第二次ロンドン条約の内容は日本海軍にとっては様々な意味で衝撃的であった。
個艦性能面の締め付けはそれまでの条約以上であり、これは日本軍が望む「個艦優位」による戦術レベルでの対処を否定するものであった。
最終的に軍令部が出した将来戦における編成では、水上部隊に今以上を期待することは難しく、これに対しては航空兵力の飛躍的拡大で対処するという方向性になったのである。
索敵・哨戒、更には攻撃においても航空機の比重を増す事で、水上部隊の負担比率を緩和させるしか手は無かったのである。
となると、艦艇建造においても、その主力は航空母艦へと指向するべきなのであるが、空母の性能制限は厳しく、これは大型化が予想される将来航空機の運用にマイナスであり、現状は兎も角、将来に於いては航空母艦に多くを期待することも出来ないと考えざるを得なかった。
つまり、日本海軍は、最終的に陸上基地航空機を中心とした戦力を艦隊戦力の補完として用いる事を結論したのである。
★:また無茶苦茶な・・・
S:史実より数年早いが、同じ結論は実際に下してるぞ。
★:え?
S:史実では、条約脱退した訳だな?
★:つまり、性能制限が無いことで・・・。
S:そう、それで建造されたのがマル3計画艦だった。
★:大和型戦艦・・・。
S:しかしながら、エスカレータ条項等もあって、っていうか米国が本気で拡張計画を始めた事で、個艦性能の優位では話にならなくなってきちゃう。これは米国が第二次ヴィンソン案を可決した時、つまり、あの無体に強烈な建造がスタートした時点で破綻した事が理解された訳だ。
★:もし、大陸での作戦行動が無かったら、マル4計画は、もっと沢山作れると思いますが・・・。
S:だからって、ヴィンソン案に対抗出来るはずも無い。まあ、そこらのIFを言い出してもきりは無いのだが、つまり大和が無いという事は、質で対抗するという考えが、一瞬でも成立しないという事でもある。
★:つまり数量勝負確定ですから、それはつまり敗北確定ですね。確かにそれならさっさと艦隊を諦めます。
S:さて、土俵を切り替えていく事に決まったとしてだ。
★:昭和10年ですと、九六式中攻の時代ですね。確かにあれなら適切な位置に航空基地を設営すれば何処に敵艦隊が来ても襲撃できます。
S:そう。後は中攻を初めとした、各種基地航空兵力の拡充に務めればOK。もう艦隊はそれほど要らない。
★:じゃあ、戦艦なんか造らなくても・・・。
S:ちちち、それは甘〜い。中攻の登場は、漸減作戦における各種兵力の担当っていうか期待打撃力の比率の変化でしかないんだ。
★:どういう事でしょう?
S:まあ、すっげえ単純にだ。敵戦艦10隻からなる艦隊を撃滅しようとする。今までは、潜水艦1隻、空襲部隊1隻、水雷戦隊3隻で、後は主力戦艦が5隻を食えば、撃滅完了。つまり空襲部隊が全体に占める戦力は10%ぐらい。これが3倍に強化されても3隻ぐらいしか期待できない。敵の数は今後の情勢次第では増える訳だし、条約の制限から水雷戦隊の戦力はあまり増えない。つまり、他の戦力もそれなりに強化しておかないと、やっぱり勝てないんだよ。
★:空襲部隊が主力であるとしても、その他の戦力はそれなりに必要であると?
S:戦果を得るには反復攻撃とか持続的な攻撃は必須だし、追撃も大事だ。空襲で敵艦隊を痛めつけたところで水上部隊が突進すれば、敵損傷艦は帰り着くことなく海の藻屑と化す。これは大事な事だよね?
★:それって、太平洋戦争の日本軍の組み立てそのものですが・・・。考えてみれば昔からですね。
S:日本海海戦でも同じだったよね。戦艦が敵を叩いてから、水雷部隊が追撃をかけた。この新世代の組み立ては、飛行機で叩いて水上艦が突進する。特に敵は夜間に脱出を試みるだろうから、その場合は此方の航空戦力は使えない。夜間を10時間としたら、頑張って逃げられると100〜300浬も離れちゃうから、つまり翌朝の空襲は難しい、届かない可能性もある。
★:となると、空襲戦力は一層の航続力延伸や夜間作戦行動能力の開発が求められますが、足りないところは水上艦で補うしかないですね。
S:そゆことだ。つまり新マル3計画艦は、空襲部隊と密接な協力の元に、追撃戦力の中核を担うべき、高速戦艦であることが望ましいと言えるわけだ。
では、その構想における水上艦部隊には何を求めるのであろうか?
