愛知 十五試水上戦闘機


F:はい、みなさんこんにちは。フィリス・矢沢です。
R:ハイ。リスティ・槙原だ。
  で、なんで恭也じゃなくて私なんだ?
F:……その、基本的に無口な人ですから……
R:ああ、ツッコミ役が欲しいんだな。よし、まかせろ!
F:いえ、あの無理しなくても普通でいいですから…
  って、なんでそんなにいきなりやる気満々なんですか。あなたは?
R:遠慮するな。かわいい妹の頼みだ。
F:ああ、いきなり人選ミスの気配が…
R:それじゃあ、いってみようか!
F:…十五試水上戦闘機です。

R:スペック的には強風対抗、開発スケジュール的には二式水戦対抗ってところか?
F:えーと……はい。概ねそんなトコロですね。

R:まず、時間がない。
F:発令が15年8月発令、試作1号機納入が昭和16年10月ですから……
R:14ヶ月か。慣れないことやってたら間に合わないかもな。
F:水上機に慣れていて特殊なことをしなければ間に合わないことはないですよ。
R:無理して間に合わせてもトラブル続出で使い物にならないなんてよくある話だよな。
F:あ、ある程度のトラブルはあるのが普通ですし……
R:そのトラブルの対応で結局余計に時間かかったりするんだけど、
  こりずに何度でも繰り返すのはなんでかな?
F:ああああ……
R:それで採用されるころにはもう使いどころが無くなって
  局地戦闘機に改造されることになるんだな?
F:リースティー!!

R:……じゃあ、機体についてだな。
F:水上機で最大速度500km/h以上というのは、厳しい要求ではありますね。
R:無理じゃないのか?
F:そんなミもフタもないこと言わないで…
R:そりゃ速いにこしたことはないが、どっちにしろ陸上機に速度では勝てないんだから
  それにばっかりこだわり過ぎるのも無駄だぞ。
F:それは………そうなんですけど……
R:480km/hも出ればいいんじゃないか? だいたい要求仕様に届かないのはいつものことだし、
F:届いてることもあります! ………たまには
R:それに水上機乗りってヤツは偏屈なのが多いから…
F:……それは…偏見だと………
R:表面的なカタログスペックよりはむしろ、扱い易さとかいざって時に無理が利くかとか、
  そういう方が重視されるぞ。小型で身軽で無茶な動きができるような。
F:現場ではそういうこともあるかもしれませんけど……
  要求仕様は要求仕様として、満たす為の努力も必要ですよ。
R:航続距離1800kmっていうのは、強風がほぼ2000kmであること考えればそう無茶じゃない。
  水上機ならフロートにも積めるし。
F:……どうしてあなたは人の話を聞いてくれないんですか
R:ちゃんと聞いてるじゃないか。次は武装だろ?
  武装の要求は普通だな。
F:……それと、上昇時間が5000mまで6分以内…と。
R:フロート付きでそれは大変そうじゃないか?
F:邀撃用ですし……
R:大馬力エンジンでパワーで引っ張り上げる方向か。


