デ・ハビランド DH.99 フェニックス

1938 年英空軍輸送機競作応募機

DH.99 Phoenix three-view
デハビランド DH.99 フェニックス三面図

諸元比較
項目DH.99 フェニックスDH.91 アルバトロスダグラス C-47 ダコタ
全長 22.2m 21.3m 19.4m
全幅 31.9m 31.9m 21.0m
全高 5.1m 5.1m 5.2m
乾燥重量 11.7t 9.6t 7.7t
全備重量 16.4t 13.4t 13.2t
最大重量 18.9t (n/a) 16.3t
最高速度 334Km/h362Km/h370Km/h
巡航速度 286Km/h338Km/h257Km/h
航続距離 2153Km(標準)
1292Km(過載)
5025Km(最大)
1675Km(標準)
5359Km(最大)
2420Km(標準)
563Km(過載)
6116Km(最大)
発動機 ロールスロイス・マーリン II
液冷12気筒 1030hp x 2
デハビランド・ジプシー12
空冷12気筒 525hp x 4
プラット&ホィットニー R-1830-92
空冷14気筒 1200hp x 2
ペイロード貨物仕様:貨物 2.0t<標準), 4.0t(過載)
旅客仕様:乗客 28 名
空挺仕様:空挺兵士 24 名
貨物仕様:貨物 500Kg<標準)
旅客仕様:乗客 22 名
貨物仕様:貨物 2.2t<標準), 4.5t(過載)
旅客仕様:乗客 28 名
空挺仕様:空挺兵士 28 名
燃料容量 標準 2500 リッター
最大 4700 リッター
過載 1200 リッター
(n/a) 標準 3046 リッター
最大 6450 リッター
過載 600 リッター
武装 ブローニング.303 旋回機銃 x 2なしなし

デハビランド DH.99 フェニックスは 1938 年の英空軍輸送機競作に応募した輸送/旅客機であり、基本的には「欠陥機」と呼ばれ商業的失敗を喫した木製旅客機 DH.91 アルバトロスの改良発展型である。主翼など基礎形状はほぼ同一であるが、構造的には新規設計であり部品の互換性などは殆どない。「フェニックス」の命名はジオフリー・デハビランド卿自身によるもので、灰の中から復活する不死鳥の名に「アルバトロス」の雪辱を託したと伝えられている。

外見上最も大きな変化は、ジプシー四発からマーリン双発への変更である。他社製エンジンの採用は苦渋の決断だったが、出力不足のうえ重量過大、故障多発のジプシー 12 はアルバトロス悪評の一大要因であり廃止せざるを得なかった。四発から双発となったことで構造は簡易化され、翼内タンクも大幅に増積されている。胴体下面への内側引き込みだった主脚はナセル後方への引き込み式に変更され、簡易化・強度増加・タンク容積確保を同時に実現している。轍間距離が広くなり、ブレーキが強化されたことで地上操向性も改善された。またあまり目立たない改良だが、垂直尾翼も高さを増して増積されている。

木製モノコックの胴体は一回り太くなったように見えるが、最大直径はアルバトロスと変わらず、単に絞り加減が変わっただけと言ってもよい。強度不足に悩んだアルバトロスの反省を踏まえて大幅に補強されており、胴体だけで 1t 以上も重量増加している。少しでも空気抵抗を減らすため、前方窓は機首ラインに合わせ強く傾斜させる形状とした。この形状はのちにジェット旅客機コメットにも採用されるが、フェニックスの場合はいささか傾斜が強すぎ、乱反射や歪みで視界が悪い傾向があったという。後部左側面には観音開きの大型カーゴドアが装着され、空挺母機として使用するときは後部ドアを外して運用することが考慮されていた(このため、DH.99 輸送型と空挺型は内装が違うだけで機体は同一である)。機首には乗員昇降用のドアもあるが、プロペラ回転面に近すぎ運転中は危険で使えないため、あまり役に立つとはいいがたい。

開閉フードも持たない半開放式銃座は貨物扉後方というとんでもない位置にあり、垂直尾翼に遮られて水平射界は約 60 度に制限され、パイロットは銃手の移動や弾薬消費に伴う重心変化に応じてトリム操作しなければならなかった。輸送機に銃座を装備するなどおよそ馬鹿げた考えであり、どうせ実用時には廃止されるであろうとデハビランド卿は考えていたらしい。同様に、「簡易爆撃機としての使用を考慮」という要求に対しても特に考慮された形跡はない。どうせ輸送機上がりの爆撃機など役には立たないだろうし、どうしてもと言うならばドイツ式にゴンドラでも増設するか、主翼下に爆弾ラックでも付ければ良いと考えていたようだ。