日本軍は、日中打撃力の多くを航空機に依存する事にしたので、問題になったのは水雷襲撃部隊であった。
この水雷襲撃を完遂するのに最も有効な支援艦艇は、最終的には主力艦であると日本軍は考えたのである。
先に考案された超甲巡では、性能と数量のバランスが良くないのである。その主砲は主力艦には有効性を期し難く、また大巡を始末するにしても中途半端であると考えられたのであった。
日本軍は、あらゆる敵艦(主力艦を含む)に対して有効な攻撃力を持ち、もって水雷襲撃部隊の支援を可能とする存在は主力艦しかないと考えたのである。
この計画の利点は、この水雷襲撃支援用主力艦は、既存主力艦と共に運用する事で、遠距離砲戦等にも十二分に活用できるところにあった。
本案に対して、各方面から様々な懸念が発せられたが、まともな意味での主力戦艦を条約の制限で建造する事は叶わず、性能と数量の双方から敗北は確定的である。他国と同じ土俵で競争する危険は避けねばならなかった。
| 砲種 | 砲数 | 命中速度 | 打撃力 |
|---|---|---|---|
| 14吋砲 | 6 | 0.50 | 0.55 |
| 8 | 0.58 | 0.63 | |
| 9 | 0.62 | 0.67 | |
| 10 | 0.65 | 0.71 | |
| 12 | 0.71 | 0.77 | |
| 14 | 0.77 | 0.84 | |
| 16 | 0.82 | 0.89 | |
| 16吋砲 | 8 | 0.75 | 1.00 |
| 9 | 0.79 | 1.06 |
S:まあ、見てのとおりだ。16吋は弾道の安定性で14吋よりも優位だから命中速度で有利な訳で、これに加えて威力も大きいから、16吋8〜9門艦は14吋12門艦と同レベルのの武装重量・投射量でありながら攻撃能力では大きく上回る訳だな。
★:命中速度で対等と言えるのが14門以上ですか・・・。
S:これは射撃速度が同レベルって条件での話だから、14吋が射撃速度を向上させれば、まあ、何とかなるかな・・・。
★:弾着観測やら修正をする事を考えると、それで補いが出来そうなのは12門以上の艦の場合でしかないですし、打撃力に至っては16門艦でもないと勝てませんよ。
S:そだね、つまり16吋砲戦艦に勝つには、射撃技量を向上させた上で、射撃速度を高めた16門艦でなんとか成立するとも言えるわけだ。
★:別の言い方をすると、マトモにやったら14吋では16吋には対抗できないという事ですね。
主砲は条約の制限上14吋砲に留まらざるを得ない。現行陸奥型戦艦をはじめ、列強各国には16吋砲とそれに対応した防御を持つ戦艦が存在する。
これに14吋砲艦が対抗するには、主として防御性能を引き上げ、16吋砲弾に抗するが常套手段といえるであろう。
16吋砲戦艦の防護は、舷側装甲鈑厚さにして14吋前後に達するものもあり、その安全距離は17キロメートル前後と推算される。
同一甲鈑貫徹距離で14吋砲と16吋砲では凡そ8,000mの差が存在する。
16吋砲に対して17乃至20キロメートルの安全距離を持つ16吋砲戦艦は、14吋砲弾に対しては10乃至12キロメートルの安全距離を持つ事となる。
以上の防御性能を持つ16吋砲戦艦に14吋砲戦艦で対抗する場合、14吋砲戦艦は11キロメートルからの敵16吋砲弾に耐える防御性能、即ち20吋厚の装甲鈑が必要とされるものと推算される。
第一案に於いては、16吋砲に対して14吋砲が最大射程距離、命中界、射弾散布、及び打撃性能において見劣りするところを砲数で補い、もって全交戦距離に於いて既存16吋砲戦艦に拮抗した戦力を期待するもとす。
第二案に於いては、命中速度を16吋砲戦艦に比して一割五分割程度の優越を持つものとし、16吋砲戦艦の防護を貫徹する事が可能である条件ならば16吋砲戦艦に比して一段優位を確保する事が期待できる。
以上から、既存16吋砲戦艦に比肩することを狙うならば第一案が、優越する事を狙うならば第二案がそれぞれ至当なるものと認む。
第一案は、その必要とされる舷側甲鈑20吋厚さの製造可否の問題から、傾斜16〜17吋甲鈑とする事で同等の耐弾力を付与する事も検討対象とするも、その増大する防護重量故に機関部重量への影響避けがたく速力低下の懸念避けがたき状況にあり。
第二案は、16吋砲戦艦に優越する事を期待しうるものなるも、14吋砲をして16吋砲戦艦を貫徹しうる距離は11キロメートル程度と甚だ短く、戦術運動上著しく不利であるのみならず、その防御は25キロメートル以内において、16吋砲弾に耐える事期待せざるものなり。
即ち、砲戦開始より、我方が11キロメートル以内に接近する間、我方のみが危険に晒され、之に対する有効な解決策無き場合、第二案は実現性に欠けるものと結論せざるを得ないものと認む。
よって、第二案の目指したる16吋砲戦艦に優越する戦艦を成立せしめるために、以下の研究を進めることとす。
即ち
艦政本部が下した結論。つまり、14吋砲で既存の16吋砲戦艦の防護を貫くには10〜12kmが必要という計算は大きな衝撃であった。
この推算対象は、傾斜した14吋装甲を持つ英ネルソン級が対象と思われるが、11km内外に持ち込まないと14吋砲では致命傷を与えられず、またその距離に於いては16吋砲は50cm内外の貫徹力を発揮しうるという事であった。
上記文書にもあるように、20吋級の装甲は製造が非常に難しいのである。艦政本部では17〜18吋級傾斜で対処する事を考えているようだが、これでも非常に難易度は高く、現実的には不可能に近かった。
既に次期主力艦用として、飛躍的に製造難易度の緩和したVH甲鈑の開発が始まっており、これをもってすれば、最大26吋級までの製造も不可能ではないが、それを大面積を要求する舷側甲鈑にそのまま採用できるかどうかは未知数であり、この時点で、16吋砲戦艦と近距離で対等に殴り合える14吋砲戦艦は成立しないと言えたのである。
★:でもですね、14吋傾斜装甲なんて、つまりこの時点で最強の舷側装甲ではないですか?
