Messerschmitt Me309 Mach
メッサーシュミット Me309 マッハ
大戦末期のドイツの空を駆け抜けた高速戦闘機「Me309マッハ」のファンは今日でも多い。
筆者の友人である蕎麦屋の主人も大のファンで自分の店に「マッハ軒」なる名前を付けてしまったほどである。
(彼は店の地下に実物か、実物大レプリカの本機を隠し持っているとの噂されるが、本件とは無関係なので割愛する)
本機はBf109後継機としてヴィリー・メッサーシュミット博士自身により設計された戦闘機である。
主翼後縁をすべてフラップとする全翼フラップ構造を持ち、ロールスポイラーで横揺れモーメントを制御する構造と、
今日で言うスーパークリティカル翼、エリアルール、ウィングレットの先駆的なものを取り入れるなど
一見オーソドックスに見えながら極めて斬新な構造をもつものである。

戦争末期のドイツ機にしてはオーソドックスな牽引型機体形状にしたのは、第一にこれまでの豊富なデーターが利用できる事であり、
次に仮に推進型であった場合機首に機銃を集中できる利点があるが、推進式の場合重心が後方によるので、重心位置から離れた機首の機銃が弾薬を消費するに従い重心位置が狂う恐れがあり、特に大口径機銃の場合一発当たりの弾薬重量が大きいため最悪の場合射撃中に重心位置が変化し、極端に命中率が下がることが予想されたからである。
また、串型機や連結エンジンなどの発動機の数を増やして増力する方法も避けた。
それは、遷音速領域である600〜800km台では極端に摩擦が増えてくるため、重量あたりの増力がよほど大きくない限り効率のよい速度上昇にはつながらないと考え、これらの重量のかさむ複数発動機増力よりは、エンジンは重量とパワーバランスの取れた強力なものひとつにし、極力機体の抵抗を減らして増速をはかったほうが得策と判断したのである。

当初メッサーシュミット社では後継機登場までの僅かな時間をBf109の改造型でカバーし実験機であるMe209の戦闘機化によって後継機とする予定であった。
しかし思わぬ伏兵が現れた。クルト・タンク博士の設計によるFw 190である。
一応補助戦闘機という名目ではあったがこの従来のBf109を凌駕する戦闘機の出現にドイツ最高の航空機設計家という自負を持つメッサーシュミット博士のプライドはずたずたに傷つけられた。
また、Me209の戦闘機化研究中に起きた1940年のバトルオブブリテンはBf109の航続距離の短さが重大な問題となって現れた。
また、空軍からの要請も航続距離:最大1500km以上ということになっている。
これでは元来実験機であったMe209の戦闘機化という方法では対処できない。
また所詮は実験機なのでこれを改装してもほとんど作り直しのようになる。
そこでMe209の戦闘機化計画は40年夏すべて中止し、またBf109改装もE型を最期にメッサーシュミット博士の手から離れ社内別スタッフのものになった。
また実験機であるMe209はこれ以上いじらずにひたすら基礎データーを取る事のみに集中された。
こうしてフリーハンドを得たメッサーシュミット博士は本来Bf109F、そしてその後に来るだろうGといった
機体に使うはずだったアイデアとMe209のデーターをもとに思いついた新機軸をもって一から新しく戦闘機の設計をしようと試みた。
それがこのMe309である。

なおこの機体のあだ名であるマッハであるが、めっぽう音速を示すマッハであると思われているがそうではない。
まるでFw190にあてつけんばかりのためだけに狂ったようにFw190とは正反対のコンセプトで開発にいそしむメッサーシュミット博士に対し空軍省のある幹部が
「個体の性質は、その個体がシステムの中の他の個体と持つ関係性で決まるとということか・・・エルンスト・マッハ(注1)そのものでないか」
と揶揄したところから空軍省内でこのなかなか完成しない次期主力戦闘機を「マッハ」と呼ぶようになり、
やがてそれを聞きつけたメッサーシュミット博士が「エルンスト・マッハ?なるほど音速理論を説いた彼の名は高速機にふさわしい。空軍も粋な名前を考えたものだ」
と、勘違いして大いに気に入ってしまた事からこう呼ばれるようになったのである。
(エルンスト・マッハは数学者にて哲学者である)

完成後のこの機体は操縦に大変癖のあるものであったが、使いこなせた場合その猛烈な速度と機首に集中した武装、またスポイラーなどを使った特殊飛行など、
卓越した飛行性能を見せた。特にMe309C型は「マッハ3」と呼ばれこの機体を使いこなせるものは必ずエースになるとまでいわれた。
事実フォン・リヒトフォーヘン三世(注2)など大戦末期の有名なエースがこの機体を愛用している。

なお本邦の戦闘機飛燕改(注3)を本機の物まねとして「川崎マッハ」などと呼ぶものがいるがこれは大変失礼な誤解である。
たしかに飛燕改は本機開発時にえられた境界層流と翼端上反角の理論を日独技術交換で取り入れているが、あくまでも理論を受け入れただけで設計はオリジナルである。
特に冷却機位置や主脚の配置、主翼のアスペクト比を大きく取るなどデザインの根本が異なっているし、水滴風防もニ型改の時点で取り入れており、本機とは全く無関係に採用されたものである
このような呼び方は慎んでもらいたい。
(注1)
エルンスト・マッハ(1838〜1916)
実証主義哲学の論客として有名な、オーストリアの物理学者。
18世紀にニュートンが提唱した絶対空間の概念をアインシュタインに先がけて否定し、相対性理論の構築に大きな影響をおよぼした。
「感覚の分析」(1896初版)など
(注2)
かの有名なレッドバロンことフォン・リヒトフォーヘン男爵の孫。 祖父のように真赤塗装したMe309Cを駆って縦横無尽に暴れまくった彼は、 連合国パイロットから「マッハバロン」として大変恐れられた。
(注3)
三式三型。キ-61-3。三式戦飛燕の最終型。
三式ニ型改をベースに、冷却機入気口部境界層流排除板や翼端上反角などをつけたもので、 6000mで690kmの高速を出した。しかしエンジン不足で完成した機体は少ない。
数多くのP-51やB29を撃墜し「破壊者」の異名をとった光明寺三郎大尉の「白いカラス号」は特に有名。

諸元
Me309B

全長9.5m全幅10.65m全高(無負荷垂直尾翼先端まで)3.3m
翼面積16.0m2アスペクト比6(中央くびれこみ部分を除く)
翼面荷重216kg(機銃弾燃料満載搭載物なし3460kg)
胴体最大幅86cm 中央くびれこみ部分幅45cm
搭載燃料量700リットル(560kg)
自重2780kg最大重量3960kg
航続距離
標準1155km
落下式増槽搭載時
300リットル(240kg)×1 1650km(+495km)
300リットル(240kg)×2 2145km (+990km)
エンジン
DB603A(1750馬力)液冷倒立V型12気筒
プロペラ
全金属VDM定速4翼
最高速度 6000mで730km
武装
機銃
MG151/20 20mm機銃×4
爆装
250kg爆弾×2 Pb2ロケット弾×12
200kg燃料爆弾×3
200kg燃料爆弾×2 Pb2ロケット弾×12
200kg燃料爆弾×2 増槽1


A.側面アップ(別ウインドウで開きます)
B.正面アップ(別ウインドウで開きます)
C.上面アップ(別ウインドウで開きます)
D.下面アップ(別ウインドウで開きます)
概要

本機を設計するに当たり、Me209による実験で得たさまざまな教訓があった。
とくにそれは
1.速度が時速600kmを過ぎたあたりから衝撃波の影響が出始め、700km台では明らかに飛行に悪影響を与え始める。それは造波抵抗である。
2.低速時にはそれほど速度差がないため無視できた境界層流の遅い流れが高速時には明らかに外気との速度差がでてくる。
したがって機内への入気口に関してはこの境界層流を吸い込まない構造が必要となる。
3.突起物など形状による有害抵抗の減少はすでに限界に達している。むしろ摩擦抵抗が大きな問題になっている。
4.今後抵抗の減少をはかるには有害抵抗のみならず揚力や誘導抗力による抗力を減少させねばならない。
というものであった。
この教訓を元にメッサーシュミット博士はこれまでのようなただの突起物の排除や流線型のみならず機体や翼の形状を根本的に見直し
あらゆる抵抗を排除する方針を立てた。



抵抗勢力を削れ!

