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砲兵戦術講授録 原則之部

第二篇 砲兵戦闘ノ共通原則

第三章 陣地偵察、展開及陣地変換

第一節 陣地偵察

第一款 陣地決定の要領

陣地偵察及決定は 機宜に適し且敵に秘匿するを以って第一の要義とし 之が為には 砲兵指揮官は適切なる状況判断と敏活なる処置を講ずること肝要にして 状況上通常期し難き 最良の陣地を強いて求めんと欲し 以って戦機を逸するの不可なるは勿論なるを以って 高級指揮官及其幕僚は砲兵指揮官と密接なる連繋を保持して 常に砲兵の現状を明にすると共に 適時所要の状況を知悉せしめ 且遅滞なく逐次其戦闘指導に関する企図及方針を開示して 砲兵用法上の準據を得しむること肝要なり

今 戦闘の為前進開始より砲兵陣地決定迄の間に於て 高級指揮官及其幕僚と砲兵指揮官との関係行為を略述すれば 左の如くなるを一般とす

  1. 一、前進命令下達より前進開始迄
    1. (イ)高級指揮官及其幕僚

      前進命令の下達を了するや 高級指揮官は 要すれば爾後に於ける戦況の判断に基き 将来の砲兵用法に関し 砲兵指揮官に対し所要の指示を行ひ 要すれば諮詢して意見を徴し 幕僚も亦要すれば一般の状況及高級指揮官の意見に関して所要の敷衍を加え 以って爾後に於ける砲兵用法の適切敏活に資せんことを期せざるべからず

      若し爾後の前進に先だち参謀等を先遣するが如き場合に於ては 該参謀に所要の砲兵将校を随伴せしむべきや否やを考慮し 要すれば之を下命す 砲兵科参謀を派遣する場合に於ても隊附将校を同伴せしむるときは 爾後の運用を円滑ならしむるものとす

    2. (ロ)砲兵指揮官

      前進命令及高級指揮官の指示等に基き 且前進地域の地形を判断して 爾後の前進に伴ふ砲兵用法の大綱を決定し 之に基き所要の部署を行ふべきものにして 其要領は左の如く 主力縦隊以外の縦隊に於ける高級先任の砲兵の指揮官も亦之に準じて処置す

      • 自己の意図を部下隊長等に適確に了解せしむ
      • 進路偵察の目的を以って要すれば斥候を先遣し 該斥候は前衛の先頭部隊等と同行して前進するを通常とす 該斥候が騎兵隊又は尖兵と同行するは適当ならず 騎兵隊の行動は常に進路上に在らざるを以って不安定なるものあればなり
      • 先遣参謀等を派遣せらるる場合に於ては 要すれば之に所要の砲兵将校を随伴せしむ
      • 前進開始後 所要に臨み適時直ちに挺進して高級指揮官に随従し得る如く 予め所要の部署を為し置くものとす
      • 敵情捜索の為 砲兵斥候を騎兵隊尖兵等と共に同行せしむるも価値少し 蓋し前方の捜索部隊の知悉すべき敵情は一局部に過ぎさればなり
        此種斥候は 戦場附近の要点に位置し 其有する精良なる眼鏡と遠距離視察に熟達せる砲兵将校の特性とを利用するを可とす
  2. 二、前進開始より敵と触接の機近づく迄
    1. (イ)高級指揮官及其幕僚
      • 前進開始に方り 前進命令下達後 得たる状況に基き 要すれば砲兵に対し更に所要の命令若は指示を与ふ
      • 前進間 得たる情報中 必要なるものは 遅滞無く之を砲兵指揮官若は其連絡将校に指示し 又砲兵の得たる情報を適時収集す
      • 前進間 要すれば 適時砲兵指揮官を招致して 密接なる連絡を保持しつつ前進つるを可とし 此際所要に応じ砲兵観測機関等の部署をも命令するものとす
      • 敵と触接の機近しと判断するや 砲兵指揮官等と随へて 状況の許す限り敵方に近く進出し 彼我の状況特に地形を観察し 主力縦隊前衛及各縦隊に所要の事項を命じて動作の憑拡を与へ 且機を失せず砲兵指揮官をして戦闘準備に着手せしむ
    2. (ロ)砲兵指揮官
      • 前進開始に臨み若は爾後に於て 従来の処置に関し 要すれば更に部署す
      • 前進を起すや 必要なる人員を随へて 適時高級指揮官の許に到り之と同行し 以って機を失せず 高級指揮官の企図、彼我の状況 並 一般の地形を知るの便を計るを通常とし 未だ高級指揮官の許に到るを得ざるときと雖 連絡将校を派遣し置くを要すること多し
      • 得たる情報を審査し 所要の報告を行ふ
      • 概ね戦場を予想し得るに至らば 全般の状況を判断し砲兵の展開を準備する為 適時斥候を派遣し 特に地形一般の状況を偵察して 砲兵の使用に関する資料を収集せんことを勉む
      • 敵と接触の機近づくに至るや 通常高級指揮官と共に敵方に近く進出す 此際通常部下指揮官を某地に向ひ招致するものとし 又高級指揮官と共に進出するや 既に派遣しありし斥候よりの諸情報を総合し 且彼我の状況及地形を観察して 機を失せず高級指揮官に対し砲兵用法に関する所要の意見を具申す
      • 状況特に高級指揮官の企図に基き 自ら陣地偵察を行ひ 且適時部下砲兵指揮官を招致して之に所要の命令を与え 以って機を失せず偵察及展開の諸準備に着手せしむるものとし 陣地偵察の為には斥候を使用して之を補助せしむるを通常とす
  3. 三、陣地偵察及決定
    1. (イ)高級指揮官