S:だから、それに対抗できないと駄目だよね?
★:長門なら300mmですし、コロラドは13.5吋。どちらも垂直装甲です。
S:コロラドは16吋部分が有るし、長門は舷側装甲の裏に傾斜装甲75mmを持ってるぜ。つまりどっちにしても16吋級の装甲厚をぶち抜けないといけないんだ。
★:これに対敵姿勢を加味すると・・・。
S:そして、16吋砲は、このレベルの防御を20km弱で貫く。コロラド級の16吋主砲は12,000ヤードで480mmを抜くそうだ。つまり16吋砲は10kmで50cmを抜くんだよ。
★:そして50cm舷側装甲は事実上製造出来ません・・・。二重装甲とかにするしかないと・・・。
S:手立ては一つあるぞ。大和の舷側装甲は410mmの傾斜だ。あれなら垂直50cm級の耐弾性能も期待できると思う。ただし、あの手の傾斜装甲は砲弾の落角が小さいと効力が減るんだ。
★:どういう事でしょう?
S:例えば20度の傾斜装甲に落角0度で砲弾が突入したら、20度傾斜分でパス長は1.06倍になるんだが、これが落角15度だと傾斜装甲はパス長比は1.18倍になるんだ。更に言うと大抵の砲弾は撃角が一定レベルを超えると急速に貫徹力が落ちる。斜撃に強い構造をした九一式徹甲弾ですら40度あたりで怪しくなり、他国のは30度あたりで厳しくなってくる。言い換えるとだ、撃角35度以上になったら更に2割ぐらい貫徹性能が落ちるんだ。
★:となると・・・。20度傾斜装甲は・・・。
| 落角 | 垂直装甲 | 傾斜装甲 | 防御性能比 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| パス長 | FM値 | パス長 | FM値 | ||
| 0 | 1.00 | 1.00 | 1.06 | 1.05 | 1.12 |
| 5 | 1.00 | 1.00 | 1.10 | 1.09 | 1.19 |
| 10 | 1.02 | 1.01 | 1.15 | 1.13 | 1.27 |
| 15 | 1.04 | 1.03 | 1.22 | 1.18 | 1.36 |
| 20 | 1.06 | 1.05 | 1.31 | 1.25 | 1.46 |
| 25 | 1.10 | 1.09 | 1.41 | 1.34 | 1.58 |
| 30 | 1.15 | 1.13 | 1.56 | 1.45 | 1.73 |
S:これは比較的斜撃に強い九一式徹甲弾のFM値を参考に算出して作ったFM値推定計算式から求めたもので、まあ、イイカゲンな計算ではあるが、凡その傾向はわかるだろう。
★:落角+装甲傾斜角=撃角で、その撃角が増大すると、パス長に加えてFM値(エネルギー上抜ける速度と現実の乖離)が増大し、防御効果が絶大に変化してしまうんですね。
S:さて、距離10km前後だと、戦艦主砲は凡そ5〜10度の落角で突っ込んでくる。この時20度傾斜した装甲は、垂直装甲に比して2割ちょっと有利って事になる。
★:2割ですか・・・。この戦艦ですと50糎の装甲が欲しい訳ですから、20度傾斜で416mm・・・。大和の舷側装甲が必要と・・・。って大和を抜くのに並みの16吋砲はつまり10km近くにならないと・・・。
S:あらためて、あの戦艦のバケモノぶりがわかるな。まあ、それは置いておくとしてだ。通常の戦艦は20kmぐらいからの砲弾に対応した防御装甲だよね。
★:はい、その場合の落角は16〜18度ぐらいですから、防御効果は1.4倍ぐらいになります。
S:36糎砲の20kmでの貫徹力は、まあモノによって違うけど10〜12吋程度って話だ。つまり傾斜装甲なら?
