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  ニセコ鋼板  2002.08.14

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日本製鋼所の第一号ニセコ鋼の最初の製品カタログ(上:表紙、下:説明第一ページ)
日本で初めて量産された戦車は、89式中戦車である。その防弾鋼板には日本製鋼所のニセコ鋼板が使われた。ニセコ鋼は大正13年12月日本製鋼所が発明した鋼のブランド名であり、防弾鋼板だけのブランド名では無い。「ニセコ」の名は公式には製造された「ほんうしょ」の頭文字を取ったとされるが、北海道の有名なスキー場のあるニセコ(日本製鋼所から車で2時間位のところにそびえており、高台に登ると室蘭市内から見える。)にも掛けられているのも明らかである。

学研の陸軍機甲部隊の大原徹氏の記事の中にも、「装甲は主要部が500〜600メートルの至近距離から放たれた37ミリ弾にも耐えられること、という条件だったので正面17ミリ、砲塔及び後面15ミリ、側面12ミリ(一部に15ミリ厚の装甲を使用)の”ニセコ鋼板”が使われた。このニセコ鋼板とは日本製鋼所(ニセコ)のニッケル・クローム鋼という意味で外国の鋼板よりも優れた特性を発揮したという。」と書いている。

さてそのニセコ鋼板が一体どんな鋼板であったのかは、解説されたものが殆ど無い。そのニセコ鋼板を解説する。
初の国産防弾鋼板(ニセコ鋼板)が使われた、89式戦車、
この写真は昭和11年に昭和天皇の行幸を受けた際の記念写真である。


ニセコ鋼の特徴は、組織が非常に微細化したニッケル・クローム鋼である。 防弾鋼板としての鋼を作る場合、鋼は強くて(強度が高くて)、粘り強くなければならない。つまり強靱でなければならない。(写真右上参照)

普通の鋼(炭素鋼)の強度は炭素量を増やしていくと上げる事が出来る。しかし炭素量を増やしただけで強度を上げてしまうと、粘り強さに欠けてしまう。下の写真に示したように、同じ抗張力(引っ張り強さ)の試験片を引っ張ると高強度の炭素鋼はろくろく伸びない内にブツンと切れてしまうのである。(写真左下参照)
戦車の防弾鋼板に高炭素を用いて強くしても、脆すぎて砲弾に貫通され易くなったり、破片が飛び散り易くなるので炭素量を上げて引っ張り強さを向上させただけでは有効では無かった。注1)

それで各国の防弾鋼板はニッケル・クローム鋼として、強度とねばり強さのバランスを取っていた。日本でもこれらの鋼は砲身や魚雷の気室に使われていた。たまたま魚雷の気室の局部軟化事故の調査中に日本製鋼所はこれらの合金鋼に2段焼き戻し法を適用すると、画期的な材質の改善が計れることを発見し、ニセコ鋼と名付けた。日本の他、イタリー、イギリス、ドイツ、アメリカ、フランスで特許が認められ、後に防弾鋼板としても用いられることになる。

ニセコ鋼の製品としては中間軸等の鍛鋼、シャフトブラケット等の鋳鋼など多彩な製品があった。

注1)ニッケル資源が少ないドイツでは、防弾鋼板にニッケル・クローム鋼を使用せずに高炭素鋼を使った例もないわけでは無い。
上と左 駆逐艦用と推定される、ニセコ鋳鋼製シャフトブラケット
ニセコ鍛鋼製中間軸