すでに述べたようにMe209による実験でもはや常識的な形状補正に寄る抵抗の削減は限界に達していた。
これからは常識では減らせなかった抵抗を削るしかない。翼面の抜本的改革、胴体形状の全面的な見直し。
どれも非常に難しい問題である。しかし博士はめげない。ドイツ航空界の真の大天才は自分であるという自負、それを証明するための新戦闘機。メッサーシュミット博士は寝食を忘れて研究に没頭した。
それは知的好奇心という死に至る病に冒された者の熱病発作のようであった。
病名は航空機開発。この不治の病に冒されていた博士は野望へ向けてひたすらに突進した。


翼形
本機の翼形はアスペクト比の低い直線テーパー翼と一見以前のBf109と同じ物のように見える。
事実メッサーシュミット博士もこの基本姿勢は変えていない。
しかし翼断面は大きく異なっている。これまでのNACA2314,2315系のものから独自の特殊なものに代わっており、
翼端には強い上反角がある。また翼主桁もこれまでの1本から2本へと変わっている。
このデザインの変更には少しでも抵抗を削ろうとするメッサーシュミット博士の野心の表れであった。

流れから物体が受ける抵抗は,圧力抗力と摩擦抗力から成るが,翼は薄いので抵抗のほとんどは摩擦抗力になる。
摩擦抗力は境界層の速度勾配に比例するが,速度勾配の大きい乱流境界層は摩擦抗力が大きい。
したがって,翼の表面の境界層の層流の部分を広くするほど,翼の抗力は小さくなる。
この考え方から迎え角が小さい場合,層流境界層は翼上下面の最小圧力点まで保たれるので,
この点をなるべく後方に下げてやれば境界層はほとんど層流に保たれ摩擦抵抗が小さくできる。
そこでメッサーシュミット博士は最大翼厚位置を翼断面の48%という後方に持ってきた。
ここまでは今までとあまり変わらない。
だが次に博士は衝撃波対策を考えた。速度が700km台ということは機体は結構音速に近い速度で巡行している。
この速度になると機速より速い気流が流れる翼上面のある領域では流れがかなり音速に近くなる。これに伴い衝撃波が発生し,造波抗力を生ずる。
そこでメッサーシュミット博士は「最大速度が音速に近くても,衝撃波の発生がゆるやかであればよい」との考えから,翼の上面の遷音速領域の加速を抑えるため,比較的小さな前縁半径を持ちこれにより前縁部にとがった速度分布を与えこれを緩やかな湾曲で減速し、衝撃波発生位置を後縁直後に持ってくるようにした。
これにより衝撃波の影響を弱め抗力の増加をゆるやかにするのである。
一方下面には翼厚を持たせられる用に深い湾曲をつける。
これは翼強度の維持と燃料搭載のスペースの確保及び最大翼厚位置を後方に保つためである。
この形式ならたとえ衝撃波が発生したとしても衝撃波の発生する位置が翼面の後縁部にくるので音速領域を拡げ、抗力をゆるやかにし,飛行速度を音速に近づけることができる。
しかし、この形式だと発生する揚力が小さい。
そこでこれを補うため後縁の前方部に強いカンバーをつけ、この部分が総揚力の大部分を占めるリアローディング方式が採用された。
翼下面の気流はそった後下面に沿って流れた後やや下に離れながら翼上面に回りこもうとしてよどみ点に至る。
流速が遅かった場合この気流は斜め下方へのベクトルが強いため回り込みにくく出発渦が弱いが流速が早いのでこの形式でも渦が発生し気流の循環が起こり揚力は発生する。

次に主翼に発生する抵抗として誘導抗力がある。
これは高い翼下面の気圧が翼端を通って翼上面に廻りこもうとしてそのまま機体から離れていくため渦を発生させるものである。
この渦を翼端渦と呼ぶ。当然渦を引っ張るのは抵抗になる。この抵抗を誘導抗力と呼んでいる。
有限の翼を持っている航空機の場合避けて通れない抵抗である。
この抵抗を弱めるにはアスペクト比を大きくするという手がある。
しかし今回のコンセプトは翼小さいダッシュ力に優れた軽快な機体である。
アスペクト比の大きいそれは翼面積を増大させ摩擦抵抗を大きくする。
また長い翼に強度を持たせるためにどうしても強度材の多い重いものになりがちである。さらには運動性も悪くなる。

いかにすべきか?博士は思考にふけった。手にした鉛筆を機体や主翼にみたて空中を泳がせ、あるいは手の中でもてあそび、
怪しげな目つきでぶつぶつぶつぶつと独り言をつぶやき、たまに奇声を上げたりした。
見るからに危ない奴である。事実危ない奴でもあるのだが・・・。
ある日いつものように煮詰まった博士は奇声を上げながら手にした鉛筆を強く握っていた。
ぼきり
親指で強く押された鉛筆は無残に折れ曲がり端がL字状になってしまった。
いつもなら癇癪をおこして床に叩きつけるか部下に当り散らすとこである。
しかし今日は違った。博士は呆けたように口を丸めながらしかし目つきだけは鋭く折れた鉛筆を眺めていた。
「これだ・・・」やがて博士は満面に笑みを浮かべながらつぶやく。
「これだ・・これだ!これだ!これだぁ〜〜!わぁ〜はっはっはっはっはっ!」
博士は叫びながら狂ったように笑い出す。否、すでに狂ってるといってよいのだから地なのか?事実博士の部屋の前を通り過ぎた部下達は何も気にとめた様子はない。
しかしこの時メッサーシュミット博士は常軌と引き換えに天から授かった天才的頭脳の中で恐るべきひらめきを見つけたのだ。

メッサーシュミット博士は主翼の翼端をまるで折ったかのように強い上反角を持たせ、翼下面の気流が回り込めないようにする翼端板として機能するようにした。
しかし純粋に翼端板だけで翼端渦をせきとめようとした場合、その大きさは大変大きくなってしまう。
翼端渦の大きさは,その渦の半径がおおよそ片翼の長さの半分近くにも発達するためである。
そんなものをつけたらかえって重量や摩擦抵抗が増えてしまう。
なら強い翼端渦である翼端付近に発生する半径の小さな部分だけブロックしさせることした。否ブロックだけでは面白くない。
どうせ完全に阻止できないのなら積極的に利用できないだろうか?
そこでこの翼端上反角部分の断面を外側は平らで内側(機体よりの上面)はなだらかに湾曲したちょうど普通の主翼を上に折り曲げたような形にした。

さて、航空機の左翼に装着された翼端上反角部分を進行方向から見た場合を想定する。
このとき翼端渦は反時計回りに発生し、翼端渦による流れは翼端上反角部分に右から左向きに当ることになる。
これは通常の翼回りの流れに直して考えると、ちょうど翼真下から真上に流れが当っていることに相当する。
航空機が巡行していることに伴う相対流と翼端渦による流れを合成すると、翼端上反角部分には前方斜め外側から流れが当っていることになる。

そこで翼端上反角部分がこのような翼型形態していた場合何が起こるか?
仮に機体の機首を下となるように上方からこの流れの様子を見てみよう。
翼端上反角部分付近には右下から左上の流れがあることとなる。これは、ちょうど翼をある迎え角で流れの中に置いた状態と全く同じである。
よって,流れに対して垂直方向に翼端上反角部分は揚力を発生させる。ということは、この揚力は右上から左下の向きに発生している。
翼端上反角部分による揚力を分解すると、主翼外側から内側向きの力と、機体前方への力となる。機体前方への力とは,すなわち推進力を意味する。
すなわちメッサーシュミット博士はこの翼端上反角部分で強い翼端渦を抑えつつ、
それでも発生する残りの翼端渦を積極的に推進力の変換するシステムを発見したのである 。
また一歩博士は野望に近づいた。


