巡洋戦艦『O級』(『マッケンゼン級』)設計案

巡洋戦艦『O級』設計案

巡洋戦艦”O”(1938)  Schlachtkreuzer "O"
基準排水量 26,000t
兵装 38cm連装砲 2基 4門
速力 33.5ノット
満載排水量 30,000t 15cm連装砲 5基 10門 燃料 重油 5,100t
全長 230m 10.5cm連装高角砲 4基 8門 航続距離 11,000浬
全幅 30m 37mm連装機関砲 8基 16門 (17ノット)
20mm連装機関砲 5基 10門 搭載機 Ar196 4機


乗員 1,320名
装甲 水平甲板 110mm 機関 MAN VZ 42/58型 4基 2軸
装甲帯 300mm ディーゼル機関 116,000馬力
主砲塔前楯 350mm
主砲塔天蓋 130mm ワグナー高圧缶+ 4基 1軸
司令塔 320mm ギヤード蒸気タービン 60,000馬力

反省から出発する

 第一次大戦後、装甲艦3隻を竣工させ、いま巡洋戦艦2隻、戦艦2隻の建造を進める新生ドイツ海軍は、1938年、新たに『将来の』対英戦争を見据えた大規模な建艦計画の作成に着手した。いわゆるZ計画である。
 この計画において独海軍当局は、1945年までに戦艦6隻、装甲艦9〜12隻を整備することを画策した。
 相手は世界の海を支配するイギリス海軍である。現在建造中の戦艦2隻に6隻を加えても、正面から対決してはなお勝ち目がない。独海軍の付け目は、英海軍が「世界の海を支配し続けなければならない」ことだ。まず、14隻の装甲艦で、通商破壊戦を実施する。英海軍は、海上交通路の保護と装甲艦掃討のために、主力を割かざるを得ない。英艦隊の戦力が減じたところで、8隻の戦艦が決戦を挑むのである。

 装甲艦12隻の計画は、研究を進める過程で、基準排水量2万6千トン程度の艦6隻に変更された。これに伴い、艦種類別は「装甲艦」から「巡洋戦艦」に格上げとなった。
 「巡洋戦艦化」は、この艦に従来の装甲艦以上の働きが期待されるようになったことが反映している。
 すなわち、外洋では独装甲艦の行動を支援し、より大きな敵勢力の牽引に貢献する。そして決戦海面においては、敵艦隊の行動を牽制し、独戦艦が優位を保てるようにお膳立てするのである。決戦場で戦艦部隊が優位に立つことは、戦艦の数そのものより重要な条件なのだ。でなければ、戦艦と同じコストをかけて整備する意味がない。

 新型巡洋戦艦の設計は、竣工間近の『シャルンホルスト』級に対する反省から始まった。
 独海軍が15年ぶりに建造した巡洋戦艦『シャルンホルスト』は、とりあえず攻・防・走にバランスの取れた艦である…とみられている。(実戦における評価はできない。彼女は未だ戦闘を経験していないのである。)ただし、この艦は設計途上から問題を抱えていた。もともと4隻目の装甲艦(仮称艦名:D)として計画されたのだが、フランスが独装甲艦に対抗して新型巡洋戦艦『ダンケルク』を建造したため、さらにこの級に対抗する必要を感じ、大幅な改設計を行ったのである。基準排水量1万5千トンの装甲艦”D”は、同2万6千トンの巡洋戦艦”D”になった。
 このことが結果として、英独海軍協定の締結=ベルサイユ体制からの脱却をもたらしたのだが、肝心の巡洋戦艦”D”は造船技術継承の断絶が災いし、『シャルンホルスト』として竣工した時には排水量が3万2千トンまで増加してしまった。
 排水量増加の影響は顕著に現れた。艦体が沈み込んで乾舷が低下し、凌波性が悪化した。前甲板から砲塔内部への浸水がひどくなったので、艦首形状をアトランティックバウに改良したが、今度は主錨への衝撃が大きくなり、主錨の設置位置を甲板まで持ち上げる羽目になった。
 また、巡洋戦艦として速力を発揮するために、常に機関に負担をかけることになった。これはもともと挑戦的な高圧缶の信頼性を、ますますヤクザなものへ変えてしまった。これら不具合の原因が、排水量の過大にあるのは明らかである。
 新鋭巡洋戦艦(仮称艦名:O)の設計は、これらの事情を念頭において進められることになった。
堅実か?冒険か?

 本計画案の特徴は、主砲を艦の前部に集中配置することと、装甲配置に集中防御方式を取り入れることである。
 これによって、主要防御区画を短縮することができる。つまり、装甲の軽量化・排水量の削減が達成できるのである。従来の独戦艦は全体防御であったため、装甲重量が排水量の40%を占めていたが、集中防御への切り替えによって、これを33%程度までに削減できると見積もられる。

 この案の弱点は、(誰でも分かることだが)主砲を後方へ向かって射撃できないことである。しかも、この主砲には38cm砲連装2基を計画している。これでは建造中の戦艦”F”(『ビスマルク』)の半分の火力しかない。
 設計陣は次のように主張する。
 この艦は、主力艦と殴り合いをするわけではない。それは同時に設計する「戦艦」の役割である。無論、艦隊決戦となれば巡洋戦艦だけが射程外に安住していられるなどとは思わないが、敵艦隊を牽制するならこれでも効果充分である。38cm砲4門は無視できる火力ではないし、集中防御なら装甲を減らさずに済むから、防御力で敵に対抗できるはずだ。

 ただし、命中率の観点からして、砲が4門しかないのは不利である。同時に射撃できる砲弾の数が少ないのでは、なかなか夾叉・命中させることができないだろう。大威力の38cm砲も当たらなければ意味がない。――この問題に対し、二つの解決策が出された。
 ドイツは優れた光学機器や電子技術を持っている。これを駆使して、優秀な測距儀を作れば、少ない弾数でも命中弾を得られるはずである。
 また、砲塔を3〜4連装にする案も検討対象となった。ただ、多連装砲塔は軽量化に有利である反面、作動機構が複雑になるし、中央の砲の装填に時間がかかり砲塔全体の発射速度が低下するという欠点がある。これを克服するほどには、ドイツの造兵技術は成熟していないと考えられた。

 新型測距儀にしても、新型砲塔にしても開発に時間がかかるので、とりあえず将来の換装を含みとして、新型巡洋戦艦の1番艦”O”は従来の測距儀・砲塔で建造されることになった。まずこの艦でデータを収集し、後に続く姉妹艦の糧とすればよい。

 なに、対英戦争は1946年以降になると、総統が約束したのだ。時間は十分あるではないか。


巡洋戦艦『マッケンゼン』建造・その後