水上機母艦案「水上機母船隊」

◆母船隊

 摂津重工艦艇設計部の試算によると、海軍の要求仕様を充足するには、速力27ノット、巡航18ノット、航続距離14ノットで8000浬、搭載機24機が必要となり、さらに軽質油や補充部品の備蓄・運搬機能、指揮通信機能を付加すると、1万5千トン級の本格的な艦艇構造の艦となってしまうという結果となった。
 これでは仕様のひとつ「工作の簡易化」を充足できなくなる為、単艦ではなく、複数船種に分割、これを統合運用する「水上機母船隊」が考案された。

 母船隊は旗艦であり主に基地での業務を担当する商船改造の特設水上機母艦、艦隊に随伴するなど前進基地として機能する小型水上機母艦、燃料の輸送と備蓄などを行なう運送船の3船種からなっており、以下に各船種の詳細を解説する。

◆特設水上機母艦<日豪丸>


 「水上機母船隊」案では、旗艦兼司令部としての指揮・通信および物資や資材の運搬、整備などを担当する母艦が要求された。
 母艦は特に高速を必要としない事、大型である事を要する事から、新規に建造するのではなく、既存の商船を充てる事となり、摂津海運(SKK)の南洋周回航路(オーストラリア・南洋航路)用の高速貨客船<日豪丸>が選ばれた。

 <日豪丸>はSKKが大洋州航路や印度航路、中国航路といった準主要幹線航路に投入した中型高速貨客船「友好」型の5番船で、友好型は「豪華ホテル」というべき日本郵船の浅間丸型や新田丸型には及ばないものの、機能的でコンパクトにまとまった快適な居住性は今で言う「ビジネスホテル」に相当する実用本位の優秀船だった。
 特に<日豪丸>は投入されたオーストラリア方面は移民が少なく観光客が多い航路特性から、さらに居住性が改善されており、航路の大半が熱帯・亜熱帯である為、特に冷房と通気に気を使い、豪華客船でも一等客室と一・二等公室の一部だけだった冷房を一・二等客室と各等公室の一部まで拡大し、その他の公室や三等客室も通気を充分に考慮した設計となっており、機能優先の「小さな豪華客船」として内外で評判となった。

 「第二の帝国義勇艦隊」と呼ばれるSKKの船らしく、商船の頃から特務艦船改造を見越しており、B甲板の「展望台」はどう見ても砲座だったし、プロムナードデッキには重量物の運搬用としか思えないレールが敷設されおり、カタパルト用だと思われる台座もデリックから丁度いいぐらいの位置に備えられていた。また、商船としてウリであった空調完備もうがった見方をすると、当事、問題になっていた毒ガス戦を考慮したものだったのかもしれない。
 本船の機関、摂津500型ディーゼルは「高性能だが、満足に運用するには驚く程の熟練と手間が必要」といわれた艦本2号10型ディーゼルの商用デチューンモデルであるが、建造工程の見なおしと容積の増大および出力の低下と引き換えにかなりの安定性と整備性を手に入れる事に成功している。

 特設水上機母艦としての<日豪丸>は特設艦船として標準的な改装が施されたが、前述のとおり、砲座を作りこんであった為、後の神聖君国型(川崎汽船)やS型(日本郵船)に比べて備砲を2門多く搭載することに成功している。
 射出機は後甲板に1基、特設水上機母艦共通の欠点である、前部甲板に積んだ飛行機は航行中に後部甲板に移す(=射出機で射出する)ことができないという点も同じである。
 搭載機は12機、射出機が旋回できなくなったり、甲板上で飛行機を移動できなくなって良いのならあと6機は運送可能である。
 商船時代のウリだった冷房設備はそのまま残されており、特に南方での行動が期待されている。(逆に北方では通気が良すぎる欠点がでかねない)

<日豪丸>要目(武装・搭載機以外は竣工時のもの)
総トン数9000トン
全長148.5m
全幅16.4m
主機摂津500型ディーゼル 2基
推進軸2軸
出力10000馬力
最高速力20ノット
武装15センチ単装砲4門
13ミリ単装機銃2基
射出機1基
搭載機12機(満載16機)
竣工昭和10年 摂津重工大阪造船所


◆艦隊型小型水上機母艦


 「水上機母船隊」案が要求する艦隊随伴用小型水上機母艦として計画された。

 艦隊に随伴して索敵を担当し、必要に応じて他の艦の水上機にも補給や整備を行なう事が可能で、また単独で進出して偵察行動を行なえるように若干の指揮通信機能も付加されている。
 初期計画案では7000トン級の「軽巡」とする計画もあったが、コスト面から見送りとなり、軽巡と駆逐艦の中間の4000トン、構造は駆逐艦型とする事が決定した。