      状況の緩急に応じ差あるものにして 状況急を要するときは 既述に於て処置せし範囲内に於て砲兵指揮官をして直に偵察及決定 次で展開に及ばしむる如く命令を下すも 若し然らずして状況之を許すときは 既述の範囲に於ては砲兵指揮官の偵察及其結果の報告のみを命じ 爾後該報告を得たる後 一般の状況を総合して展開を命ずるものとす

    2. (ロ)砲兵指揮官

      前述の如く 状況特に高級指揮官の処置に依り砲兵指揮官の陣地偵察及其決定には 其戦域及戦況に依り幾多の精粗緩急の差あり雖 自ら現地に就きて行ふを本則とし 以って陣地偵察を完全ならしむるのみならず 特に戦機に適合せしむるを必要とす 之が為状況に依りては 自ら行ふ現地偵察の一部若は大部を省略し 所要に応じ斥候を派遣し或は部下部隊に偵察地域を配当し任務を明示して 部下をして実施せしむるものとす

      平時演習等に於て散見する如く 図上配備に依り命令を下達するものあるが如きは誤なり

第二款 配置の一般要領

砲兵陣地配置の一般要領は 高級指揮官の企図に適応し 其戦闘指導の方針に合致するを以って根本とし 成るべく同一陣地より戦闘の各経過に伴い適時適切なる方面 就中 決戦を企図する方面に 砲火の最大威力を発揮し得ると共に 機を失せず状況の変化に対応し得る如く之を決定するを要し 常に各種火砲の特性を遺憾なく発揮せしめ 且 適当なる放列陣地と良好なる観測所を具有せしむるの外 射撃準備、弾薬補充及陣地変換の難易等を顧慮すること肝要なり

以上に関連し 左に若干の解説を加へんとす

  1. 一、軍直轄砲兵の配置と師団作戦地域との関係

    軍直轄砲兵は 通常 軍の主要なる正面に其火力を指向し得る如く某師団の作戦地域に配置せらるるものにして 其陣地占領地域は 軍命令に依りて之を示され 従って 該地域は軍直轄砲兵の優先権に属し 敢えて問題を惹起せざるが如きも 事実に於て成るべく陣地を前方に推進配置するの一般要求に基き 往々にして 軍直轄砲兵と某師団砲兵との間に於て放列陣地の近接を免れ難く 又 其観測所 相互関係の如き地形に依りては 単に簡易なる一片の配当命令を以って律断し難き複雑性を呈することあり 宜しく綿密なる計画の下に周到なる軍命令に依りて之を定むるを要し 単に軍直轄砲兵指揮官と関係ある師団砲兵指揮官との間に於ける協定のみに信倚せんとするは 往々にして不可にして 之が為 特に軍幕僚をして 現地に於て之を区署せしむるを要することあり

  2. 二、師団砲兵の配置と作戦地域との関係

    師団砲兵は当該師団の作戦地域に配置せらるるを本則とするも 状況 特に地形に依り 其一部を隣接兵団の作戦地域に配置するを要することあり 特に観測機関の配置に於て地形上其例を見ること多し

    斯の如き場合に於ては 当該師団より隣接兵団と交渉して之を定めたる後軍に報告するか 或は師団長より軍司令官に其必要を意見具申し軍命令に依りて之を律するかの二途あるべく 戦況及其程度により其方法は異なるべく 時宜に依りては軍に於いて当初より截然之を部署するを要することもあるべしと雖 一般に 重要なる観測所地域の配当の如きは 地形上要すれば 軍参謀或は師団参謀を現地に差遣して之を区署せしむるを必要とする場合を生ずべし 是近代的砲兵の用法上 観測機関の配置には特に重大関係を有すればなり

