合衆国実験艦『トライデント』

U.S.Navy experiment gunship TRIDENT



 トライデント (日本側資料)

形式    三胴船
艦種    外洋砲艦

基準排水量:1,500t
全長   :97.5m
 本体長 :95.8m
 補助艇長:25m
全幅   :32.8m
 本体幅 :9.4m
 補助艇幅:2.8m
機関出力 :13,500馬力
最大速力 :20kt
航続距離 :12ktで3,000浬
兵装   :48口径 18インチ砲×1
       (左右旋回30度、弾数(通常)6発)
      38口径 5インチ連装両用砲×2


 大雑把な3面図と要目。手元にある資料はそれだけだった。 H:だからこれでどうしろと… K:よう、藤田君。 C:こんにちわ。 S:こんにちわ。 H:あれ、耕一さん? 千鶴さんも? 車輌屋さんがどうしたんですか? C:近くまで寄ったものですから。 K:これ、おみやげに翠屋のアップルパイ買ってきたから。 S:ありがとうございます。ではアップルティーでも入れましょうか? H:お、いいな。 C:あ、じゃあ、私も手伝いますね。 S:いえ、それには及びません。お客様ですから、何もしないで下さい。 C:そ、そう? K:…(ナイスだ) H:…(ナイスだ) K:で、何やってたんだ? H:何って、仕事ですよ。海の向こうの艦艇の研究です。 C:アメリカの? S:はい。 K:何か面白そうなのはあるかい? H:ああ、これなんかどうです? K:なんだこりゃ? H:合衆国実験艦『トライデント』。 C:トライデント? S:海神ポセイドンが持つという三叉の矛の名ですね。   トライは3という意味ですから、三胴形式にかけてあるのでしょう。 K:三胴形式? C:双胴船というのは聞いたことありますけど。 H:三胴船というのはちょっと珍しいでしょ。 S:そうですね。ただ、三胴形式といっても、中央の船体がメインとなり、   両側の船体は安定性を得る為の補助的なもののようです。 H:実際、船体というには小さいし。 S:飛行艇の補助フロートのようなものだと考えた方がよいのかもしれませんね。 H:べつにシュナイダー・トロフィーが盛り上がってた影響ってわけじゃないぞ。 K:? C:? H:ちなみにこれ、旧式駆逐艦の再利用計画から出てきたもので…、 K:いや、そんなことより、このでっかい砲は? H:主砲はなんと18インチ! K:18インチというと… H:45.7センチ砲。 K:…漢のフネだな。 H:ええ。 C:…(男の子って…) S:…(そういうものです) K:何か? C:いえ… S:現時点では、艦砲としてはおそらく最大ですね。 H:18インチの48口径というと、砲身だけで… S:およそ22mです。 H:100m足らずのフネに20m以上の砲か…。 K:ムチャするなー。 H:ムチャというか、もはやバカっぽい… S:ちょうど、しばらく前に試作された砲がありましたので、   それを利用したものと思われます。 H:主砲も再利用ってことだな。 S:艦種を外洋砲艦としていますが、やはり前回に対抗してなのでしょうか? H:かもな。 C:前回? H:この間、日本で海洋型砲艦を建造したから(第12回競作)、その対抗としてなのかなと。 K:ああ、あれか。 C:そうなんですか? S:あれは陸軍の発令でしたが。 K:そう、俺も話聞いてるよ。 S:18インチ砲を採用したのには、40センチ連装砲塔はさすがに無理ですので、   1門だけでもより大きい砲を、という意味もあったと推測されます。 K:18インチ砲は無理じゃないのかな? H:かなり無茶だと思う…。砲塔形式は無理で、砲を剥き出しのままだし。 C:対抗したかったんですね。 H:砲艦っていっても別に対艦戦を目的としたわけじゃないだろうし、   戦艦みたいにでかい砲にすりゃいいってもんでもないとは思うが… S:見栄ですね。 C:見栄ですか? S:対外的、政治的に、優位の部分があるというところをアピールしたかったのか、   あるいは造船所がそれをウリにしたかった、ということも考えられます。 C:はあ、深いんですね。 S:しかし本当のところは、面白そうだからというのが一番大きいのかもしれません。 H:ありそうだな。 K:おいおい…。 H:他の部分も見てみようか。副砲は新式の5インチ砲を載せてるんだよな。 K:しかも連装を2基か。これだけで下手な駆逐艦並みだな。 S:38口径5インチ両用砲。以降に建造される多くの艦艇への搭載が見込まれています。 C:他にはないんですか? 魚雷とか。 H:無いみたいッスね。初期装備は全廃したみたいだな。 S:装備の種類が多すぎるのは、煩雑であまり好ましくありませんが… H:むしろ最初に余分なものを全部取っ払ったって感じだな。 