双胴飛行艇「晴天」開発秘話


設計担当(以下設)「馬鹿ぁ!何でこんなモン引っ張ってきよんぜ!ウチの設計は飛行艇を1からやるる余裕なんぞないぞな。どないするんぜ!」
若手営業(以下営)「す、すいません!でも、競争参加をするフリだけでもしないと次回から指名もされないんで、それなりに相手をしなけりゃならんのです」
設「…まったく…取れんと判っとっても、手ぇ上げにゃいかんのかや…付き合いも大変やろけど、それで指名されてりゃ世話ないぞ…大体この時期はアレ(注1)の追い込みに入っとるから余裕なんぞありゃせんぞな」
営「うまいこと誤魔化せないでしょうか?アレの機体を流用するとか…」
設「アレは海軍さんの発注やけんいかんやろねぇ〜見る人間が見ればすぐモトがバレる。そうなったら国賊ぞな。あしゃ監獄でクサいメシ喰いた〜ないけんのぉ〜
営「バレそうな部分の設計を変更するとか?」
設「そ〜なるとぜ〜んぶ設計し直しになりよる。かえって手間がかからい。大体要求性能は王様がヨメさんを山のように乗せて飛ぶ機体ってコトやろ?18人乗りのアレでは随行員だけでも相当数になろうがな。アレでは狭すぎらい」
営「じゃぁ、機体を拡張するとか。大体1.5倍位にしたら20名程度名乗れそうですが…」
設「…素人はコレやから…よ〜お聞き!寸法を倍にしたら可能な限り重量を押さえても発動機は最低でも3倍強は出力がいる。(注2)アレが1070馬力×4やから全部の寸法を5割増しにしたら4発で発動機1基当たり3000馬力を超える。世界のどこを探しても3000馬力も出る発動機はないぞな」
営「ダメですか…それなら発動機の数を増やして…」
設「そうなると主翼から何からぜ〜んぶ設計やり直しや。仮に8発のバケモン作っても、発動機1基当たりの出力は1500馬力を超えよるから、アレの1070馬力では無理や。大体ウチは4発機までしか技術の蓄積がないからやったとしても、開発には時間がかかる。納期に間に合わんし、第一、今はアレの追い込みで全然手がない。」
営「…どうしましょう…今更断れませんよ…ね…」
設「身から出た錆やね…部長と一緒におあやまりにお行き」
営「…けど、開発費用はシブい海軍サンと違って潤沢ですよ。設計室が前から欲しがっていた開発用の水槽の予算も一発決裁ですよ…」
設「う…次に大型水槽は是非とも欲しい…けど、ホント手がないんよ…」
営「…すみません。無理言って…飛行艇は船みたいに簡単に繋いだりできるもんじゃないですよね…部長と一緒に謝りに行きます。では…」
設「お待ち!今何ゆうた?」
営「はぁ、部長と謝りに…」
設「その前!」
営「簡単に繋いだりできるもんじゃないと…」
設「それじゃ!」
設「アレを横に2つ繋いだらいける。重量は倍やけど、もともと飛ぶ様にできている機体を2つ繋ぐけん飛べらい。それにアレは2発でも何とかなるように設計してある」
設「あとは王様と、嫁さんのスペースを繋いだ胴体の間に作ったら居住問題は解決や。ウンウン、結構イケそうやね…。で、発動機は…」
営「イケそうですか?」
設「ああ、問題は発動機やね。1600〜1800馬力級の発動機があるかなぁ〜ウチでは作っていないからなぁ〜」
営「輸入すればどうでしょうか?」
設「へ?」
営「もともと海外用の機体ですから、全部国産にする必要ないじゃないですか。国産の発動機についてはあまり良い話を聞きませんし、国内競争他社にこっちの手の内を見せる必要もありませんし…」
設「…なるほど…確かに外国製ならある。中島や三菱を頼らなくてもいいのは気分がええね。大体連中ときたら…」
営「輸入はこっちに任せて下さい。三井にコネがありますし、何ならイブクーロ国経由で輸入だってできますよ!」
設「よっしゃ!ただ、アレの片手間の設計になるし、海軍から文句が来たらその時点で開発中止や。モノにならんてもおこらえよ」
営「十分です!助かった!けど…」
設「なんぞな?」
営「コレって先日泰山(注3)が大風呂敷広げた双胴爆撃機みたいですね…」
設「フン、先に作った方の勝ちよ!こっちは半分完成しとるんやけん、絶対にこっちが早いワイ」