胴体構造
遷音速面積法則の概念
Me309の胴体くびれ部分
空力抵抗的に考えるのなら胴体なんてないほうがよい。しかしそんなわけにも行かない。
ならなるべく細くしてやるしかない。しかしエンジンの幅より細くはできない。
またコクピットもあまり細くはできない。パイロットは座っているのであり、
まさか邪魔だからといってカニのように横向きに立たせたり寝かせたりするわけにも行かない。
しかし逆にいうならばコクピットとエンジン以外は細くしてもかまわないということになる。
また翼のついている胴体部分は翼の抵抗+胴体の抵抗がある大変抗力の強いところともいえる。
ならばこの部分を細くくびらせたらどうだろう?無論機銃などの関係から胴体上面はくびれさすことができない。下面もまた難しい。
しかし胴体側面を薄くする事なら可能だ。そこでメッサーシュミット博士は主翼と重なる胴体中心部分の所をもっとも狭いところで幅45cmまで薄くしてエンジンからコクピットに至るまでの間をえぐり取るように弦状になだらかなくびれを持たせたものにした。

これで表面積と重量の削減を狙ったのだ。
しかも今日では遷音速領域において翼−胴体の組み合わせの造波抵抗は、飛行方向に直角に切った断面面積分布を持つ回転体の造波抗力と近似的に等しいということが知られている。
すなわち翼の造波抗力が増えていく分胴体の抗力を徐々に少なくし、翼がなくなっていくにつれてまた胴体の抗力を増やせば断面積分の造波抵抗は紡錘形となり造波抵抗は小さくなるのである。
これにより遷音速の衝撃波による抵抗も非常に少なくなった。

コクピットから後ろは急速にまた細くなっている。
細くといっても全体に丸く細くなるのではなく板状にだんだんと薄くなっていって最終的に垂直尾翼と一体になっている。
また上面の方が下面より薄く、また天蓋後方もなだらかに下に向かって削られている。断面で考えれば、
いわば三角おむすびを次第に小さくして並べ、徐々に左右から押しつぶし、
垂直尾翼にあたりからは胴と垂直尾翼があたかも一枚の板状のものになり、最終的に方向舵に至って終わるようになっている。
これは主翼の翼端上反角と共に直進安定性を高める効果があり、射撃時などに有効である。


境界層流を避けよ!

機体に張り付いた境界層の流れは遅い。プロペラ直後ならまだしも機体の中ほどを過ぎるともう無視はできないくらいの境界層流がある。
これらを冷却などに使用した場合境界層の外の気流を使う場合に比べ非常に効率が悪いことになる。
せっかくすぐ外側に速い流れがあるのだ。何も好き好んで境界層流を取り入れることはない。
そこでメッサーシュミット博士はほとんどの空気取り込みに関して境界層を避ける工夫をした。

オイルクーラー
機首下面部にはオイルクーラーがある。
この位置だと境界層流はまだあまり発展していないのでそれほど気にする事はないのだが、 メッサーシュミット博士は病的なまで境界層流を吸い込まないようにこの位置でもオイルクーラーの吸気口を機体からすこし離した位置に設けた。
機体と吸入口の間は機体の機首を下となるように上方から見てV字状になる楔形の板をつけ境界層流を逃がしている。
またすぼめられた冷却機排気口は機体に張り付くように開口している。 これは前者はラジュエターでのべる吸出し効果と同じものを求めるためであり、後者は暖かい冷却排気をラジュエターが吸い込まないように 排気を粘性で機体にに張り付かせるるためである。
内部構造もほぼラジュエターと同じになっており、その解説はラジュエターの項で行う。

ラジュエター位置
まず翼効率をすこしでも無駄にしないためラジュエター取り付け位置は一部が胴体下に来るやや内よりの翼面下にある。
ただしオイルクーラーから出る暖められた気流を吸い込まないようにそれほど奥までは入っていない。
この位置だと胴体下には強めの境界層流が発生している。また翼面下にも胴体下ほどではないがやはり境界層流が発生している。
この流れの遅い悪気流を吸い込まないため冷却気入気口は機体より約6cm離れた位置にある。
ラジュエターパネル下面に沿ってきた気流は後端で粘性に従って回り込もうとするがここに開口部があるため 回り込めず剥離して勢いを失うことなく後方へ流れていく。
また上面を流れて来た気流も開口部上部で慣性にしたがって高速で離れていく。
すると開口部後方の気流の抜けたあとは負圧になり吸引力が作用する。
この負圧による吸出し効果によりラジュエターカバー内の高温気をより早く機外に排出しラジュエター効果を高めるようにしている。
この機構を生かすためラジュエターカバーは胴体下面で外側に絞り込まれ冷却気排気口は完全に翼面下に来るようになっている。
またラジュエターフラップには境界層板が立てられている。
ところで冷却気入気口上の部分の境界層流はどうなっているのだろう?オイルクーラーと同じV字型の 板で排気しているのだろうか?
否そうではない。
そうした場合翼下面には外向きの気流が発生し 翼端失速の原因にもなりかねない。また胴体下面では左右からの流れがぶつかって乱流を発生させ無駄な抵抗になってしまう。
またわずかとはいえラジュエター部分のある翼には揚力がほとんど発生していない。
これも面白くない。
そこでメッサーシュミット博士は冷却気入気口上の部分の境界層流を一旦機内に取り入れ絞り込ませて流速を上げた後、 ラジュエター部分のある翼上面から翼面に沿って排出することによりコアンダ効果によって揚力を発生させようとした。
コアンダ効果とは噴流が物体の面に沿って流れる性質のことで,彎曲した壁面に噴流が当たるとその流れは壁面に沿って曲がる。
この反作用として翼には上向きの力が加わる.よって翼は上に持ち上がる訳である。
しかし今日の見解ではたとえ圧縮したとはいえこの程度の気流でコアンダ効果を発生させられるかどうかはなはだ疑問であるといわざるをえない。 むしろ胴体に近く幅の広くなっている主翼上面の気流に運動エネルギーを与えて層流を保たたせ乱流境界層を発生させにくくさせているほうに意味があるのではないかといえる。
ラジュエターカバー内部構造
ラジュエターカバーの内部構造は拡散型になっている。
これはBf109Eで採用されたものの発展型で、カバー内部で気流を拡散させ密度と流速を下げ、単位放熱量当たりの摩擦抵抗を小さくするようになっている。
またラジュエター後部から排気部にかけては絞り込まれ、その開口部は高速飛行時には大変小さななものになるようになっている。
これは最大速度時にもっとも開口面積が小さくなるようにし、これにより、そこを通る空気の流速をあげ、そこで発生するはずの乱流を発生させなくするためである。
ラジュエターそのものは翼内に斜めに設置されており、狭い翼内ですこしでも正面面積を広くするようにしている。(オイルクーラーは垂直に設置されている)
またオイルクーラー及びラジュエター共に共通する事として、入気口から装置までのダクト内の距離は極力小さくなるようになっている。
これは、ダクトの距離が長くなるとダクト内で境界層流が発生してしまい、流速が落ちてしまうからである。
ラジュエターフラップは大きく開くとスロットができるようになっており、離着陸の際にすこしでも揚力を多く発生させようとしている。
また制動時に上面で開く部分が落とす揚力を補ってバランスを取るようにもなっている。


過給器空気取入口
過給器空気取入口もまたご多分に漏れず機体からすこし離した位置に設けられた。 また、Me209による実験で全力急降下時に過給器のファンが損傷する事がまれに見受けられた。 これは高速のために発生した衝撃波が繊細で高回転しているファンを傷めるためと思われた。 そこでメッサーシュミット博士は過給器空気取入口に円錐状の突起をつけ、高速時にはここで先に衝撃波を発生させ 圧縮減速し過給器を守ることにした。これはまた空気取入口自身にも圧縮機の役割をもたせる意味もあった。


「これはすごい・・・・」
部下達はみな天才の所業に驚愕した。
これならばかなりの高速が出せるだろう。
「ですが・・・」
「ですがぁ?」
博士の眉間に青筋が立つ。
さっきまで麗らかだった窓の外がにわかに薄暗くなってきた。風も出てきたらしい。
「なんだいってみろ!」
「ですが博士、これでは巡航時に揚力が不足します」
「それに爆装時や低速時も・・・これでは失速は免れません」
「とてつもない高速でないと着陸も無理です」
「もう少し翼面積を増やしてアスペクト比も上げないとレース機のように直進するだけで軽快な運動は期待できません」

