フィアット ICR 試作水上戦闘偵察機

諸元
全長 : 10.48m(本体9.68m)
全幅 : 10.98m
全高 : 2.98m
翼面積 : 34u
自重 : 1,600kg
全備重量 : 2,500kg
発動機 : イスパノスイザ12Ycrs
液冷V型12気筒、離昇出力775hp(860hp/4,000m)
(ライセンス生産)
最高速度 : 320km/h
航続距離 : 1,200km
武装 : 20mm機関砲(プロペラ軸内モーターカノン)
7.7mm機銃×2(機首上面)
7.7mm機銃×1(後方旋回)
50kg爆弾×2
乗員 : 2名
フィアット社の試作した水上戦闘偵察機。
一葉半、鋼管骨組み羽布張りで、機体そのものに格段凝ったところはない。
あえて特徴をあげるならば、当時の発動機としては小型軽量大出力であるイスパノスイザ12Ycrsのライセンスを取得し、これをプロペラ軸内モーターカノンとともに装備していることである。
航空技官N:えぇと、イスパノスイザの発動機って、ライセンス取得できるの?
伊仏って仮想敵国じゃないのかな?
航空技官Y:太平洋を挟んだ仮想敵国同士の海軍だって、軍用機の売買を行ってるだろ。
仮想敵国であること自体に問題はない。
航空技官N:政治情勢や、経済状態は?
航空技官Y:イソッタ・フラスキーニK14って言う空冷発動機なんだけどね、
これが要するにノーム・ローンK14のライセンス版なんだ。
このK14を競作の時期にライセンス購入してる。
ほかにもアルファ・ロメオがブリストル・ペガサスのライセンスを購入してる。
イスパノスイザ12Ycrsのライセンス購入だって問題ないと思うぞ。
航空技官N:でもでも、12Ycrsって、当時の最新発動機でしょ。
最新技術の売却って慎重になるんじゃない?
航空技官Y:イスパノスイザって、ライセンス売却はおおらかなんだ。
34年に12Yのライセンスをソ連に売っているし、
問題の12Ycrsもチェコやユーゴに売っているぞ。
ユーゴのイカルスIK-2なんて、34年末には12Ycrsを搭載して初飛行してるしね。
日本にも12Ycrsを搭載したドボアチンD510が35年に売却されてるし。
航空技官N:えと、それじゃあ、イタリアが33〜34年に12Ycrsのライセンス購入をすることには
問題がないんだね。
航空技官Y:たぶんね(をひ)
フィアット試作ICRはフロート取り付け部のすぐ外側から主翼を折り畳みできるようになっている。重巡トレント級、ザラ級の狭い格納庫に収納するためには、主翼の折り畳み機構は必須の装備であるためである。
航空技官Y:しかし、主翼折り畳み機構を廃止して、機体構造を簡略/軽量化しちゃ駄目なのかね。
露天係止なら、主翼を折り畳まなくても問題ないと思うんだが。
航空技官N:七隻の重巡のうち、トレント級2隻、ザラ級4隻に搭載できなくなるのって、問題じゃない?
要求仕様を満たせなくなっちゃうんじゃないかな。
航空技官Y:トレント級、ザラ級って、要するに艦前甲板に固定カタパルトを装備していて、
前甲板下に狭い格納庫があるんだ。だから主翼を折り畳まないと格納できないんだ。
正確には搭載できなくなるんではなくて、格納できなくなるだけだな。
トレント級なんて、搭載定数3機のうち、1機は艦首甲板に露天係止だしね。
航空技官N:艦首に露天係止なの?それって艦首射界の邪魔なんじゃない?
航空技官Y:どうせ射撃時は水偵なんて射出するじゃないか。
でも、この前甲板水偵搭載は問題が大きかったみたいだね。
水偵の運用は面倒だし、艦首のカタパルト/格納庫は艦首方向の
砲兵装の強化の邪魔になるって言われている。
このせいで、33年竣工の重巡ボルツァーノからは、
艦中央旋回カタパルト搭載/水偵露天係止に変更されている。
航空技官N:えと、この時期以降から建造される軽巡の水偵搭載方式も、
ボルツァーノと同じになっているんだね。
航空技官Y:水偵を搭載しない偵察艦は除くとして、軽巡は12隻。
このうちアルベルト・ディ・ジユッサーノ級4隻が前甲板搭載方式、
以降の8隻が露天係止になるな。
航空技官N:えと、戦艦はどうなの?