  3. 三、砲兵配置と歩兵配置との関係

    砲兵配置の一般は 砲兵主力の陣地占領地域をして 歩兵の主決戦方面若は配備の重点たる地域の 後方地域にあらしむる如くするを通常とす

    是之に依りて適時必要なる方面 就中 決戦を企図する方面に対し 少なくも其砲火の主力を集中するを得べく 又 状況の変化に対応せしむるの便をも保有することを得ればにして 若し砲兵の主なる火力を予期する方面に対し当初より之を側射斜射せしむる如く一方に偏在して砲兵を配置するときは 所要に臨み砲火の継続困難なる場合を生じ易く 且 通信連絡の確保に対し不安多きのみならず 状況の変化に即応して尚且企図を遂行せんが為至大の不利あればなり 従って假令側射斜射の為に有利なる如く砲兵を配置せんとするに方りても 其兵力は一部砲兵にのみ適用するものにして 砲兵陣地全般の配置に関しては飽まで大鉈式用法を目途とするを要し 小槍式操縦に腐心するは排すべき件なり

    又 以上の如くなるを以って 直協砲兵群の陣地の如きも 歩兵との連絡を容易にし 其協同に最も便ならしむる為 協同すべき歩兵部隊の後方に選定するを通常とする所以なり

    次に 歩砲兵の配置関係に於て考慮を要するは 砲兵の観測所配置地域 或は 砲兵の為 観測所として利用し得べき重要地域にして 要するに 此等の得失は砲兵の命脈 及 死活の分岐点たるべきものなると共に 直に全軍の勝敗にも波及すべきを以って 此等を有利に砲兵をして占有利用せしむるの着意を忘れずして 一般の展開線の決定 及 抵抗地帯の選定 並 要地の占領部署等を行う如く考慮するところあるを要す

  4. 四、成るべく同一陣地より任務を続行せしむるの着意

    現代砲兵は戦闘準備の良否により著しく其威力を異にして 且 其準備には相当の時間を要するのみならず 砲兵は陣地変換中は勿論 其前後若干期間に於ては全く無力なるを以って 努めて砲兵の移動を極限寡少ならしむるを主旨とし 成るべく同一の陣地に於て其任務を遂行せしむる如くするを以って最も肝要なりとし 特に射程長遠ならざる砲兵に於て其顧慮を要すること大なりとす

  5. 五、陣地変換の難易と砲兵の前後配置

    前述の射程問題の外 陣地変換の難易 換言すば 其移動性の軽重は 砲兵の陣地配置の一般を定むる為必要なる条件にして 爾後の関係同一なるときは 比較的に移動推進の困難なる砲兵は其軽易なる砲兵に比し 予め陣地を推進せしめ置くの要至大にして 比較的多数の砲兵を使用する場合に於て其顧慮一層大なり

  6. 六、高級指揮官として「砲兵配置の概要」に関する指示法

    其指示法は 敢えて一定の形式あるにあらずして 戦況と地形とに即応して適切なる指示を行うべく 単に放列陣地の占領地域のみを目途とすることなく 併せて観測所の配置地域をも十分に考慮して配当するを要し 其地域の指定は地形及砲兵の兵力に依りて差あるも 一般に砲兵の縦深横広の配置を顧慮し 相当の地域を与ふること肝要なり

    以上の指示に関する方式を概別すれば左の如し

    1. (イ)
      主力或は一部毎に若は主力に対してのみ 概活的の地点を示す場合
    2. (ロ)
      主力或は一部毎に若は主力に対してのみ 陣地占領地域(放列及観測所共)を地点を連接する一定区域に依りて指示する場合
    3. (ハ)
      前項の要領によりて 単に放列陣地占領区域を示し 別に観測所配置地域を特示する場合
    4. (ニ)
      一地線を割して陣地占領地域の概活的範囲を指示する場合
    5. (ホ)
      前項に附加するに 特定の観測所配当地域を以ってする場合
  7. 七、高射砲兵
    1. (イ)

      高射砲兵配置の一般要領は 高級指揮官の企図 並 高射砲兵の兵力に基き 常に緊要なる時機に於て重要なる方面の掩護を完全ならしむるを本旨とし 航空部隊の兵力 並 其行動に鑑み 且 敵航空機の行動を判断し 軍隊の配置、掩護物分布の状態、掩護の要度 及 掩護すべき時日の長短等を考慮し 其配置を定むること緊要なり

