空技廠 十六試艦上戦闘機

烈風空技廠案


  空技廠 十六試艦上戦闘機

 十六試艦上戦闘機は零戦の後継機として開発が始められた。 それは優秀な艦上戦闘機を得ることを目的とした純然たる零戦の後継機であるが、それ故に要求もまた厳しいものであった。
 指定された発動機は奇跡のエンジンと呼ばれた『誉』である。 この軽量小型大出力の画期的エンジンの完成が、本機のみならず以降の日本機の開発に(いろいろな意味で)及ぼした影響は小さくないと言える。

 基本的な方針は軽量小型を旨とした高性能の艦上戦闘機であり、検討の結果、空技廠では以下のような案をまとめた。
 1000馬力級の『栄』エンジンとさして変わらない直径の2000馬力級のエンジン『誉』を装備し、 零戦と同等の機体サイズにまとめること。 さらに軽量化、空力的洗練による抵抗の減少に努めること。 運動性は零式二号艦戦と同等、その他の性能全般において零戦を上回ること。 馬力荷重2.0、翼面荷重150程度を狙い、自重2.6t、全備3.6t、翼面積24uあたりにまとめること。
 零式二号艦戦(零戦三二型)が自重1.8t、全備2.5t程度であることを考えると 厳しい数値ではあるが、不可能ではないと考えられた。

 多少の変更等もおり込みながら設計は進められた。
 空力的洗練は当然として、胴体はエンジンぎりぎりまでまで絞り、 空気吸入口やオイルクーラーを主翼付根前縁に設けて 前面投影面積を小さくする方法が試みられている。
 小型化、軽量化にも努めているが、より良好な運動性の確保を狙い自動空戦フラップを装備している。 また、艦上戦闘機としての離着艦性能を重視し、エルロンフラップ、親子フラップ、前縁スラットといった 各種高揚力装置を装備したが、これはやり過ぎたとの意見もある。
 全幅12.5mに対して格納時11mにおさえる為に、零戦と同じ方式で翼端75センチを折りたたみ式にしている。
 軽くて空力的に洗練された(抵抗が少ない)ということは燃費も良くなる道理である。 だがしかし、小型化や各種装備がたたり、搭載量自体に問題が生じたのもまた事実だ。 機体が当初の予定よりやや大型化したのもこのへんの事情による。
 燃料タンクは正規で700Lの予定だったが結局670L(翼内タンク335L*2)になった。 ちなみにタンクに防弾はされていない。 他に外翼部増槽80L*2、胴体内増槽140L、落下式増槽が200L*2 または 330L*1。 航続距離は全備正規状態では1500km程度、増槽使用で2800km程度だったという。

 昭和17年10月、初飛行。
 ただしこの時点では予定されていた武装は搭載されていない。 13ミリはまだ採用前だったので陸軍のホ103を積んでいたという話もあるがさすがにこれは眉唾だろう。 おそらく暫定的に7.7ミリを搭載していたと思われる。 機銃より機体が先に出来てしまったのは軍としても誤算だったのかもしれない。 さらに何機か作られた試作機には武装に20ミリ4丁を装備した機体等がある。
 試作1号機の最高速度は602km/h。 要求値には達しなかったものの零式二号艦戦より50km/h以上優速であり、開発は続けられることになる。 ちなみにこの初号機はいわゆる推力式排気管ではなく、この後のそれを取り入れた機体ではさらに速度の向上が見込まれていたのも大きなポイントだろう。


 空技廠 十六試艦上戦闘機
<要目(試作2号機)>
全長:10.06m  全幅:12.5m  全高:3.96m
翼面積 25u
自重:2,740s  全備重量:3,782s  過荷重量:4,347s
最大速度:611km/h 上昇時間:6分18秒/6,000m 
航続距離:1500km(正規) 2800km(過荷)
発動機:中島「誉」一一型(NK9B) 空冷複列星型18気筒(1,800hp)
乗員:1名  初飛行:昭和17年10月
武装:20o機銃×2(各60発)+7.7o機銃×2(各500発)
(予定:20o機銃×2(各100発)+13o機銃×2(携行弾数各200発))
 爆弾 30s または 60s×2
    


教えて! フィリス先生!!

F:はい。皆さんこんにちわ。フィリス・矢沢です。
N:こんにちわ。アシスタントの高町なのはです。
F:なのはちゃんはあいかわらずリリカルでかわいいですね。
N:いえ、全然リリカルとかじゃないですよー。(パタパタと手を振る)
  普通の小学生ですし。
  ……っていうか、リリカルって人につける形容詞じゃないような…
F:なんだか今日は私、少し和んでます。
N:あー(いつも苦労してるんだろうな……)