★:8.5吋あれば、一応12吋級に相当します。傾斜角度次第ではありますが9吋あれば十分に余裕があるものと判断します。
S:そうだね、そしてそれだけの装甲防御があれば、36糎砲を20〜15kmのゾーンで完封できて・・・・。
★:40糎砲弾には25km弱までなら耐えられるでしょう。突進を図るのでしたら入射角の問題もあるので、20kmまでは何とかなると考えられます。
試製50口径36糎(以下50口径砲という)に於ける試験成績は別表の如し。
50口径砲は45口径砲に比して、砲口部威力で8%あまりの威力増進になるも、想定決戦距離20kmに於いては4%内外の威力優位になるものと結論す。
薬室拡大、砲構造の刷新を行う事で砲口部威力にて15%の改善を期待しうるものの、決戦距離での威力差は8%以内になるものなる如し。
50口径砲は以下の点で45口径砲に比して劣る。
艦政本部は、つまり50口径にすることで14吋砲の威力改善を狙ったのである。
恐らく作る前から想像は出来ていたのであろうが、威力は精々5%程度しか改善せず(これは20kmで10〜20mmの貫徹力差でしかない)強装でもしない限りは長砲身の威力を有効活用できない上に、命数や射弾散布の問題が大きくクローズアップされてしまったのである。
これらに対しては新たなる製造技術を採用する事で対処する事も考えられなくは無いのだが、それらによって得られる性能改善は微々たる物であると考えざるを得なかったのであった。
既存八八式徹甲弾に比して、新型徹甲弾は以下の如く威力が改善されている
| 砲 | 弾種 | 弾量 | 初速 | 射程 | 存勢力 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2万米 | 砲口 | |||||
| 40糎 | 九一式 | 1,030.00 | 770 | 38,450 | 37 | 12.6 |
| 八八式 | 1,000.00 | 790 | 34,690 | 29 | 12.8 | |
| 36糎 | 九一式 | 673.50 | 770 | 35,420 | 22 | 8.2 |
| 八八式 | 635.03 | 790 | 31,650 | 19 | 8.2 | |
この試験結果も興味深い。
砲を改善するよりも、砲弾の改善の方が場合によっては大きな効果を齎すのである。
勿論、これは従来型砲弾の性能が低いという事も合わせて考えるべきではある事柄なのだが、既存砲に新型砲弾を組み合わせるという方向性というか考え方には、まだいろいろな可能性が残されているという事を知らしめているとも言えただろう。
45口径36糎砲の2万mの威力は、従来の19から新型は22、つまり約16%もの改善を果たしたのである。
S:つまりだ。50口径にしても大して美味しくないぞと。
★:この成績ですと。確かに大差無いですね。命数もさることながら散布界が悪化しては、唯一の利点である手数の優位が生かせません。
S:また、砲弾の性能改善による威力増進は凄いもんだろ?
★:砲そのものの器を引き上げるのと同時に、その潜在威力を最大限に引き出す事。どちらも興味深いですね。
S:砲弾威力の向上では、米国はSHSを開発したよね。大重量砲弾の利点は日本でも認識されていたけど。精度が悪化するという事は日本では当初から懸念されていたし、事実良くなかった。九一式徹甲弾の重量比率は、つまり当時の日本がベストバランスと判断した大重量砲弾でもあったんだ。
★:確かに重巡用は1割程重たくなってますが、戦艦用は従来のと殆ど変わってません。
S:この砲弾のバランスに対しては、日本海軍は特に不満をもっていなかったようだ。実際に未成に終わった幻の20吋級砲においても、この比重で行くつもりだったそうだ。
★:では、威力増進の手は無いんですね・・・。
S:つまり日本海軍は史実では、より大口径にすることで全てを解決しようとしてたんだ。それは、この表の41糎砲の威力を見れば判るよね。36糎とは比較にならない威力差だ。しかも炸薬量も増えてるし、まあ全然強力なわけで、16吋砲に14吋砲で、何をどう弄っても対抗なんて出来るはずも無いし、それを考える事自体馬鹿だよね。
★:まあ、まともな神経があったら考えませんね。
最終的に、艦政本部は以下の仕様で進めることを結論した。
つまり、試案の第二案である。
16吋砲弾に対抗する事は甚だしく困難であるが故に、以下の方策を持って16吋砲戦艦に打ち勝つ事を狙う
即ち、命中速度の相対的優位を持って、我方の戦力が喪失する前に敵艦を完黙さしめる事とす。
命中速度の優位を確保する為に以下の方策を採用するものとす。
我方が16吋砲戦艦に対し優位を確保しうるのは12km以内の見通しである。
よって、16吋砲弾に対して危険と判断される25km以内の距離から、我方が優位となる12km以内に接近しうる迄の時間・危険に対処すべく、以下の方策を採用するものとす。
早い話、直接防御では如何にもならないから、ダメコンと主要機材の多系統化で致命傷を食い止めようという事である。この考えそのものは珍しくは無いのだが、画期的なこととして、応急処置専門の部署を新たに作るという事が謳われている。
また、船体を安定させるために、注水関連機材を用いることが決定しているが、これは意図的に浸水させるという事でもある。
応急専門部署の設置と、この構造は密接に関連しており、即ち、船体を常に常態に維持させる部門がこれらの方策の根幹を担っている訳である。
S:何か、それっぽい感じでしょ?