航空技官Y:水偵搭載可能な戦艦は、要求仕様提示の段階ではまだ計画中のヴィットリオ・ベネト級だけだ。
条約前の戦艦は、結局水偵を搭載していない。計画はあったみたいだけれどね。
ちなみにヴィトリオ・ベネト級も搭載機は露天係止だ。
航空技官N:えと、最終的に考えて……最初から水偵を搭載しない艦は除くとしても、
水偵を格納できないのが重巡6隻、軽巡4隻の計10隻。
露天係止可能なのが戦艦4隻、重巡1隻、軽巡8隻の計13隻。
なんだか露天係止にすると、搭載不能な艦が多くて問題が大きいみたいだよ。
航空技官Y:要求仕様提示の段階では、まだ将来の隻数なんてわからないだろ。
現存の艦艇に搭載できないのは大きな問題だけれど、
将来の艦載方針としては露天係止でかまわないと言えるんだ。
その意味で将来を睨んで主翼折り畳み機構廃止ってのは、
方向性として決して間違っているとは言い切れないと思うんだ。
だから、主翼折り畳み機構を廃止しちゃ駄目かな、と言っているんだが。
まあ、露天係止でも折り畳み機構があったほうが良いのは確かなんだけれどね。
航空技官N:でもね、現行の搭載機であるカント25AR戦闘飛行艇も、
ザラ級の格納庫に搭載できないんだよね。
この時点でわざわざ『重巡に搭載可能』って要求してくるのって、
ザラ級にも搭載したいって言っているんじゃないの?(笑)
航空技官Y:あぅ……。やっぱり主翼折り畳み機構廃止は失格なのか(泣)
先走って、廃止しなくて良かったと言うべきなんだろうな。
フィアット試作ICRは液冷発動機搭載のため、当然ながらラジエターを装備している。
当時の液冷機のラジエター配置としては標準的な機首下面配置であるが、水上機としては一見、問題がありそうに思える。双フロートの跳ね上げる水飛沫をラジエターが吸い込んで問題を起こしそうに思えるのだが、実際には格段の問題はなかったようである。少なくとも試験飛行において問題は発生していない。
航空技官N:本当に問題なかったの?
航空技官Y:ああ。他の液冷単発・双フロートの水上機を考えて見れば納得できると思うぞ。
航空技官N:えと、液冷単発・双フロートで同時期の機体っていうと……
日本の九四式水偵、フランスのラテコエール298だね。
うん、どっちも機首下面にラジエターを配置してるね。
航空技官Y:で、両機とも、ラジエターの配置に関して、何か問題があったか?
航空技官N:ん〜と、無いと思う。……じゃあ、機首下面ラジエター配置って問題ないのかな。
意外だよ。
航空技官Y:もっとも実例が少ないから、絶対とは言い切れないと思うけどね。
他の液冷双フロート機って、もっと前の世代になるけど機首前面ラジエター装備だしな。
航空技官N:もしかしたら、資料に残る以前の段階でエリミネートされてる液冷水上機が
いっぱいあったかもしれないね。ラジエターの問題で(をひ)
フィアット試作ICRの最大の特徴は、20mmモーターカノンを搭載していることである。
イスパノスイザ12Ycrsを搭載したが故に可能になった装備であるが、艦隊防空を要求される『戦闘機』としては、魅力的な装備と言える。
航空技官N:最大速度320km/h程度の機体で、戦闘機として役に立つの?
この機体って、実戦配備時期を推定すると35〜36年頃になると思うんだけど。
航空技官Y:ああ、陸上機だと400km/hに達しているから相手にならないだろうけど、
艦上戦闘機なら、精々330〜350km/hだ。これぐらいなら対処できる範囲内だ。
航空技官N:運動性はどうなの?
航空技官Y:具体的なことは言わないでおくが……翼面積が10%ほど大きいだけで、
機体サイズの諸元は殆ど零式観測機並なんだ。勿論、単純比較は出来ないし、
空力洗練や、支柱・吊線の多さで、速力は及ばないけどね。
翼面過重、翼面馬力、馬力過重から推測する分には、かなり高いレベルの空戦性能が
期待できると思うぞ。
航空技官N:えと、この機体って、九四式水偵、九五式水偵と同世代の機体だよね。
それで零観並の機体って何?
航空技官Y:全ては、小型軽量大出力の発動機、12Ycrsのなせるワザだ。
こういう化け物は水上機にとどまらせておくには惜しい、と言うことで、
早々に陸上機型も開発が始まっている。
この陸上機型は、最大速力400km/hが期待されているんだけれどね。

航空技官N:36年頃実戦配備としたら、やっぱりスペイン内戦に投入されるのかな。
航空技官Y:まあ、陸上機型も、水上機型も、多分ね。
航空技官N:スペイン内戦に参加で、20mm搭載……対戦車襲撃機だね。
航空技官Y:九五式水偵の例を見ても水偵の対地攻撃投入はありえる話だろうけど、
……いくら20mm搭載してるとは言え、
水上襲撃機って言うのは何か間違ってると思うぞ(泣)
航空技官N:それでもHe51よりはずっと良い働きができるよね(笑)
航空技官Y:まあ、当時の標準的な単発機に比べれば、航続距離が段違いだしな。
航空技官N:えと、陸上機型も水上機型も、当時としては高速大火力大航続力で、後方火力あり。
30年代の機体で対地対空偵察兼用だから、これって『駆逐機』だよね(笑)
航空技官Y:今度は水上駆逐機か?勘弁してくれ(泣)
それに単発複座なんだから、駆逐機って言うよりは、
英国流に『バトルプレーン』のほうが近いんじゃないか?
設計主任A:了承(1秒)
航空技官Y:いったい何を了承するんですか!
駆逐機?バトルプレーンですか!?