川南工業株式会社 改K型舟艇母艦

遠目にはただの輸送船


「川南に10000トン級を造れと言いに来た訳ではない。
 K型を元にして舟艇母艦にできないかを検討して貰いたい。」

 将校は川南工業香焼島造船所の技術陣を前に舟艇母艦についての要望を述べ始めた。

川南工業株式会社香焼島船所は朝鮮の缶詰工場で財を成した川南豊作により昭和十一年に創立された。
技術的には一流とは言い難いものの缶詰取引に伴う陸軍との太いパイプにより急速に受注を伸ばしていた。

K型とは昭和九年に日之出汽船が日本鋼管鶴見造船所に建造させた船首船橋・船尾機関型の長尺レール運
搬船で香焼島造船所では同型船を昨年までに6隻、今年度中には更に9隻を完成させる予定になっていた。
陸軍は早くからこのK型を舟艇運搬船として戦時徴用することを念頭に海運各社に調達を奨励していた。

将校の言を要約すると次の通りであった。
・K型の基本設計を流用し短期間で量産可能な舟艇母艦の設計を行う。
 貨物船としての機能は極力維持しつつ舟艇及び兵員輸送のための機能を追加する。
・甲板上に舟艇を搭載する軌条を設ける。
 軌条は車両を搭載した舟艇を移動できるものとする。
 舟艇は平置きで大発8艇以上を搭載できるものとする。
・船尾に舟艇泛水口を設ける。
 舟艇は車両を搭載した状態で泛水するものとする。
 泛水時間は1艇につき12分程度とする。
・推進器は2軸とする。
 揚陸時には自力での操船が必要となる。
 主機、主缶は現状と同型のものを1式増設し合わせて速力の向上を図る。
・建造費は極力押さえる。

「敵前強襲上陸となった場合は敵の砲火を掻い潜っての揚陸となる。
 当然のことながら被害損耗も考慮しなければならない。
 大船一隻よりは小船多数の方が被害を分散することができる。
 また複数の方が揚陸点の分散や揚陸時間の短縮にも効果がある。」

 言下には舟艇母艦を消耗品として考える冷徹な戦略思想が滲み出ていた。

川南工業の技術陣は要求事項に検討を加え「改K型舟艇母艦」として請仕様を陸軍に提出した。
・兵員輸送設備
 糧食貯蔵のための大型冷蔵庫の設置する。
 二重底部分を清水タンクとして利用できるように改造する。
・甲板上の軌条
 倉口扉上を縦に渡る3列の舟艇軌条を設ける。
 舟艇軌条は軍用チュ−ブレスタイヤを用いたコロにより容易に舟艇の移動ができるものとする。
 長尺の貨物の積載は不要となるので倉口を分割し舟艇軌条を横方向に移動する移動軌条を更に設ける。
 船尾泛水口には中央の舟艇軌条のみが通じるようになるので両舷の舟艇軌条の舟艇を移動する場合や倉
 口を開放する場合は舟艇軌条を両舷側に移動させて行うものとする。
 (舟艇を搭載した状態では倉口の全開はできない。)
 舟艇は大発の場合、軌条毎に3艇で合計9艇を車両を積載した状態で搭載できるものとする。
・舟艇泛水口
 船尾楼に中甲板より船尾水線に向けて傾斜路を設ける。泛水口には通常は門扉で閉ざし泛水時に上方へ
 開放する。
 船尾楼天井には誘導索を設け舟艇を泛水口まで牽引するものとする。
・推進器
 K型の主機、主缶と同じものを2式横並びで配置する。
 煙突は泛水口への傾斜路を挟んで左右に横並びに配置する。
・兵装
 船首に八八式7糎半高射砲を元に海岸要塞用に俯角がとれるように改造した丸特1門を装備する。
 *)丸特:本来の表記は丸印の中に特

泛水風景
改K型舟艇母艦 諸元 全長  90.6m 垂線間長  86.5m 最大幅   12.6m 喫水     5.7m 総トン数   2190t 主機 直立三気筒三連成汽機  2基  主缶 5号円缶       4基 軸数  2軸 出力  最大  2160HP  経済  1520HP 速力  公試 15.4kt  航海  12.1kt 航続距離     4200浬/12kt 武装  八八式7糎半高射砲丸特     1門 舟艇(平置搭載例)  装甲艇   1隻  大発    8隻 初年度の建造計画  1号船仮称 甲州丸  2号船仮称 紀州丸  2号船仮称 尾州丸  4号船仮称 長州丸  5号船仮称 薩州丸  6号船仮称 遠州丸