      高射砲隊は 通常掩護すべき地域の外周 若は其地域の上空に於て 比隣高射砲の有効射界を重畳し得る如く之を配置し 地形と掩護すべき方面の要度とに応じ 相互離隔の度を定むるを要し 各種高射砲の有効射界を考察するときは 七糎半砲に在りては約四粁乃至約六粁、十糎半高射砲に在りては六乃至八粁を以って有効なる離隔の標準と目し得べし

      而して 掩護すべき地域の外周に対し配置せる場合 高射砲隊の兵力大なる時は其配置を統一せる敷線となし 且 所要に応じ若干の高射砲隊をして内部の要点を直接掩護せしむ

      高射砲隊の兵力小なるときは 掩護すべき地域若は地点を限定して 直接之を掩護する如く配置するものとす

    2. (ロ)

      高射機関銃の位置は 通常 放列陣地に近く 高射砲の威力を補足するに適するが如く選定すべきものにして 低空に於ける敵機の攻撃に対し直接要点等を掩護する為 独立して之を使用するを有利とすることあるも 高射機関銃使用の為には特別の人員を有せず 又 其独立行動を行わしめんには 別に運搬機関を準備するを要することを銘刻せざるべからず

    3. (ハ)

      照空隊は 其任務に応じ 高射砲隊の射撃又は飛行隊の空中戦闘を 最も有効ならしむる如く其配置を定むること緊要にして 之が為 各照空燈の照射界を重畳して 射撃すべき全空域又は飛行機の戦闘地帯を覆い 且 常に少なくも二個の照空燈を以って目標を集中照射し得しめ 聴音機は通常照空燈 為し得れば高射砲の近傍に各一個を配置するものとす

      照空隊の兵力之を許すときは 照空燈三個を以って目標を照射し得る如く照空燈を配置し 聴音機を以って通常聴音圏を編成し 之を高射砲隊陣地の前方に配置するものとす

      重要なる地点の近傍に在る照空燈は 其配置を不規ならしめ 敵機に要点の所在を判定するの憑據を与へざるを要す

    4. (ニ)

      高射砲兵は 敵機をして我が配置を知り其虚に乗ずるが如きことなからしむる為 所要に応じ迅速に占領し得る予備陣地を選定し 且状況の許す限り之が射撃及照空の諸準備を整え置くこと肝要なり

第三款 陣地の特性

近代砲兵は射撃準備の進歩せると対空遮蔽の必要上 遮蔽陣地を占領するを通常とし 之と同時に軽易なる砲兵に在りては 状況之を要すれば 或は至近距離を射撃する為 若は戦車等に対しては直接に表尺照準によりて射撃するの必要あり

砲兵陣地とは 放列陣地観測所段列位置との総称にして 放列陣地放列中隊段列より来る弾薬車野、騎砲弾薬班山砲弾薬の卸下地十五榴、十加)の位置を総称す

大隊の陣地には大隊観測所、各中隊の陣地、大隊段列を含むものとす

  1. 一、放列陣地

    放列陣地に具備せしむべき性能は 戦況の推移に応じ能く任務を達成せしむべきこと之にして 高級指揮官として総括的に之が占領地域を命令指示する場合に於ても 幕僚は少なくも戦術単位たる砲兵各大隊単位程度の配置を腹案し 且相当の余積を胸算したる後 全般区域の配当を決定するを要し 各砲兵の特性に応じ各大隊単位の配当決定上の 準據たるべき要件は左の如し

    1. (イ)一般的要求
      • 任務に適応し 砲種の特性に合すべき射界を有すること
      • 地幅十分にして指揮及連絡容易なること
      • 敵眼敵火 特に上空に対する掩護を必要とすると共に 瓦斯の滞留せざること
      • 進入及進出容易にして 弾薬補充に便なること
    2. (ロ)必要なる地幅の標準

      地幅は遮蔽の為、地形の利用、行動の容易、敵火の損害等を避くる等の為大なるを要し 指揮の為には小なるを便とす 要するに不規間隔、前後参差たる分散配置を理想とす

      • 野戦砲兵

        一中隊為 横広の幅員七〇乃至一〇〇米を要し 従って 少なくも一大隊(二中隊)の為には 横幅は二〇〇乃至二五〇米とし 又 一大隊(三中隊)の為 横幅三〇〇乃至四〇〇米とするを要し共に 縦深は最小限二〇米を標準とすべし