「君たちは何を言っているんだ」

博士が低い声でつぶやく。
その声には低いながらも力がこもっている。
窓の外は…ああ、ついに振ってきたらしい。遠くから雷の音が聞こえる。
「技術を持ってすれば小さな翼で高揚力を発生させられるが、大きな翼を小さくする事はできない!分かるか?高揚力装置だ!」
稲妻が走り博士が青白い後光を背負って真っ黒なシルエットになる。残り少ない髪が轟音と共に逆立っているのが分かる。
「フラップだ!巡航時にはフラップを出す!爆装時も!着陸時にもだ!フラップだけではないぞ!翼端前縁にはスラットもつける!しかも自動開閉だ!」
大粒の雨が窓を叩き、突風はその桟をがたがたと揺らす。外はもう土砂降りだ。
「しかしよほど広い範囲にフラップをつけないとかえって抗力が・・・」
「よほど?!ナニをいっとるか君は!フラップは全翼につける!」
雷鳴をBGMに狂気の天才が叫ぶ。雷はかなり近い。
「ならロールは?エルロンはどうするんですか」
「いらん!変わりにスポイラーをつける!」
突然すさまじい音と共に窓が開き電灯が消える。近くに落雷したようだ。しかし博士は気にもせずに叫びつづける。
「全翼フラップ!前縁スラット!ロールスポイラー!しかも操作は油圧倍力装置付だ!これは飛行機の革命!航空機の新しい夜明けなのだ! わしは作ってみせる!俊足の駿馬を!天翔かけるサラブレットを!高速戦闘機はありきたりの駄馬ではない!芸術的なサラブレットでなくてはいけないのだ!」
吹き込む猛烈な風雨に図面が妖精の様に舞い、カーテンが荒波にもまれる海藻のように泳ぐ。そのなかでメッサーシュミット博士は ずぶ濡れになりながらも両手を広げワーグナーの歌劇を歌うように自説を吼えつづけていた。
部下達は思った。この男・・ただものではない・・・と


高揚力装置!

全翼フラップ
一言でいってフラップとは翼後縁のカンバーを変化させたり、迫出すこととで翼面積を変える事で高揚力を発生させる装置である。
ここの範囲が広いほど発生させる揚力は大きい。しかし横が短いものを大きく突き出したしても抗力が増える割には揚力はそれほど増えない。
なので後縁に占める割合が大きいほどフラップの効率はよい。 そこでメッサーシュミット博士はラジュエター取り付け部より外側の主翼の翼端上反角部分以外全域、片翼で約4mにわたる範囲をフラップにした。
元来本機はアスペクト比の小さな高翼面荷重の主翼で高速性と機動性を目指した機体である。
よってこのままでは低速では失速するし着陸速度も上がる。また長距離の飛行の場合極めて燃費が悪くなる。
そこで本機は巡航時にはフラップを30cm突き出し、翼面積を増やして燃費のよい飛行を試みるようになっている。
無論戦闘時には引き込み、高翼面荷重の高速戦闘機に早変りする訳である。
さらに低速時には引き出されたフラップは下むきに折れカンバーをまし、さらに離着陸時にはついに主翼後縁からすこし離れた位置に 突き出される。こうするとフラップと主翼の間に隙間ができ翼面下の空気がフラップ上面に噴出しフラップ上の流れの剥離を防ぎ、 フラップの下げ角も大きく取れる。
しかもこの形式だと抗力係数の増大も少ない。 動力はモーターでスクリュージャッキを突き出すことで動く。下げはフラップを誘導するレールで行う。
また、離着陸時にはラジュエターフラップも連動して下げフラップとして働く。



自動前縁スラット
主翼端前縁にもうけられたもので低揚力時や離着陸時などむかえ角が大きくなった時にここを本体から離し隙間に下面からの空気を流して境界層の剥離を防ぐものである。
本機はMe109と同様ハンドレベージ式の自動スラットを装備している。
これは主翼上面の風圧が低下する(失速速度に近づく)とバネの力で自動的に前方に移動し主翼とのあいだにスロットができるようになっている。
また左右独自に自動的に動くため、これは急旋回時にも突き出し翼端失速を防ぐようになている。 また手動にても出し入れもできる。

スポイラー及びエレベーター
通常航空機のロールは主翼後縁についたエルロンを使って横揺れモーメントを起こす。
しかし本機は後縁部がすべてフラップであるのでこれができない。
変わりに主翼上面中部の翼端3分の一一帯にスポイラーがつけられている。 操縦桿を左右に倒すと倒した方のスポイラーが立つようになっている。
スポイラーが立つとその後方の流れに渦流が生じて主翼の揚力が落ちる。
また気流は斜め上に流されるためその反作用で主翼はさらに下がる。
これにより横揺れモーメントを発生させるのである。
またスポイラーの抗力増大によるヨーイングモーメントは順方向にかかるので旋回に有利である。
このため翼端上反角や垂直尾翼と一体になった板状の平たい胴体などで方向安定性が高い本機でも容易に旋回できるわけである。
また、操縦桿とは別にあるスポイラーの直接操作装置を使うと両翼のスポイラーを同時に立てる事ができる。
こうすると機首を下げなくても高度を下げる事ができる。
これと前縁スラットを使って緩降下直進しながら地上目標を照準に捕らえて攻撃する手法がたびたび見られた。
腕に自身のあるものは空中戦でも使用したという。
なお機首上げ時にはラジュエターフラップが、機首下げ時にはスポイラーが若干開きエレベーターの動きを補助している。
水平尾翼はエレベーターと連動してむかえ角を変えるようになっている。
これはBf109のものを発展させたもので、Bf109との違いは 水平尾翼の主桁(水平尾翼は1本主桁)で水平尾翼がつながっていて垂直尾翼に固定されてないところにある。
ここを軸に角度を変えるわけである。
また着陸モードに切り替えてあった場合主輪両輪が接地すると両スポイラーが自動的に全開になり揚力を消すと共に制動板となる。
なおこのときはラジュエターフラップならびにその上面の翼も開き着陸制動板になる。
これは後述する繊細な主脚に強いブレーキを付けないようにするためでもある。
なおラジュエターフラップならびにその上面は手動で開いてダイブブレーキとして使用できるようにもなっている。


倍力装置
操縦桿及びフットバーにはシリンダーとピストンが組み合わされた油圧倍力装置が取り付けられている。
これはたとえば大きな注射器と小さな注射器の先をつないだものを想像していただければよい。
大きな注射器のピストンをわずかに押し込んだだけで小さな注射器のほうのピストンは大きく突き出してくるのが ご理解いただけると思う。引いても同じである。
重いものを動かすならこの逆で小さな細いピストンを長く動かしたほうがいいというわけである。
これにより高速で重くなった舵面やスポイラーでも軽い力で操作できるというわけである。
またシリンダーをつなぐ角度により力にかかる方向も変えられる(たとえば直角につないだら前に押し込んだ力は右か左への押し込んだ力になる)
本機では要所要所にこの倍力装置が置かれ、その間をワイヤーではなくパイプロッドで結ぶことにより1系統一本のロッドで押しと引きに対応している。
(ワイヤーなら原則2本である)
これは操作系の被弾確率を下げると共にワイヤーよりは耐久性が高く損傷や疲労に強いものにするためでもある。
ただし、ワイヤーに比べて柔軟性にかけるので本機の操作系は反応が良すぎ過敏なところがあった。
また操縦桿やフットバーはこれまでのものより大きく動かす必要がある。これらは操縦に癖があるとして なれるまでパイロットに苦労をかけたという


「これはすごい・・・・」
部下達はみな天才の所業に驚愕した。これならば揚力不足は解消し、軽快な運動も可能であろう。
「ですが・・・」
「ですがぁ?」
博士の片眉がつりあがる。目つきが尋常ではない。
さっきまで麗らかだった窓の外がにわかに薄暗くなってきた。風も出てきたらしい。
「なんだいってみろ!」
「ですが博士、これでは操作がかなり過敏になります。腕や感の悪いパイロットには扱え切れません」
「直接操作系を使った特殊飛行などよほど機敏なものでないと難しいでしょう」
「整備だって、点検だって大変です。倍力装置のどれかひとつでも不良を起こしたら、まっすぐ飛べません」
「もしスポイラーが勝手に開いてしまったり、フラップが引っ込まなくなったりしたら・・・・」

