De Havilland DH.96 Locust

イギリスは複座戦闘機というジャンルに非常なこだわりを持っていたようだ。
そして特にこの時期、動力銃座付きの戦闘機に 異常 非常な情熱を傾けていた
ようだ。空軍にはデファイアントがあり、海軍でもロックが開発中だった。
あまつさえ動力銃座搭載機の訓練用に練習機の開発まで行われていた。
英国は本気だった。

この動力銃座付きの練習機を造っていたのがデハビランドであり、その機体を
DH.93 ドンという。この練習機、結局、デファイアントの増産により直接戦闘
機そのもので訓練が可能になるとその必要性を失い、ようするにかなりの数の
発注がキャンセルされることになる。

そもそも、小型機に重く、かさばる動力銃座を搭載することに無理がある。
練習機で苦労したデハビランドでは別のアプローチから戦闘機の開発を行うこ
とになる。DH.93 の発注がキャンセルされた腹いせに……というわけではない
のだろうが、動力銃座付き戦闘機に対するカウンターパートとしてこの競作に
参加したといわれている。

複座艦戦として開発中のブラックバーン・ロックはその動力銃座をもって、敵
機を側面からの同航戦で攻撃するという発想であった。同航戦で側面から狙い
撃つというが、並んで撃つなら別に側面からでなくても良いのではないか。
具体的には上向きまたは下向きに固定銃を装備し、敵機の上方または下方に位
置をとって撃ちまくるのだ。動力銃座にくらべれば全然軽いし安定もいい。
この際機銃は真上や真下ではなく前方に傾けて取り付ければパイロット自身が
弾道を目視でき、修正もより容易となるだろう。
例えば低空を飛ぶ雷撃機などには同高度まで降りずとも、少し高い位置から撃
ち続けられる。側面からの同航戦では結局同じ高度まで降りねばならないこと
を考えるとこちらの方がよいのではないかと考えられたわけだ。

デファイアントにしてもロックにしても普通に機首なり主翼なりにも正面攻撃
用の固定機銃も搭載すればいいのに(まあ、ただでさえ重いからというのはあ
ったにせよだ)と思わないでもないが、この機体の開発中も普通に主翼に機銃
を搭載すればいいのでは? とは、誰も言い出さなかったらしいから勢いとい
うものは恐ろしい。
それがその時の空気というものか、あるいはさすがは英国というべきか。

この機体はイギリス内で流行っていた2座戦闘機に対する、デハビランドなり
の(皮肉な意味での)解答だったのかもしれない。
機体の構成は木金混成。古くさいというなかれ。デハビランドにとってはこれ
がデフォルト設定だ。
ラジエターは主翼に配置された。無論、機銃の配置、弾道を妨げない為だ。
主脚はラジエターの外側で後方に引き上げる形式。
胴体に機銃を埋め込んだ分、燃料を積むスペースにかなり制限があり、主翼内
に燃料タンクを設けることとなった。
主翼折りたたみは脚の外側から後方にたたむ形式。
フラップもこの折りたたみ位置で分割されている。このフラップは少々特徴的
で、後端を基点にくるっとひっくり返るように後方に開くようになっていた。
このあたりは広い主脚トレッドともあわせて空母への発着艦を意識したものだ
ろう。

武装に関しては上記の通り固定機銃のみで、胴体上側に前後席の間に7.7mm×4、
胴体下側にも7.7mm×4となっている。
爆弾は胴体下及び両翼下のいずれの場所にも搭載可能(同時にではない)とな
っている。但し、500lbが搭載可能なのは胴体下のみだった。

1年程で初飛行にこぎつけたものの、あくまでこぎつけたというレベルだった
ようで、艦上機に慣れていなかったこともあり、その後は様々なトラブルやク
レームの改修に追われている。
結局、締め切りに間に合わなかったりしたうえに、斜銃という案が単純過ぎた
為か、動力銃座の魅力に勝てなかったのか、軍はこのアイデアに興味を示さず、
ロックやフルマーなど(ある意味)名立たる戦闘機に埋もれてひっそりと消え
ていくこととなる。完成した数少ない機体は例によって標的曳航機や連絡機と
して細々と使われている。