F:さて、今回はあの有名なゼロ戦の後継機開発のお話です。
  なのはちゃんはゼロ戦は知ってますね?
N:はい、先生。ゼロ戦と大和を知らないヤツは日本人じゃないと!
F:……どこでそんなことを覚えたんですか?
N:うちの兄が言ってました。
F:恭也クンが? ちょっと、意外です。
N:あ、兄がいつもお世話になっています。(ペコリ)
F:あらあら、これは御丁寧に。こちらこそ良くしていただいてますよ。
  ところで恭也クン、また無茶なことしてませんか?
N:あ、はい。最近はそんなに無茶はしてないみたいです。
F:ちゃんと顔を出すように言っておいてくださいね。
N:はい!
F:では十六試艦上戦闘機 空技廠案、いってみましょう。


N:えーと、空技廠案ということで、最初になんだか計画値が挙げられてますけど…
F:まあ、予定は未定といいますか…
N:やりたいことをやりとげるのは大変ですよね。
F:理想と夢想は別物といいますか…
N:理想と現実ですら……
F:ままならないですねえ…
N:はあ……それで、エンジンが『誉』なんですね?
F:この時点で『誉』がまともに使えるようだと、他の機体にもいろいろと影響が
  大きそうな気がしますよね。この後も順調かどうかはともかく。
N:…強風とか雷電とかどうなるんだろう?
F:別の意味で興味ありますねえ。

F:インテーク系を主翼前縁に持っていったのは日本機には珍しい試みですね。
  妙なところで凝っているのはある意味空技廠らしいとも言えるかもしれませんが、
  これがトラブルの元になったりしないか、ちょっと心配です。
N:あ、あははははは…、他にはこういうのは無かったんでしょーか?
F:米海軍ではF4Uで同様な試みがなされていますね。
N:コルセアですね。
F:でも日本機って主翼の中にもいろんなものが詰まってるじゃないですか。
N:いろんなもの?
F:主脚とか武装とか燃料タンクとか燃料タンクとか燃料タンクとか…
N:な、なるほどー
F:この上さらに主脚に干渉しないよう、タンクの容量に影響しないように組み込むのは
  ちょっと大変そうです。主翼付根を少し前方に引き伸ばして埋め込んでいますが、
  これだと前下方視界に影響ありそうです。実際に作ってみないとわかりませんけど。
N:んー、コルセアは大丈夫だったんでしょーか?
F:あれは主脚を後方に引き込むことによってその内側にスペースを作っていますね。
  これをやると翼内タンクのスペース確保に影響が出そうで日本では嫌われそうですが、
  逆ガルということもあって前下方視界には有利そうです。
N:そうなんですか。
F:ただ、コルセアの場合はそれとは別に、コクピットの位置がかなり後方になった為に
  前下方視界にかなり問題があったそうです。
N:結局問題あるんですね。
F:この方式は他にも主翼の効率にも影響ありそうですし。
  被弾時の脆弱性……とかはあまり考慮されてなさそうですね。
  そもそも防弾についてもあまり考慮された気配はありませんし。
N:ないんですか?
F:少なくとも、タンクの防弾はされていませんね。
N:いいんでしょうか。
F:よくない…と思いますけど……ただ、機体強度についてはより高速の機体ということで、
  それなりの配慮がなされているようです。某、空中分解とかもありましたし。
N:ああ……

F:要求仕様を見るといくつか特に注意を引くものがありますね。
N:翼面荷重150っていうのがあります。
F:翼面荷重150というのはあくまで目安だと思うんですよ。これ性能値じゃないですから。
N:そうなんでしょうか。
F:例えば翼面荷重170くらい、空戦フラップ使用時に150相当でも問題は無いと思うんですよ。
  それでも律儀に守ろうとしてしまうのが日本人なのかもしれませんね。
  かく言う私もそういうところがありますけど…
N:フィリス先生は日本人じゃ……
F:日本生まれの日本育ちですから。心は日本人です。
N:…そうでしたか。
F:例えば速度とか航続距離は達成する為の数値として達成する為の努力は不可欠ですし、
  寸法は空母のエレベーターに載らないと困りますから絶対ですよね。
N:ああ、それはそうです。
F:それに対して翼面荷重は守らなくても特に困らないですよね?
N:えーと、どうなんだろ?
  でも指定されてるんだから意味があるんじゃないでしょうか?
F:じゃあ、なのはちゃんに質問。翼面荷重を低くおさえたいのは何故だと思いますか?
N:え、えーと…運動性をよくする為?
F:なるほど。
  でも『運動性:零式二号艦上戦闘機(零戦三二型)と同等であること』とありますよね。
  逆に言えば零式二号艦戦と同等の運動性であれば、翼面荷重はいくつになってもいい、
  ということになりませんか?
N:えーと、えーと、でも……それで『同等の運動性』にできるんですか?
F:その為の自動空戦フラップです。
  これにより『同等以上の運動性』を得ることが可能、と判断されたようですね。
  そもそも翼面荷重を150にすれば零式二号艦戦と同等になるとも限りませんし。
  それに零戦と九六艦戦の関係がそのままこの十六試艦戦と零戦の間にも成り立つでしょう。
  空戦フラップを使わなくても、パワーをいかした機動をとれば充分に優位をとれると。
N:うーん……
F:むしろ重要なのは離陸滑走距離。『過荷重にて合成風速12m/秒時80m』という要求ですね。
N:そういえばあんまり気にしてなかったけど、これってなんなんでしょう?
F:艦上戦闘機、ということでしょうね。
  空母から発艦できなければ艦上機としての価値は無いですから、これは重要でしょう。
  艦戦は艦攻、艦爆の前に並べられるから発艦に使える距離が短いですし。
N:あー、そういえば写真とかで飛行機が甲板に一杯並んでるのを見て、
  こんな前の方のやつは飛び立てるのかなって思ったことあります。
F:日本は空母からカタパルトで発艦させるということをしていませんでしたから深刻ですね。
N:あ、でもそれだとやっぱり翼面荷重を低くするのって重要なような気が?
F:その為の高揚力装置です。
  エルロンフラップに親子フラップ。それでも足りなければ前縁スラットも付けましょう。
  あとは大パワーで引っ張り上げる感じでしょうか。
N:あー、なんか随分いろんな技を使ってますね。
F:特に目新しい技術を多用しているというわけではないんですよ。
  親子フラップは既に十三試大艇(二式大艇)で使われていますし、
  自動空戦フラップも十五試水戦(強風)で使われています。
  前縁スラットなんかは昔からあるものなんですよ。
N:あ、そうなんですか。
F:もっともこの前縁スラットは必要無かったとも言われていて、
  試作機の中では装備されていないタイプもあるそうです。
N:それもなんだかなあ…