「君たちは何を言っているんだ」

博士が低い声でつぶやく。
その声には怒りすらこもっている。
窓の外は…ああ、ついに振ってきたらしい。遠くから雷の音が聞こえる。
「へたくその事など知るか!操縦士が腕を磨くのは当然だ!何故鍛錬を怠っているものにあわせて機体を設計しなくてはならん!」
稲妻が走り博士が青白い後光を背負って真っ黒なシルエットになる。大きく後退した広い額に稲光が反射する。
「整備もだ!整備士が整備するのはあたりまえだ!難しいくて多すぎるから整備不良なんてただの言い訳、いや明確なサボタージュ以外の何者でもない!」
大粒の雨が窓を叩き、突風はその桟をがたがたと揺らす。外はもう土砂降りだ。
「しかし昨今未熟なものも多く・・・」
「未熟?!ナニをいっとるか君は!未熟なら寝食を忘れ鍛錬しろ!最高の飛行機には最高の操縦士と整備!当然だ!それができないのなら死んでしまえ!プロとして、マイスターとして恥を知れ!」
雷鳴をBGMに狂気の天才が叫ぶ。雷はかなり近い。
「しかし戦闘機は軍馬だとあの・・・」
「高速戦闘機はサラブレットだ!最高のサラブレットだ!」
突然すさまじい音と共に窓が開き電灯が消える。近くに落雷したようだ。しかし博士は気にもせずに叫びつづける。
「駄馬でどうする!凡百の駄馬に何ができる!よいものが難しいのはあたりまえだ!サラブレットにまたがる以上騎手もまたサラブレットで調教師もサラブレットでなくてはいかん!戦闘機も同じだ! わしは作ってみせる!俊足の駿馬を!天翔かけるサラブレットを!高速戦闘機はありきたりの駄馬ではない!芸術的なサラブレットでなくてはいけないのだ!」
吹き込む猛烈な風雨に図面が妖精の様に舞い、カーテンが荒波にもまれる海藻のように泳ぐ。そのなかでメッサーシュミット博士は ずぶ濡れになりながらも両手を振り上げ、天啓を告げる預言者のように自説を吼えつづけていた。
部下達は思った。この男・・並みの男ではない・・・と


もっと速くもっと遠く

翼構造と防弾インテグラル燃料タンク
防弾インテグラル燃料タンク断面
防弾パネル構造(上面外板を外した様子)
主翼内タンクの位置。内側のタンクは主輪とラジュエターを避けるため
変形している。

航続距離の不足。それは前作の苦い教訓であった。
今回はなんとしてもより遠くまで飛べるようにしなくてはならない。
翼形状に関してはフラップで解決したが、やはり燃料をもっと積み込めるようにしなくてはならない。
そこでメッサーシュミット博士はこれまでとは異なり主翼の桁を二本にした。
この前桁と後桁のあいだを燃料タンクスペースにするためである。
だがまだこれだけではたりない。
仮にタンクを入れるためタンクの部分のリブを中空にしても表面とタンクの隙間が無駄になる。
またリブとリブのあいだにタンクを複数入れた場合はタンクの横の部分が多くなり重量が増える。
インテグラルタンクにすると燃料は多量に詰めるが、そのようなうたれ弱い構造は戦闘機向きではない。
メッサーシュミット博士は苦悩した。
最初に考えたのはタンクを防弾にしないで防弾板をタンクと表面のあいだに押し込むことであった。
しかしこれでは表面、防弾板外板、防漏発泡ゴム、防弾板外板、タンク外板、と隣接して存在する構造が多く重量の無駄になる。
しかも防弾板は機体強度にもタンク強度にも貢献していない。
もっと別の手を考えなくては・・・
ぐう・・・
不意に腹部が雄弁に自己主張する。
そういえば朝から何も食べていない。
昼はとっくに回っている。
特に食事の用意が無かった博士は会社の食堂に赴きサンドウィッチを注文して他の社員に混ざって食事を始めた。
社長であっても平であっても仕事のあいだは同じ物を食べる。
それが彼が狂気の様子を見せても他の社員から疎まなれい理由の一つであった。
もぐもぐと咀嚼しながらサンドウィッチを眺める。
ソーセージをはさんだ丸パンのほうがよかったかな?あれなら一口で噛み切れるが、 この英国風の平たいパンにハムをはさんだ板のような構造だと・・・
ふと口の動きが止まる。
板?一枚の板?ハムをはさんだ一枚の板?実際には複数枚の構造になっているが一枚の板として扱えば・・・
「そうかぁ!そういうことかぁっっっっっ!」
口に含んでいたものをそこらじゅうにばら撒きながら博士は叫ぶと 韋駄天のごとく自室にかけていった。
珍しい光景ではないらしい。
社員達は別段驚いた風も無く食事を続けていた。
頭からサンドウィッチの喰いかすを浴びた不運なものを除いては・・・
博士は二枚のジュラルミン板で、リブと発泡ゴムをはさんでリベット固定したパネルを作り上げた。
このパネルを前桁と後桁のあいだに渡し、 パネルそのものを強度材兼防弾板兼外板としたのである。
インテグラル防弾燃料タンクの誕生である。
これなら桁のあいだはすべて燃料タンクにできる。
いや、これは機体の一部を構成することになるのでタンクという概念から外れるかもしれない。
破損した場合はパネルごと交換する。
なお桁の部分には防弾ゴムはない。
これはこのようなところに敵弾が当たるのは極めてまれであるし桁は丈夫なので角度によっては桁そのものが装甲の役割を果たすからである。
仮に桁を打ち抜かれた場合燃料漏れは必至だが、どっちにしろ桁を打ち抜かれた機体がただですむとは思えないので考慮されていない。
かくして主翼には片翼それぞれに外側タンクと内側タンクの2個計4個の翼内タンクが設けられた。
またコクピットの前部と機銃にの間のわずかなスペースにも 胴体内タンクが設けられた。
なお、タンクの前の翼前縁部には消化剤タンクがある。ここには圧搾空気ボンベとチューブの組み合わさったものが入っており、 火災時にはチュ−ブが膨張して消化剤と噴射ノズルを押し出し翼上下面に向けて消化剤が発射される。


主脚
主脚はBf109とよく似た車輪を外側に引き込むものである。
このデザインは地上での安定性が悪くBf109の欠点のひとつとして大変不評であったものである。
しかし本機でもこのデザインが継承されている。
なぜか?
これには博士のプライドがあった。
最初は博士もこのデザインは失敗だったと考えていたふしがあった。事実Me209では翼についたものになっている。
しかしFw190のBf109に対するあてつけのような他のどの機にも見られないに広い脚幅に博士の怒りに火がついた。
「ああ、メッサーシュミット氏もクルトタンクの前に自説を曲げたか」とでもいわれたらたまったもんではない。
意地でも外側収容にする!
このデザインで脚を壊れにくくして安定する方法を編み出してやる!
そう。このデザインはこのためだけに継承されたのである。
このデザインで脚幅を取るため主脚の位置はBf109より外側に20cmだけ広くなっている。
しかしこれは翼についているのではない。
胴体縦桁部分から三角形の取付金具が伸びており、その先に主脚が取り付けられているのだ。
したがって重量は胴体からかかることになり、主翼の強度を主脚のため強化しなくてよいようになってになる。
なおこの金具の隙間には機銃の銃身が貫いている。
引き込み装置は胴体内の一個のモーターにより左右のものが同時に動くようになっている。
これはモーターにかかる重量を節約するためで胴体に近いところにつけられているからできる技である。動力伝達には回転するシャフトを使う 。
また主脚柱はタイヤと重なる部分が曲げられた板状のデザインになっている。
これは次第に薄くなってきている翼形に合わせてタイヤを収容するスペースを確保するためであると 共に、タイヤが斜めにならずに垂直に接地できるようにするためである。
衝撃吸収はBf109が主脚柱に緩衝システムがあったのに対し、本機では主緩衝システムは主輪取り付け部分にスイングアームを付けて吸収させている。
まず主脚柱底部のタイヤ角変更部に付けられたアームが前方に伸びており、ここからスイングアームがまた主脚柱底部に重なるように戻りその外側にタイヤ取り付け部がある 。
このアーム同士の接合部にトーションバーが仕込まれておりここで衝撃を吸収するわけである。
なお主脚柱にも緩衝システムがあるがこちらは従緩衝システムとして働く。
タイヤは引き込み時では軸部がタイヤ角変更部と同じ位置になるが引出し後はロックが外れ約10cm下の位置に来る。
地上静止時では自重でまた軸部がタイヤ角変更部と同じ位置になる。 上には最大15cm沈みこむようになっている。
この25cmの沈み込みでほとんどの衝撃を吸収しようという構造なのだ。
この緩衝システムは結局重量増となり、引き込み装置の軽量化と相殺してBf109とあまり変わらないものになってしまっている。
タイヤホイール内にはドラム式のブレーキがあるが、これの使用はタキシング移動時の静止に限られており、着陸時の制動は 前述したスポイラー等の制動板とプロペラピッチをリバースにすることで対応している。