機数は少ないながらもいくつかのタイプがあったようだ。
ごく早い段階からパワー不足が指摘されていたようで、少なくとも1939年中に
はマーリンXII 型を搭載した機体が作られている。
1940年にはマーリンXX型の搭載案も検討されていたがこの機体の開発計画その
ものがキャンセルされた為、こちらは実現はされていない。

 ※ マーリンXX型搭載機は実際に製造され、実戦に投入されて戦果もあげて
   いる。という説もまことしやかに伝わっているが真偽の程は定かでない。

水上機型
とりあえず双フロートを付けてみましたといったところか。支柱の様子などど
うにも古臭い。速度低下は当然として(50km/h以上落ちたそうな)安定性もか
なり悪化してどうにもならない感じだったようだ。
着艦フックのあった場所にヒレを追加したりもしてみたが、それでどうなった
という話も聞こえていない。あるいは抜本的対策を行う前にプロジェクトが中
止になったということだろうか。

ところでこのデハビランドというメーカー、結構極端にはしるようで、この後、
ある意味さらに過激なコンセプト、そもそも武装なぞ必要ないとばかりにとっ
ぱらった木製の無武装双発高速爆撃機を造ったりするのだが、それはまた別の
話である。

D.H.96
De Havilland Locust <要目> 全長  :10.36m 全幅  :12.5m 全高  :3.81m 自重  :2,532kg 全備重量:3,716kg 発動機 :ロールスロイス マーリンII 液冷倒立V型12気筒(1,030hp) 最大速度:432km/h 航続距離:1,554km 武装  :7.7mm×8(上向き固定斜銃×4、下向き固定斜銃×4)      爆弾 113kg×2 or 227kg×1 乗員  :2名 初飛行 :1939年3月
末莉「えと、みなさんこんにちは。  このたび解説役を仰せつかさっ! あぐっ!」(なにやら悶絶中) 「あう、ひたかんじゃった。  あ、あの仰せつかりました高屋敷末莉です」 青葉「ぶざまね」 末莉「にゃうあっ!  な、なぜ青葉お姉さんがこのよーなところに!?」 青葉「なぜかしらね。私が聞きたいくらいだわ。  とにかく、さっさとそのくだらない解説とやらを終わらせなさい」 末莉「は、はいっ! あ、でも解説と言っても上に載ってるので…」 青葉「おろか」 末莉「は?」 青葉「宣伝用のカタログ内容を疑わずしていったい何を疑うと…」 末莉「別に何も疑わなくても…  いえ……でも宣伝用にしては結構酷いこと書いてあったような」 青葉「真実は往々にして残酷なものなのよ」 末莉「………」(固まっっている) 青葉「それで? 最初はなんの話から?」 末莉「あ、はいっ」 2座戦闘機 末莉「艦上機は特に航法とかの問題もあって2座の方が望ましいということだ  そうですが、しかし戦闘機としてはどうなんでしょうね」 青葉「どうもこうもないでしょう」 末莉「うあ、一言で。  で、でも、まわりにまともな空母持ってる敵っていないから艦戦といっても  相手するのは水上機かせいぜい護衛無しの爆撃機ぐらいだろうというか、空  母の搭載機数も多くはないことだし戦闘機としてよりも、なんでもこなせる  便利な機体を求めたのかもしれませんし…」 青葉「要するに貧乏」 末莉「……」(否定できない) 青葉「なんにしても、まともな戦闘機と戦うことは考えてないということね」 末莉「あはは、なんかいかにもえげれすって感じですよね」 青葉「………」 末莉「あの、青葉さん?」 青葉「えげれす、という言い方がなんとなく腹立たしいわね」  ギリギリギリ(頭を鷲掴みにして押さえつけながら握力をかけていく音) 末莉「あたたたた、い、いたいですー」  しばらくおまちください。 