F:当初の航続距離の計画値は以下の通りです。
  最高速/6,000m×0.5h+463q/h/4,000m巡航×1.5h(正規)
  最高速/6,000m×0.5h+463q/h/4,000m巡航×2.5h(過荷1)
  最高速/6,000m×0.5h+463q/h/4,000m巡航×4.5h(過荷2)
N:なんか、3種類もあるんですけど?
F:正規状態と機内増槽使用時、さらに落下式増槽を使用した場合の3種類でしょうね。
N:機内増槽、なんてあるんですか?
F:それ自体は別に珍しいものではないんですが……正規状態の航続距離が短めなことから、
  全備状態を少しでも軽くする為の苦肉の策、と見えないこともないですね。
N:あ、やっぱり翼面荷重とか気にしてたんですね。

F:試作機の中には20mmを4丁搭載したタイプもあります。
  これはもちろん13mmが間に合わなかったからというのが大きな理由なんですが、
  実は局地戦闘機としての運用も考えられていたのではないか、という説もあります。
N:そういえば20ミリ4丁って大抵そうですよね。
F:雷電や、強風を陸上機化した紫電の開発も行われていましたが、
  雷電のトラブルはよく知られるところでしたし…
N:はい。聞いたことあります。
F:紫電もそもそもが間に合わせ的な改造であり、
  脚まわりや自動空戦フラップのトラブルもありましたから……
N:あれ? でも自動空戦フラップって……
F:もちろん、この十六試艦戦にもトラブルはありました。
  実際にこの自動空戦フラップというのは調子が良ければかなりきいたそうですが、
  結構故障が多くて後々までひきずることになったそうです。
  ただ、まあこれ使わなくても運動性は良好だったそうですから、
  あまり問題にならなかったのかもしれませんね。
N:うーん、いいんだかわるいんだかわからない話ですね。
F:自動空戦フラップを使用しなくても零戦に対して充分優位に立てるということ、
  速度も上昇力も優秀であったことから一考の余地有りと判断されたのかもしれませんね。

F:さて、試作2号機以降に取り入れられた推力式排気管ですが
  排気管がほとんど表に出ていないのが見た目にわかりにくい特徴ですね。
N:……えーと? どうなってるんですか?
F:排気管を表に引っ張り出すのではなく、胴体の方にへこみを作ってそこから排気が
  外に流れるようにしたんですね。
N:エンジンまわりが見た目随分すっきりしてますよね。
F:この後、当然のようにタンクに防弾を施したり、エンジンを「誉」二一型に換装したり
  といったタイプも作られたりするのですが……
N:それで結局、この機体はどうだったんでしょうか?
F:やはり空技廠ですし……、生産性とか整備性とかいろいろ問題ありそうですよね。
N:あ、なんか駄目そう…
F:参考までに「誉」二一型装備機のスペックを載せておきますね。

「誉」二一型装備機スペック
自重:2,954s 全備重量:4,178s
発動機 :中島「誉」二一型 空冷複列星型18気筒(2,000hp)
最高速度:629q/h  上昇時間:6分2秒/6,000m  航続距離:2800km
武装:20o機銃×2(各200発)+13o機銃×2(各300発)
 爆弾 30s または 60s×2 または 250kg×2 または 500kg×1
燃料:翼内285L×2+胴体内固定槽145L+外翼部増槽50L×2+落下増槽600L

F:翼面荷重は初号機は150くらいだったのですが、結果的に170近くになっていますね。
N:……まさかそれ、予定通りとかじゃ……
F:はい。十六試艦上戦闘機、空技廠案のお話はこれでおしまいです。
N:え? え? それで結局どうだったんですか?
F:それではみなさん、さようならー
N:さ、さようならー。…って、えー!