      • 攻撃重砲兵

        四五式火砲部隊に在りては 一中隊の為 正面幅一〇〇乃至一五〇米、縦深三〇乃至五〇米を要し 従って 一大隊(二中隊)の為には 正面幅三〇〇乃至四〇〇米を要し 其縦深は五〇米を以って標準とすべし

      • 放列陣地に於ける各砲車は 敵の捜索特に空中捜索を困難ならしめ 且 敵火の効力を減殺する為 勉めて地形を利用し不規則に配置するを要するも 之が為 相互に射撃を妨害し 或は過度に分散して射撃指揮を困難ならしめざる為 百米を越えざるを可とす
    3. (ハ)友軍歩兵の前線附近に位置すべき戦車射撃の為の陣地

      戦車の前身地域に対し 近距離に於て十分なる威力を発揚し 且 射撃開始の直前に至るまで全く敵眼敵弾に遮蔽し得る如く 小隊又は分隊毎に分置するを通常とす

    4. (ニ)砲兵の遮蔽距離

      各種砲兵の遮蔽距離の如何は 該砲兵任務達成の能否を決定すべき重要因子にして 各種砲兵は 其砲種の特性を顧慮し 且 戦況及地形を考察して 所要の遮蔽距離を得る如く放列陣地の位置を決定すべきものにして 高級指揮官の幕僚たるべきものも 亦其決定要領を概知し 以って所要に臨み 砲兵を配置すべき概略位置の決定に方り 適切なる判断を下し得ること肝要なりとす

      元来遮蔽距離とは 遮蔽頂を通する弾道(最低弾道)の落点より遮蔽頂に至る水平距離なるも 若し火砲位置と目標又は弾着点と同一水平面上に在らざる場合に於ては 水平面に代ふるに砲目高低面(砲目高低線を含み 且該線を含む垂直面に直交する平面)に対する 遮蔽角(元来は砲身軸の延線を遮蔽頂に通せしめたるとき 此線と水平面とにて成す角を言う)を使用せば 略近値を求むることを得

      各種砲兵の特性に基き 遮蔽距離決定の為使用し得べき略近公式は 左の如し

      • 野砲、騎砲 及 十加

        D=40α

      • 山砲

        D=20α

      • 十五榴

        D=25α・・・I

        D=15α・・・II

        D=12α・・・III

        D= 9α・・・IIII

      以上各式に於けるDは遮蔽距離(単位は米)にして αは遮蔽角(単位は密位)とし 又十五榴に於けるI、II等は一号、二号等の装薬号を示す

    5. (ホ)砲兵の遮蔽度

      遮蔽度とは 砲車の直上にて敵眼と遮蔽頂とを連する線に至る高さを謂い 敵眼に対し 或は砲車位置を遮蔽し 或は発射の火光を秘匿せんが為顧慮すべき要件なりとす

      遮蔽度を求むべき略近公式 左の如し

      • h=d(α−α’)

      但し hは遮蔽度() dは距離の粁数にして α及α’は各々密位とす

      <<図示>>

      敵眼に対し 発射の火光を暴露せしめざる為に要する遮蔽度の実験的標準値は 左の如し

      • 野騎山砲
        四米
      • 十加
        五米
      • 十五榴
        六米
    6. (ヘ)砲兵の特性に応ずる掩護の重大性

      現代砲兵に対空遮蔽の肝要なるは 一般要求に於て既述せしところなるが 該要求は 展開及備砲作業の為に多時を要する砲兵 若は全軍中比較的寡数なる大威力砲兵等に於て益々然るものにして 軍司令官として軍直轄砲兵の陣地占領地域を命ずるが如き場合に於て 其顧慮を要するもの多し 即ち全軍砲兵の全般に対し 遮蔽の完全を求むること比較的困難なるが如き地形に於ては 既述の如き特種砲兵の為最良の地域を配当するの着意を肝要とし 之に依りて 我砲兵の展開の半途に於て敵砲兵より完全に標定せられ 其威力を発揮し難きに至り 若は敵砲兵に機先を制せられて 大威力砲兵の価値を発揚し得ざる等のことなく 完全なる戦闘準備を行いたる後 不意 且 突如として敵を震駭せしむるの基礎を確立せしむるを要す

  2. 二、観測所

    観測所の価値を向上せるは 近代戦の一特色にして 砲兵陣地即ち放列陣地なりし過去の思想は 今や全く一擲せられて 砲兵陣地の価値如何は寧ろ観測所の価値如何によりて左右せらるるを以って 高級指揮官として砲兵の陣地占領地域を命ずるに方りても 該観念は最も重要なる事項として深く銘刻するところなかる可からず

