| 大正12年8月、ワシントン軍縮条約が発効した。これにより列強各国は主力艦である戦艦、 巡洋戦艦、航空母艦の建造を中止したが、フランス、イタリアの反対のために巡洋艦、駆逐艦等 の補助艦の保有量規制はなされなかった。 この結果、各国は量的制限のない巡洋艦以下の艦の建造に熱中し、かえって建艦コンクールを 激化させる事となる。この情況をふまえ軍縮を徹底させるため、昭和5年、今度は巡洋艦以下の 保有制限を目的としてロンドン軍縮会議が開かれた。日本と共に条約型重巡洋艦の建造に熱心で あったアメリカにとり、続々と姿をあらわす日本の「妙高」級、「高雄」級重巡洋艦、そして「 吹雪」級(特型)駆逐艦は脅威であったし(特に大戦中に作りすぎた旧式駆逐艦を抱えているア メリカにとって日本の特型は脅威であったようで、ロンドン条約の駆逐艦規定は明らかに特型を 意識したものである。)、第一次世界大戦の痛手から立ち直れていないイギリスには建艦コンク ールに付き合うだけの財政的ゆとりはなかったのである。 この制限によって日本の重巡洋艦は建造中の「高雄」級4隻で保有数の上限に達し、残る建造 枠は軽巡洋艦のみとなった。(重巡洋艦の保有数は排水量で対米比6割、隻数で対米比6割7分 となった。)この劣勢を補うべく計画されたのが次の各軽巡洋艦である。 昭和5年7月・日本海軍発令 艦種:軽巡洋艦 基準排水量:10,000t以下 備砲:6.1インチ以下 用途:水上砲戦、雷撃、索敵、水雷戦隊指揮、潜水戦隊指揮等 要求事項: 1.ロンドン条約で認められた軽巡洋艦保有枠の残り、艦齢到達および条約で認められた特例 事項による代艦建造枠、計50,955tで軽巡洋艦を建造する。艦型、隻数は不問とする。 2.昭和10年末までに当計画による最終艦が起工可能なこと。 昭和6年、満州事変が勃発。さらに世界恐慌のあおりを受けて国内は不況の真っ只中。こうし たなかで次第にアメリカとの対立を深めていった日本では、対米戦に関する危機感が高まり、海 軍では軍縮制限下における新しい対米戦略の確立が必要とされていた。 この時代、海軍の主力はあくまで戦艦であるといった意見が根強かったものの、戦艦の保有数 は6割に抑えられており戦艦主砲以外の手段で敵戦艦を如何に撃沈するかが戦略の要になった。 こうして魚雷戦の重視と、運搬手段としての水雷戦隊、航空戦隊の整備が推し進められ、この戦 略下で計画されたのが本稿の主役である「鈴谷」級、「筑摩」級である。 「鈴谷」級は昭和6年度の第1次艦隊補充計画(@計画)、「筑摩」級は昭和8年度の第2次 艦隊補充計画(A計画)によって建造された。 次に示した各艦の姿は、対米戦開戦後(昭和17年時)のものである。 |

| 要目(「鈴谷」、昭和17年時) 基準排水量:7,730t 満載排水量:9,880t 全長:178m 全幅:16m 喫水:5.9m 主機:艦本式ロ号重油専焼罐 6基 艦本式高中低圧蒸気タービン 4基 4軸 出力:100,000HP 最高速度:35.0kt 航続距離:18kt 8,000浬 兵装:15.5サンチ60口径連装砲3基 6門 12.7サンチ40口径連装高角砲4基 8門 25ミリ三連装機銃14基 42挺 61サンチ五連装魚雷発射管3基 15門 Y型爆雷投射機 1基 爆雷投下台 2基 搭載機:水偵2機 射出機:1基 同型艦:「鈴谷」、「熊野」、「最上」、「三隅」 |
| 「鈴谷」級は水雷戦隊旗艦用軽巡洋艦として計画されたものである。 日露戦争後の艦隊整備計画、いわゆる八八艦隊計画では、水雷戦隊は、駆逐艦4隻+先導巡洋 艦1隻で1個駆逐隊、4個駆逐隊+旗艦用巡洋艦1隻で1個水雷戦隊とするというものであった が、これが12〜16隻の駆逐艦+旗艦用巡洋艦1隻で1個水雷戦隊とするものに改められた。 また駆逐艦もそれまでの「神風」級、「睦月」級といった1,200トンクラスのものから「 吹雪」級(特型)等の1,700トンクラスの大型のものが主役となり、運動性も格段に向上し たため元来先導巡洋艦として設計された5,500トン級では能力不足が明らかになった。 こうして新世代の水雷戦隊旗艦として計画されたのが「鈴谷」級である。 ・・・・・兵 装・・・・・ 主砲は新たに設計された3年式60口径15.5サンチ砲で、−10度から+75度まで射撃 が可能な連装砲塔に収められている。半自動装填機構の採用によって毎分8発の射撃を可能にし た、(事実上は)大型両用砲である。 高角砲は計画時点で最新の40口径89式12.7サンチ高角砲が採用されている。 