★:とは言っても、つまり、どういう狙いの戦艦なんですか?
S:上で記したように、主力部隊とも、夜襲部隊とも一緒に行動できる戦艦だな。
★:ええ、それは判るのですが、最大速度28ノットってのは・・・。
S:単純な話だよ。主力戦艦として用いるなら、火力や防御力にもリソースを回さないといけない。つまり馬力には回せない訳だ。
★:夜襲部隊と行動する場合にも近距離戦ですから防御力は欲しいですね。
S:そこらの妥協点が、まあ、この速度な訳だ。
☆:でもでもーっ、この防御装甲じゃ16吋には如何にもならないですよーっ
S:そう、装甲を削って、その分主砲に回した。
★:「やられる前にやる」ですか?
S:そう、16門の主砲とは、つまり金剛の倍だ。命中速度は1.4倍が狙えるから、1を越えるだろう。状況によっては分火もできるし、その場合でも夫々が金剛と対等の火力を発揮できる。
★:でも、沢山当たっても14吋では、つまり12kmまでは無力です。
S:だからちょっとした手段を考えてみたんだ。
14吋砲では中遠距離での威力が16吋砲に比して大きく劣るのは、上記新型砲弾の威力数値でも明らかである。
20kmで砲撃した場合で22:37であり、これは打撃能力の絶大なる違いとなって結果に現れると言えた。
日本の戦艦は、長門型以外は全て14吋砲であるから、この威力の問題は、非常に大きな問題でもあったと言えるであろう。
既に14吋砲弾は、僅かでも貫徹威力を高めるべく、炸薬量を少なめにして弾殻を厚くし、強度を稼いでいたが、これは貫徹後の破壊効果にはマイナスである。既存14吋砲の活用には、何等かの方策を考えるべきでもあった。
この結果。軍令部は貫徹力不足を肯定した上で、抜本的な処置を定めたのである。
物理的に見て、14吋砲が16吋砲に比して威力面で劣るは当然のことにして、悪戯に貫徹威力増進に邁進しても得るもの少なきと結論す。
過去の事例を鑑みるに、我が主力艦が貫徹能力に不安無き砲弾を得るに至ったのは五号徹甲弾と十三式信管の採用以降であり、それ以前に於いては、貫徹威力・信頼性に甚だしく不足ありて、その主用砲弾は通常弾と呼んで差し支え無きものであった。
然るに、日露戦においては、その通常弾による破壊効果によりて敵艦の継戦能力の大半を奪い、もって最終的に敵艦隊撃滅の大任を果たすに至れり。
翻って、現況を検討するに、14吋砲弾の貫徹威力不足は、即ち、徹甲弾に悪戯に頼ることなく、通常弾をもってして、中遠距離の交戦に充当する事で補いうるものと判断す。
抜けないんだから徹甲弾止めて通常弾使うと言ってるわけである。
★:また無茶苦茶な事言ってますね・・・
S:でもさ、これは、例えばドイツ海軍なんかでもやってる処置だよ。
★:まずは外側を吹っ飛ばして弱らせてからって事ですか・・・。
S:特にこの戦艦の場合は水雷戦隊との協戦も念頭に有るしね、中距離で貫徹が狙えないなら、徹甲弾は役に立たないのも事実だ。
★:近距離で使うと?
S:15km弱ぐらいからだとさ、水中弾効果も期待できるんだよね。だから中距離以遠は通常弾。接近してからは徹甲弾とすれば、それで十分だろう。
★:そして通常弾射撃ならば、つまりは手数が物を言うから、16門装備が生きてくると・・・。
次期主力艦から、応急部署を独立部署とし、専門教育を受けた要員を配し、もって艦の保全を確実ならしむるものとす。
本年度に於いては、改装復帰する戦艦に該部署を試験設置し、必要な処置権限を検討するものとす。
試験結果を待つことが望ましくもあるが、次期主力艦建造時期の問題から、試験結果を待つことなく応急部署と必要と思われる処置と装備の設定を次期主力艦に於いては進めるものとす。
即ち以下の方策を既定方針として採用するものとす。
★:つまり、水線下の装甲の外側にタンクですか?