    観測所選定の要は 砲兵各級指揮官の戦域 並 任務に応じ 彼我の状況及射撃効果の観察 又は射弾観測に便にして 且 連絡容易なることを考慮して選定するにあり

    其他 着眼すべき要点を示せば左の如し

    1. (イ)

      観測所(補助観測所 及 標定所等に於ても同じ)は 敵の捜索を困難ならしめ 且 敵火の効力を減殺する為 勉めて地形を利用するは勿論、適宜に之を分散して配置するの着意を肝要とす 観測所内部の配置に於ても亦然り

    2. (ロ)

      観測所を高地に配当するは 天候気象状態の良好なる場合に於ては其成果可なるも 其程度により 往々にして敵弾を蝟集せしめ易く 又交通通信の不便を来し易く 特に天候気象の変化により雲霧の為視目を盲断せらるること多きを以って 高地特に山地に於ける最高地等に観測所を集団せしむるは 特に之を避くるを要す

      又高地上に観測所を設けたる場合には 高地脚に報告蒐集所を設くるを可とす

    3. (ハ)

      観測所を配置すべき地域は 為し得れば 我が歩兵に対する敵歩砲兵の集中火 及近接戦闘の影響を被らざるを期すべし

    4. (ニ)

      地形上比較的同一地附近に 相当の観測数を蝟集せしむるの止むを得ざる場合をも往々にして生ずべく 此際に於ては詳細なる規定に依りて 各部隊に厳密なる地域配当を行い 或は適宜観測所の設置を制限する等の方法を講ずるを要するに至るべし

    5. (ホ)

      敵弾の被害を減少局限せんとせば 各単位観測所の中心間隔は少なくも五〇米を離隔せしむるを以って標準とすべく 止むを得ざるも之を三〇米以下に減縮するを許さず

    6. (ヘ)

      観測所は 戦況の推移又は敵火の状態に依り 其用を為さざるに至ることあるを以って 予め別に之が位置を設定し 且所要の設備を為しおくを可とすることあり

    7. (ト)

      地形上各観測所の視界小なるときは 特に之等の配置及連絡施設を適切にし 以って総合視界を大ならしむるを要す

  3. 三、進入路及段列位置
    1. (イ)進入路及進入地域

      砲兵の種類及兵力並進入時期(天候、明暗の度)等に依り差異あるも 能く戦機に適合し成るべく遮蔽良好にして行動容易なるを主眼とする外 砲兵の種類及其特性に応じ特種の考慮を要するものあり 然り而して斯の如きは 軍若は師団の 一般の補給路若は補充路と合致すること往々にして 相互の円滑なる使用を期する為特に配慮すべきものあり

    2. (ロ)段列位置及弾薬集積所

      補充の為の利便を第一要義とし 且 該位置は敵弾及敵火に掩蔽するを肝要とし 尚 其補充の為の交通路にも成るべく掩蔽しあるを可とし 状況地形に依り之を数箇所に分散し 又 要すれば所要の遮蔽施設を加ふるものとす

  4. 四、高射砲兵陣地の特異点
    1. (イ)

      放列陣地は 射界広潤にして 各砲車及砲側観測所等は敵の捜索を困難ならしめ 且 敵火の効力を減殺する為勉めて地形を利用して不規則に配置するを要するも 相互に射撃及観測を妨害し或は過度に分散して指揮を困難ならしむることなきを要し 砲車間隔は止むを得ざるも四十米を越えざるを可とす

    2. (ロ)

      観測配置に於ける砲側測高機の相互間は 通視及基線測量容易にして 且 基準線は敵機の予想主要航路に概ね直交し 其長さは約八百乃至二千米なるを要す

    3. (ハ)

      照空隊の陣地は 聴測界及照射界広潤にして 聴音機、照空燈の位置及協同すべき高射砲陣地は 相互の関係位置良好なること必要なり

    4. (ニ)

      各照空燈は 主要なる照射界に対し成るべく有効なる二燈の射光を集中し得る如く之を配置し 其間隔は三粁を標準とす 又高射砲陣地の附近に配置する照空燈は 通常之と五百米以上離隔せしむるを可とす

    5. (ホ)

      各聴音機は 高射砲の戦闘要領特に聴測法に適応する如く之を配置するを要し 余切法に依る交会法を用ふるときは 主要なる聴測界に対し少なくも二機は聴測し得 且 聴測分隊の一部は 直接協同すべき照空燈又は高射砲隊の陣地附近に配置せらるるを通常とし 聴音機相互の間隔は三粁を標準とす 又余切法に依る交会法を実施するときは 各機の比高は成るべく百米以上ならざるを可とす