エンジンは一段一速過給のマーリン II 型で、これをラジエターやオイルクーラーが一体のユニットとなった「パワー・エッグ」パッケージ形式で装着した。整備性は悪評だったアルバトロスにくらべ劇的に向上しており、将来のエンジン換装も容易な設計になったという。プロペラはロートルの油圧式恒速三翅で直径 3.6m。排気管は集合式で、必要に応じて主翼上面まで延長して消炎器を装着、夜間飛行時に地上からの視認性を低減するオプションが用意されている。

本機はアメリカ製のダコタ輸送機(C-47/DC-3)と比べると一回り大きくて重いが、高アスペクト比の主翼や木製ならでわの平滑な表面仕上げのため抵抗係数は低く、速度面ではかなり有利な値を示している。銃座を外せば更に 10〜15Km/h の速度向上が見込めるとの事。反面、大柄にも関わらず貨物積載量、航続距離ともダコタに少しづつ劣っている。元々の要求値がそういう数字だったという理由もあるが、乾燥時 11.7t といういささか過重ぎみの重量が性能面で足を引っ張っている感は否めない。カーチス C-46 コマンドーは本機とほぼ同サイズで乾燥 13.6t だが、これは 2000hp 双発である。本機の離陸・上昇性能は好ましくなく、早急なエンジンパワーアップが望まれるところである。貨物積み降ろしのアクセス性については同世代の輸送機と同等レベルであり、特に可もなければ不可もなし。メーカーからは構造材の大部分が木造のため、アルミなどの戦略資材を節約できることが特に強調されているが、高性能双発機を作るほどの良質な木材は別の意味で貴重な資源であり、もし同時期に試作されている DH.98 偵察爆撃機が採用された場合は資源の取り合いになってしまうのではないか、とする懸念もある。


作者より一言

今回競作の言いだしっぺです(^^;)。1930 年代は高速多発機の進歩が目覚しかった時代で、いわゆる高速軽爆万能論なんかが幅を利かせた時代でもあったわけですが、高速多用途機への期待というものもありました。旅客機と爆撃機と輸送機を一機種で実現しようという動きがあったのです。後世の結果論からいえば、輸送機あがりの爆撃機は駄作ばっかりで、爆撃機あがりの輸送機や旅客機も駄作でなければ無いよりマシな平凡機くらいしかなかったわけですが。今回の競作は、そのダメダメな飛行機達をあえて仕様提示して作ってみよう、というのが狙いどころでした。提示した数字はダグラス C-46/DC-3 の数字に若干色を付けたもので、そこに「不整地における貨物積み下ろし」とか「簡易爆撃機としての応用」だとかネタを埋め込んであります。
これらはネタであると同時に落とし穴でもあるわけで、種明しをすると「巡航速度 260Km/h、航続距離 2000Kg 搭載時 2500Km, 4000Kg 貨物搭載時 1200Km」という実は厳しい性能要求をどうクリアするかがキモになります。輸送機にとって最も重要な性能は「どれだけの物を、どれだけの速度で、どの距離まで運べるか」。最高速度なんて半分どうでも良い事だし、貨物積み下ろしなんて尾輪プロペラ機ならどれでも大差はないし、「できればなお可」とされている爆撃転用なんて「できない事はない」で良いんです。枝葉末節に騙されて本質を見失ってはいけません。でも、そうなるだろう事を予測しての出題でもあったわけですが。そもそもお題が「イギリス」ってだけで、ね(笑)。

本機はわりと真面目に要求仕様を実現する方向で考えてみたものです。当初は完全オリジナル機にするつもりだったのですが、参考にするつもりで調べてみた DH.91 アルバトロスがかなり目的に近い性能であることを知り(DC-3 より一回り小さいと思っていたのに、逆に一回り大きかった)、「アルバトロスを基盤とした改良発展型」ということで割とスムーズに製作は進みました。作図は使い慣れた PaintShop Pro 4.14 で、ラインとペイントとサークルでペタペタとドット描きです。


Copyright 2006 Y.Sasaki