武装

機銃
武装としてMG151/20機銃が四門装備された。
機銃はこれのみでほかにはない。これは20mm機銃四門が要求であり、 空戦ではこれは十分に余裕のあるものと考えられ、補助機銃を搭載する事で重量増になることを嫌ったためである。
地上襲撃時に多数の機銃が必要な場合は翼面下の爆弾懸架機に機銃ポットを取り付けることができた。
機銃ポットにはMG42を3門つけたものとMG131を2門つけたもの及びMG151/15を1門つけたものが用意されたが 地上襲撃時にはここに爆弾を積むことが多くあまり使用例は多くない。
さて固定装備のMG151/20機銃だが、1門はモーターカノンで、2門は翼の付け根の胴体、もう一門は機首上面に設置された。
前から見るとモーターカノンを中心に三角形に集中して配置されたような構造になっている。
これはなるべく機首に機銃を集中する事、 翼内に機銃を配備して翼構造に負担をかけないことを目的としていた。
当然モーターカノン以外にはプロペラ同調がつけられている。
弾倉は200発入りで胴体内に4つがそれぞれ立て横に重なるように配置されている。
Bf109の場合は空薬莢受けが機内にあって少なからぬスペースを閉めていたが、本機では空薬莢はすべて機外に排出し、その分弾倉を大きくしている。
だが、この機銃配置に問題があった。DB600シリーズのエンジンには上部クランクケースの上に発電機が乗せられており、これが邪魔になるのである。
搭載予定のDB603Aもこのデザインが踏襲されるであろう。博士は電話でダイムラーベンツの社長を呼び出して言った。
「発電機を除けろ」
航空機メーカーがエンジンのメーカーに機体に合わせて設計変更を要求するなど前代未聞である。
困惑するダイムラーベンツの社長の下にもう一本電話だあった。
その電話との通話を終えた社長はしどろもどろになりながら博士の要求を全面的に呑んだ。どうやら党の偉いさんだったようだ。
無論党員である博士の差し金である。
かくしてDB630Aの設計はまたも遅れることになった。
出来上がったDB603Aはエンジンの後ろ過給器の裏側に発電機を置いてある。
これはギアトレーンをあまり変えることなく設置する為で、もとの発電機駆動歯車からシャフトを伸ばして発電機につながっている。
当初モーターカノン挿入部と干渉するのではと心配されたが、発電機中央部のくびれ部分を使って回避できた。
しかしこの位置はエンジンと機体防火壁のわずかな隙間に手をつっこんで整備しなくてはならなく、整備兵泣かせであった。
なおMe309A型は、まにあわせのDB603Aを搭載したため上面機銃は無く機銃は三門になっている。 発射ボタンは操縦桿上前部の引き金を使う。


爆弾等
本機は開発時に対地攻撃可能なことが望ましいとされていたため爆弾架も充実している。
特に東部戦線では押し寄せるソ連戦車にロケット弾や燃料爆弾の炎の一撃を浴びせる本機は「ヤーボ」として親しまれ、 やがて「ヤーボ」の声はドイツ陸軍兵士の期待と安堵とそしてその数が少ない事への怨嗟の象徴となった。
搭載方法は胴隊下と左右翼面下に250k爆弾が搭載可能になっており、さらに翼面下にはロケット弾搭載用のハードポイントもあった。
爆弾架は増槽タンク搭載位置を兼ねているため攻撃地点までの距離によって組み合わせを変えた。
もっともポピュラーなのは両翼面下に200k燃料爆弾をつみ胴体下には増槽タンクを積む装備であった。 これを低高度緩降下で投下し目標一体を制圧してしまうのだ。
200k燃料爆弾は中央に拡散用の爆薬筒があり、その周りに石油を節約するため石炭から合成したジメチルエーテルを ジャガイモからとった水あめなどでゲル状にしナフテン酸とパルチミン酸のアルミニウム塩を混ぜたものである。
投下すると摩擦式時限信管が発火して空中で爆発、高温の炎の塊を地上に叩きつけ、また燃焼により大量の酸素を奪い取るものである。
この攻撃はたとえ壕や戦車等に入っていても酸欠損害を受け、また確実な命中が無くても被害を出させるものであった。
なお攻撃地点が近い場合は胴体下にもつんだ全力爆撃も行われた
投下ボタンは操縦桿の親指で押せる位置にあり、胴体下がA(アントン)ボタン両翼面下がB(ベルタ)ボタンと呼ばれた。 翼面下の爆弾や増槽は片方ずつ落としたらバランスが狂うのでBボタンひとつで両方とも投下できる。
この二つのボタンは隣接しており全力爆撃には両方を同時押しにして爆撃する。
このことが後にもじられて、シューティングゲームでボムはABボタン同時押しというルールを定着させた事は記憶に新しい。
ロケット弾はおもにPb(パンツァーブリッツ)1及びPb2が使用された。特にPb2は有名な対空用ロケット弾R4Mの改良型で180mmの装甲を打ち抜く力を持っており 、戦車の上面攻撃にはもってこいであった。
当然対爆撃機戦ではR4Mを搭載する。
片翼6発計12発が搭載でき、セレクターの切り替えで全弾、半数、2発、1発の発射が選択できる。
ロケット弾懸架ラックは木製の使い捨てで、4箇所の取付金具で機体に接続されている。使用後は投棄する。
発射ボタンはスロットルにある。
爆撃照準はロケット弾は機銃の弾道とほぼ同じ弾道を描くように取り付けられており距離さえ間違えなければ機銃掃射の感覚で使用できる。
低高度緩降下燃料爆弾爆撃も精密爆撃とは違い面破壊なので簡単な目測照準で爆撃できた。
ただし通常爆弾を使用する場合はかなりの経験者でないと命中は難しい。
なお本機はラジュエターフラップならびにその上面を開いてダイブブレーキとして使用し急降下爆撃も可能ではあった。
胴体にはプロペラ除けの投下ロッドをつける溝まで設けられている。
ただしこの場合爆弾はかなり小型のものを使用しなくてはならず、 また登場次期にはこのような高速機で急降下爆撃ができるパイロットが少なくなっていたためほとんど使用された例はない。 (ダイブブレーキの制動の能力も大きいとはいえない)


その他

コクピット
DB603Aエンジン
過給器(後方の丸い部分)の後ろに見えるのが発電機
上面突起は真空ポンプで正面から見て左側によっている。
コクピットは与圧式で水滴状のキャノピーがついている。
これは視界がよく大変好評であった。室内は横に狭く縦に長い浅い構造をしており、 パイロットは足を前方に伸ばす格好で操縦することになる。
床面は6mmの防弾板でできており側面には5mmの、座席ヘッドレストには12mmの 防弾板が取り付けられていた。
さらに背後にはアルミ積層の22mm防弾板がある。これはBf109から受け継がれたものであるが、 コクピットが浅くなった分大きさは小さくなっている。
前方防弾ガラスは57mmキャノピー開閉部のすぐ後ろには58mmの防弾ガラスが置かれている。
また、エンジンから来た冷却水の一部は細菅で導かれコクピットの暖房装置として働いている。
開口ハッチは横に開くものでこれはもう伝統といえよう。
なお脱出のさいはコクピット開閉ハッチを枠ごと火薬で吹き飛ばしてはずしてから脱出する。
この装置のスイッチは機体外にもつけられ、不時着して閉じ込められたパイロットの救出時に使用するようになっている。


