蒼空の果てに

      航空母艦の運用について。 (15−10−29)

 母艦が飛行機を発艦させる場合には、風に正対して合成風速15メートルに定針します。
一番軽い戦闘機でも飛行甲板が最低18メートル必要です。雷装の艦攻は100メートル
以上ないと発艦できません。発艦直後に高度が下がるのは、フラップの収納がやや早すぎ
たためと思います。

 攻撃隊が帰投すると、マストに吹流しを半揚します。これは、着艦準備中の信号です。
風に向かって変針し、実風速5メートルなら20Kt. で走航し、合成風速15メートルに
定針します。そして、吹流しを全揚し黒球・1・5の信号旗を掲げます。これは、「着艦
準備よし。合成風速15メートル」の合図です。記録映画など見る場合マストの旗旒信号
に注意してください。

 ではなぜ合成風速15メートルなのか? 母艦の最高速力は各艦によって違います。し
かし、操縦員にとって母艦毎に発着艦の操縦要領が違ったのでは混乱し危険を伴います。
だから合成風速15メートルに統一し同じ条件で発着艦ができるようにしているのです。
但し、航海長の風速計を見ながらの操艦にも、ある程度の誤差は生じます。しかし、基準
はあくまで15メートルです。

 陸上基地での定着訓練や夜間飛行の夜設では、着陸指導灯のパス角度は、風速に応じて、
4.5度から5.5度にセットして訓練を行います。母艦の場合は合成風速15メートルを
基準にして着艦指導灯のパス角度は6.5度に設定されています。

着陸指導灯のパス角度の目安。   風速0〜4⇒4.5度   風速5〜7⇒5度 
風速8〜10⇒5.5度    風速11〜13⇒6度   風速14〜16⇒6.5度

 複数の空母の艦隊行動でも発着艦の際には、同じ方向へ同じ速力で走航するので艦隊の
運用にも支障はありません。

      航空母艦の運用について。追録 (15−11−4)

 「空母瑞鶴の生涯」豊田穣著から抜粋。
 午前九時、私は偵察員の山下博中尉を九九式艦上爆撃機の後席にのせて、富高基地を離
陸して高度五〇〇で東方に一〇分ほど飛んだ。瑞鶴は北北東に走っていた。空母に着艦す
るには、秒速一五メートルの向い風を必要とする。空母が三〇ノットを出せば、対気速力
は秒速一五メートルとなる。

 「艦爆一代」小瀬本國雄著から抜粋。
「合成風速十五メートル」南さんの落ち着いた声が伝わる。第三旋回を終わって高度をさ
げながら(以下省略)

 この時飛行甲板上は、合成風速 (吹いている風と母艦が風に立って高速航行中の為起き
る風と合わせた一秒間の風速をいう) 十五メートル、それに前方の試運転中の飛行機が全
速回転でもしようものなら、三十、四十メートルの突風となり、うっかりしていると吹き
飛ばされてしまう。(以下省略)

☆私が発着艦の合成風速15メートルに拘る理由は、Ans,Q 本館での私の説明に対して、
母艦は全速航行するとか、17メートルだったとかの書き込みがあったからです。確かに
私は着艦経験はありません。しかし、飛行術練習生で艦上攻撃機操縦員に指定されて以来、
「母艦ではこうだ」「母艦ではあゝだ」と、常に母艦を基準にした訓練を受けてきました。
百里原空当時の飛行隊長は、真珠湾攻撃に「赤城」雷撃隊の小隊長として参加した、後藤
仁一大尉でした。

 実施部隊でも、パートでの雑談の中心に座るのは、母艦経験者の体験談でした。「母艦
ではこうだった」「母艦ではあゝだった」と熱っぽく聞かされてきました。そのため、耳
学問だけでは母艦搭乗員に匹敵する知識を持っていると自負しております。私自身は前述
のとおり母艦の経験はありません。しかし、艦上攻撃機の操縦員として一応の教育は受け
ております。疑問・質問のある方には当時の状況を解説致したいと思っております。

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