末莉「だ、台本に、そう書いてあって…、私にはいかんともしがたく」 青葉「あらそう。で、次は」 末莉「……はい」 動力銃座と斜銃 末莉「動力銃座憑き戦闘機というのも、え、えげれす的、と言いますか…」 青葉「動力銃座憑き…間違ってるとは言い切れないけど、わざとなのか誤植な  のか天然なのかハッキリしない……イライラする……イライラするわね」 末莉「ヒィィィ、やっぱりご機嫌ナナメに!」 青葉「命が惜しかったらとっとと話を終わらせるのね」 末莉「はいっ! えーと、動力銃座と斜銃についてですが、これは上の解説文  にあるとおりです。特に低空を突っ込んでくる雷撃機には上から下向きの斜  銃で撃ち続けられるのはかなり効果的じゃないかと。斜め前だからパイロッ  トも目視できるし、動力銃座にくらべれば全然軽いし安定もいいと。  いいことずくめですね」 青葉「正面には撃てないけどね」 末莉「あ、えと…」 青葉「後ろにも撃てないけどね」 末莉「……」 青葉「そもそも低高度を飛ぶ敵機を下向きの斜銃で攻撃するということは、後  上方に位置するということで敵機の後部機銃に撃たれ続けるということでは  ないの?」 末莉「あ、れ?」 青葉「速度も運動性も単座機優るとは思えない。にもかかわらず複座でありな  がら後ろにつかれても反撃できない。自分が攻撃されることは全く考慮され  ていない。ということかしらね」 末莉「そんなこと言ったら今回のネタそのものが成り立ちませんようっ」 青葉「暑いのよっ!」 末莉「そ、そんな大自然の脅威に文句を言われましても」 青葉「だいたい、時間がないからこんな無味乾燥な会話シーンでお茶を濁して  おけといわんばかりのこのありようが気に入らない……気に入らないわね」 末莉「うわーうわーうわー」 青葉「騒々しいわね」 末莉「次いっていいですかっ!」 青葉「好きになさい」 機体構成 末莉「そういえばですね、実は今回は複葉機という案もあったんですよ」 青葉「そう」(無表情) 末莉「……えと、今回の要求仕様なら複葉形式でもいけそうだなって」 青葉「なるほど」(棒読み) 末莉「…でも、前回もそういうネタあったしようですし…」 青葉「機体更新が急務と言っているそばから複葉機を出したら、それはそれで  なかなか笑えたでしょうに」 末莉「うあああ・・・」 青葉「そもそもなぜラジエターを主翼に?  言い訳じみたことは書いてあったけど、単発の、ましてや戦闘機のラジエタ  ーこの配置というのは私は好きじゃないわね」 末莉「好き嫌いの話なんですね」 青葉「他に何があると?」 末莉「…あー、この形式はですね、DH.93 とかDH.98 とか見てたらなんとなく  だそうです」 青葉「流されっぱなしね。自分の意思や考えというものが無いのかしらね」 末莉「いえ、ほら、同じメーカーさんなら似たような形式になっても不思議は  ないかなーとか…。違う配置も考えられてはいたんですよ」 青葉「例えば?」 末莉「ラジエターはあごで彗星みたいに胴体のラインにそのまま繋がっていて、  エンジンは液冷だから細くて縦長の胴体になっちゃいますけど、機銃と燃料  を搭載するにはむしろ都合が良かったりして。  あとエンジンも最初は空冷の、ハーキュリーズとかも考えていたそうです。  結局マーリンに落ち着きましたが」 青葉「そう、いろいろとめんどくさくなったのね」 末莉「いえ、ほら数が足らなそうだなとか…」 青葉「使えそうな図が見つからなかったとか?」 末莉「そ、そんなことは…」 青葉「そもそも艦上機を造っているという自覚があったようには見えないわね」 末莉「うあーん」 青葉「…泣くことはないでしょう」 末莉「そういう危険な発言は……  それに青葉おねーさんは怒ってばかりだし、  台本通りにいかないし、というか台本途中までしか書いてありませんし…」 青葉「途中まで?」 