Handley-Page "HOWDAH"

〜 ハンドレページ・ハウダー 〜




 ヒコーキの解説など仰せつかった愛らしい小動物です。イギリスといえば狐ですので、きつねさんになってみました。狩りにおいでの際は気をつけて、私の分のグラスの用意もお忘れなく。

  アシスタントをあい務めます麗しの原生生物です。イギリスといえばすもものジャムですので、細胞核をすももに入れ替えてみたら何やらすごい体色になってしまいました。

 さてすももさん、まずは今回紹介する機体の形態が決まるまでの過程をなぞってみようと思いますので、ちょいと中型輸送機の絵を描いてみてはくれませんでしょうか。

 なるほど。そういう趣向だから絵心のある私にお呼びがかかったのですね。
 それでは、ささっとこのように。


 実に1930年代後半の双発輸送機として標準的な形態なのですが、これを空挺降下や前線への強行輸送までこなす万能輸送機として使おうとすると、少なからず問題があるのです。

 この形態の代表といえば、なんといってもダグラスDC-3ですが、旅客機あがりだけあって、人員輸送はともかく、大形貨物については、後部側面ドアから少し無理のある積みかたをしていますね。
 では、ここはひとつ、輸送グライダーのように、機首を折って胴体断面をまるごと搭載口にしてみましょう。


 …ありゃ。ちょっとだめみたいですね。


 そうですね。使い捨てのグライダーならばともかく、ときには即座に再発進することもある戦術輸送機で、貨物の積み下ろしのたびに操縦系統が切れるというのは、ちょっと考えものです。

 操縦系統はヒンジ近くにリンケージを集中すれば何とかなるかもしれませんが、開いた機首がプロペラと干渉するのは必至ですし、積載口の至近距離にプロペラ回転面があるというのも危険です。

 ええ。列線上で他の機体が近くにあるときや狭い前線飛行場での荷役作業では側方から作業する場面もあるので、そのときの安全性も考える必要があります。そこで、まずはじゃまなプロペラには後ろに回ってもらうことにしましょうか。

 ならば一筆、さらさらさら。



 操縦系統が切れるのは相変わらずですが、何の気兼ねもなく機首を開けられますし、プロペラに煩わされずに貨物の積み下ろしができるのは助かります。

 しかし、パラシュート兵を降下させようとするとプロペラに引っかかりそうなのがいかにもまずいですね。もともと右プロペラは地上での作業の邪魔になっていたわけではないので、こちらは牽引式に戻してもよさそうです。

 そうですね。ヒンジの位置を工夫すれば機首の開閉と右プロペラの干渉は避けられますから、次はそこのところを直してみましょうか。



 こんな感じでいかがでしょう。機首の切断面を斜めにするとコクピット右半分が圧迫されてしまうので、推進式の左エンジンナセルを前方に延長して、そちらにコクピットを移してみました。

 なるほど、これなら操縦系統が切れる心配もありません。主翼を高翼式にしておけば貨物登載のじゃまになりませんし、貨物室の床が地面に接近するので作業性もよくなります。

 パラシュート降下の飛び出しも、左舷は仕方ないとはいえ、右舷はフリーになりましたのでもう安心です。

 しかし、コクピットを動かしたおかげで重量が左前に寄ってしまったようです。右後方に何かを持ってこないとバランスがとれません。



 …こんなところでしょうか。


 テイルブームを右エンジンナセルの後ろに寄せてしまえば、ちょうど重心をはさんで釣り合いがとれますね。
 しかも、貨物室の後ろがすぐに切れていますから、ここに出口をつければ大型貨物の空中投下もできそうです。

 実にパーフェクトですね。


 ええ。本来ならもうひとクラス上の機体でないと実現できない全通型の貨物室を持っているところなんか、非常にお得感があってお奨めです。

 …というわけでできあがったのが、今回の主役、ハンドレページ社製「ハウダー」輸送機なのです。実に見事な左右非対称機ですね。

 全体形が非対称なのはもちろん、コクピットも左右非対称で中央席だけが右からの搭乗になっていたり、同じエンジンなのに左だけスピナがついていたりと、各部が非対称で一貫しているようすが分かります。