エンジン
当初の予定では高出力のDB603A(1750馬力)を搭載予定だったがDB603Aは完成が遅れてたため Me309Aでは一回り小さいDB605A(1475馬力)が搭載された。
DB605Aは760cmとDB603A(820cm)より小さいため 胴体主桁と一体化したエンジンマウント部分はDB605Aの予定サイズ似合わせて設計されてるので Me309Aでは機体後部にあるバッテリーの位置をさらに下げ、バラストも積み、マウント部分には渡しがかけられている。
Me309BからはDB603Aが搭載されMe309Cになると2000馬力のDB603Gが積まれ、最終型のMe309Eでは2020馬力のDB614が搭載された。

ドイツ的な、あまりにもドイツ的な

「これはすごい・・・・」
試験飛行中のMe309A。
引渡前なのでまだ鉤十字はかかれていない
万一に備えハッチは外してあるのに注目。
武装はまだほどこしていないようだ。
かくして設計がまとまった図面を見た部下達はみなその複雑な設計に驚愕した。
とてもじゃないがこんな機体作れるのだろうか。
「無理です・・・」
「無理ですぅ??」
博士のまなじりがつりあがる。視線が正常ではない。
さっきまで麗らかだった窓の外がにわかに薄暗くなってきた。風も出てきたらしい。
「なにが無理なんだ!いってみろ!」
「ですが博士、エンジンマウントを兼ねた湾曲した胴体主桁に強度を保たせるには相当精密な加工が・・・」
「翼面表面にゆがみがあったら特性を失う・・・よほど熟練した工員でないと難しいでしょう」
「細かな装置が多すぎます、どれかひとつでも生産に支障が出たら・・・」
「もし信頼の低い部品を使用してしまったら・・・・」

「君たちは何を言っているんだ」

博士がわなわなと振るえながらつぶやく。その口元には泡が浮いている。
窓の外は…ああ、ついに振ってきたらしい。遠くから雷の音が聞こえる。
「君たちは敵が誰だと思っているのだ!」
稲妻が走り博士が青白い後光を背負って真っ黒なシルエットになる。爛々と輝く眼光がシルエットに鬼火のように浮かぶ。
「敵ですか、それは無論英米の航空機・・・」
「違う!」
大粒の雨が窓を叩き、突風はその桟をがたがたと揺らす。外はもう土砂降りだ。
「あ、わかりました!ボルシェビキどもです!い、いやブルジョア反動も・・・・」
「それでもない!」
「わ、わかりました、ユダヤ人です、国際ユダヤの陰謀が・・・」
「君は馬鹿かね」
「え?!」
「この20世紀に非科学的なユダヤ人差別などするのは無知蒙昧な山出しの田舎者の猿だけだ!」
「でも、博士は党員・・・・」
「飛行機を作る方便だ!」
雷鳴をBGMに確信犯が叫ぶ。雷はかなり近い。
「いいか敵の名は・・・クルトタンクだ!」
突然すさまじい音と共に窓が開き電灯が消える。近くに落雷したようだ。しかし博士は気にもせずに叫びつづける。
「クルトタンクだ!にっくき敵の名はあのクルトタンクなのだ!」
「おのれクルトタンク!忌々しいその名はクルトタンクめ、わしに恥をかかせおって、一寸ばかり操縦士に人気があるからといってのぼせやがって! ドイツに天才設計者は一人だけわしだけで十分じゃっ!なにが戦闘機は軍馬だっ!なんだ!あの爆撃機用の空冷エンジンをつんだ邪道な戦闘機は! わしは認めん!ぜぇっっっったいに認めん!あんなのは戦闘機ではない!あんなずんぐりむっくりな機体は戦闘機ではない! 戦闘機は剃刀のように鋭くて触れば切れるような姿じゃなくてはいかんのだぁぁぁぁ! 見てろ!見ておおれぇぇぇっ!クルトタンク!わしの次回作がどんなものかを!このドイツ一の天才ヴィリー・メッサーシュミット様の作った機体がどんなものかを! いいか!この機体ができることに意義があるのだ!奴に見せつけることに意義があるのだ!この国がどうなろうが、戦争がどうなろうが、国家社会主義がどうなろうが知った事か! 吠え面をかかせてやる!奴にも恥をかかせてやる!クルトタンク!この次こそはお前にギャフンといわせてやるぅぅぅぅぅぅ!
吹き込む猛烈な風雨に図面が妖精の様に舞い、カーテンが荒波にもまれる海藻のように泳ぐ。そのなかでメッサーシュミット博士は ずぶ濡れになりながらも天を見上げ、地団駄を踏み、唾を撒き散らしながら、この国の最高国家指導者そっくりの身振りで罵詈雑言を叫びつづけていた。
部下達は思った。この男・・まともではない・・・と


国破れてマッハあり

かくして基本設計はまとまったものの各部の強度計算や試験などで遅れに遅れた本機の初飛行は1942年6月にずれ込んでいた。
しかし博士の茶々のおかげで搭載予定のDB603Aはまだ完成しておらず、飛行したのは急遽DB605Aを搭載したMe309Aであり、 量産次期は1943年1月であった。
Me309Aは速度665kmで20mm機銃3門ののもので、別スタッフが制作していたMe109Gより遥かに速度が速く 武装も強力であっが、しかしやはり予想通りこの機体はパイロットを選んだ。
腕の立つパイロットにかかれば猛然とダッシュし、鋭敏に方向を変えるこの機体は 大変に好まれたが、素人が扱うとまっすぐ飛ばない、曲がらない、止まらない、またはそのすべて逆というじゃじゃ馬振りを発揮し、
「かみなりマッハ」「じゃじゃ馬マッハ」「死神マッハ」「キチガイマッハ」「後家作り」等と、さんざんな言われ様であった。
1943年12月になると待望のDB603Aを搭載したMe309Bが登場。最高速度は730kmとなり、周囲をあっと言わせた。
しかしこの機体になるともはや 常人では扱える代物ではなくなっていた。
かくしてMe309シリーズはいつしかエリート専用機というようなステイタスを持つようになり 派手な個人マークや塗装を施した「だれだれ専用機」と呼ばれるMe309が各部隊に有名人を作り上げてゆくようになる。
反面乗りこなせないパイロット向けに旧作のBf109シリーズも生産が続き、 ドイツ戦闘機隊はMe309、Bf109、Fw190の三種類の戦闘機を主力とする兵站者の悪夢のような状態になっていった。
(しかもそれぞれ型が違う上、さらにこの他に局地迎撃機やジェット機ロケット機、夜間戦闘機まであるのだ)
しかもMe309は生産に非常に手間のかかるものであった。
組み立てそのものは生産性を重んじたメッサーシュミット博士の基本姿勢に変化は無いためそれほどでもなかった。
問題は材質や加工である。
わずかでも狂いのある部品や試験にパスできない材料は容赦なく返品される。
機体表面は0.001%のゆがみも認められず、 マイスターの称号を持つ職人が鑢をかけて削り上げて作り、さらにエナメルを塗ってレンズ職人に磨き上げられたものになった。
また構造的に無理のある主脚は 最高級の材料を丁寧に仕上げたものでないとすぐに折れるため特に品質にうるさいものになっていた。
このような製作工程で量産体制に入ると生産のための熟練工がどうしても足りなくなってくる。
すると博士は党のコネを使って 徴兵されている職人を除隊させ、占領地から協力的な職人も高給で集まられ、さらには強制収容所に入れられている ユダヤ人、チェコ人、ポーランド人や捕虜の中からも腕の立つ職人を集めてきた。
彼らは工場内で冷遇はされていなかった。
むしろ職人として十分な給与をもらっていた。
後に親衛隊から「預けた労働者を自由にしすぎてるという」クレームがあると今度は工場内のキャンプの設備や配給食を良くする等して生産士気を鼓舞した。
これらは何も博士が人道主義者に目覚めたからではない。
事実腕が劣ると判断されたものは泣いて嘆願しようとも容赦なくまた強制収容所に送り返された。
これは博士の能力のあるものにはそれなりの報酬は当然、腕に人種は関係ないという方針からであり、また強制や奴隷労働では質の高い仕事は無理だとわかっていたからである。
今日イスラエル政府の見解も「博士は結果的には幾許かのユダヤ人を救ったことにはなるが、それは目的でもなければ同情でもない。ただ飛行機を作るためであった。 彼がナチ党員だったのも、またユダヤ人を救ったのもすべて飛行機を作るためのもので、反ユダヤ主義者でも人道主義者でもない単なる機会主義者である」と表している。
また整備も各整備員の中から名人といわれるものを抽出した専門の整備チームが当たりこの気難しい機体をいつも最高の状態に調整することになった。
この結果Me309は数こそ圧倒的に少ないが、職人が作り、名人が整備し、エリートパイロットが乗る超高速戦闘機という位置につくことになり、 正にむかうところ敵なしの格好となる。
ドイツ機を舐めてかかり油断している連合軍機が不意に現れたたった1機のマッハのために散々な目にあうという事例も発生し、 マッハとの遭遇は不運不幸の代名詞となった。
1944年になるとエンジンをDB603Gに換装したMe309C通称「マッハ3」が登場。
シリーズ最高傑作といわれたこれは 最高速度は780kmに達し、レシプロ機としては限界に近い性能を発揮した。
(乗りこなせたのはほんの一握りのパイロットだけだったという)
ドイツ本土上空に現れたMe309Cは撃墜不可能機ととして連合軍戦爆連合の中を小魚を食い荒らす肉食魚のように思うがままに暴れまわった。
連合軍の飛行機乗りたちはめったにあうことのない本機にただひたすら見つからないように祈るしか手立てが無かったのである。
かくしてMe309は大戦末期に数々のエースに愛されそのレコードを増すことには貢献した。
しかし戦局にはまったくといって貢献する事がなかったといってもよい。
確かに本機と遭遇した不運な機はまず助からず、対地攻撃でも相当の効果があったにもかかわらずその数が圧倒的に少なかった。
生産そのものは低調ながらも順調なものであったが、圧倒的に技量のあるパイロットがたりなくなっていたのである。
さらに連合軍機が整備された飛行場を集中的に狙うことで本機を空に上げないまま無力化する戦法を取るとMe309はさらにめったに出会わない機体になった。
あのデリケートな足では荒れた滑走路からは離着陸できないからである。
(ただし本機はその高揚力装置により高いSTOL性があるため、思わぬところから不意に現れる事があった)
このような状況でもメッサーシュミット博士はすでに乗り手のほとんどなくなったマッハをさらに改良を続けた。
1945年1月にはモーターカノンをMK108 30mm機銃に換装し高高度飛行用に胴体タンクに燃料の変わりに過酸化水素水を積んだ過酸化水素水メタノール噴射機付の Me309D(実用にならず)
エンジンをDB614に換装したMe309E(通称マッハ5)などがでてきたが(Me309Eは水平飛行で800kmを出したとも言われるが公式な記録ではない) もはや生産するための物資も資材も集まらなくなっていた。
こうして自称ドイツ最高の天才航空機設計家の作品は本人いわく周りの怠慢で空に上がれなくなってしまった。
しかし最後の最後まで本機より高速のレシプロ機は現れなかった。
条件がそろった本機より強力なレシプロ戦闘機はなかったのだ。
この国も戦争も国家社会主義も本機では救えなかったが、乗りこなすパイロットがいなくては飛べ無かったが、クルトタンクがどう思ったかは分からないが、 間違いなく空にあるあいだは最強の戦闘機であるといえた。
かくして本機は伝説となった。
評価は歴史と読者諸君に任せよう。