K:そういえば、平甲板型って4本煙突じゃなかったっけ? H:出力もあれだし、缶も半減してるみたいッスよ。 S:半減したのは、単にスペースが足りなかったからだと推測されます。   艦橋と煙突2本を取り払って、ようやく主砲を載せられたのでしょう。 H:載せただけって感じもするが。 C:…後ろの方が余裕があるように見えるんですけど、   なんで無理して大砲を前にしたんでしょうね? S:煙突の位置が問題になったのだと思われます。   上甲板がかなり高い位置になりますから、排煙が直にかかることになります。 C:ああ、なるほど。 K:後ろを向かなきゃ目標を撃てないというのも嫌だしな。 H:あー、旋回角度が限定されてるから… S:左右へ30度となっていますが、本当にそれすら可能かどうかも疑問です。 C:あ、左右あわせて30度なのかも…、なんて。 H:…ありえる。 S:…妥当かもしれません。 K:…そうなのか? S:正直申しまして、このような大雑把な図が1枚だけでは判断しかねます。 C:でもこれ、なんか前が重そうですね。 K:うーん、それは… S:…重いでしょうね。 H:まあ、その為の3胴形式というのもあるんだろうけど…。 S:主砲弾数は通常6発となっていますが、 H:リボルバーキャノンかい! C:? なんですか? H:…いえ、なんでもないです。 K:…使い物になるのかな? 戦車だって6発ってことはないぜ。 S:実験艦ですから、実戦力は期待されていないのでしょう。   あくまで主目的は、情報の収集、蓄積だと思われます。 H:まあ、使えるなら使うかもしれないけど。 S:揚弾、装填機構等は艦橋の下だと推測されます。 H:というよりその上に艦橋をのっけただけというべきかな。 K:ひょっとして、上の小さい部分だけが本来の駆逐艦の艦橋なのか。 S:下の部分は単なる覆いでしかない可能性もあります。 K:…凄い造りだな。 S:元が駆逐艦ですから、防御力は皆無だと推測されます。 H:そうだろうな。 K:自走砲みたいなもんか。 H:…なるほど。 K:しかし、なんでこんなけったいなモノ造ったのかね。 S:一つには、駆逐艦の船体に大口径砲を搭載する為の手段として、ということが   当然あると思われますが、他にもこの形式の利点として考えられる点はあります。 K:どんな? S:細長く、抵抗の少ない船体で高い安定性を保てるという点があります。   全幅に比して機関出力を低く抑えることができ、なおかつこのクラスとしては   非常に高い航洋性を持ち、艦上の装備も格段に充実させることが可能です。 C:あ、凄いんですね。 K:…18インチ砲1門に5インチ連装砲2基だからな。 S:一方で、接岸や港湾施設、ドックの利用、洋上での給油、   回頭性、回頭時の船体の捻じれや軋み、強度問題等々、   すぐに思い付くだけでも、山程不安材料があります。 H:だよなあ…。さすがに全幅は、パナマ運河を通れるサイズに抑えたみたいだけど。 C:あら…、やっぱり駄目なんですか? S:理屈では成り立つ可能性はあると思いますが、実際に建造して運用してみないと、   どんな問題が起こるか特定するのは困難でしょう。   そういう意味では、実験艦としての意味はあるものと推測されます。 H:ただ、実用性にはかなり疑問がある、と。 S:しかし、ここまでくると、すでに駆逐艦の改装案とは言えないのではないでしょうか。 H:まあ旧式駆逐艦の再利用ではあるし、将来の小艦艇開発のための研究、   というテーマからも外れてはいない。と、言えなくもない。 S:そうですね。役に立つかどうかは別として。 H:実際によくこんなの造ったよなとは思うけど。 S:旧式駆逐艦の再利用、しかも将来の研究の為という名目があってこそでしょうね。 H:失敗しても改装費用は海軍持ちだしな。 S:改装費用は常識的な範囲にとどめることとありましたが、大丈夫なのでしょうか? H:さあ? 実際造っちゃってるしなあ…。これのせいで潰れたりしたら笑えるかも。   取り敢えずどんな結果が出るか、楽しみではあるな。 S:データが公表されるかどうかは、わかりませんよ。 H:それも含めてね。 S:…はい。
 この艦により、合衆国は三胴船の貴重な情報が収集できたと言っているが、 その情報は公開されていない。  ちなみに、さすがにこの大きさに18インチ砲は無理があったようで、 後に12インチ砲(アラスカ用)に換装されている。 合衆国の発表では、戦闘での損傷による修理、改修だとされているが、 日本側でそれに該当する記録はなく、様々な憶測を呼んだ。 「ああっ! 18インチ砲を試射してみたらっ!」 「なんだ、どうした!?」 「とんでもないことにっ!」 「だからどうなったんだ!?」 といった会話が交わされたとか交わされないとか、まことしやかに噂されたが 真偽のほどは定かでない。