十五試水上戦闘機 渡辺 N1W1 案

概要  昭和十五年八月、日本海軍は南方侵攻作戦を不可避と判断し、未整備外地に おける防衛用戦闘機として水上戦闘機の要求を提示した。ただ、その内容が これまでの航空本部方針とかなり変化していることに留意されたい。
機種 航本性能標準・水上戦闘機 航本性能標準・水上戦闘機兼爆撃機 今回要求
使用別 水上機母艦 基地 飛行場未整備の外地基地
用途 1) 敵戦闘機の撃破
2) 敵攻撃機及び飛行艇撃破
1) 局地防空
2) 軽快艦艇、飛行機撃破
3) 哨戒
1) 邀撃
2) 小型艦艇攻撃
座席数 1 2 指定無し
特性 1) 速力、上昇力優秀なること
2) 極力格闘戦性能の向上を計ること
1) 敵攻撃機及び飛行艇を撃破し得ること
2) 急降下爆撃容易なること
3) 夜間空戦を重視す
4) 基地所在飛行機に対する銃撃に適すること
指定無し
最高速力 350kt(648km/h)以上 300kt(555km/h)以上 500km/h以上
航続距離 高度6000m 正規高力馬力にて1.2時間
巡航速力にて6時間以上滞空
高度6000m正規高力馬力にて1.8時間
巡航速力にて6時間以上滞空
1800km(最大)
武装 20粍固定銃2又はモーターカノン(各銃60発以上)
7.7粍固定銃2又は13粍固定銃2(各銃300発以上)
指定無し 20mm機関銃×2+7.7mm機銃×2以上
爆弾 必要に応じ三番爆弾 二個搭載可能なること 指定無し 60kg×2以上
上昇時間 指定無し 指定無し 5000mまで6分以内。
特記事項 (1) 将来的には陸上局地戦闘機に改造可能な設計とし、その計画図も提出すること。
(2) 試作1号機を昭和十六年十月までに納入すること。
主任技師:・・・なんなんですか、この変貌ぶりは。 (兼空力担当)   課長:離着水条件と最大速力を緩和する代わりに、水上戦闘機以上の航続距離と、水上      戦闘機兼爆撃機の能力を持たせた汎用機を作ってくれ、ってとこだろう。 主任技師:だからといったって下駄履きでは揚抗比が悪化しますし、250kt以上の高速機すら      うちでは経験がないんですがね。   課長:まあ、とにかく概算だけは頼むよ。それでうちで作れるかどうかという実現性が      あるか否かだ・・・。 概算(全ての戦術機は武装を目的地まで運ぶために存在する・・・)
・航続距離の推算方法  航続距離=75.0×3.6×プロペラ効率/燃料消費率(kg/HP/hour)×揚抗比×   ln(巡航開始重量/巡航終了重量)  ちなみに、巡航開始重量 - 巡航終了重量が燃料重量であることはいうまでもない、 のだが ・ポンプが全燃料を吸い上げることが出来ないロスがおよそ3%。 ・予備燃料として5% ・暖気・離陸による消費が3% ・巡航開始高度まで上昇する間に1.5% の余裕を見込んでおかねばならない。 主任技師:えーと、ペラ効率と巡航燃費は空技廠経由で手に入れた十二試艦戦で      使われた値を使わせてもらうと・・・  75.0×3.6×0.765/0.24×揚抗比×ln(巡航開始重量/巡航終了重量) = 1800  860×揚抗比×ln(巡航開始燃料/巡航終了燃料) = 1800  揚抗比×ln(巡航開始重量/巡航終了重量) = 2.09 と言う事は・・・
揚抗比巡航燃料比率全燃料比率
80.230.26
90.210.235
100.190.214
110.170.195
120.160.185
130.150.17
140.140.16
・機体規模の確定 機体全備重量=武装重量/(1-(構造重量比 + 推進系統重量比 + システム重量比 + 燃料重量比)) と定められる。このうち、構造重量比、及び推進系統重量比、そしてシステム重量比は 戦闘機においておおよそ0.25、0.40、0.10であることがほぼ経験的に確定している。 そして、燃料重量比が約0.2であるところから、機体全備重量は武装重量/0.05、と 推定されえる。ではその武装重量を算出してみよう。 60kg爆弾×2   =120kg 20mm機銃×2   = 46kg 同60発弾倉×2 = 40kg 7.7mm機銃×2  = 24kg 同弾薬300発×2 = 48kg 合計 278kgを0.05で割って、全備5560kg、約6トン弱の規模と想定される。 主任技師:しかし、支那での空戦の時には7.7mm300発を打ち尽くした、とされたんだよな。      450発にすると、武装が24kg増えるから、全備で480kg増えて全備6040kgか・・。      揚抗比を上昇させて、燃料比率を0.17・・・にするのも苦しいよなぁ。十二試      艦戦で巡航揚抗比約13だから・・・。残るは翼面積を削って軽量化を計る位しか      ないけど、それでも構造重量比は0.23になるかどうかだ・・・。      燃料比率を0.19、構造重量比を0.23でやってみるか・・・。      302/( 1 - ( 0.23 + 0.40 + 0.10 + 0.19 ) ) = 3775kg      これならなんとかいけそうだ。翼面積を削ったツケを高揚力デバイスで      取り戻せるか否かにかかっているわけだが・・・。