かくして、パクリ&流用&妥協の産物であるイブクーロ国王専用飛行艇(開発名:「晴天」)の開発が決定された。尚、開発の「せいてん」だが、誰かが漢字表記を右読み(当時は当たり前だ!)し、以後「あっぱれ」と呼称されるようになる。イブクーロ国には提案名「Sunny」と直訳で説明がされた。まぁ、「あっぱれ」も直訳すれば「Excellent」なので提案名としては適当だが…

設計担当者が当初懸念していた開発の遅れも、開発の最終段階に入っていたアレ(後の97式飛行艇)の進捗が順調に進んだため、手が空いてヒマになったが、かと言って仕事をする気にもならない設計者連中が面白半分にあれこれ手を入れ、最終的には97式をベースとしながらも、全く別の機体に仕上がった。側面図から見れば97式と後の2式の中間的なデザインで、この間の「手の入れよう」が容易に予想される。
このため懸念された「軍機」の件も、双胴飛行艇という特異なレイアウトも手伝ってか、海軍関係者からは全く別の機体と認識され(注5)、海軍からは何のお咎めもなかった。
このような経緯で制作された機体は往々にしてハズレが多いのだが、
・軍用機でないこと
・堅苦しい枠にはめられていないこと(アレの要求性能が高すぎる)
・アレの開発で技術的な蓄積があること
・外国製発動機で出力にかなりの余裕があったこと
・設計者が「奥さんを山ほど乗せて豪遊する」というコンセプトを「男のロマン」と妙に理解したこと
etc
等の理由で(豪遊用としては)実に優秀な機体となった。
開発従事者の1人、件の某田舎弁丸出し氏は語る
「やっぱ、ヨメさんをよ〜けこと乗せて、ゆったり飛ぶとゆ〜要求が設計者の心をくすぐったんやと思うね。美人(と勝手に決めているところが…)のヨメさんをたくさん持つのは男の夢やし…当時世間は戦争一色やったから、戦争と全く無縁の機体を設計するとゆ〜のはヨメさんを差し引いても十分魅力的やったと思うよ。」

蛇足だが、「本機の制作のため」と制作された使用された大型水槽は後の13試飛行艇の設計に大きく寄与したそうである。
また、本機に味をしめ「2つつなぐ」ことが設計室で流行し、13試飛行艇を2機繋いだ「あっぱれU」や、「対風」、「対電」、「対電改」、戦後新明和工業となった後のPS-1の双胴型「あっぱれV」が設計室内で密かに設計されていたそうである。(「あっぱれVVer13」は最近の国際情勢をふまえ、日本海用にエンジンをジェットに換装して製造が進んでいるとの極秘情報もある。)

「晴天」派生型について、件の開発従事者は「P51の双胴型も、ウチ(川西)の双電改の設計図を見たアメちゃんがパクったもんよ。何せウチは昭和10年から開発しとるけんね。あしゃぁ〜終戦で仕事ものうなったけん、兄貴のおる郷里の松山に帰って、畑を耕しよったらジープに乗ったMPがやってきて有無を言わさず、吉田浜から輸送機で厚木に連れて行かれて向こうの技術者(注6)に対電改についていろいろ聞かれましたわ。まぁ、こっちも ヒマやったからいろいろ教えてやったけど…なかなか面白いヤツやったね。謝礼はコンビーフとかコーヒーとかチョコとか…手に入らんモノばかり。もぉ帰ってこれんとメソメソ泣いとったヨメさんも子供も大喜びでしたわ。あしも洋モクをたくさんもろたんで、スパスパやっとったんやけど、洋モクが切れた後の国産のたばこはまずくてまずくて吸えませんでしたわ」と楽しそうに語った。

「晴天」緒元
全幅:55.0m、全長:30.7m、総重量:37,400kg、
最大速度:320km/h 4,000m、発動機:BMW801A 1600馬力
乗員:6名、乗客60名(最大)、航続距離 3,500〜5,000km

注1:97式飛行艇のこと
注2:これは暴論。実際はそれほどでもない
注3:新鋭のメーカーらしい
注4:エンジンは比較的簡単に交換できるため、BMW801TQやBMW802もイブクーロ国で換装・運用されたらしい 注5:意図的に無視されたと言う海軍G氏の著作あり
注6:ケリー・ジョンソンではなかったかとの説がある(あまりにもできすぎである)