 コクピットは直列3座で、前から機長、機関士兼副操縦士、通信・航法士の順に座ります。左ナセルがほぼエンジン幅のまま前方に延長されているので、機関士兼副操縦士は右寄りに座って、左寄りに座る機長に前方視界をふさがれないようになっています。

 エンジンは…左右ともハーキュリーズ6ですが、推進式にしている左エンジンは、通常のコレクターリングをやめて単排気管になってるんですね。

 単排気管からの排気の勢いを利用してカウリング内からまんべんなく空気を吸い出し、冷却を助けているのです。スピナはプロペラピッチ変更機構が排気に炙られないように保護しつつ、周辺気流との間で一種のディフューザーを形成して吸い出しを強めるのだそうです。

 そこまでしないと左右均等に冷えないということは、推進式って大変なんですね。

 実は徹底するにも限界はあって、離着陸時の低空・低速・高出力で左右均等に冷却されるようにすると、高空・高速で左エンジンが冷えすぎる傾向があったようです。それから、低速時のフラップの効きが左右で違ってくるのは修正のしようがないので、離陸時は左によたつきながら飛んでいったといいます。

 あらら(笑
 非対称ではない部分に目を移すと、戦術輸送機に必要なSTOL性能と低速操縦性は、高アスペクト比の主翼と後縁のスロッテド式フラップ、補助翼部分前方の自動前縁スラット、それから大面積の尾翼操縦舵面と、オーソドックスな手法で実現しているんですね。

 ええ。ナセルより内側がスプリット式フラップなのが変わっていますが、主翼本体の構造は同じころに同社で開発中だったハリファックス爆撃機と似ていますし、英空軍Cタイプ格納庫の幅が125ftあるのに全幅を100ft未満に収めたのも、ショート社のスターリング爆撃機の経過を横目に見ながらのことでしょう。


 正面から見ると壮観ですね。主脚は左右共通部品が多いとはいえ左のほうが長いですし、当然、推力線も左のほうが高くなっています。これでコクピットブロックを持ち上げて、前方から左舷にかけての貨物室への出入り経路を確保しているのですね。

 平面形では分かりにくかったのですが、垂直尾翼がテイルブーム上に付かずに右側にずらされているのにも注目です。これで、旋回銃座からの射界は真後ろを含めて最低限の制限ですんでいます。

 …銃座が主翼後縁のあたりまで下げられれば、左右の射界制限はもっと少なくなるんですが…重心の関係で無理そうです。
 垂直尾翼ではもうひとつ、ベントラルフィン…全然ベントラルじゃないところにありますが…だけが左側にあるのも面白いですね。

 垂直尾翼が右側だけだと、右エンジン停止時に垂直尾翼に当たるプロペラ後流が一気に全部失われるので、左側にも回転銃座の射界を妨げないところに垂直翼面を置くことにした…という理屈ですが、実際には水平尾翼のフラッターを防止するカウンターウェイトにしかなっていなかったともいわれています。



 側面形に話を進めましょう。主脚の長さが目立ちます。長さ3mを超えるものですから、重量面で結構なハンデになっているのですが、荷役作業の便を考慮した設計の結果ですから致し方ありません。

 前脚は完全引込み式ではないんですね。後ろに傾けて、地上姿勢でのカバーの下にちょっと遮風板を突き出すことで空気抵抗を減らそうという仕掛けですが、はたして有効だったんでしょうか。

 ものの本によると、こんな引き込み方でも4ノット程度の速度が稼げたそうです。それに、油圧系統を損傷して風圧で主脚だけを下げて不時着しても、この前脚部分がつっかい棒になって、機首の貨物室ドアを開けるためのクリアランスは確保できるというわけです。

