1.ハインケル兄弟の反骨・多目的戦闘爆撃機への懐疑
1930年代初頭に、世界的に万能戦闘機思想が流行した.
それは、軽爆撃機を中心に低翼単葉が採用されはじめ、
いまだ複葉だった戦闘機よりも早いものが生まれたことも
あって、各国空軍関係者は、一時夢中になったものだ.
今回のドイツ空軍の要求仕様にも、その名残がみてとれる.
しかし、爆撃と偵察を兼用するだけならともかく、そこに
急降下爆撃までが要求されるとなると、事はまったく
違う展開をみせてくる.
先ず主翼の強度が別格になる.さらに急降下時の縦安定性
も考慮しなければならない.そしてダイブ・ブレーキ・・・
2.ハインケル兄弟の「営業」
今回の要求仕様以前から、ハインケルはHe-119という
双子エンジンを搭載した高速軽爆撃機の開発を行っており、
それは試作6号機まで開発が進んでいたが、エンジンの
熱対策が解決しないままであった.
兄が理想を追い求める技術者(あるいは夢想家)とすれば、
弟は冷徹なビジネスマンである.
どんなに理不尽な要求であろうと、空軍技術局長が
ウーデットであるかぎり、急降下性能が不充分であれば
他がどんなに優れていても採用はされない・と考えたのだ.
He-119そのものは、実用化は非常に難しいものだが、
空軍技術局内にこの飛行機のファンもいることであり、
思いきって「V7」として、まったく違う機体を持ちこんで、
ハインケル伝説にキズがつかないような効果を狙うことになった.
3.基本コンセプト
He-119V7の真のねらいは高速軽爆撃機/偵察機である.
しかし、急降下に耐えるため、主翼主桁は非常に頑丈に
ならざるを得ない.
主翼は、内翼を左右一体構造とし、外翼は上反角をつける.
爆装は、主翼下に8個、胴体下に1個のパイロンを設置、
ここに各種装備を懸架する.
エンジンは、1938当時入手できるDB601Aで我慢せざるを
得ないのが残念だ.
4.モックアップ審査
まず、異様に幅の狭い胴体が、審査官たちを唖然とさせた.
だが、「何事も速度ねらいです.Bf-109よりはましだと思いますが」
また、主翼は中翼配置のため、操縦席のま正面に主桁が
位置し、そこに簡素なパネルが貼られ、計器類が配置されている.
これも「機動性能向上には、何より軽量化がポイントです」
審査官A「でも、計画諸元では、大して軽くないね?」
ハインケル弟「それは、急降下時の縦安定のため、尾部を長くしている
からです.急降下が不要なら、2mは短くなり、150kg軽量化
できるでしょう」
審査官B「ところで、He-119と書いてあるけど、以前の双子エンジン
の機体とは全然違うね.一体、どんな関係があるの?」
ハインケル弟「理想としては、今でも双子エンジンがBESTだと
考えます.しかし、理想とは、高根に咲くエーデルワイスのようなもの.
それはそれとして、今回は、その哲学を継承し、ぐっと現実的に
まとめてみたのです」
5.数ヶ月後、試験飛行を終えて
ウエンデル飛行士「・・・なんと言えばいいか・・・まず、離陸だけど、
滑走距離が長すぎるように思える.それに、垂直面旋廻の舵のきき
がのろく、とても戦闘機とはいえない.それに、肝腎の速度だけど、
どう頑張っても560kmちょっとだし、これではBf-110とどう違うのか
判然としないんだが」
ハインケル弟「Bf-110には急降下爆撃はできないはずです.
同様に、Bf-109戦闘機にも.そこが最大のちがいではありませんか.
聞くところによれば、Ju-88の急降下爆撃機型も実用には相当時間
がかかりそうだとのこと.現時点で、爆弾1トンを積み、急降下爆撃が
できるのは本機しか無いのです」
ハインケル兄「エンジンが1050馬力のDB601Aですから、この程度
の性能ですが、本機が実用化される2-3年後には、おそらく1600-
2000馬力級のエンジンが実用化されていることでしょう.
仮に1600馬力2基を装備すれば、最高速640kmは充分可能ですし、
離陸ももっと容易でしょう.そうなれば、機体重量5.5トン、総重量9.5
トン程度になり、哨戒・爆撃・偵察・長距離進攻・機雷敷設まで、
あらゆる任務をこなすことができる.大きな燃料タンクに気づかれた
方もいらっしゃると思いますが、本機は、大出力エンジン搭載を
前提として基本設計されているのです」
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