末莉「はい…」 青葉「万死に値」 末莉「いえっ、そのっ、いろいろと忙しかったようですし、そこまではっ!」 青葉「ちっ」 末莉「ではっ、続けましょう!」 末莉「あとは水上機型ですけど…」 青葉「大きさとか位置とか、かなり大雑把。まるでそのへんで拾ってきたフロ  ートをとりあえずくっつけてみただけのような図ね」 末莉「……」 青葉「何故、目を反らすのかしら」 末莉「いえ。次行きましょう」 艦船設計部からのクレーム セリオ「失礼します」 青葉「あら?」 末莉「あの、どちら様でしょうか」 セリオ「艦船設計部から来ました。セリオと申します」 末莉「あ、どうも御丁寧に、私は高…」 青葉「それで?」 セリオ「はい。伝言です。胴体下に爆弾を積むとカタパルト射出ができないと  いう障害があがっています。対応をお願いしたいとのことです」 青葉「ふっ、私の知ったことではないわね」 末莉「うあああああっ」 青葉「何事?」 末莉「あああ、もう、なにがにゃるやらららららとぉてっぷっ!」(錯乱中)  ガサッ 青葉「あら? わたしの描いた絵がどうしてこんなところに?」 末莉「ふみぃぃぃぃぃぃっ!!!」 セリオ「それは這い寄る混沌のように…」 青葉「振り向けば隣に…」 末莉「うにゃらーっ!」  とりすがるように取り乱す末莉に、  はあ、と青葉はうんざりしたようなため息ひとつ。 青葉「爆弾は主翼下にも積めるのだし、なんの問題も無いわね。  第一、爆弾を搭載した状態でカタパルト射出が可能なようにとは書いていな  いのだから、これは仕様です」 末莉「そんな某MS社みたいな…」 セリオ「わかりました。ではそのように報告します」 末莉「良いんですかっ!?」 セリオ「私はただのメッセンジャーですので」 末莉「ああ、いいんでしょうか…」  ふう、とセリオはため息を付く。  くるくると表情の変わる少女の肩をポンポンとたたく。  なぜか奇妙な懐かしさを感じながら。 末莉「へー?」  きょとんとした顔で見上げる少女に一言。 セリオ「頑張ってください」 末莉「え? あ、はい。ありがとうございます」 セリオ「それでは、私はこれで失礼します」 末莉「あ、ありがとうございました」  2人に均等に頭を下げるセリオに、鷹揚にに頷く青葉とお辞儀で返す末莉。 末莉「いい人でしたね」 青葉「いいひと、ね」 末莉「ほえ?」 青葉「いずれにしろ、これで方針が決定するころには機体の開発そのものが中  止されているでしょうね」 末莉「ああっ!? 確かに設定では直す間もなく開発中止になったということ  でしたが、まさかこんな経緯でっ!?」 青葉「これで終わり?」 末莉「はあ、終わりといいますか、台本は途中までしか書いてありませんし…」 青葉「なら結構、さっさと帰るわよ」 末莉「あ、はい。えーと、一緒に帰ってもいいんでしょうか」 青葉「私にこんな仕事を手伝わせた以上、お茶の一杯も奢ろう思うのが人情と  いうものではないの?」  おまえが人情を口にするか、高屋敷青葉。 青葉「うるさい。黙れ」  ……… 末莉「お、おまかせください。  不肖、高屋敷末莉。誠心誠意、喫茶に案内するです」  末莉君、それはなにか騙されているうえに、たぶんたかられているぞ。 青葉「置いて行くわよ」 末莉「ああ、待ってくださいよー」  とてとてと歩み寄り、隣に並んでにへらと笑みを浮かべる。 青葉「気持ち悪い笑いを浮かべない」  ベシンッ 末莉「あうっ」  青葉はあいかわらず素っ気なくて凶暴で我侭だったが。  青葉おねーさんと並んで歩いて、一緒にお茶して帰る。  末莉はなんだか嬉しそうだった。