最期にMe309を象徴的に物語る1つのエピソードを紹介しよう。
ベルリン攻防戦の際にテンペルホープ飛行場の片隅にカタパルトに載せられたMe309Eがあった。
乗るパイロットがなかなか見つからずしかも、 丈夫な主脚を作るための材料がなく脚なしで発信するためであった。
戦闘後は米軍占領地で不時着か脱出するように進められたパイロットは 居合わせたメッサーシュミット社の技師に
「貴社の新型機には足がないようだが」
と皮肉ったところ彼は
「足なんか飾りです。偉いさんにはそれがわからんのです」
と 答えた。
なおその機体は押し寄せるソ連機十数機を鎧袖一触になぎはらいありとあらゆる破壊の限りを尽くした後エルベ川に着水し パイロットは無事脱出したという。

慎重文庫 柳田国男「マッハの恐怖」より

作者たわごと

どうもでした〜。島風高雄です。
今回は炸裂する嫉妬に導かれ暴走する狂気をテーマにお送りしました。
この機体は実在するMe309とは別物です。Me209戦闘機化を早い段階で断念して作り上げたものです。
まず始めに、ドイツ版P51というところから構想を練り始め、ただしあくまでBf109の後続である事を念頭にデザイン的にチュートン的禍々しさを出す事を狙いました。
特に冷却機位置と足の位置については変えない方針を固めました。(それにあのハの字足・・・好きなんだよなァ、見た目が)
その上でメッサーシュミット的デザインなら高翼面荷重、低アスペクト比の高速機。しかも鋭敏な運動性と、そのために苦労する操作。素人には手におえないじゃじゃ馬、しかし乗りこなせたら最強・・・・
これって、あれに似てるなぁ・・・「カワサキマッハ」に・・・で、名前はマッハに決定しました(^^;;
このコンセプトで航続を伸ばすならもうフラップを工夫するしかないので私が最も好きな全翼フラップ、ロールスポイラーの組み合わせになりました。
つぎにP51的なら徹底した抵抗削減と境界層流の排除、このうちラジュエターの境界層排除バイパスはBf109Eですでに行われているのでこれをさらに発展させて翼面上に流して整流させることにしました。(コアンダ効果はネタでそれを狙ったデザインじゃありません)
つぎに700km前後での抵抗削減について考えました。P51は層流翼でその抵抗を落としてます。実はこのネタを考えるまで層流翼は知っていても、なぜ抵抗が小さいのかは理解しておらず(不勉強だなぁ)断面図を見たときもなんでこれで揚力が発生するのか疑問でした。そこで今回「航空力学の基礎」という本を買ってきて何で飛行機は飛ぶのかを根本から調べてみました。で、揚力が翼の上下に分かれた気流が後縁で同着するのでなく(こう思っていた)、後方のよどみ点に至る出発渦の影響で翼に循環が発生して上翼面の気流が早くなることを始めて理解しました(^^;;
それを踏まえた上でマーリンエンジンよりもパワーがあるがやや重いDB603Aを使ってP51を凌駕するには、この速度における新たな抵抗、遷音速時の衝撃波を何とかしなくてはいけない。そのためには最近の旅客機や音速を越えるか越えないか位のときの航空機で用いられた工夫で、ただし設計や計算、アイデアだけで実現可能なものを使うことにしてみました。
それがスーパークリティカル翼、エリアルール、ウィングレット、マッハコーンの採用でした。
特にスーパークリティカル翼は今回の要といえるものです。これが果たして計算だけで導けるかとも思ったのですが、調べてみるとほぼこれと同じ「TH翼」がわが国で昭和18年に発見されていますので可能と判断しました。ウィングレットは最高速度よりは航続延長を重視したものです。
ただ今思いますとウィングレットは反則かもしれません。この時代の飛行機すべてにおいてウィングレットを付ければ性能の改善が見込まれると思うからです。
最近では手作り模型飛行機には絶対ウィングレットついてますしねぇ・・・
もっとも、ウィングレットは本当はアスペクト比の大きなもののほうに有利ですけど(ウィングレットつけたB29なんて兇悪だろうなぁ)
低アスペクト比の本機につけても劇的なまでの効果はないでしょうね(^^;;あくまでもないよりましなくらいかな(無いほうがましかなぁ…う〜ん)
なお、ウィングレット効果をもっと高く出すためにはもう少し高くて後退してるほうがイイのですが、そこはあくまでも先駆的なものという立場からあえてあの程度のものにしています。

あと、串型やツインエンジン、または先尾翼機を避けたのは本文冒頭にあるデメリットを本気で感じたからです。あと先尾翼機って排莢した薬莢プロペラに当たらないんだろうか?

最期にヴィリー・メッサーシュミット博士の名誉のために。
この博士の様子は完全にフィクションであり、実在する人物がこのような方ではないと思います(多分)

それでは、今回の浅学な理論は正しいのか?この理屈による高速化は可能なのか?などを含め
皆様のご批判ご意見をお待ちしております。m(_ _)m

2002・9.28
島風高雄