立川/満州 キ77-II司令部偵察機
フラップを最大下げ位置にして着陸体勢に入ったキ77-II(長距離形態)。延長翼端部分に操縦翼面がないため、この形態でのロール操縦性はかなり鈍いものになったが、急激な操舵が大きな高度の損失につながる高高度飛行時には、かえってオーバーコントロールを防ぐ結果になったという。
(開発経緯)
陸軍航空本部から新型司偵の要求仕様が内示されたとき、立川飛行機ではすでに2機種の偵察機を開発中であった。キ70とキ74である。
このうち、航続距離8、000〜10、000kmで高高度隠密偵察を主任務とするキ74は別格の機体であったが、キ70は新型司偵と同じくキ46の後継機として開発されてきたものであったため、当初、立川のスタッフは、キ70を今回の要求仕様に合わせて改設計する案を陸軍に提案した。しかし航空本部は、開発が相当進んでいたことを理由に、同機をそのまま完成させるよう指示した。とはいえ、ロッキード製輸送機のライセンス生産や改造実験機の製作、そしてA-26/キ77長距離記録機及びキ74の開発を通して蓄積されていた立川の長距離機に関するノウハウを活用しないテはないとも考えた航空本部は、新型司偵については別途開発にとりかかるよう指示したのである。
とはいえ、立川の開発能力は既存の計画でほとんど手一杯になっていたから、さすがの航空本部も、無理を言った手前、この開発計画に対して何らかの援助をしないわけにはいかなかった。そこでまず、朝日新聞社の計画に相乗りして開発させていたA-26/キ77長距離記録機の開発作業は、同機が実戦機たりえないものであり、設計面でもキ77の原型のようなものになってしまっていたことからこれを中止することとし、開発ラインを確保した。さらに、実質的な陸軍の国策会社である満州飛行機の技術者を立川に出向させ、人的側面からのテコ入れも行った。当然のことながら、満州側スタッフが「これは共同開発である」と主張したため、本機の製造者名は「立川/満州」と表記されることになったが、ともかく、情報秘匿の意味も含めて「キ77-II」の名を与えられた新型司偵の開発がスタートしたのである。
バンクして旋回中のキ77-II(高速形態)。燃料タンクとなる前後桁間のボックス構造が主翼全幅にわたっているため、偵察機としては強度に余裕のある本機は、高速形態では意外な運動性を発揮し、強行偵察における迎撃の回避にも有効だったといわれる。
(機体設計)
機体の基本設計にあたってまず問題となったのは「速度性能と航続距離の両立」だったが、これについてスタッフが下した結論は「あきらめる」であった。もちろんこれでは採用にならないので、「高速偵察と長距離偵察で機体形態を組み替える」という手法がとられることになった…確かに、仕様書には「要求速度と航続距離を『同時に』満たせ」とは書いてなかったから、この答えは不正解ではない…その結果、長距離偵察形態においては、高速飛行用の翼端に代えて増槽を装着した延長翼端を装着するシステムを採用することとしたのである。こうすれば、燃料容量ばかりでなく、 翼面積とアスペクト比をも増大させられるため、空力的にも高高度巡航性能が向上するという理屈である。
当初は、増槽を落下式とすることや迎撃を受けた際に高速偵察形態になって逃げるための切離し式翼端の採用も検討されたが、切離し機構が確実に作動しないとかえって危険であることや、翼端部と主翼本体を結ぶ翼桁延長部及び配管の結合機構をカバーする必要から、結合部下面に固定増槽を配した延長翼端部が採用された。
キ77-IIの売りである交換式翼端のイメージ。翼面積よりもむしろアスペクト比が大きく増すことに注意。しかし、せっかくの新機軸も、量産型では燃料系統のワンタッチ接続部に必要な柔軟性と耐久性のあるゴムパッキンが不足したため、形態変更作業は避けられたという。
この延長翼端部と高速形態時の翼端カバーとの交換作業については、「作業員3人で30分以内」を目標に接続部の徹底したワンタッチ化が行われた結果、モックアップを使った実験でも高い作業性を示し、この方式の実用性に疑問を呈していた陸軍担当者を納得させることに成功した。これに気を良くしたスタッフは、あえて要求仕様を逸れて防御武装を放棄することにした。これで重量の軽減と空力洗練度の向上がなされれば、「高速形態ではあらゆる迎撃機の追尾を振り切り、長距離形態では大アスペクト比を生かした高高度性能ゆえにそもそも迎撃不可能」という特徴をより追究できると考えたのである。こんな逸脱が許されたのも、航空本部との強いコネを持つ満州側スタッフのおかげである。
交換式の翼端を採用したことで得られた「拡張性」の概念は他の部分にも及んだ。まず、将来的に想定される排気タービン過給器の増設を容易にするため、P-38にならった双胴形式が採用された。そして、双胴形式としては例外的に、乗員ナセルに前脚を設ける前輪式をとらずに尾輪式として、乗員ナセルの構造的負担を減らしたため、ナセル下面に大型窓を含む機材コンパートメントの開口部を設けることができ、任務に応じた迅速な装備交換を可能とした。
機体の全体形においては前面投影面積の極小化が徹底され、乗員ナセルの小型化はもちろん、ハ45エンジンを包むカウリングもギリギリの小直径のものとされた。一方、大型のスピナーを採用したために発動機本体への冷却空気の流入が不足するおそれがあったため、内翼前縁いっぱいに滑油冷却器を埋め込み、最小の前面投影面積での最大の冷却効果を狙った。なお、滑油冷却管の一部は乗員区画内に導入され、暖房に使用されている。
高高度巡航中のキ77-II(長距離形態)を後下方から撮影。乗員ナセル下面の大型窓がよくわかる。この部分にある機材コンパートメントには、カメラのほか、気象観測装置、電探用機器類、増槽等の搭載が可能であった。
〜諸元〜
(
赤字
は長距離形態)
翼幅
16.80m
25.01m
全長(ピトー管除く)
15.30m
全高(水平姿勢)
3.54m
翼面積
38.56m
2
45.29m
2
アスペクト比
7.32
13.81
運用自重
5253kg
5428kg
最大離陸重量
7847kg
9261kg
発動機 ハ45-21
2000hp×2
最高速度
687km/h@ 6000m
610km/h@11000m
航続距離(最大)
3200km
5100km