ソヴィエト陸軍試作中戦車『DP』

試作中戦車『DP』

試作中戦車『DP』(1941)
□月□□日

 …時間だ。
 今日も、いまいましい朝が来やがった。
 ま、朝が気に入らん訳じゃあ、ねえけどな。昼だろうが晩だろうが、ここは不愉快な所に違えねえ。

 おれの名は、パーヴェル・バカトフ。
 この車輌設計室の責任者兼、設計主任だ。
 「設計室」にしちゃ、活気が無いがな。せまっ苦しいし、メシはマズいし、看守が付いて、窓には鉄格子ときやがった。
 なに、まるで監獄みたいだと?
 フザケたことを抜かしやがる。どこをどう見たって、監獄にしか見えねえだろうがよ。
 お上品に「収容所」とも言うがな。
 おれの罪状?そんなもの知るか。交友関係かなんかだろ。今さらどうだって構わねえや。

 おれの仕事は、戦車の設計だ。さすがに一人で設計はできんので、時々ここに何人か集まって、打ち合わせをやる。
 なかには、いらんヤツも混じってるがな。だいたい、曲がりなりにも設計の監視に来るなら、もう少し「それ系」のハナシができるヤツを派遣しようと思わんのか。おれのところに来るのは○○の○○○野郎ばかりじゃねえか。まったく、チェキストはどいつもこいつも○○○○だぜ。
 これで、T34の後継を開発しろってんだからな。まったく、こんな環境で仕事する開発者が、ほかにいるかよ。なに、日本のプログラマー?なんだ、そいつは?



 それにしてもコーシキンのやつ、うまくやりやがった。装甲車両局が条件に出したクリスティー式走行機構を蹴って、A-32をまとめるたあ、大した度胸だ。門前払いでもおかしくないところを、スターリンの旦那の目にとまって採用確実だぜ。
 本人は体調崩して臥せってるらしいが…まあ、お陰でこっちも腐ったクリスティーなんぞ使わずに済むってもんだな。

 コーチンの重戦車も、なかなか野心的だな。装甲75ミリとくりゃ、野砲で撃ったって余裕でハジくぜ。懸架装置も腐れクリスティーをやめて、トーションバーだしな。ただ、あの重量じゃいずれ足回りはガタつく。乗るやつにはご苦労だな、あの戦車は。

 あと戦車と言ったら、アストロフの軽戦車T40か、こいつもトーションバーだな。砲塔とエンジンを左右に配置して前輪起動と面白い趣向だが、あのまま大きくして中戦車ってわけにもいくめえよ。



 さて、おれの戦車はどうするかね。

 武装は76.2ミリか。とりあえず、30.5口径のL-11だな。KVに載せるF-32が使えればいいが、まだ数がないからな。まあいずれ換装を見越して、砲塔を広げておくか。
 砲塔を広げると言やあ、二人用砲塔の問題を忘れちゃいけねえや。T34みたく車長と砲手兼任じゃ、容積はケチれるが運用に支障が出る、周りが見えなくなるからな。スペインでT26に乗ってたおれが言うんだから、間違いはねえ。車長・砲手・装填手を乗せる三人用砲塔にしてえところだぜ。

 装甲は45ミリ対戦車砲対応か。なら前面装甲は傾斜つきで50ミリあれば十分だな。砲塔側面は40ミリは欲しいか。
 ただ、「対45ミリで、いつまで通るか」は気になるな。今のところ、イギリスの戦車砲は2ポンド、ドイツが20ミリか37ミリ、この辺なら撃たれても大丈夫だ。日本のは57ミリだが、これは短砲身で貫徹力がまるで無え。
 しかし、こっちが75ミリ級の戦車砲を採用した以上、連中も同様の戦車をいずれ出してくるんじゃねえかな。今はともかく、たとえば今回の試作戦車を審査するときにゃ、世間の常識が75ミリになってるかもしれん。また旦那の気まぐれで、防御力不足で落とされたりしたら、たまらねえやな。
 といって、今から対75ミリで設計したら重量がかさむし、今度は過剰防御だとか難癖をつけられるかもしれねえ。とりあえず、後で装甲を追加できるように、余裕を持たせとくか。