S:後知恵ってのはこう使うんだ。これはさ、何になるかな?
★:・・・これって大鳳の水中防御構造ですね。
S:もしくはサウスダコタやアイオワのだ。
★:あ、あ、あ・・・・。卑怯な・・・・。
S:つう訳で、魚雷は大人になってから番外編として、水中防御構造の考え方を、簡単にやってみよう。
☆:はいっ、佐祐理が簡単に説明しますっ。船体外舷で炸裂した魚雷の弾頭の爆発エネルギーは、先ず外鈑を破壊し、そして、そのエネルギーが水線下縦隔壁を破壊し、大穴を空けるんですっ。
S:そして、その穴から水が入ってくるわけだな?
☆:そうですっ。隔壁が耐えられるかどうかは、隔壁の強度と、爆発エネルギーの大きさから定まりますが、隔壁でエネルギーを吸収して、以降の被害拡大を止めると共に、隔壁の背後に注水区画を置いて、浸水をそこで食い止めることも大事になりますねーっ
S:魚雷の弾頭の爆発威力は?
☆:概ねですが、隔壁までの距離の三乗根に比例して変化します。つまり、バルジ等で、水中防御隔壁までの距離を大きくすると、防御効果は物凄く強化されますっ
S:でも隔壁より外側は吹っ飛ばされるから、失う浮力は決して少なくはない。水中防御隔壁の内側には機関部や弾薬庫といった重要機関があり、隔壁の役目はそういった重要部署に被害を齎さない事。ついで船体内部にまで大量浸水をさせないという事であって、浸水そのものを零にするのではない。
☆:ですから、隔壁を頑丈にして、少しでも船体外側部分に置いて、被雷時に失う領域を小さくする事が大事になりますねっ
S:でも、そうすると隔壁に必要な重量が肥大化する。
T=95.62C0.469d-0.333
T=防御鈑厚(mm) HTもしくはDS
C=均衡火薬量(kg) 400kg以下で下瀬火薬、TNT
d=外鈑と防御鈑の距離(mm) 300mm以上
☆:えっと、この戦艦の場合ですと、水中隔壁と外鈑距離は2.5m前後で、防御鈑厚は200〜50mmですねっ。
★:均衡する火薬量は・・・平均的に400kg級ですね。
S:でだ、隔壁がそれだけの強度が必要になるのは、吹っ飛ばされた外鈑がスプリンターとして隔壁を叩くからなんだな。隔壁は二種類の打撃、つまり爆圧と外鈑が作り出したスプリンターに対抗しないといけないんだ。実験結果では600mmの水槽があればスプリンターは食い止められ、また隔壁は爆圧対抗の見地から衝撃値の高い材質が望まれるらしい。
★:つまり、この艦の場合注排水区画が偶々水中防御にプラスになっただけだと強弁するんですね。
S:うむ。注水してる状態で被雷するとだ。たぶん600とか800kg級でも抜けないかもしれないね。
★:悪党・・・。
S:ま、鍵はだ。能動的な注排水作業をするというところだ。
★:意図的に排水量を増やして、それで、常に常備排水量近辺を維持しようというのが狙いですね。
S:それだけじゃないぞ、トリムも調整して推進効率を常に一定レベルに保ち、更には左右も調整することで動揺タンクとしても用いる。
☆:ふと思ったのですけどーっ、それってば、かなりのポンプ量と馬力が必要ですよねーっ?
S:うん。だから普通に使ってる発電装置では不足するので、専用の発電用ディーゼルを搭載する。これは潜水艦に使ってる補助発電装置を複数載せたものと思えばよい。勿論別口に主機関にも発電機能は搭載する。
この艦は、長大な航続力を得るために、ディーゼルとタービンの混合動力を採用している。
ディーゼルだけで最大21ノット発揮可能である。
これを達成するために、甲型潜水艦用に開発された艦本式1号ディーゼル機械を発展させた、1号甲10型(5,500馬力)を各軸6機結合して、定格を落して運用。つまり5,500x12で66,000馬力を55,000馬力として用いる。
★:1号ディーゼルってだけで頭痛がしますが、それを軸6発・・・。
S:かっこ良いでしょ?
★:失敗作だった11号はともかく、13号とか2号とか、もっとマトモなエンジンあるじゃないですかっ!