主任技師:課長、大体四トン弱の機体になりそうですね。もっとも、今後の仕様追加が      なければの話ですが・・・。   課長:機作練の倍か。うちの手には難物になりそうだが、やってやれない事は      なさそうだ。んじゃ詳細設計に入ってくれ。
詳細設計
このようにして以下の図面が引かれた。
諸元
全長11.7m
全幅13.1m
全高5.4m
翼面積26m^2
発動機護11型
武装60kg爆弾×2(翼下)
九九式20mm機関砲(60発弾倉)×2(外翼内)
九七式7.7mm機関銃(450発弾倉)×2(外翼内)
九二式7.7mm旋回機銃×1(後席乗員操作)3弾倉291発
最大速度540km/h(高度4900m)
航続距離1965km・巡航速度270km/h(高度4900m)
上昇時間5000mまで4分26秒(6000mまで5分27秒)
全備重量3900kg
備考離水速度130km/hから海面高度における最適上昇速度210km/hまでの加速時間は約5.6秒

主任技師:んでもって、陸上機案も同時に出さなきゃならないんですよね、今回は。   課長:ああ、計画図なんだから最高速度と脚の位置だけ提示すればいいと思うんだけどな。 水上戦闘機型主翼 陸上戦闘機型主翼 陸上局地戦闘機型側面図(案) 主任技師:フロートが撤去されて代わりに脚が付いて差し引きほぼゼロ。      揚抗比が14.2になる代わりに燃料容量が約200L減るから、      燃料重量は800L*0.73=584kg。燃料重量比は584/( 3900 - 200×0.73 )=0.16      巡航燃料率が0.14      大体航続距離やや増、ってとこだろうな。
諸元
全長11.17m
全幅13.1m
全高4.3m
翼面積26m^2
発動機護11型
武装60kg爆弾×2(翼下)
九九式20mm機関砲(60発弾倉)×2(外翼内)
九七式7.7mm機関銃(450発弾倉)×2(外翼内)
九二式7.7mm旋回機銃×1(後席乗員操作)3弾倉291発
最大速度606km/h(高度4900m)
航続距離2294km・巡航速度280km/h(高度4900m)
上昇時間5000mまで3分57秒(6000mまで4分51秒)
全備重量3754kg

あとがき  正月からのスタートとしては結構いい線まで追い込めたと思います。 最初からハ104使ってたらどこまで速くなったやら・・・。 まあ、パワーは正義ですね。  翼面荷重が十五年度の海軍戦闘機としては150kg/m^2と結構高めですが、 この機が積極的に相手をするのは敵爆撃機、敵哨戒機ですから、より 攻撃機会を稼ぐべく速度に振るべきだと考えました。
ミス訂正。  なんつーか、零高度出力は間違えてるし、陸上機型の重量は間違えてるし、 2400-4900間の距離も間違えてるし(ていうかこの所為でトンデモな上昇時間になるし) 初稿ではミス多々ありました。 んでもって、計算ミスを修正したついでにあとがき追加。 SUDOさんから突っ込まれた >上昇時間 >投稿日 1月16日(金)11時44分 投稿者 SUDO >離陸滑走時間は計算してますか? >良く判らないけど、海面を走るのは滑走路走るよりも加速遅いと思うな。 に関して上昇時間に離水時間を入れるのかどうか知識が無かったので 「まず入り得るのかどうか」を調べてみることにしました。
 強風の上昇時間が3000m/3:05・4000m/4:14・5000m/5:32という値を 見つけたから、これが一つの目安になるな。つまり、強風の「零高度から 5000mまでの上昇率積みあげ」から、実上昇時間を引けば「停止→離水→ 最適上昇速度に加速するまで」の時間が得られる。  翼面荷重が同等な上、強風の離昇馬力荷重2.4に対し、拙作は2.08だから 停止→離水は強風の値を使えば十分な保険になるな。そして、離水→最適 上昇速度の加速シーケンスは確実に馬力荷重で反映するだろう。
と考え、上昇率積み上げ推算と実測値を3000、4000、5000の各高度で比較して みたところ、ほぼ完全に一致し、どうも上昇時間の記録に離水時間の余地は 残ってない・・・との手応えを得ました。 # 同時に、最適上昇時、強風がペラの美味しい領域を使えて居ないことも確認しました。 さらに後押しが欲しくて手持ちの本を漁って見つけたのが以下の記事。 丸メカ第16巻「九六艦戦&零観」に三菱のテスパイ、新谷春水氏の記事がありました。 離陸は離陸でまた時間を計るとあります。 「離陸試験」より抜粋。 > われわれはギリギリ一杯のやや危険な離陸を行うわけで、 > 離陸時間および、要すれば距離も、地上の計測員が計測する。 さらにもひとつ。その中の[上昇試験]より抜粋。 > 試作機の段階において各高度における最良上昇速度が計測されている。 > すなわち、地上付近、1000m、……というように各高度の最良上昇速度に > 合わせつつ全力上昇をつづける。  やっぱり停止状態からではなく、ゼロ高度最適上昇速度から 計測スタートするみたいです、というわけで、  どうやら、護と天山ペラの組み合わせは本当に5000m/4:26という上昇時間を 持った下駄履き戦闘機の可能性を見せてくれるようです。
