バド/マーチン IB-1 王室専用飛行艇

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バド/マーチン IB-1 王室専用飛行艇
エンジンライト R-1820 サイクロン 空冷 9 気筒(1000hp) x 6
最高速度300Km/h
巡航速度285Km/h
燃料搭載量175000 リッター
航続距離4759Km
乗員全23名
 フライトクルー5名
 一等乗客8名
 二等乗客8名
 王室2名
翼幅45m
全長28.8m
全高9m
重量25t(乾燥)、38t(全備)、45t(離水最大)

目的

イブクーロ国王とその側近に対し、長距離かつ長期間にわたる外遊を安全、快適、迅速に行いえる水上航空機を提供すること。企画製造はバド社が行い、基礎設計をマーチンに発注して行う。


背景

 イブクーロ王国は南太平洋に浮かぶ絶海の諸島からなるが、金を含む希少金属を豊富に産出すること、また地理的に洋上の要衝を占めることから絶大な国際的影響力を保持している。イブクーロは中立原則をうたっているが、その国是が実現できるかどうかは最近隣の大国アメリカ合衆国はもちろん南米各国、太平洋に多くの植民地を持つヨーロッパ各国、また太平洋の反対側に位置する日本・中国を始めとするアジア各国との密接かつ良好な関係を維持することにかかっていると言って良い。

 イブクーロはその国家規模から見ると異例に強大な海軍を有しており、その艦船は武装よりも凌波性・巡航速度・航続距離を重視した外洋志向の高速艦が多くを占める。イブクーロ王室の外遊は従来これら高速巡洋艦によって行われていたが、地理的にパナマ運河を通らなければ米東海岸(ワシントンDC)やヨーロッパへの迅速な訪問ができず、アメリカ合衆国にアキレス腱を握られた形になっていた。また太平洋を横断してのアジア・ミクロネシア方面への訪問はいくら高速艦でもそれなりの時間がかかる。

 今回の王室飛行艇発注はおそらく、緊迫の度合いが高まりつつあるここ数年の国際情勢下において、より迅速かつ自由度の高い移動手段を求めたものだと推察される。従って本機の主用目的は政治機構としての国王に安全、確実、迅速なる移動手段を提供することであるが、重臣や軍司令官も王と行動を共にし、飛行中の機内で会議などを行うであろうことは容易に想像される。また本機は単なる移動手段というだけではなく、威容を誇る高速艦隊に代わってイブクーロ王室の権限と国力を顕示する役割も期待されていると見るべきであろう。


機体設計
  1. 快適性のため最大幅 3.6m の胴体を持つ高翼飛行艇形式を採用。前部胴体は2階建てとする。

  2. 南太平洋における苛烈な運用条件下での耐久性を得るため、主構造材と外皮にステンレス鋼を採用。工作にはスポット溶接を多用してリベット穴から疲労亀裂が進行することを防止する。

  3. 動力には十分な実績と信頼性を持つライト R-1820 空冷 9 気筒 1000hp を 6 基搭載する。プロペラは三翅直径 3.6m ハミルトンスタンダード油圧式恒速式、最新のフルフェザー対応型を装備しパーシャル・エンジンでの安全を確保する。

  4. 補助動力(APU)として機体尾部に 2 気筒 4 サイクル 8 馬力のガソリンエンジンと 2000W の自家発電機を搭載し、駐機時の電力を確保する。補助動力の燃料系統は主動力と分離されている。

  5. 燃料タンクは主翼中央上部に 6500 リッター、翼内左右に各 3000 リッター、艇体中央下部に 5000 リッター合わせて 175000 リッター(総重量 12.6t)を搭載する。

  6. 燃料消費率 180g/psh とすると 70% 巡航運転時 4200hp=756Kg/h で航続時間 16.7 時間、巡航速度 285Km/h で航続距離 4759Km のクルーズ・プロファイルを得る。

  7. 航続性能確保のため、主翼はアスペクト比を高めに設定する。主翼後端にはファウラー式フラップを装備し離着水速度を低減する。

  8. 主翼端フロートは固定式で、空力よりも強度を重視しN型主支柱にくわえ補助支柱を斜めに入れて強固に保持する。

  9. 胴体尾部は絞りながら持ち上げたデザインとし、飛沫を避けるとともに気品と優美さを強調する。垂直尾翼を1枚にすると大きくなり過ぎ、見た目のバランスを損ねるため小型の3枚構成とする。


乗客設備
  1. 機首最先端は素晴らしい視界を誇る喫茶室である。

  2. 喫茶室後方は2段ベッド×2を持つ第一寝室である。

  3. 寝室後方左側には化粧室があり、右側は台所となっている。

  4. フライトデッキはフライトクルー5名を収容する。航法席横に比較的大きな空間が残っているが、ここには簡易ベッドを置きフライトクルーの仮眠用とする。

  5. 天測窓はハッチを兼ねており、駐機時にはここから機体上部への出入りが可能である。二階左舷に備えられているドアは非常時の脱出用であり、通常の昇降では使用しない。このドアは他のドアと違って後ろ向きに開度 90 度で止まるストッパーを備え、プロペラへの巻き込み防止を兼ねる。

