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ああ、くそっ!またかっ!なんで俺ばっかりがこんな目に会うんだ!俺がなにしたっていうんだ!あれをチョロまかしたのはティムのヤツに決まってる!俺がいた時間になくなっただと!?その前からチェックしてなかっただけだろうに!あの老いぼれ野郎め! ちっ!どっちにしろまた職が無くなっちまったのは間違いない。なんでこうなっちまったんだ!戦争が始まる前はいいことの方が多かったってのに! あの3機は間違いなく仕留めた。しかも、1機は新型のフランクだったんだ。3機ともちゃんと海面に叩きつけられるところまで確認した。それを、あの空域には日本機はいなかっただと!?じゃあ俺が墜としたのは何だってんだ!アホウドリかなんかだとでも言うのか!?・・・けっ!ばからしい! それにしても、同じ事がなんで3回も起こったんだ。たとえ1回でもいいから一緒に飛んでくれてるヤツがいれば良かったんだ。なんで一人で飛んでるときに限って3回も撃墜のチャンスがやってくるんだよ。おかげで、俺は『ホラ吹きジャック』だ!しかも、トータルスコアも2機ってことになっちまった!あの3機がありゃあ、エースって事でちっとはましな扱いも受けただろうに、たったの2機じゃあその他大勢のパイロットでしかねぇ。 しかし、困ったもんだ・・・。また職を探さなきゃならねぇ・・・。 「おい、ジャック!」 俺が振り返ると、そこには懐かしい顔の男が立っていた。俺の愛機F6Fの整備を担当してくれたやつだ。 「へい、マイスじゃないか!また会えるとはうれしいぜ!」 「ははは、そりゃご挨拶だな。いつだって会えるさ。・・・ところで、景気はどうだい?」 マイスは昔ながらの屈託のない笑顔で問い返してきた。 「へっ、最低だよ。つい、さっき仕事をクビになってきたぎかりだ」 俺はやけくそ気味に答えた。 「なんだって?いったい何をやらかしたんだよ?」 そう言いながらもマイスの口調はいたって穏やかだ。そう、俺の3機の撃墜を信じてくれた唯一のヤツなのだ。 「ふんっ、何にも。ただ、空母を降りてからこっちも運の悪さは相変わらずってことさ」 俺は自暴自棄になりかかってたので、マイスのヤツに吐き捨てるように答えた。 「ふーん、てことは現在職無しってことか・・・。なあ、いい仕事があるんだがちょっとやってみないか?」 「なんだ?仕事の世話をしてくれるってのか?そりゃ助かるな。・・・で、どんな仕事だ?」 そこでマイスは意味深に「ニッ」て感じで笑った。 「まあ、おまえが得意な仕事さ。パイロットのライセンスはまだ持ってるだろう?」 「ああ、あれが無くなっちまえば俺は本当にとるに足らない存在になっちまうからな」 「はっ!随分と落ち込んでるようだな。まあ、この仕事をすればおまえだってちったあまともな気分になれるってもんだ」 「なんだ、飛行機の操縦の仕事か?言っとくが、俺は遊覧飛行なんてチマチマしたやつは性に合わないからお断りだぞ」 すると今度は、本当に「にや〜」って感じで笑いやがった。 「そんな退屈なもんじゃないさ。それどころか昔以上にエキサイティングな仕事だよ」 「もうひとつ言っとくが、もう軍に戻る気もないぜ」 「ははは、それもはずれだ。・・・まあいい。ちょっと俺についてきてくれよ」 そう言うが早いか、マイスは俺の腕を掴むとそこに止めてあった車の後部座席に押し込み、あっという間に車をスタートさせたのだ。 着いた場所は、湖畔の屋敷に隣接する大きなガレージの前だった。 「なんだここは?この中に何があるんだ?」 俺は思わずマイスのヤツに問いかけていた。 「いやな、俺の叔父貴でそこそこの実業家がいたんだが、急性心不全で先日ポックリだ。んで、この別荘を遺産として俺がもらっちまったってわけだ」 「おやおや、そりゃ景気のいい話だ。俺にもちょっと分けて欲しいぐらいのもんだぜ」 俺は自嘲気味に言葉を挟んだ。しかし、マイスは何も聞かなかったようにガレージに歩み寄ると、横にある小さなドアを開けて俺を手招きした。言葉を続けながら。 「実は、この叔父貴が博物館を作ることになってたんだよ。ところが叔父貴のポストに代わりに収まったヤツが、博物館なんて酔狂なものにはとんと興味が無くってな。博物館を他の施設に転用することを決めて、そこの展示品に予定されていたものを片っ端から売り払い始めたってわけだ。しかし、このガレージ中に収まってるヤツは、どこも引き取り手が無くって処分に困っちまってたわけだ。で、タダ同然で俺がもらって来たってことさ」 そこで、マイスはガレージ内の照明スイッチを入れた。すると、そこには日の丸をつけたデカブツがいた。 「・・・コイツは・・・確か『ジャック』だ・・・。日本の上空で2,3度お目にかかったぜ」 「そう、その通り。よく覚えてたな。・・・しかし、コイツは44型っていう、排気タービンを積んだ試作機だ」 そう言われてみれば、オリジナルよりちょっと鼻が長いようだ。尻も延びているようで、見た目のバランスは悪くない。 「・・・試作機か・・・。それでコイツが展示品になったいきさつは何だ」 「一応、おもしろいってんで軍が日本から持ってきたらしいんだが、テストの結果は『ターボ付の割には大したもんじゃない』ってことだったらしい。で、あっという間に叔父貴のところに払い下げになっちまったって訳さ」 「ふうん。・・・しかし、なんでコイツはフロートを履いてんだ?」 ここでマイスは、また「ニヤッ」って笑いやがった。 「それが、おまえの仕事ってわけさ。来年、イギリスでシュナイダーカップって水上機のレースがあるのはおまえも知ってるだろう?」 俺はその言葉で心底ビックリした。あんなレースは、国のお偉方がやるゲームだと思ってたからだ。 「じゃあこの機体でそのレースに参加して、俺にそのパイロットをやらそうって腹づもりなのか!?」 ここでマイスは、今度こそ本当に「ニヤッ」って笑いやがった。 「ご名答。しかし、エンジンがそのままじゃあ馬力が足りないから、ついでにもらったR-4360にすげ替えてある。排気タービンを収めるために、オリジナルより鼻が長くなってたことが幸いしてすんなり収まってくれたよ。・・・ところで、この機体が日本でなんて呼ばれてたか知ってるか?」 俺たちパイロットに馴染みのある日本機の名前はコードネームだけだ。それ意外の名前なんかどうでも良かった。 「さあな」 俺は素直に答えた。 「『雷電』って言うのさ」 俺はまたまたビックリした。 「ライデンだって!?」 マイスは、もう愉快でたまらないって顔で続けた。 「そうさ。ジャック・ライデン様がジャックというコードネームのライデンって機体を操ってレースに勝つ。こんな楽しい話はないぞ。どうだやってみないか?まあ、それなりに危険な仕事だ。スポンサーも見付けてあるし手当ははずむぞ・・・」 そのとき、俺はなんて答えたのか今となっては覚えていない。しかし、俺が今コイツのコクピットに収まってスタートの合図を待ってるのは紛れもない事実だ。とにかく、今日まで食いっぱぐれることはなかった訳だから、ちっとは運が俺に傾いてきてたってことだろう。あとは、俺の運がこの後の1時間も続くことを祈るばかりだ。 |