    6. (ヘ)

      照空燈又は高射砲と此等に直接協同する聴音機との距離は 角差の関係及相互の連繋上 成るべく近接せしむるを有利とす 然れども 相互の操作を妨害し 又は照空燈特に発電自動車及高射砲より発する音響により 聴測を困難ならしめざること緊要なり 而して 射光機又は高射砲と聴音機との距離は 角差の修正を行はざる為には五十米を越えざるを可とす

第二節 展開

展開及陣地占領は砲兵戦闘力発揮の基礎にして 其実施の神速にして機宜に適し敵に秘匿しつつ整然として行はるるは 既に砲兵戦闘成功の端緒なりと断し得べし

展開及陣地占領に要する時間は 予め実施せる戦闘準備の程度及地形等により著しく差異あるも 其主なる要件は 火砲の特性に基く特異の状態に胚胎するものと言うべし

第一款 展開一般の指導

砲兵を展開するに方り 高級指揮官の命令すべき事項は 指揮官の職域により 又戦況地形により多大の差異あるも 一般的に之を示せば左の如し

  1. 一、高級指揮官として部下砲兵隊に命ずべき要項
    1. イ、
      一般任務及軍直轄砲兵と師団砲兵との協力関係
    2. ロ、
      戦闘区域及軍直轄砲兵と師団砲兵との戦闘区域の境界線 並 要すれば特に射撃を準備せしむべき区域
    3. ハ、
      陣地占領地域及要すれば特に観測所配当地域
    4. ニ、
      進入地域 若は進入路 並 進入の時機及方法
    5. ホ、
      効力射撃準備及其射撃開始
    6. ヘ、
      火力準備の目的地点時期 特に直接協同の火力
    7. ト、
      敵情捜索及情報収集
    8. チ、
      歩砲の協同及連絡 並 歩兵配属砲兵
    9. リ、
      陣地変換
    10. ヌ、
      弾薬の使用 若は補充
  2. 二、控置砲兵

    砲兵展開の本則は 最初より其全力を展開し 機を失すず優勢なる火力を発揚し 以って敵を圧倒するに在り 従いて 従来唱進せられたる控置砲兵 即ち状況未だ全部の砲兵の配置を決定するに至らず 若は砲兵の兵力大にして状況特に之を要する場合等に於て 稀に其一部若は大部を控置し使用上の自由を確保せしめんとし戦闘原則は 之を高級指揮官の範囲より削除し 状況特に之を要する場合に於てのみ 砲兵指揮官の権限として稀に砲兵の一部(行動敏速容易なる砲種を可とす)を控置し 使用上の自由を確保することあるを認むるに止めあり

    抑々現時に於ける砲兵戦闘の初期に於ける戦場の状態を想察するに 各種情報機関特に空中捜索機関の活動上 状況全く不明の裡に砲兵戦闘を開始せしむるが如きは頗る稀有にして 若し之ありとするも 射撃準備の進歩及射程の増大上 所要に臨み砲兵戦闘威力の発揮に際し大なる制限を受くることなきを一般とし 更に又現時に於ける砲兵火力の増進上既に戦闘開始後敵火の下に於て其控置せる砲兵をして適時に陣地を占領し 且 威力ある戦闘を遂行せしめんとするは 概ね画餅に帰し易きを一般とし 此等の総合事象に基き 従来の控置砲兵の影を薄からしめたるものと言う可く 高級指揮官としては全然顧慮の範囲外に属する件なりとす

第二款 野戦砲兵部隊の展開

野戦砲兵部隊は基本然の特質に基き 軽易に展開を完了し得べしと雖 尚砲兵各級指揮官の実施すべき事前偵察の有無及其良否に依り 各砲兵の展開の遅速に至大の交咸を呈するものにして 之が為 高級指揮官及其幕僚は 機を失することなく一般の状況及之に対する高級指揮官の意図を明示し 以って全般の戦闘圏内に於ける砲兵指揮官として 適時適切に事前の処置を施すの準縄を与ふることを勉めざるべからず

