終戦まで生き残った一式陸攻パイロット
高橋淳さん

あの過酷な状況で「生き残る」といったことができる人はどんな方なのだろうか。



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「1式陸攻ってのは通常8人搭乗員がいるんですが、私の部隊ではそれが5人になりまして、
搭乗員が5人というのは私の部隊が初めてでしたな。
5人乗りですから、コパイロットがいません」

「敵戦闘機、P-38に追いかけられたことはありました。戦闘機というのは大抵200〜300mで撃ってくるもんでして、
その距離で後部銃座がブザーで合図します。そこで横滑りさせるんですな。
これを緩降下しながら3・4回繰り返すと敵機を振り切れました。」

「敵機に襲われたらとにかく逃げる。もう雲があったら速攻で入ります。雲に入るともう右も左もわからんくなります。
しかし、雲から出ると、航法士が何事も無かったように、現在地を告げるんです・・・
航法ってのは1度狂っただけでもう目的地には着けません。ですが、狂うなんてことは一度もありませんでした。」

「夜間戦闘機の場合、円筒に入ったアルミ箔をバッ!と振りまく。そうすると敵機はその撒いた方向に向かって飛んできました。」

「うーん、出撃するたんびに必ず1機か2機かは必ず引き換えしちゃったな」

「私の機体は故障したことが無かった。ま、そういう機体にたまたま乗ったからでしょう。」






「敗戦を感じたときですか、あれは、そうですねえ・・・
基地から別の基地に移動時に、軽巡の大井ってわかりますか?あの煙突が3本でてるような・・・
で、その大井に乗ってた奴が私の同期(注:自信なし)でして、暇なんで艦橋に入れさせてもらったんですわ。
そこで帝国海軍艦艇表みたいなのを見つけたんで、こっそり覗いてみたら・・・
これがみ〜〜〜んな線引いてあるじゃないですか(笑)
オイオイこりゃレンゴーカンタイ無くなっちゃったのかよ。
その時ですかねえ、この戦争はヤバイと思ったのは・・・」


        

「搭乗員同士の意思疎通ができるまで1ヶ月くらいはかかったな」

「意思疎通が重要でした。後部搭乗員の「ちょい左!」のちょいがどれくらいなのか、
これが判って初めて意思疎通ができたということです」

「雷撃用の照準機もあるんですが、あれは使ってませんね。そんな余裕無い。雷撃はカンでしたね。」

「後部銃座の弾なんか敵機にあたらない。あれは気休めです。え?当てたことあるかって?ありません。」




質問者:「闇夜の飛行時、人口水平儀か何かを利用されたのですか?」
回答:「ボールと針と速度計だけで水平を保てます。
ボールは横滑りね、針が傾き、速度が上がれば機首が突っ込んでるし下がれば上を向いている。3点が動かなければ機体は水平飛行しています。」

「1式陸攻はフェザリング、プロペラを立てて抵抗を減らすことができません。ですんでエンジンが片方止まると操縦は難しかった。
着陸は至難の技でしたね」

「1式陸攻は重心が真中にあるせいか、離陸時はなかなか上がらず、ですんで乗員が全員後ろにいっせいに移動しました。
じゃないと機首が上がらないんです。
着陸時も搭乗員がやっぱり後ろに移動するんです。」

「だから機上戦死者がでて乗員が足りないときの着陸は難しかった。
けど技があってね、着陸時に一杯にブレーキを踏むんです。そうして一気に離す。そうすると尾部がやっと地面に着くそうです。」

「4式重爆、銀河、ありゃあうらやましかったなあ・・・こっちがモタモタ離陸してるのにあっちはぱっと離陸していくもの。」

「そういえば、戦後自衛隊の教習に教官として参加した時に、本庄さん(一式陸攻の設計主務者)に会った事があります。
『え?あれに乗られてたって?あれは良かったでしょう、良かったでしょう』と言われて、まあ、何もいえませんでしたわ」





「しかし、みんな気持ちの切り替えは速かったな。出撃時に夜遊び先に基地から
『高橋飛曹長〜〜!』
って私を呼びに来るんですが、みんなやっぱり同じ所にいるんですね(笑)
ぱっと皆基地に向かいましたわ。」

「飛行機というのはやっぱ速いですからね、戻るときは1日で大抵戻れます。
北海道から出水に戻るとき、1日で帰るのはもったいないので途中新潟の方によりました。
しかし、海軍の基地に降りちゃあバレルので(笑)陸軍の基地に降りました。
え?なんか言われなかったかって?いやあ、何も言われませんでしたわ。(笑)」


 「しかしな、帰ってこない奴ってのは出撃前からわかったもんさ。
機体に乗り込むとき、はしごを蹴る奴とかね、そういうやつは決まって帰ってこなかったね。」

「私は『生きて帰ってやるぞ!』っていう意思が強かった。だから帰ってこれた。」

「私と同乗したクルーはみな生きて帰りましたよ。」




私「敵艦に突っ込んでる最中、一体何をお考えになっていたんでしょうか?」

「う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やっぱ、弾がどう飛んでくるかだな。
敵の弾がこっちに集中してくる!じゃあ下にもぐりこめ!あ、こっちきた!今度は左だ!てな具合に・・・・」

「敵艦に突っ込むと、前方から雨霰と弾が飛んでくる。そりゃあ弾には当たりましたよ。帰ってきたとき65発だっけか・・・
弾痕がありました。え?弾が当たったときどうなるかって?そりゃあもうガン!って音が聞こえてきますよ。」





「96陸攻は、今乗ってもきっと乗りやすい機体だと思いますよ」

質問:「じゃあ、今までで一番乗りやすかった機体は何ですか?」

「そりゃあ96陸攻・・・え?現在までで?

そりゃあ、パイパー・スーパーカブです。」