「……」
まいったなあ、延長があるとは……
準は1回だけってことで無理矢理引っ張り出したようなもんだしなあ……
ってそっちかよ!
「……」
無言一人ツッコミ。
ちょっと虚しかった。
かといって他の連中に頼むのも…
頭の中で想像してみた。
………ろくなことにならなそうだった。というか、ろくでもないことになりそうだった。
「はあ…」
溜息がでた。
「クールなセリフ。
もうお金しか愛さない」
「帰れ!」
「うわっ! さーむら君、冷たいっ!」
「いきなり出てきて何を言っている」
「私の知ってる司は…」
「うるさい黙れ!」
「うわー、お姉さんの影響?」
「違うっ!……と思う…っつーかお姉さんとか言うな」
「久美 景 20歳、独身です」
「聞けよっ! 人の話」
「まあまあ、困ってたんでしょ。代役といえば私! 適任、適任」
「適任…かどうかは知らんが…」
困っていたのは事実だった。
「まあ、いいか」
「おまかせてっ!」
……はやまったか?
ことの起こりは……なんかもうどーでもいー気がしてきた。
ようするに十四試艦爆の仕様変更にまつわるごたごた、というかドタバタ話だ。
愛知十四試艦上爆撃機。
昭和15年10月、初飛行。
昭和16年中には試験飛行を重ね、問題点の改修も一通り落ち着き、年末ごろからは
十六試艦攻(後の流星)の開発が始められていた。艦爆と艦攻を兼ねた統合機種だ。
にもかかわらず、翌、昭和17年8月。十四試艦爆に対する仕様変更が出された。
既に採用型の生産が行われていたうえに次期艦攻(兼艦爆)の開発も始まっていたから、
実質は改良型の要求ということになる。
新型機を待つよりは既存機の改良の方が早いのは確かだから、このこと自体は別段珍しい
ことでもなかったが、愛知にとっては十六試艦攻の開発が本命だったのは当然で、なるべく
手間をかけずに済ませたかったというのが本音だった。
主な変更点は最大速度と航続距離の増大だった。
最大速度は要求仕様の10%増しで、航続距離は爆撃正規(500kg爆弾)でおよそ20%増、
爆撃過苛(250kg爆弾)ではなんと40%増だった。
「無茶言うなっ!」
「まあまあ、司君。無茶言われるのは慣れてるっしょ」
「慣れてねーよ!」
「そう?」
「…よくは言われるけどな」
速度の向上にはまず、エンジン換装というのが相場だ。
例によって『誉』が候補に挙げられたが、なるべく手間をかけたく無かったので同じ
『火星』の向上型を選択した。
「550km/hっていうのは厳しいだろうけどな。せいぜい530km/hくらいかな」
「そうなの?」
「…たぶん」
「そうなの? そうなの?」
「繰り返すな!」
愛知の十四試艦爆は元々、機内燃料(翼内タンク)の900リットルのみで爆撃正規状態の
1,500kmを、爆撃過苛では増槽(330リットル)1個使用で2,000km以上を確保していた。
当初、航続距離は最大で2,400kmという構想もあったのだが、要求仕様が2,000kmとなって
いるのだからそこまですることもないだろうと、押さえられた経緯がある。
「いや、この辺は書いてなかったけどホントの話だ」
「意味不明だよ。司君」
従って落下タンク1つで爆撃正規の1,700kmは問題なく達成できるが、問題は爆撃過苛での
2,000kmから2,800kmだった。
翼内タンクをこれ以上増設するのは構造的に大変だったので、せっかく太い胴体にタンク
を増設することとなった。
胴体後部に140リットルのタンクを増設し、機内燃料のみで爆撃正規の1,700kmを確保し、
330リットルの落下タンク2つで爆撃過苛での2,800kmを実現させた。
他にも細かい改造は機体各所に施され、評判がいまいちだった簀の子状のダイブブレーキ
は板に穴を開けたものに変更されている。
空力的洗練はかなり改善されたといってもやはり今ひとつだった。
「ちなみにこのダイブブレーキは瑞雲のものに近い」
「瑞雲?」
「水爆だ」
「水爆ぅっ?」
あ、声が裏返った。
「ああ、いや、水上爆撃機な」
「はあ………?」
「同じ愛知製だ」
「ははあ…」
改造による重量の増加はさほどではなかったが、搭載量の増加は大きく、最大装備時では
魚雷を装備した艦攻より発艦が難しかったとも言われている。
抜本的な対策として、さらなる改良型が考えられ、翼端を30cmから50cm延長して翼面積を
増し、フラップを親子式2重フラップにするなども考えられ、実際に試作もされたのだが、
さらなる重量増と速度低下を招き、さらには構造の複雑化も相まって強度的な問題が発生し
たことにより、こちらの早期展開は見込めなくなった。
「流星の方で手一杯になってたんだな。
そのままでも使えないわけじゃないから、このあたりからはかなりおざなりだ」
「でもあんまりドタバタにはなってないね?」
「おや? そういえば…」
「ここは私がドタバタに…」
「無理にせんでいい!」
っていうか既にコイツまわりでだけドタバタになってた気が…
「どうかしたの?」
「いや、そういえば随分といいタイミングで現われたよな」
「あはは、ホントはね」
そう言って、景は2つに折られた紙切れを差し出した。
それには一言だけの走り書きがあった。
アフターサービス
JUN
「なるほど」
律儀な奴だ。
「感謝するように」
「ああ」
「私にもね」
「…ああ」
「なんでそこで間があくかな、君は」
「いや、他意はないぞ」
「ところで新しい絵は無いの?」
「無い」
「立ち絵の一つも無いのは寂しかったよ?」
「いや、よくわからんけど前より質の落ちる絵が追加されるのも寂しいぞ?」
「…………」
……まずった?
「いやほら、あんまり変わり映えしないからあんまり意味無いかなーとか」
「内容も変わり映えしてないし時間も無いかなーとかね?」
「まあ、そうだが…」
「また小夜ちゃんと遊園地行こうね。沢村君のオゴリで」
「……わかった」
(この会話を離れたとこで聞いていた胃袋3分の1は、
「じゃあ、代りに胃袋さんのおごりで絵を入れとくよ」
とつぶやいた。)
愛知 一式艦爆 三二型
<要目>
全長 :10.5m
全幅 :12.8m
全高 : 3.8m
自重 :2,856kg
全備重量:4,712kg
発動機 :火星二五型 空冷複列星型14気筒(1,850hp)
最大速度:532km/h
航続距離:
爆撃正規 1,752km(500kg爆弾×1)
爆撃過苛 2,839km(250kg爆弾×1)
武装 :
前方固定 20mm×2
後方旋回 13mm×1
乗員 :2名
|