 なるほど。首も尻尾も細長くてひ弱そうな印象があるけれど、戦術輸送機らしいしぶとさもちゃんと持っているんですね。
 右側面を見てみると、左ナセルのほうが右よりも一段高くなっていることもあって、非対称機で犠牲になりがちなコクピットの反対側、つまり右方向の視界も充分なのがわかります。

 特異な配置のしわ寄せが来ているのは、通信・航法士と防御機銃手の居住性です。
 左コクピットブロックの後端には主車輪収納庫が割り込んできますので、通信・航法士が着座方向を変えるときに少々つらくなります。

 防御機銃手の席はというと、前後に主翼桁貫通部の隔壁、左右にテイルブームの縦通材、お尻の下には主脚作動機構が迫っていますので、銃手はかなり窮屈な姿勢を強いられそうです。



 最後に登載要領を見てみましょう。積載したままあらゆる飛行条件に耐えられる正規の積載スペースは、一番上の図で人が乗っている範囲、長さ5.6m・幅2.5m・高さ2.3m(18.25×8.25×7.50ft)の空間です。

 荷重をかけさえしなければ機首ドア部分と後部降下ドア部分のスペースにはみ出してもいいわけですから、結構な長尺物も詰めそうですね。
 後部降下ドア部分の後方が薄い線になっているのは、どういうことでしょう?

 比較的近距離での物量投下ミッションを行う場合は、貨物室後方のフェアリングを外して大きな開口部を作ることができるんです。主翼付根フェアリング後方の空力整形のために天井部分が外せないのは少し残念ですが。

 最大積載量が4トン程度ということは、ブレンガンキャリア程度の軽車両なら載せられるんですね。前脚の高さのぶんは渡り板でも渡しておけば自走して乗り降りできますし。

 実際に自走登載をするときは、前脚の左右に補助ジャッキを添える必要があり、しかも斜めになった開口部からうまく載せるには、運転にちょっとしたコツがあったそうです。

 実質、ほとんど擦りそうな幅しかないですものね(笑)


 要求仕様にあった簡易爆撃機としての登載要領ですが、前桁前後の床板を穴あきのものに差し替えて、その上に投下器付きのラックを載せることで対応しています。

 なるほど。それが3列3段で500ポンド汎用爆弾9発というわけですね。しかし、頭を上にした直立登載ですから、命中精度には若干の問題がありそうです。

 そのこともありましたし、差し替え式の床面では強度に若干の問題ありと判定されたこともあって、爆弾搭載は試作機での実験段階を超えることなく終わったのだそうです。

 機首貨物ドアの開閉角度は100度となっています。完全に正面を開放できているわけではありませんが、必ずしも前方向がきれいに確保できるとは限らない状況での荷役作業には十分でしょう。

 よく見ると、貨物室後方の取外し式フェアリング部分は、左プロペラの回転面を避けるように切欠きの形状が左右非対称になっているんです。ここまでしてこそ左右非対称機の鑑というわけなのです。

 決して考えすぎて魔道に堕ちたとか言ってはいけないんですね。



〜諸元(ハウダーMk.I)〜

翼幅98ft1in(29.90m)
全長64ft9in(19.74m)
全高23ft7in( 7.19m)
翼面積1,010sq.ft(93.83sq.m)
自重21,080lbs( 9,562kg)
最大離陸重量35,260lbs(15,994kg)
最大搭載重量

11,250lbs( 5,103kg)

発動機 ブリストル・ハーキュリーズ6
離昇出力 1,670hp×2

最高速度215.0kt@15,000ft
(398.2km/h@4,572m)
219.4kt@10,000ft
(406.3km/h@3,048m)
経済巡航速度133.5kt@15,000ft
(247.2km/h@4,572m)

航続時間(140kt@15,000ft・余裕燃料45分)
  (機内燃料最大)11時間45分
  (+貨物室増槽220gal)15時間30分
  (燃料4,600lbs)9時間40分
  (燃料2,400lbs)4時間40分