魚雷発射管は計画時、次発装填装置付きの四連装発射管2基を予定していたが、五連装発射管 3基に変更された。五連装発射管の採用は日本の巡洋艦としては初めてのものである。当初、次 発装填装置付きの四連装発射が試作されたものの、演習によって一度の海戦で二度の雷撃チャン スに恵まれる事は殆どありえないとの結果が出されたため、次発装填を可能とするより一度の発 射数を多くするという方針が取られたためである。一時期、酸素魚雷の開発に成功したことによ って、長距離から第一撃を発射するという案も出されたものの、30,000メートル以上での 雷撃成功率がほとんど零に等しかった事からこの計画は実施されることはなかった。 (片舷15線という雷装は、重雷装艦「大井」、「北上」が誕生するまで世界最高であった。) 機銃は竣工時、25ミリ連装4基、13ミリ連装2基であったが順次交換、増設されてこの時 点では25ミリ三連装14基になっている。その後さらに25ミリ単装機銃も増設されて最終状 態では50挺近くになっていたようである。 ・・・・・船 体・・・・・ 「鈴谷」級は水雷戦隊旗艦用として計画されたため、駆逐艦と共に行動できるだけの凌波性、 耐波性、機動性が要求された。このため船長比10.87という駆逐艦並みの細長い船体を採用 し、日本の巡洋艦の特徴である艦首のフレアも「古鷹」、「妙高」といった重巡洋艦よりさらに 大型なものとなった。 排水量7,700tという大きさは、水雷戦隊旗艦としては大きすぎるとの指摘があったもの の、実際の運用面での不都合は生じなかった。このあたりの事情は、「吹雪」級が計画段階では 運動性に疑問をもたれていたことと似ているかもしれない。 また船体に対して電気溶接を全面的に採用している。これによって船体外板が平滑となり抵抗 が小さくて済み、重ね代を必要としないためにリベットによる接続と比べて重量が軽くすむ。こ れは海軍艦艇としては初めての試みであり、ドイツが装甲艦(ポケット戦艦)「ドイッチュラン ト」級に採用した事から、テストケースとして陸軍の外洋砲艦に採用され、その後本級から本格 採用されたものである。 防御面では、標準的な対15.5センチ防御となっている。また「夕張」以降の巡洋艦では防 御甲板、舷側装甲鈑が船体強度材の一部として設計されているので実際には対15.5センチ砲 弾よりも強固に防御されている。 ・・・・・機 関・・・・・ 本級は駆逐艦と同等以上の速力が要求されたため、改吹雪級(暁級)の機関を2組搭載する事 で4機6缶で100,000馬力、最高速度35ノットを達成している。 航続距離も5,500トン級の14ノット、5,000浬から18ノット、8,000浬と大 幅に強化されている。 ・・・・・その他・・・・・ 搭載機も5,500トン級の1機から2機になっており、最初から水上機の搭載を前提に設計 されたために水偵甲板には余裕があり、後に機銃のかっこうの増設場所となった。 |

| 要目(「鈴谷」、昭和17年時) 基準排水量:9,950t 満載排水量:13,660t 全長:197m 全幅:18m 喫水:6.1m 主機:艦本式ロ号重油専焼罐 8基 艦本式高中低圧蒸気タービン 4基 4軸 出力:150,000HP 最高速度:36.0kt 航続距離:18kt 10,000浬 兵装:15.5サンチ60口径連装砲6基 12門 12.7サンチ40口径連装高角砲4基 8門 25ミリ三連装機銃16基 48挺 61サンチ三連装魚雷発射管4基 12門 搭載機:水偵4機 射出機:2基 同型艦:「筑摩」、「利根」 |
| 「筑摩」級は重巡洋艦の不足を補うために条約の上限である10,000t級の軽巡洋艦とし て計画されたものである。 「天龍」級に始まる日本の軽巡洋艦は、水雷戦隊の中核として運用する事を前提に魚雷戦を重 視した設計であった。これに対し「筑摩」級は重巡洋艦の不足を補うべく砲撃戦を重視した設計 になっている。また航続距離、搭載機数はこれまでの巡洋艦の中で最大であり、偵察巡洋艦とし ての能力にも重点がおかれているのがわかる。 砲撃戦能力について「高雄」級重巡洋艦と比較した場合、「高雄」級の20.3サンチ砲は1 0門で発射速度は毎分4発、1発の弾丸重量は125キロであるので、総重量は最大で毎分5, 000キロ。これに対して「筑摩」級の場合、15.5サンチ砲12門で毎分8発、1発あたり 55キロであるので、総重量は最大で毎分5,280キロとなる。