愛知 十五試水上戦闘機
N1A
<要目> 全長:10.5m  全幅:13.8m  全高:4.8m 自重:3,200kg 全備重量:4,800kg 発動機:熱田 二一型液冷倒立V型12気筒(1,010hp)×2 最大速度:512km/h  航続距離:1,800km 武装 :20mm×2、7.7mm×2 or 20mm×4  60キロ爆弾×2 乗員 :1名  初飛行:昭和16年8月  飛行場未整備の外地における邀撃用戦闘機として計画された水上戦闘機。  熱田の双発、単フロートという、ある意味思い切った機体。  愛知では小型水上機にそれなりの実績もあり、発動機も自社の熱田を使用する 方向性で競作へ参加を決定したようだが、予想通りというべきか、問題が続発し、 戦力化はずるずると遅れていくことになる。
F:…………… R:……それで結果がどうしてこうなるかな F:……今まで言ってきたことが…… R:まず双発という時点で邪道だな。   そのうえ双発で単フロートって時点でもうどうしようもない。 F:ああ、そんないきなり最初からとばさないで! R:単フロートにしたのって意味あるのか? F:戦闘機ですから空中での運動性を重視して…… R:大型化する双発にしておいて今更という気もするけど? F:だからなおさらです。機体も極力小さく軽く。 R:双発だとエンジンが倍必要だし、燃料も余計に必要だし、整備の手間もかかるし F:それは……そうですけれど……パワーが少しでも欲しかったからでしょう。   こういう選択は他にも見られます。 R:アツタだから稼働率とかも酷い事になる可能性大だし。 F:それは、結果論であってこの時点では…… R:これって、サイズ的にもエンジンぎりぎりの設計だよな。 F:エンジン換装はたぶん考えられていませんね。 R:後で変えようと思ったら、ヘタしたら主翼作り直しだな。 F:換装するつもり無いんですよ。きっと。 R:首無しの飛燕とか彗星とか、後で金星に換装してたけど…   ましてや、コイツ双発だし。 F:足りなくなるほど数造られないですよ。…たぶん。 R:……いいけど、陸上局地戦闘機に改造するんだろ。 F:………その時はどうせうまくいかなくて大幅に作り直しに……うう… R:泣くほど無理して言い訳しなくても…… R:まあ、スペック的には概ねクリアしてるんだよな。 F:そうなんです。図は試作1号機のもので、武装も要求通りですが、   後に20mm×4に強化されてさえいます。 R:用途が邀撃及び小型艦艇攻撃なんてことになってるしなあ。 F:エンジンの、というかプロペラ位置の関係で、フロートの支柱が   随分長くなっていたりしますけど…… R:このへん、双フロートにすればいろいろと解決するんだけどな。 F:後々、確かに稼働率などに問題は出そうではありますが、   スペック的には悪くないですし、そのへんは現場の努力で…… R:稼働率悪いってことは整備性も運用性も悪いってことだし、機体自体扱いにくそうだし、   結果論で言えば前線ではまず間違いなく使い物にならないぞ。 F:っ!! だだだ、だからそういうことは…………… R:これにこりたのか、瑞雲も晴嵐も単発双フロートの形式になってるしな。 F:……別にこれにこりたからというわけじゃないと思います。 R:あとは陸上機化計画か。 F:そうですね。 R:まず、水上機を陸上機化するのが邪道だよな。 F:また、あなたはそういうことを! R:まあ、計画としてはフロートとっぱらって脚付けるだけにしたいよな。 F:主脚を格納するスペースが非常に厳しかったようです。 R:図に陸上機化した時の脚の位置ものってるけど、無理矢理収めるスペースを拡大してるな。 F:計画値では速度は軽く600km/hを超えるということになっています。 R:あくまで計画値だな。 F:他にも垂直尾翼を少し低くおさえるかもしれません。 R:あと、フロートが無くなるのはいいけど、その分燃料の搭載量が減ってるから   このへんはドロップタンクで補うんだろうな。 F:今回は陸上機化を前提ということで、実質的に飛行艇の選択肢が消えましたね。 R:……かなりの無茶を覚悟すれば無くは無いんだろうけど。 F:それだと計画書自体、通らないと思う。 R:でも実際は結果的にほとんど造り直しってケースが多いんじゃないかな。 F:………(あたってるかもしれない) R:ところで、そもそもこれ没案じゃなかったのか? F:……ええと…そういうことも言わないで。 R:他にもネタはあったろ? F:単発単フロートの案もあったんですが… R:ああ、ラジエターの配置がどうとか言ってたヤツな。 F:支柱に埋め込むという案は、後で局戦化する時に無駄が多くなるということで R:……ははあ F:それで単発双フロートにしたら…… R:双フロートにしたら? F:晴嵐と見分けがつかなくなってしまって……… R:あははは F:笑いごとじゃ、ないです。   火星使ったら強風と差別化できないし…… R:ようするに時間切れか。