 エンジンはT34のV-2-34でいいだろう。ディーゼルは図体がでかいが、やたらと燃えるガソリンエンジンよりよっぽどマシだぜ。500馬力で30tなら、50km/hくらいは出せるはずだ。赤軍の戦闘様式からして、機動戦が多くなりそうだから、これくらいのアシは欲しいよな。航続距離も400kmくらい稼げるか。
 駆動方式は、やっぱり後輪起動かな。操縦手とトランスミッションの間が遠いと、操作が重くなるんだが、前輪起動より車高を抑えられるからな。操作伝達に油圧か電気を使えば軽くなるが、そうなると整備が面倒くせえし、なんとかテコで工夫するしかねえか。



□月□□日

 図面を手直ししてたら、知らせが入った。コーシキンのやつが死んだらしい。おれよりよっぽど若いくせに、馬鹿野郎が。くそっ、今日の作業はやめだ、やめだ。



□月□□日

 いろいろあったが、なんとか試作までこぎつけたぜ。

試作中戦車『DP』試作中戦車『DP』

試作中戦車『DP』(1940)
全長6.0m
全幅3.0m
全高2.5m
重量28t
最高速度50km/h
航続距離450km
乗員5名

装甲
砲塔正面50mm
砲塔側面45mm
車体正面50mm
車体側面40mm
武装76.2mm戦車砲 L-11(30.5口径)  7.62mm機銃 DT(主砲同軸1、車体1)


 しかしまあ、なんつうか、結局T34そっくりになっちまったな。
 一応違う点を言えば、転輪を幾分小さくして、トーションバー式で懸架していること。それから、三人用の大型砲塔を積んでることか。

 砲塔の防盾は、かなり大きめに作ってある。主砲L-11の駐退機を納めて、まだかなり余裕があるが、これは新型砲への換装を見込んでるからだ。また、防盾の下部は車体との隙間をできるだけ作らんよう、下へ張り出してある。この隙間へ砲弾が飛び込むと、車体を破られちまうからな。おかげで操縦席のハッチを前へずらす羽目になったが、これでもT34みたく正面に堂々と穴が開いてるよかマシだろうぜ。

 無線手兼機銃手は、気の毒だが上部ハッチはなしだ。床の非常ハッチか、操縦席のハッチを使ってもらおう。無線といや、乗っける無線機も数ができてねえようだな。戦車が時速50キロで走る時代に、まだ手旗で指揮させようってのか。あの阿呆どもが。

 砲塔は右に車長、左に砲手と装填手だ。車長用に大型のキューポラを付けたから、外を見やすくはなったろう。



□月□□日

 新型の76.2ミリ砲が手に入った。グラビンが開発したF-34、42口径だ。やはりT34に優先配備のようだが、こっちにも何本かいただいちまえ。とにかくL-11じゃ話にならねえからな。砲塔を改修するついでだ、装甲厚も見直してみっか。ドイツのジャガイモどもが、戦車に50ミリ砲を積み出したし、な。
 砲塔前面には、板状の防盾を追加だ。側面はそのままだが、足りなきゃ装甲板を溶接だな。車体は砲塔ほど面倒な成形じゃねえから、板厚を増やしゃいいだろ。



□月□□日

 無線機が来ねえ。何やってやがんだ、あの○○どもは。備品なしで戦車ができると思ってんのか。○○○め。



□月□□日

 こいつに名前がついたらしい。別に構わんが、決める前におれの意見を聞くもんじゃねえのか、普通。おれは責任者なんだぞ。あたまの○○な○○どもに言っても、わからんだろうが。

 それで、何になったんだ。

 『DP』? 何の略だ? なに、『ドミトリー・パブロフ』上級大将、西部方面軍司令官殿か…。悪くはない、悪くはないが、なんだか嫌な予感がするな。
 下手にゴマなんぞすらずに、おとなしく『T-なんとか』にすりゃいいもんを。まあ、あの○○○○に言ってもムダだがな。



□月□□日

 なんというか、今日は何かの記念日になりそうだ。ドイツ軍が、我が国に侵攻を開始したらしい。
 我が精強なソ連地上軍が、侵入した敵を順次粉砕している、らしいが本当にそうか? 今の戦車部隊の実情からして、とてもそうは思えねえが。ドイツのビール腹どもが、ヒヨッコの腑抜けぞろいなら話は違うがな。