1発あたりの威力こそ劣るも のの総重量では同等であり、最大射程もほぼ同等。また「高雄」級は砲弾の散布界が広がるとい う問題を解決できていなかったために、命中率は「筑摩」級の方が格段に優れていた。 総合性能で比較した場合、「筑摩」級は重巡洋艦に勝るとも劣らない能力を持っていたと言え る。 ・・・・・兵 装・・・・・ 主砲は3年式60口径15.5サンチ砲で、−5度から+75度まで射撃が可能な連装砲塔に 収められている。これは「鈴谷」級と同じ物である。当初は三連装砲4基という案も出されてい たものの、重量の問題で旋回速度が下がり、発射速度も毎分5発程度になってしまうため両用砲 としては能力が不足すると考えられた結果、連装砲塔が採用された。主砲を「鈴谷」級と同様の ものにして開発経費を抑えたいという考えもあった様である。 高角砲は計画時点で最新の40口径89式12.7サンチ高角砲が採用されている。これも「 鈴谷」級と同じである。後に65口径98式10サンチ高角砲に換装することも計画されたが、 これは実現しなかった。 魚雷発射管は、三連装発射管4基を備えている。建造中に九三式酸素魚雷を運用できるものに 改正されたが、次発装填装置は装備しなかった。これは細身の船体を採用したために艦内容積が 不足し、その結果上甲板にも居住区画を設ける事となったため次発装填装置を設置するスペース が無かったのある。 機銃は竣工時、25ミリ連装4基、13ミリ連装4基であったが順次交換、増設されてこの時 点では25ミリ三連装16基になっている。その後さらに25ミリ単装、三連装機銃が増設され た結果、最終状態では80挺近くになっている。 ・・・・・船 体・・・・・ 「筑摩」級は偵察巡洋艦としての能力も重視されたため、設計初期には最高速力37ノットと いう巡洋艦としては最高ランクの速力を要求された。機関重量の制限から最高速力は36ノット に下げられたものの、この要求のため船長比10.72という比較的細長い船体とされた。(標 準的な条約型重巡洋艦の場合この値は10前後となる。) シアとフレアの大きな船体は「古鷹」以降の日本の巡洋艦の特徴であったが、「筑摩」級は設 計時から魚雷発射管を上甲板に装備したため「古鷹」のように微妙に波を打った船体ではなく比 較的シンプルなラインの甲板になっている。 防御面では、標準的な対15.5センチ防御となっているものの、主砲塔の数が多いためにヴ ァイタルパートはそれまでの巡洋艦に比較すると長くなった。 ・・・・・機 関・・・・・ 36ノット、18ノットで10,000浬という速力と航続距離の要求を満たすため、ボイラ ーは「鈴谷」級の300℃、22s/p2から、より高温高圧の350℃、30s/p2の条件の ものになり、4機8缶で150,000馬力となった。 ・・・・・その他・・・・・ 搭載機は「高雄」級の3機から4機に増えている。艦橋も必要十分な大きさでまとめられたた め、「高雄」級の初期のように復元力に問題をきたす事は無かった。 対米戦開戦後、両用砲を採用した本級は防空能力を評価されて機動部隊の中核をになう事とな った。 |

| 要目(計画時) 基準排水量:5,350t 満載排水量:6,980t 全長:162.15m 全幅:14.2m 喫水:5.0m 主機:艦本式ロ号重油専焼罐 12基 艦本式高低圧蒸気タービン 4基 4軸 出力:90,000HP 最高速度:34.0kt 航続距離:14kt 5,000浬 兵装:14サンチ50口径単装砲4基 4門 12.7サンチ40口径連装高角砲2基 4門 25ミリ三連装機銃12基 36挺 搭載機:水偵5機 射出機:1基 同型艦:「球磨」、「多摩」 |
| 駆逐艦の大型化、水雷戦隊の編成の変更、そして「鈴谷」級の建造(「鈴谷」級の建造は「天 龍」級、「球磨」級の代艦枠である)によって「球磨」級を初めとする5,500トン型は水雷 戦隊の中核から外れる事となったが、艦齢から言ってもまだ廃艦にするには惜しいため、改装に よって新たな任務につく事となった。改装案としては重雷装艦案、潜水戦隊旗艦案、防空巡洋艦 案等があったが、この中で「球磨」、「多摩」の二艦は潜水戦隊旗艦用に改装された。 改装のポイントは偵察能力の強化をはかる事であった。これは潜水戦隊の前方に水偵を多数発 進させて索敵し、自隊の潜水艦を誘導させるといった運用法が考えられていたためである。 同様に他の艦も重雷装艦、防空巡洋艦に改装された。