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海軍発令による試作局地戦闘機開発チームを編成し、 最初のミーティングを終えた犬神技研の犬山常務は 幹部スタッフと開発方針の雑談をしていた. 犬塚主任技師; 常務、三菱の零戦で気になることがあるのですが、 たしかに素晴しい性能を発揮しているとは伝え聞いて いますけど、先行きどうなんでしょうね? 犬山常務; ん?どうしたんだ? 犬塚主任技師; いえ、今でこそ世界最高かもしれませんが、欧州での 戦争がアジアにまで広がりそうな雰囲気がありますね. いざ、戦争になったら、決戦なんてありっこなく、各国 は国力を傾けた持久戦に巻き込まれると思うんです. そのとき、いつまで、世界一でいられるか、疑問なのです. 犬岡技師; 先の欧州大戦で、始めて戦闘行動にでた飛行機は、 せいぜい100馬力で最高速も130キロ程度だったのが、 3年半後終結時には300馬力でスピード200kmを超える まで発達しました. おそらく、今度戦争が広がったら、今1000馬力の戦闘機 は、2000馬力、いや3000馬力級のものが登場してくる ことが考えられます. つまり、陸攻より重い戦闘機や、6発とか8発の重爆撃機が 覇を競う時代がくると思います.飛行機の開発改良には多く の経費と時間がかかるのですが、今の状況だけをみて、 ぎりぎりの性能で、発展性の乏しい機体を開発してどうなる のか、という疑問を持っていました. 犬山常務; そうか.実は全員の前では言いにくかったのだが、今回の競争 試作は、実際は三菱がすでに本命であって、われわれは、 刺身のツマなんだな. 先日、報国産業会の宴会で、川西龍三さんに会ってね、川西 さんも海軍の三菱びいきに憤懣やるかたない様子だったよ. で、川西は、大型の水上戦闘機を作るようだ.ころあいをみて、 陸上機に改造できることを狙うらしいんだな. 犬塚主任技師; そういうことなら、海軍の要求仕様は一応尊重するとして、われわれ は3年先4年先を見据えた決定版をつくりたいのです. エンジンは、使える中でもっとも大きく重いのを使い、防弾や武装 も充実させ、厚い外皮を張って、急降下でもしわなんか 発生させないゴージャスな戦闘機を作りたいのです. 犬山常務; そうか、君たちは、明日の受注よりも、将来のための先行開発 にしたいんだな.よし、いいだろう. 会社も先の水上機母艦の受注で、利益が出ているから、投資に 耐えられると思う.若い力を、思いっきりぶつけてくれ! それはそうと、このプロジェクト、なんて呼ぼうか? 「どんと行け」にしようか(笑) 犬塚主任技師; 局地戦闘機ですから、機体の名前は雷さまですね. 英米ソ連、どんと来い!ってことで、ライデン ドットコム ではいかがでしょうか? 犬山常務; おう、いいじゃあないか. じゃ明日からしっかり仕事頼むよ. 私はこれから社長の承認をとりつけてくるから. 1942(昭和17)年1月、ライデンドットコムの1号機が完成 した.大して期待していない海軍関係者は、木型審査の際にも さっと見て帰ってしまった位で、そのため試作機は純粋に 技術者の夢を乗せて完成していた. 海軍試験飛行士 大川万兵衛大尉; な、なんじゃあ、こりゃあぁぁ. ずいぶんひょろ長い戦闘機じゃなあ! おまけに窓は小さいし、鼻は長くて前がみえるのか、これ. でもしゃあない、試験するか. ドゥッドゥッドゥッドゥッ、火星エンジンが鼓動する. 海軍試験飛行士 大川万兵衛大尉; どうれ、地上走行試験でもやるか. あれ、案外地上走行悪くないな、ははあ、ひょろ長さが 効いているってことか.それにしても、鼻がながくてちっとも 前下が見えんわい. 空母だったら、とてもやってられんな. まあ、局戦ってことで大ざっぱに作ったんだろう. でも、何だか飛びたくなったな. それ、スロットル開けてやるか! ドットコム初号機は、なんなく離陸した. 海軍試験飛行士 大川万兵衛大尉; おや、どんくさいと思ったけど、飛べば結構いけるじゃないか. 本命の三菱の担当の帆足大尉は、延長軸の振動で、とても まともに飛べやせん、となげいていたが、こっちは案外順調だ. 