S:13号も2号もちょっと数年早いと思うんだよね。いや、エンジンは出来上がるんだけど、使用実績が揃わないんだ。
★:それで巡潜3型の1号甲10型ですか・・・。確かに燃費だけは異常に良さそうですが・・・。
S:うん、55,000馬力発生状態でね、1時間1.35トンしか食わないんだ。
★:はい?
S:だからさ、21ノットで5,5000馬力で、それで13.5トン/時の消費なのだ。
★:待ってください。確か9,000トン積んでるんですよね? となると・・・666時間走れます・・・。えっと・・・21ノットで14,000海里
S:18ノットだと19,000浬に達するね・・・。予定の倍だな。まあロスとかあると思うんだが・・・・
★:損失が2割あっても、18ノットで15,000浬を超えます。燃料は6,000トンで良いです。
S:まあ、これも作ってから判ったという事で・・・。
計画はこうしてスタートしたのだが、誰がどう見ても、条約の制限である35,000頓には収まりそうも無かった。
ある試算によると、基準排水量は43,000トンを越え、満載排水量は55,000頓にも達したのである。
★:当たり前です。幾らなんでもやりすぎです。
S:相変わらず美汐は意地悪だ。
まずは徹底的な重量軽減策が取られた。
船体上部構造物の鈑厚の見直しと強度部材以外に対する電気溶接の大量採用。
★:無理ですね。DSやHTは溶接に向いてません。MSは強度が無いですし・・・。
S:だから、強度部材以外で採用して、主要部は鋲接だよん。
★:でも、それでは重量が・・・。
S:舐めるな。DSでは無くてCNCを使うんだ。
★:はい?
S:いや、だからさ・・・CNC
★:C入りのNCですよ、NCってノン・セメンテッドって意味ですよっ、セメンテッド、つまり浸炭甲鈑に対する語で、つまりは装甲鈑ですっ
S:うん、いい案だろ?
★:アホですかっ
S:あのDSはネルソン級の建造で開発されたとも言う。軽合金や溶接を大々的に取り入れた独戦艦も排水量制限が根底にある。このように条約による排水量制限に対する努力というのは・・・。美汐・・・首締めないでくれよ・・・
★:何処の馬鹿が装甲鈑を強度部材にしますかっ
S:日本の巡洋艦がやってるんですが・・・
★:あ・・・あ・・・ああああ・・・・
S:まあ、全部を強度材にする訳じゃないけどね、戦艦の場合は各甲板をかなり強固な鋼鈑を使ってる。これはつまりは防御にも用いる訳だから、その何割かをCNCにするんだ。甲板は面積があるからね、船体重量は結構変わると思うよ。
★:理屈はわかりました。やってやれないことは無いとしましょう。
S:判ってくれて嬉しいよ。
★:で、その製造コストはどうなるんですか? 装甲材ですよ、単なる鋼鉄じゃないんですよっ、コストと生産量を考えてますかっ?
S:条約型戦艦にコストなんて言い出してどうするんだ。頑張れば大丈夫だ。ほら、CNC2とかだって有るじゃないか。頑張れば代用材料もあるよ、うん。
技術的な努力だけでは、排水量は40,000トンにまで縮める事しか出来ないと算定された。
そこで取られたのが政治的な決断である。
つまり、米国がやっていることと同じ事をしたのである。米国艦の弾薬は平時定数と戦時定数がある。基準排水量とは、弾薬を定数搭載した状態である。つまり定数を非現実的な数字にすることで、弾薬の重量を浮かせる事ができるのである。
14吋砲弾は、弾頭650〜700kgで、装薬や薬莢も含めると、弾薬包重量は約1トンある。この艦は16門艦であり、射撃速度の高さから戦闘満載定数は一門あたり120発とされていた。つまり主砲弾だけで2,000トン近いのである。副砲や高角砲を含めると、弾薬重量は3,000トンを越える。
そして、貧乏な(この艦の建造費もある)日本海軍には、この艦用の弾薬を用意することも厳しかったのだ。よって、主砲の定数は各門10発とされた。副砲以下も同様に非常識な削減がなされたのである。戦時定数は勿論、反対の意味で非常識な数字なのが涙を誘う。
★:弾薬重量を減らして、つまり3,000トン減らすと・・・。
S:他にもあるぞ。戦時には土嚢を積み上げる予定なんだ。勿論重量には含まれない。後ね、各部に素敵な空所があるんだけど、其処には副砲とか機銃が戦時には搭載されるんだ。これらに対する防御にも臨時積載の土嚢は役立つだろう。
★:つまり、ハナから守る気無しと?
S:ドイツやイタリアみたいに4万越えてる戦艦を35,000だと強弁するのとは違うぞ。本当に35,000ぐらいになるはずだ。
★:満載で50,000超えるんですよっ、平時の35,000状態では浮かび上がってバレバレじゃないですかっ!