このあたりの事情は5,500トン型の タイプシップであったイギリスのC級巡洋艦が防空巡洋艦に改装された事とよく似ている。 重雷装艦に改装された「大井」、「北上」については皆さんよくご存知だと思います。 防空巡洋艦改装案については若宮のホームページに5,600トン型の改装として展示してあ ります。船体は同じ物を使用していますので比較するには良いんではないでしょうか? 若宮のホームページ:“SHIPS OF ANOTHER IMPERIAL JAPANESE NAVY” ・・・・・製作者の能書・・・・・ 久々の投稿になりました。若宮隼です。 ここのところ研究室のほうが忙しくて、ついでにサークルのホームページを丸々1個と友人の ページの1コーナーを作ることになってしまったので前回の競作は出品できなかったのですが、 今回は研究室のパソコンで無理やり描いてみました。競作は2度目、通算で6作目になります。 今回のお題はなかなか難しくってあれやこれや考えたのですが、結局どちらかというと無難な ところでまとまったかなと思います。実史みたいに名目上8,500トンにして6隻とか言う事 も考えたのですが、ちょっとあくどいかなと思って没にしました。ほんとに8,500トンで作 ると投稿第1作目の「阿賀野」と同じようになってしまいそうでしたし・・・。 そんな訳で、7,730トンが4隻と9,950トンが2隻で合計50,820トン、残り1 35トンという事になります。 レーダーと機銃をたくさん描いてしまったので昭和17年の状態っていうことにしてあります が、基本的な兵装は竣工時と変わっていません。 要求項目を検討すると、雷撃、水雷戦隊指揮を「鈴谷」級に、水上砲戦、索敵を「筑摩」級に ということで潜水戦隊指揮に用いる艦が無くなってしまったので、おまけで5,500トン型の 改装案も付けて見ました。(やっぱりちょっとあくどいですね・・・。) あくまで、付録ですので審査の時は無視して頂いてもかまいません。こういう展開もありえた かなっていう私の暴走ですので・・・。 もう少し解説を付け加えますと、「鈴谷」級は「阿賀野」級の拡大改良型というイメージで作 りました。水雷戦隊旗艦として考えた場合、防空能力が低めな事以外は非常に良くまとまってい ると思うのでその辺を中心に強化してみました。次発装填装置の有効性については私自身が疑問 に思っていたことでもありますし(九三式ですと最大射程の40,000メートルの場合、雷速 36ノットで約36分かかります。30分以上先の未来位置に発射して、はたして無誘導の魚雷 が当たるものなのか? また、一度の海戦で雷撃チャンスが二度も訪れる事があるのか? とい ったところです)、出典があやふやなのですが「阿賀野」級改良型の計画では次発装填装置無し の五連装発射管を装備するというような事を読んだので、こんな感じにしてみました。船体のサ イズ的に魚雷発射管の中心線配置はちょっと厳しいのですが、かろうじて可能かなと思われる数 値にしてあります(たぶん・・・)。 「筑摩」級についてはウースター級軽巡をイメージして描いてみました。(といっても主砲配 置だけですけど。)実際にこの配置で建造したら、10,000トンで収まるかはちょっと微妙 なところですね。正確にはわかりませんが、連装6基と三連装5基で重量的にはほとんど変わら ないと思います。実史では「最上」級や「利根」級に相当する艦ですが、これらより防空戦を意 識した設計にしました。この方が実際には役に立ちそうですし、もともと「最上」級は防空艦と して設計されたという説もありますしね。でもって、20.3サンチ砲に換装することを最初か ら考えないのであれば、この15.5サンチ砲は連装砲塔で開発された可能性もあると思ったり もしたので、こんな感じでまとめてみました。「蒼龍」原案には15.5サンチ連装砲塔も搭載 されていたので、ありえない話ではないと思います。(決して部品を使いまわすために三連装を やめたわけではありません。) あと、「最上」級が存在しなかったらブルックリン級やクリーブランド級、それにサウザンプ トン級はどんな姿になったんでしょう?皆さんどう思います? 解説はこんなところにしておきます。よくよく見ると部品の流用がばればれなのですが、工期 短縮のためにブロック工法を多用してますのでそのあたりは大目に見てください。 さて、如何だったでしょうか。ずいぶん長々と書きましたがこの辺で失礼します。最後までお 付き合いいただいてありがとうございました。 2001.9.23 若宮 隼 |