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空軍当局が新戦闘機計画を発令した時点で、ウェストランド社は高々度迎撃機F4/40(ウェルキン)の設計に取りかかっていたところであった。本来ならば、開発ラインをもうひとつ設けるなどというのは、技術陣の能力を超えた無謀な話である。しかし、要求仕様の「良好な高空性能をも要求する。」の一文が同社を本計画への参加に踏み切らせた。つまり、「同じ高々度機同士、設計ノウハウの使い回しができるから、100%の新規開発にはならないだろう」し、「高々度迎撃機だけでは数を売れそうにもないから(ウェルキンが量産されながらも部隊配備に至らない現状から思うに、この判断は正しい。)、研究開発費の回収のためには主力戦闘機に進出すべし」ということである。 ただし、問題はあった。エンジンの選定である。技術陣は「マーリン」か「グリフォン」を希望したが、経営陣の事情がそれを許さなかった。ロールスロイスとはすでにホワールウインドの「ペリグリン」で取引があり、F4/40も開発リスクの少ない「マーリン」搭載が内定しつつあった。さらにライサンダーの「マーキュリー」でブリストルとも取引があるとなると、供給面でのリスク回避と公平さ(つまりは八方美人)の観点から、ネイピア社とも取引をしておかなければならない、というのである。 こうして、「セイバー」搭載が決定したが、困ったことに同エンジンには一段二速過給器しか付いていなかった。これでは高々度性能要求は達せられない。しかし、セイバーエンジンの後端には「いいもの」が付いていた。「油圧クラッチ」である。技術陣はネイピア社と協議のうえ、このクラッチを前後両面に出力軸を持つものに換装させ、後方に予備過給器を増結させる簡易高々度対応型を製作することとしたのである。 機体設計にあたっては、先行する双発のウェルキンが「高々度20mm機関砲台」になりそうだということから、同機とは対照的に、研ぎ澄まされた戦闘機らしい飛行機にすることが優先された。翼面積はわずか210平方フィート(約19.5u)に抑えられ、二桁式の強固な構造とした。しかし、アスペクト比は8.27という単発戦闘機としては非常に大きな値を選び、高々度性能と機動時の失速特性に配慮している。 エンジン隔壁後方には、増結過給器、大容量クラッチのための増加潤滑油タンク、そしてコクピット与圧用のコンプレッサーを収容するコンパートメントが設けられた。その下面には大きな吸気ポッドが突出することとなったため、胴体内に収めることができなくなった車輪収納部は主翼前縁のグラブに押しやられ、車輪間隔は非常に大きくなった。また、来るべきドイツへの長距離侵攻に備えて胴体下に大型増槽を吊下げることとしたため、ラジエターはP-38のブームと同様に尾部側面に装備することとし、本機に大きな外形上の特徴を与えている。 与圧コクピットは、円筒形の与圧区画から最小限の大きさしかない長球形のキャノピーを突出させる設計として、軽量ながらも内圧に耐えうるものとした。キャノピーは下手に分割をすると応力集中がおこるため、厚さ2インチの二重強化ガラス製の一体成形品として、パイロットの防弾を兼ねさせている。しかし、材質と製法の改良にもかかわらず、曲面による視界の歪みを完全には解消できていないため、別体の平面防弾ガラスをはめこむタイプも検討されている。 水平尾翼はラジエター後方の乱流を避けて上に持ち上げられ、ホワールウインドやウェルキンに似た十字尾翼構成をとっている。 ![]() 雲海上を試験飛行中のバクナリア試作2号機 当局は試作機を5機発注したが、1号機が完成する直前の本年(1943年)4月ごろまでには、これに12機を追加した。対独戦略爆撃部隊の損耗の激しさが顕在化しており、戦爆連合の要になる戦略戦闘機たりうる本機の早期実用化は緊要であるためである。さらに、本年6月11日の1号機初飛行の直後には、空軍のパイロットと整備員からなる運用試験チームをウェストランド社に派遣して、飛行試験と実用評価試験を並行して行うという特例措置を発令した。なお、1号機はヘンリー=ハートフォード中尉の専用機とされ、高々度迷彩に中尉のイニシァル"H"と出身地にちなんだマレー獏のマークをあしらい、実戦機に順ずる外観としている。 飛行試験においては、高翼面過重ゆえの着陸速度の速さと滑走距離の長さ、翼内燃料タンクの残量が70%以上のときにおける縦操縦過敏が指摘されているが、本機は戦略戦闘機として本土のよく整備された飛行場から作戦するものであり、また、爆撃機護衛任務において離陸直後に激しい空戦機動を行うことは考えられないことから致命的な問題とはならない、というのがウェストランド社側の見解である。ただし、砲の固定方法に不安定な部分があり、射撃精度の低下の傾向があることと、緊急時のキャノピーの投棄方法については改善策を検討中である。 なお、本機の名称「バクナリアBacnaria」とは、「ほうきにまたがって飛ぶ魔女」の意であり、スピットファイア(「癇癪女」)の上を行こうとの願いを込めた命名であるという。 |
| (英国空軍技術士官の手記より抜粋:1943年11月) |
| 翼幅 | 12.70m |
| 全長 | 10.88m |
| 全高(水平姿勢・プロペラ除く) | 3.91m |
| 翼面積 | 19.51u |
| 自重 | 3660kg |
| 総重量(外部搭載品なし) | 5098kg |
| 最大離陸重量 | 5700kg |
| 発動機 ネイピア「セイバーUAA」 | |
| 離昇出力 | 2330hp |
| 最高速度(高度12192mにて) | 745.1km/h |
| 実用上昇限度 | 13700m |
| 航続距離(機内燃料最大) | 約1200km |
| 同上(増槽装備最大) | 約2100km |
| 武装 イスパノMk.U 20mm機関砲×4(翼内) |