S:だから注水するんだが・・・。当たり前だが、速度も燃費も50,000トン状態でのスペックだからな、艦尾だけ沈めて40,000トンぐらいの状態で走ったら30ノットでるんじゃないかね(笑)
この艦は、絶大な打撃力を敵に浴びせると同時に、中近距離交戦を主体とすることから、被弾損傷が高い確率で想定されていた。
艦首に舵を設けるなど、多種の対策が講じられていたが、主体となすのは応急注水部署の設置であった。
★:さっきから何度か出てきましたが、この応急部署とは?
S:応急、つまりダメコンは、従来は副長が指揮の片手間にやるものだったんだ。しかも人員だって手空きの奴をかき集める訳で、どうしても厳しい。
★:そういえば大演習で砲塔、艦橋被弾の判定を食らった重巡が最終的に爆沈判定受けたのがありましたね。
S:最初に艦橋潰されてさ、後部指揮所の副長が指揮を受け継いだんだが、その後第一砲塔に被弾し火災発生って出たんだが・・・。
★:副長は戦闘指揮に忙しくて・・・でしたね。確か命中速度は上位だったようですから、能力の劣る後部の予備指揮機能だけでそれを出していたという事は・・・。
S:そ、手一杯だったんだろう。まあ、そういう訳で交戦しながらのダメコンは非常に大事だし、殴り合いの時に片手間にやつ余力は何処の部署にもない。
★:それが、平常航海時は船体の安定を、戦闘時には船体生存に関わる部署を新たに作るという事なんですか。
S:実際にはそんなに沢山の人員は確保できないだろうね。艦は狭い訳だし。だから緊急時には人員を他部署から駆り出す事になるんだが、この部署の人員は、つまり応急のスペシャリストなわけだ。
★:つまり、火災現場の消防隊員で、他部署の人員は消防団相当であると?
S:まあ、そういう感じになるね。専門教育を受けた人員が各損傷個所で応急指揮を取ったら、その効果は数段向上するだろ?
★:ソフトウェアとしてのダメージ・コントロールですね。
S:これと、専用の発電機を持つという事がポイントだ。これは平時は航行安定用バラスト調整に使われるけど、損傷時にはポンプ動力、つまり排水と消火の動力になるし、勿論主発電機と助け合う事で発電機能を最後まで維持するんだ。
★:えっと、この艦ってCODAS推進ですよね?
S:巡航ディーゼルは元々潜水艦用だからね、そのまま発電装置も組み込み、これと別に応急部署用発電装置を組み込む。
★:あの・・・、あの12発もある巡航ディーゼル全部に発電装置ですか?
S:まあ大半は平時は停止してるだろうけどね。12発の発電機能に、バックアップがあれば沈むまでどれかの発電は生きてるだろう。
★:潜水艦に充電できるような発電機を・・・・馬鹿ですか?
S:これは戦時には武装増設を予定している事もあるんだ。そういった増設武装の動力は電動だから、電力はどうしても確保しておかなくてはいけない。それと常に意図的に浸水させて船体を安定させるという事は、制御動力を失ったら最悪沈没の危険があるという事になる。どうしても出力だけでは無く安定性と信頼性が欲しいんだ。可能なら主機械室に別個に発電機能を追加したいぐらいだ。
応急部署の設置に伴い、船体はほぼ全域が、緊急時の注水区画として計上される事となった。
これは乗員には非常に不評だったが、船体端部の区画は常時注水と排水が行われ減揺機能として用いられる事となったのである。
★:つまり、船体の大半が、水密って事ですね?
S:どうやって交通するんだろうな、大変だ。・・・・美汐、首を締めるのは・・・
★:あ・な・た・が考えたんでしょっ!
S:うむ、配置を考える人は大変だろうな。たぶん食料庫への通路が水没したりして、戦闘終了後には食事が乾パンだけとかになるんだと、某氏が予測しておられたが、これはす的なので採用だ。
★:そして帰投した艦から乗組員が呉工廠と艦政本部に殴りこむんですね・・・・。
S:まあ、もしも採用されたら、す的ストーリーでも書くけどさ(笑)
今回の戦艦のデザインと作画を快諾してくださった巣田さん。IRCで様々な助言をしてくださった能登さん、ooiさん、舞沙Pさん、coogerさん。この場を借りて厚く御礼申し上げます。皆様のご協力が無ければ形にはならなかったでしょう。
☆:ってワケでーっ、解説と突っ込みはっ
★:たぶん、不幸の星の下に生まれたんだと思います。天野美汐が。
☆:今回は主にフォローを担当しました。魔法少女、まじかるサユリンこと倉田佐祐理。
S:そして、SUDOがお送りしましたです。ちなみに武器の名前を叩くと、それぞれの解説に飛べますのでご利用くださいませ。
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