さらにささきさんの突っ込みより。 >「水戦の第一任務は敵爆撃機の迎撃」と割り切った選択は正しいと思いますが、 >だからと言って戦闘機との空戦性能も無視する訳にはゆかないでしょう。  それでも史実強風並みの翼面荷重、そして層流翼を使っていないので 恐らくは対戦闘機戦も問題ないでしょう。 参考までに。我が渡辺案の推算旋回性能も出しておきます。 最大維持旋回(機体重量3900kgで計算)@4900m 500km/h:ペラ効率0.90:2.31G(CL=0.44) 半径:878m 旋回時間:39.72sec 400km/h:ペラ効率0.85:2.80G(CL=0.86) 半径:449m 旋回時間:25.40sec 300km/h:ペラ効率0.80:2.81G(CL=1.49) 半径:260m 旋回時間:19.60sec 250km/h:ペラ効率0.80:2.58G(CL=2.03) 半径:189m 旋回時間:17.17sec # つまり300km/hで失速ギリギリ、250km/hではフラップなり # スラットなり使う必要がある 最大維持旋回@4200m 500km/h:ペラ効率0.90:2.01G(CL=0.38) 半径:975m 旋回時間:44.13sec 400km/h:ペラ効率0.85:2.75G(CL=0.80) 半径:457m 旋回時間:25.84sec 300km/h:ペラ効率0.85:2.83G(CL=1.46) 半径:250m 旋回時間:18.87sec 250km/h:ペラ効率0.75:1.87G(CL=1.87) 半径:195m 旋回時間:17.71sec # つまり300km/hで失速ギリギリ、250km/hではフラップなり # スラットなり使う必要がある 最大維持旋回@1400m 500km/h:ペラ効率0.90:1.48G(CL=0.20) 半径:1329m旋回時間:60.14sec 400km/h:ペラ効率0.90:3.33G(CL=0.72) 半径:377m 旋回時間:21.33sec 300km/h:ペラ効率0.85:3.42G(CL=1.30) 半径:206m 旋回時間:15.57sec 250km/h:ペラ効率0.80:3.18G(CL=1.75) 半径:154m 旋回時間:13.96sec # つまり250km/hではフラップなりスラットなり使う必要がある (以前に掲示板に張った奴は機体重量を単座案の状態・・・3775kgで計算してました) 維持旋回能力・零戦二一型(機体重量2421kgで計算)@4900m 500km:ペラ効率0.90:1.77G(CL=0.25) 半径:1111m 旋回時間:50.29sec 400km:ペラ効率0.85:2.89G(CL=0.63) 半径:436m 旋回時間:24.66sec 300km:ペラ効率0.80:2.94G(CL=1.15) 半径:241m 旋回時間:18.17sec 250km:ペラ効率0.75:2.72G(CL=1.53) 半径:180m 旋回時間:16.34sec 零戦二一型@4200m(つまり栄一二型の全開高度) 500km/h:ペラ効率0.90:2.20G(CL=0.30) 半径:894m 旋回時間:147sec 400km/h:ペラ効率0.85:3.21G(CL=0.67) 半径:392m 旋回時間:22.19sec 300km/h:ペラ効率0.80:3.20G(CL=1.19) 半径:220m 旋回時間:16.6sec 250km/h:ペラ効率0.70:2.85G(CL=1.52) 半径:172m 旋回時間:15.59sec 零戦二一型@1400m 500km/h:んな速度出ません 400km/h:ペラ効率0.90:2.83G(CL=0.43) 半径:444m 旋回時間:25.10sec 300km/h:ペラ効率0.85:3.37G(CL=0.92) 半径:210m 旋回時間:15.83sec 250km/h:ペラ効率0.80:3.21G(CL=1.26) 半径:153m 旋回時間:13.86sec  まず、高翼面荷重機は低高度高速で戦うべきだ(大気が濃くなり、 必要な揚力係数は低くなるが、低翼面荷重機=大翼面主翼機であり、 高速ではなおさら抗力が激増するので)ということが判ります。  幸い護の一速全開は1400m。この条件にピタリと適合します。  零戦のCLの低さは瞬間最大旋回の余裕があることが伺えますが、 米軍レポートでは370kmで零戦の操縦桿が重くなりロールは困難になる、 とあるので、一対一にバラされなければという条件を付ければ、1400mなら 零戦二一型に同位格闘戦で完全勝利できる・・・可能性があります。