですね。
H:だからどうしろと…
M:うう、すみません浩之さん。
H:ど、どうした?
M:私、途中から会話に加わることもできてません。
S:良いのです。まるちさんは戦いの道具のことなどわからなくても。
M:でも、全然お役に立てなくて…
S:そんなことはありません。
H:そうだぞ。オレ的には居るだけでもおっけーだ。
S:…それに、汚れ役は私一人で充分ですから。
H:おい、せりお、人聞きの悪いこと言うなよ!


 こうした白熱した議論が交わされ(?)、実際に建造される艦の詳細は決定される。
 その結果、3隻の砲艦が建造されることとなる。新造された艦の名は松島、厳島、橋立という。



昭和三景艦 本来は、制海権を得た状況での火力支援を目的に投入されるべきものであったが、 激しさを増す実戦では悠長なことも言っていられず、しばしば敵勢力下への突入を敢行している。 おかげで損傷も多く、度重なる修理、改修で別物のようになっていくのであるが、 その低速性からお荷物扱いされながらも、使用実績は良好だったという。 戦艦を投入するにはもったいないような局面に惜しげもなく投入されたこともあり、 出し惜しみから活躍の機会が無かった戦艦群を尻目に、意外な活躍をしていたりする。 この3艦は便宜上松島型とも言われるが、実際は同型艦とは言い難い。 主砲塔1基、三脚檣、船体ほぼ全域に及ぶバルジという外見的特長を持ち、 基本構造はほぼ同じであるとういこともあるが、どちらかというと 昭和の三景艦という方が馴染みがある為、3艦を1セットで考えることが多かった為だろう。 松島(新造時) 基準排水量:6,192t 全長   :105.5m 全幅   :28.32m 機関   :レシプロ機関2基2軸 速力   :10.5kt 航続力  :8ノットで3,000浬 兵装   :40cm45口径 連装1基       12cm45口径 単装2基       40mm機銃  連装2基             単装2基 防御   :舷側75mm       甲板25mm 基本的な考え方は自航砲(自力で航行可能な砲)であり第1案に準じている。 開戦初頭から、当初の予定通り南方攻略戦に3隻そろって投入され、期待された成果を上げた。 その後しばらくは個別に船団護衛などに従事していたが、この時期に潜水艦の攻撃により 魚雷1本が命中するも、自力で帰還、修理、改修を受けている。 その後も各地への支援任務に従事し、損傷、修理を繰り返す。 呉で空襲により大破着底。 厳島(新造時) 基準排水量:6,724t 全長   :108.5m 全幅   :28.92m 兵装   :40cm45口径 連装1基       12cm45口径 単装高角砲4基       40mm機銃  連装4基             単装4基 防御   :舷側100mm       甲板50mm 防御力、対空兵装を向上させている。 3艦に共通することではあるが、開戦時には改装によってかなり雰囲気が変わっていた。 三脚檣は塔型(という程大きなものではないが)に改められ、艦首舵を付けるなどの他、 防御力及び対空兵装の強化が主なものだ。 厳島の場合、対空対空兵装は12.7cm連装高角砲4基、25mm機銃3連装4基、単装8基、 甲板は75mmに強化されていた。 主に南方での輸送、支援任務をこなしていたこの艦は、シンガポールで潜水艦による魚雷を受け、 フィリピンで敵駆逐艦とニアミス、味方の巡洋艦以下の艦隊が駆け付けたおかげで難を逃れ、 マニラで支援任務からの帰途に航空機の攻撃により沈没した。 一度捕まってしまえば、低速のこの艦に逃れる術は無かった。 橋立(新造時) 基準排水量:7,965t 全長   :128.8m 全幅   :30.12m 防御   :舷側150mm       甲板75mm 兵装   :40cm45口径 連装1基       12cm45口径 単装4基        8cm45口径 単装高角砲4基       40mm機銃  連装2基             単装4基 他の2艦よりひとまわり大きく、特に防御力が強化されたこの艦は、ミニ戦艦といった雰囲気がある。 新造時より艦首舵を装備していたのも特徴で、これは大きく、重くなったことに対する処置だろう。 ソロモン方面に投入され、待ち受ける敵艦隊と遭遇、重巡以下の中小艦艇にタコ殴りにされる。 40cm砲を搭載しているとはいえ、動かない固定目標、しかもどちらかというと面制圧射撃を 目的とした射撃指揮設備では高速で動き回る艦艇に当たるものではなく、 補助兵器である12cm砲や機銃で、肉薄してきた駆逐艦に損傷を与えるのがやっとだった。 それでも、3隻のうちで最も防御力の高いこの艦は頑強に浮き続けていたため、 最後は駆逐艦の魚雷によりトドメをさされた。
というわけで、初投稿です。BLACK WINGと申します。 Bwとか略すとフォッケウルフのバッタもんみたいでちょっといいかもしれません。 さて、勝手に三景艦とかいってますが、厳島、橋立は他の艦で使われているようで (ひょっとしたら見当たらなかっただけで松島もあるのかも) 橋立は随分あとだからこっちの方が先と言い張れるけど、 厳島(敷設艦)は1929年に竣工してるから先に取られてるよな… 松島の名が候補に上がったことで厳島、橋立は取っておいたってことで駄目ですかね。 他の名前の候補としては勿来、初瀬、八島とか考えてましたが… しかし、まんまというか、我ながら面白味の無いネタですね。 で、いつのまにか1隻ずつ強化されていって同型艦ではなくなってますが ビスマルクとテルピッツも2000tくらい違ったというし、いいか。(比率が違うって) んで、うーん、ぶっちゃけた話、こんな寸胴な艦の資料が見つかんなくて 出力と船体サイズ(縦横比ね)と速度の関係がわかりません。 松島の要目にはこんなのがあったんですが… 機関   :直立型往復動蒸気機関(3気筒3段膨張式)×2基、2軸 ボイラー :宮原缶 石炭焚×8〜12基 燃料   :石炭500t 出力   :7,500馬力 これが妥当かどうかがわからんという…、やれやれです。