要は、凝った仕組や複雑な機構にはろくなことがないって ことだな. しかし、後ろの視界が悪いなあ.あ、そうか、高度で有利な 位置をとり、突っ込んで離脱、だったな、どうれ、突っ込むか! おう、400ノットでも揺れないぞ、こいつあ、いい. では、水平飛行での速度はどうだ? 325ノットがやっとか、これでは要求性能にはとても届かない が、エンジンが強力になるのを待つのか、それとも失格に してしまうか、 こうやって飛んでると、なにか捨て難いんだが、横からみた 格好がどうも不細工だからなぁ、 まあ、「審査継続」扱いにしておこうかなあ・・・ ドットコム初号機は無事着陸した. 海軍試験飛行士 大川万兵衛大尉; しかし、この着陸速度160kmっていうの、どうにか ならないもんかな・・・コンコン(操縦席後ろを叩いて) な、なんだこりゃ、鋼板じゃないか! あれ、カウリング上部も、胴体下にも! おーいい、これ、鋼板だらけじゃないか! いったい何考えているんだ! 犬塚主任技師; 弾があたって困る部分に6mm鋼板張ってあるんですよ. 安心して、敵爆撃機に突っ込んでください(にこ) 海軍試験飛行士 大川万兵衛大尉; ははあ、上昇速度がいまいちなのも、着陸速度が速いのも、 5000mから横転何回も繰り返すとすぐ高度2000まで 下がるのも、この鉄のせいだろう! いったい何kg無駄にしてるんだ! 犬塚主任技師; 無駄な重量はありませんよ. 鋼板は200kg張ってありますが、特に下面のは 構造材を兼ねていますから、主脚も艦爆用のごついのを 付けてられ、安心しておりられるでしょう? 上昇がいまいちなのは、エンジンが1400馬力だからで、 このドットコムが目差しているのは2000〜3000馬力 級戦闘機なんです. 2000馬力でいいですから載せてみれば、矢のように 上昇しますよ! そして、上空で敵爆撃機を待ち構え、見つけたら 鷹か電撃のように襲い掛かる飛行機ですからね、 ドッグファイトなんか考えていません. そういうのをお好みなら、12試(ZERO)がちょうど いいでしょうが、海軍さんは、12試だけじゃ基地 防空が不十分だからこそ、今回の計画たてられたのでは ありませんか? 海軍試験飛行士 大川万兵衛大尉; ぐ、むう・・・ そうか、それなら、新型エンジンが用意できたとき またテストやろう!審査継続! ドットコムは戦闘機型に加え、主翼を2間(3.6m) 延長し脚を艦攻用のさらにごついタイプに換装した 40系列というものを生み出していく. 世界初の単座戦闘雷撃機だ! しかし、日本の航空エンジンは、3000馬力はおろか 2000馬力級も安定した製造ができないていたらくであった. 安心して使える大馬力エンジンは、1944になっても 相変わらず火星1820馬力であったのだ. フィリピンの戦線に配属された3002部隊の ドットコムは、未熟な搭乗員が混じっているにも かかわらず、押し寄せる米国艦載機、重爆撃機相手に しぶとく対抗していた. 基本的に、やや鈍重な機体のため、大きな戦果はなかなk 得られないが、上空7000m以上で待機し、うまく 敵編隊を発見し突撃すると、敵機が5〜6機落ちて いく. 海面近くまで急降下で離脱し、味方の安否を確認すると、 多少傷ついた機体はあれ、全機帰還できることが 多かったのだ. こうして、未熟搭乗員も、次第にベテランに育っていった. また、後方上の視界が良くないために、搭乗員たちは、 申し合わせの上、離陸後に3機編隊を解き、2機1組 のロッテ編成に変更していたことも有効だったのだ. いくら決死の覚悟を決めた搭乗員であっても、やはり 人の子なのだ. 操縦席後方の鋼板に「ガンッガンッ」という敵弾の命中 音を経験したものがほとんどであり、これがなければ、 多くは空中で散ったことだろう. カウリング側面には鋼板がないけれど、よほど油断しない 限り側面から襲われることはない. 1944年11月23日、米B24重爆40機の大編隊に 立ち向かった3002部隊の18機のドットコムは、 敵13機を葬り、全機帰還という快挙で、のちのちまで の語り種となった. |