 生産性向上の為に、極力直線を多用する事とし、艦橋も箱型としたが、艦尾はデストロイヤースターンで、艦首にも大きなフレアをつけるなど、あまり徹底できていない。
 飛行機の作業甲板と射出機の配置を優先したため、後部マストの位置がかなり不自然な位置にあり、極力サイズを小さくするなどの対策を練ったが、やはり重量バランスの悪さは避けられず、後部に被弾したときの損害増加が心配される。
 船体材は直接戦闘に関与する艦ではないので、全面的にMS鋼を採用した。重量増加や強度が心配されたが、溶接を多用したため(MS鋼の溶接はDS鋼よりは簡単)、トータルではほとんど重量増加が発生せず強度も特に問題が生じず、DS鋼万能主義の造船界に一石を投じる結果となった。

 航空兵装は射出機1基。船体中央部に部品や補用機(分解)を収納する格納庫を設け、その上を整備や繋止に使用する作業甲板としている。
 水上機は射出機上に1機、作業甲板上に3機、後部甲板に1機の6機が繋止でき、さらに3機分の補用機が搭載可能となっているが、満載すると整備作業などに支障が出るので定数は5機、ただし、固有の機は持たず「母船隊」や他の艦の機を運用する予定になっている。

 その他の兵装については、12.7センチ砲を1門と若干の機銃が搭載されているだけであり、防御も見るべきものはなく、個艦戦闘力はかなり低く押さえられており、あくまで水上機の搭載能力のみを抽出した移動前進基地として位置付けられている。


艦隊型小型水上機母艦(案)
基準排水量4000トン
公試排水量4900トン
全長116m
全幅12.2m
主機艦本式オールギヤードタービン 2基
主缶ロ号缶本式水管缶(重油専燃) 4基
推進軸2軸
出力30000馬力
最高速力27ノット
航続距離18ノットで4000浬
燃料搭載量重油600トン(他に補給用軽質油100トン)
武装12.7センチ単装高角砲 1基
13ミリ連装機銃 5基
搭載機5機


◆可潜運送船


 計画以前から摂津が研究を進めていた緊急回避の手段として潜没が可能な特殊運送船で、計画は排水量ではなく、総トンベースで進められていた。
 「水上機母船隊」案では水上機部隊の燃料運送と備蓄、単独進出して環礁などでの水上機や飛行艇への燃料補給を担当する。
 伊351型やドイツのXIV型のような「輸送/補給能力をもった潜水艦」ではなく、あくまで水上航行が基本な「潜没可能な水上船」である。

 構造的はシングルハル構造で、練度の低い徴用船員による操船を考えてセーフティタンクも装備しており、伊号潜水艦よりは川崎造船のマッチャース型潜水艇(シャム海軍)に近い印象がある。
 潜水艦としては大型に属する本船をMS鋼で作るのは流石に難しいので、船体材にはDS鋼を採用しているが、他の艦艇に影響を与えないように、品質基準は戦闘艦艇用のものより2割ほど緩くなっており、艦艇用の品質検査でハネられた不良材を使用することが可能となっている。
 安全潜航深度は15m。ただし、これは油積機構やフォクスルなどの破損限界で、船体自体の圧潰危険深度は30m、しかも船体材が最悪と仮定しての数値なので、実際は50m前後までは問題なく潜ることが可能と予想される。

 機関は内燃機関と推進器を別軸とし、電気的に統合する「電気推進」を採用している。この方式は我が海軍では大正9年に運送艦<神威>が試験的に採用したのみで、潜水艦用機関としてはクラッチで結合する従来の方式に比べて水上速力が劣るという欠点があるものの、機構面や運用面では有利な点も多く、アメリカ海軍などでは潜水艦の推進方式として主用されており、半ば実験的に採用された。
 内燃発電機はディーゼルではなく、点火機構を備えたセミ・ディーゼルを採用した。「焼玉エンジン」とも呼ばれるセミ・ディーゼルはディーゼルに比べて効率は劣るが、熟覧期に入りつつある完成度の高い技術であり、民間の中小船舶で多く使用されている事から民間工場での建造・整備が可能で、応召の民間工でも扱う事もできる為、戦時においても生産性、信頼性、整備性ともに高い水準を維持できる事が期待されている。

 武装は機銃のみで、魚雷発射管は搭載しておらず、あくまで運送船であり水中・水上戦闘力は期待されていない。

可潜運送船(案)
総トン数1500トン
全長88.5m
全幅10.4m
主機無注水ボリンダ型セミ・ディーゼル発電機2基
閉鎖通風型電動機2基
推進軸2軸
出力1200馬力
最高速力水上11ノット 水中6ノット
航続距離水上9ノットで4000浬
燃料搭載量重油120トン
武装13ミリ単装機銃1基
搭載量軽質油300トン
貨物100トン
安全潜航深度15m(圧潰危険深度30m)