  6. フライトデッキ後方の空間は2段ベッド×3を備える第二寝室である。一等乗客8名のうち4名は第一寝室を利用、4名は第二寝室を利用することになる。残りのベッド2つはサービスクルーが利用する。

  7. 一等客室は天井高 2m、幅 1.4m x 奥行き 2.6m の空間に向かい合わせ4席とする。ここにはイブクーロ官僚や軍司令官、また賓客が搭乗する。

  8. 一等客席後方から、機内構造の関係により床上げされている。

  9. 一等客席後方は 3.6m x 2.6m の多目的ラウンジであり、王室を交えての食事や会議に利用される。

  10. ラウンジと王室の間は二等客室であるが、医師、給仕、コック、衛兵、王室付き新聞記者など事実上サービスクルーの居室となる。最大8名を収容するが、二等客にベッドは用意されていない。

  11. 後部胴体はすべて王室専用の空間であり、王室専用の搭乗口も用意されている。王室は 2.8m x 3.6m、天井高 2.6m の贅を尽くした空間である。

  12. 安全上の理由により、王室への入室ドアは内側からのロック機構を装備しない。王室の保安は、二等客室に衛兵を置くことで対処する。

  13. 王妃、国王の部屋は中央隔壁で分離する。隔壁は棚を兼ねており前部が王妃側、後部が国王側に開口している。

  14. 国王の椅子は回転/左右にスライド可能なデラックスなものを装備する。離着水時は回転/スライド機構をロックして安全に備える。中央側のテーブルは作り付け、窓側のテーブルは折り畳み式。

  15. 王妃の椅子、テーブルは作り付け。向かい側には折り畳み式ジャンプシートが備えられており、賓客または侍女を「話し相手」に招き入れることを考慮している。

  16. 王室後方は一段床上げされた寝室であり、幅 2.4m もあるキングサイズのダブルベッドが用意されている。

  17. 寝室後方は更に床上げされ王室専用の化粧室が備えてあり、王室専用のワードローブも用意されている。

  18. 王室専属のコックが存分にその腕を振るえるよう、台所には充分な床面積と機材を装備する。食材/飲料の冷蔵用としてジェネラル・エレクトリック社製の電気冷蔵庫を装備し、駐機中でも自家発電機によって電力を供給する。





1st level(24.2K)
内部配置図
2nd level(4.4K)
内部配置図(二階部分)


懸念事項
  1. バドは列車のメーカーであり、ステンレス加工についてある程度のノウハウはあるものの航空機開発は始めてである。マーチンは飛行艇の老舗ではあるが、全ステンレス製大型機の開発は始めてであり実は基礎データなど不明な部分が多い。強度限界が曖昧な以上何事も「強め」に見積もって設計することとなり、重量オーバーが予測される。

  2. ステンレスが本当にジュラルミンよりも海水への耐性が高いのか、またスポット溶接は本当にリベット構造よりも耐久性に優れるのか、実はこれについても検証中でありいまだ実績にもとづく評価は得られていない。上記二点については絶対社外秘であり、イブクーロの顧客には万が一にも知られないよう万全の注意を尽くすこと。

  3. 二階への移動は一部垂直梯子を使わねばならないうえ、エンジン間近にあるため騒音レベルがかなり大きいことが予想される。一階寝室には一等客室8名のうち4名しか収容できず、残り4名は条件の悪い二階寝室を使うことになってしまう。イブクーロ社会には厳しい序列ルールがあると聞くので、余り問題にはならないと予想されるが…。

  4. 一等客席のラゲージスペースが少なく、機内に持ち込める書類、資料、着替えなどの量が制限される。容積的にはラウンジにロッカーを増設することが可能だが、ラウンジは団欒/懇談の場でもあるので必要性と居住性を折衷しなければならない。

  5. イブクーロは一夫多妻制だが、王妃のスペースは原則として一人分しか用意されていない。また王子の個室も用意しておらず、彼が搭乗するときは一等客室を割り当てることを前提としている。本機はあくまで空飛ぶ政治機構であり、王族が家族旅行に使う訳ではないという設計構想に基づいている。

  6. 王室−寝室−化粧室が上り坂になっているのは飛行艇の形態上致し方ない事ではあるが、居住性について国王または王妃から不評が出る恐れがある。

  7. 技術的問題と重量制限からトイレは水洗式ではなく半開放式である。イブクーロ人は非常に清潔を重んじる民族とされるのでこれが問題になるかも知れないが、今日の技術で航空機に水洗トイレを備えることは非常に困難であろう。

  8. 機首先端はガラス張りの展望室だが、統計によれば飛行艇は接岸時などに衝突事故を起こす事が多く、機首からの浸水は深刻な事故につながり得る。展望室設置によって安全性を幾ばくか損ねることになる。

  9. 浸水時の影響を少しでも下げるため展望室後方隔壁は厚めに設計し、展望室への通路は階段によって持ち上げ、ドアはなるべく小さく水密性を持つものにする。展望室への入室はいささか狭苦しいものになるが、営業的には「日本の茶室文化にならったものだ」と言い換えること。



作者からのコメント

 居住空間の整合性ばかりを執拗に追求してくだらぬ事で時間を空費し、日本出張の2日前に駆け込みで絵と解説仕上げました。面白くも何ともないデザイン、もっと面白くない解説。スランプですね。

文・画とも Copyright by Y.Sasaki 2003 09/24