日本海軍 愛知15試艦上偵察/爆撃機 D5A1−C「昴」(すばる)

D5A1−C「昴」

諸元 全長   : 10.5m 全幅   : 15.0m 自重   : 4,500kg 全備重量 : 6,500kg 乗員   : 2名 発動機  : 三菱「火星」11型 空冷星型複列14気筒        離昇出力1,420馬力×2 最大速力 : 592km/h 航続距離 : 1,910km(標準)        3,610km(増槽使用) 武装   : 20mm機銃×2 (機首固定)        13mm機銃×1 (後席旋回) 搭載量  : 下記のいずれかを選択        @ 250kg爆弾×2     (内翼下面)        A 500kg爆弾×1     (主胴体下面/急降下装備時)        B 400リットル増槽×2  (内翼下面)        C 40mmガンポッド×1   (主胴体下面)        D 偵察用カメラポッド×2 (内翼下面)          700リットル増槽×1  (主胴体下面)  「昴」は艦上偵察機として開発された機体では無い。もともとは、16試艦 偵の要求仕様が開示される1年ほど前に、15試艦爆として開発が開始された 機体である。  昭和15年初頭、前年末に99式艦爆の開発を終えたばかりの愛知に、再び 艦爆の発注が行なわれた。この時点で空技廠では、13試艦爆(後の彗星)を 開発していたのだが、この13試艦爆は実験機といっても良い、新技術を多用 した機体で、たとえ開発が完了したとしても、生産・運用面で問題が多発する であろうことは、容易に想像できた。このため海軍は99式艦爆の開発を終え て手の空いた愛知に、新たに新型艦爆の開発を発注することにしたのだった。  15試艦爆として発注されることになったこの機体は、空技廠の13試艦爆 とは対照的に、可能な限り既存の技術でまとめ、生産・運用が容易であること が求められた。その一方で、要求性能の軽減はほとんど無かった。年月ととも に技術が進歩したことを考えれば無理な話では無いが、それでもやはり厳しい 要求には違いない。これを加味して、要求仕様にいくつかの自由度が与えられ た。母艦上で運用可能な範囲に収めることを条件に、機体の大型化、双発化な どが認められたのである。  15試艦爆に要求された性能、大型双発を可とする仕様を考えると、同年末 に空技廠で開発が開始される15試陸上爆撃機(後の「銀河」)と同等の要求 であり、違いといえば搭載量、航続距離で要求が甘い代わりに艦載が求められ ているといったあたりであろう。  15試艦爆が500km/h台後半という、速度要求を満たすためには液冷発動機 を使用して極限まで空気抵抗を減らすか、大馬力空冷発動機を使用して強引に 機体を引っ張るしかない。だが15試艦爆が、13試艦爆のいわば保険として 発注された経緯を考えれば、その信頼性の問題から液冷発動機を使用するわけ にはいかない。しかも確実さを求められるために、開発中の発動機を使用する わけにはいかず、すでに性能が安定した発動機の使用が必須となる。このこと から、15試艦爆は必然的に三菱「火星」11型を選定することとなった。  確かに「火星」は大馬力であるが、その分直径も大きく空気抵抗も大きい。 この空気抵抗を軽減するためにナセル形状に工夫が凝らされた。参考になった のは、やはり三菱製の陸軍新司偵(百式司偵のこと)である。  また、主翼形状においても工夫されている。楕円平面形を採用することによ って、若干の空気抵抗軽減が成されている。要求仕様の生産性には反するよう に思われるが、愛知ではすでに99式艦爆で採用している技術でもあり、生産 性が悪化する心配は不要であった。  艦載を前提とするため機体サイズには制限があり、このため主翼面積も限界 がある。15試艦爆では200km/uという高翼面荷重となっており、着艦時の揚 力確保のために二重間隙式フラップを採用している。また外翼部には前縁スリ ットも装備しており、着艦速度は130km/hまで下げられている。また、これら の補助翼を使用することで、運動性もかなり向上している。主翼は99式艦爆 と同様に、上方内側へ折り畳み可能となっており、折り畳み時には全幅8m程度 と、かなりコンパクトに収容できるようになっている。  15試艦爆はその名の通り急降下爆撃を行なう機体であり、外翼部にダイブ ブレーキを装備している。このダイブブレーキは、スポイラー式の、主翼と面 一になる構造で、収納時の空気抵抗は極めて小さいものである。  15試艦爆がその要求仕様に反して採用した新技術と呼べる技法は上記の程 度であり、これらは他の機体を見ても結果的には成功を収めている装備で、問 題の発生元となることは無かった。  15試艦爆の試作1号機は、設計開始よりおよそ1年後の昭和16年初頭、 初飛行に成功した。いくつかの新技術は採用したものの、基本的には既存の技 術でまとめる手堅い方針が功を奏し、初飛行より3ヶ月後には、ほぼ実用の目 処が立っていた。  この時期に新たに16試艦偵の仕様が開示された。愛知では開発中の15試 艦爆がこの要求を満たしていると判断し、海軍当局の許可のもとに15艦爆の 艦偵への転用作業を開始した。  とはいっても、実際に行なわれた作業はごくわずかで、偵察員の下方視界を 確保するために、偵察員席の位置を若干後方に下げた程度である。わずかな改 修ではあるが、これだけでも偵察機としての能力は向上しており、あとは偵察 用カメラ一式の装備を外装可能なように配線を追加した程度である。  改修が基本的に空力的な影響の小さい点だったことで、飛行性能への影響は ほとんど無く、15試艦爆は以後、15試艦上偵察/爆撃機と呼称されること となった。省略時は前後逆となるが、15試爆偵と称される。  16試艦偵として要求されていた、敵戦闘機の攻撃を回避するための急機動 能力であるが、もとが艦爆であるため急降下性能は十分で、大概の戦闘機を振 り切ることが可能である。二重間隙式フラップと前縁スリットを用いての運動 性も比較的良好で、双発ゆえに馬力荷重も良好なことから、操縦士の腕次第で は重戦の真似事も可能となっている。  対小艦艇攻撃に関して、これについては新装備が別途用意された。これが主 胴体下面に装備可能な40mmガンポッドである。  40mmガンポッドの正体は、旧式な毘式40mm水冷機銃を増槽と同様の吊下槽に 収めたもので、海軍余剰品の使い回しである。小艦艇相手では急降下爆撃より も、反復攻撃が可能なこうした攻撃のほうが有効であることは間違い無い。但 し、間に合わせの水冷機銃を使用したため、使用高度には制限がある。中〜高 々度では、冷却水が凍り付いてまともに作動しない可能性が高い。  15試艦爆から15試爆偵への改修、および15試艦爆のときから継続中で あった海軍の審査を終了し、実用可としての結果が得られたのは昭和17年末 のことである。海軍はこの頃から、陸軍に習って機体に個別の名称を与えるよ うになった。15試爆偵はもとが艦爆であること、現状でも艦爆としての要素 が濃いことから、15試爆偵に艦爆の、星・天文に関する名称が与えられるこ ととなった。こうして与えられた名称が15試爆偵「昴」であった。  艦偵としては、16試で競作となった他社の機体との比較試験があるため、 制式採用は決定していないが、空技廠の13試艦爆が新技術を多用したために 実用化が遅れていること、また、同じ愛知で16試艦攻として発注を受けた艦 爆/艦攻兼用の機体も開発にまだ時間がかかることから、次期主力艦爆として 採用される可能性が濃厚である。試験時から高く安定した稼働率を示し、整備 も容易であることが、採用の可能性を一段と大きくしている。