□月□□日

 どいつもこいつも浮き足立ちやがって、エンジンが焼けちまったじゃねえか。キレイにおシャカだぜ。
 まったく、戦争くらい、何だ。それがどうしたってんだ。




□月□□日

 ドミトリー・パブロフ上級大将が、緒戦の敗退の責任を取って銃殺になったらしい。
 だから、言わんこっちゃねえんだよ。



□月□□日

 エ ン ジ ン が、来 ね え ぞ! あの○○ども、エンジンのねえ戦車が、何の役に、立つんだよ!
 あの○○○野郎、○○○を○○されて○○○○しやがれ、○○○○○○め!



□月□□日

 エンジンが来た。ええい、あわただしくなって来やがったぜ。



□月□□日

 こんなことになるんじゃないかと、思ってはいたんだがな。

 ドイツの戦車が、もうそこまで来てやがる。おれたちは、この『DP』で、やつらと戦うことになった。政治委員殿は、祖国の栄光とかなんとか、演説をぶったあとで先ほど後方へお帰りだ。

 もう、こうなっちゃ、じたばたしても始まらねえやな。まあ、銃剣突撃するよかマシだろ。
 おれの作った戦車がどれほどのもんか、連中に見せてやろうじゃねえか。

 エンジンは快調だな。よっしゃあ、野郎ども、行くぞ! 戦車前進!

試作中戦車『DP』試作中戦車『DP』

試作中戦車『DP』(1941)
全長6.0m
全幅3.0m
全高2.5m
重量29t
最高速度50km/h
航続距離450km
乗員5名

装甲
砲塔正面60mm
砲塔側面45mm
車体正面60mm
車体側面50mm
武装76.2mm戦車砲 F-34(42口径)  7.62mm機銃 DT(主砲同軸1、車体1)




あとがき

 うう、時間がない。こちらもあわただしくなって来ました。

 こんにちは、酒匂です。これで競作参加は三度目ですね。今回は、陸ものも参加者が多ければいいんですが。

 今回の競作は難しかったです。要求性能は落ち着いた数字だったんですが、そのせいでかえって差をつけ難くなってしまいましたか。どうも、突拍子もないアイデアが出ない体質でして…。結局、T34ソックリの戦車になってしまいました。性格としては、実際に試作されたT34改良型のT34MやT43に似たものになっています。しかし、史実ではこれらをボツにしてT34を量産した結果、ドイツを押し戻しているのですからね。この『DP』にしても、T34の代わりに生産する価値がどれほどあるのやら。

 要するに存在価値が今ひとつ見出せないのが、今回の『DP』の泣き所でしょう。戦車の開発は、数ヶ月でできるものじゃないし(大戦中のソ連にはそんな例もありますけど)、独ソ戦が始まってしまったら、新規の戦車よりT34を量産した方がいいに決まってます。これに対抗して、先を見越して大火力・重防御に作っても、当時の技術では結局KV-1みたいに使い勝手の悪い戦車ができるだけでしょうし。

 これの解決策としては、「独ソ戦の起こらない世界」を想定するという手もあります。これなら思うとおりの開発ができるでしょうね。今回は、ちょっとそこまで世界を作る余裕がありませんでしたが。

 さて、今回は設計技師バカトフ氏の独白調という形式でやってみましたが、どうでしたでしょう。とりあえず、伏せ字の多くなったのはお詫びします。
 Warbirdsで普及しているのは女性との対話形式ですが、ちょっと自信がないので。まあ、いずれやってみましょうか。

 ところでバカトフ氏、突撃して行ったけど、その後どうなったやら。この『DP』が晴れて採用されたら、彼も帰ってくるかも知れません、なんて……。

 参考文献:
   オスプレイ・ミリタリー・シリーズ 世界の戦車イラストレイテッド2「IS-2スターリン重戦車1944-1973」(大日本絵画)
   同 7「T-34/76中戦車1941-1945」(同)
   W.W.IIイラストレイテッド「戦車名鑑1939〜45」(光栄)
   歴史群像 欧州戦史シリーズVol.15「ソヴィエト赤軍興亡史II」(学習研究社)

2002年9月 酒匂135