野戦砲兵部隊の展開時期の胸算に関し 高級指揮官、幕僚として心得べき準據左の如く 其射撃準備に関するものは之を一括して次章に譲らんとす

  1. 一、開進の配置地域 若は行軍縦隊の某位置より 放列陣地まで到着に要する時間

    此時間を左右すべき条件は 行進すべき距離及各砲兵の特性に応ずる行進速度なりと雖 此際更に考慮すべきは 行進地域若は行進路の地形特に其道路の素質、該地域を行進中なる友軍部隊の及ぼす行進の影響、天候気象の交咸、途中其他に於ける工事等に費やす時間及該行進の前後に於ける当該部隊の行動等を考察較量し 以って当該砲兵の至当に前進し得べき速度を判断し 之に依って其到着時間を決定するを要し 若し然らずして 単に白紙画空的の積算は 通常実情に合せずして 運用上の錯誤を醸すこと多く 尚至当に積算せられたる場合と雖 多少の余裕を見積もること肝要なり

  2. 二、放列布置に要する時間

    独り砲種に依りて異なるのみならず地形其他の状況に応じて千差万別なるも 今火砲一門を以って放列布置の為所要時間の統計を 単に一参考として示せば左の如し

    1. (イ)野砲兵

      普通状態に於ては一分間とし 地形により若干の工事時間を必要とし 若は精密なる位置誘導を要するときは五分間、新式野砲及軽榴に在りては尚多くの時間を要す

    2. (ロ)山砲兵

      繋駕状態に於て一分間 駄載状態に於て三分間

    3. (ニ)四年式十五榴

      放列布置の為には五分間内外を以って足れりとするも 架尾設備の為に少なくも十五分間の時間を必要とす

    4. (ホ)十四年式十加

      概ね四年式十五榴に等し

  3. 三、第一次の弾薬補充 及 其整備時間

    砲種に依り著しく差あるも 要すれば必ず之を積算することを忘るべからず

第三款 攻城重砲兵部隊の展開

攻城重砲兵の展開に関する計画は 特に火砲の種類、地形、運搬材料の種類及数量、運搬すべき距離等を考慮して之を定め 其実施に方りては我が企図を暴露せざることに就き全幅の注意を払ふを要す

  1. 一、四五式火砲部隊
    1. (イ)所要運搬機関

      此種火砲の運動は 過去に於ては人力輓曳 又は軽便鉄道 或は他隊の輓馬を利用する等の経過を有せしも 現時に於ては自動車に依るを主とし 状況により軽便鉄道を利用すべきものとせらる 而して自動車に依るを以って最も可とし 自動車と此の砲兵との不可分離なるは既に兵学家の肯定せる所なり

      四五式火砲材料及関係ある弾薬等を輸送する為必要なる自動車の種類及同時輸送の為に要する数量は口述による

      又 軽材料を輸送する為必要なる自動貨車は一噸半積のものを標準とし 砲床材料に対しては運材車に積載せるものを更に自載せる自動貨車に依り牽引するの方式を執るものとす 而して力作及土工器具車 並 起重機車等の牽引に任ずる自動貨車には 偽装網材料等を積載す

      又 弾薬の運搬は 備砲作業の推移に応じ 且 戦況に適応して 逐次に之を行うべきものとし 同時運搬を要せざるものとす

      茲に附言すべきは 自動貨車は路面の堅硬度に其価値を左右せらるること大にして 道路の景況不良なる作戦地に在りては 前記の自動貨車に代ふるに被牽引車及牽引自動車を以ってし 若は別に若干の牽引自動車を準備し 不良なる路面の部分に於ける運動を補備せしむるを要することあり

    2. (ロ)展開開始までの状況

      四五式火砲部隊を内地より作戦地域迄輸送するには 他部隊と等しく鉄道及船舶に依り 作戦地上陸後に在りては状況により鉄道若は自動車に依りて戦場に到着す

      攻城重砲兵の戦場到着に関しては 会戦の計画に基き該砲兵を使用すべき時期を基準として 其展開の準備及展開に要する時日を較量して之を定め 且 其指揮機関の先行及弾薬整備に要する時日を顧慮すること肝要なり

      攻城重砲兵の戦場到着より展開を行う迄の経過は 他の砲兵と其軌を一にするも 成るべく多くの時間を与えて十分なる準備の余裕を得しむる如くすること特に肝要にして 其展開の直前に於ては開進の配置に移るを通常とす

      開進すべき位置の選定は 一般の原則に依る外 特に上空遮蔽に着意し以って 彼の欧州大戦中開進位置を敵機に知悉せられ為に展開完了時期を適確に敵の為判断せられしが如き前轍を履むことなきを要し 又其地盤は堅硬にして其進入及進出の利便なるを要し 其陣地との距離は敵長射程砲の位置及威力を顧慮し 我陣地に通ずる交通網の数 及 其素質 並 交通網遮蔽の度 及 使用し得べき運搬機関の多寡 展開に使用し得べき時日等に依り異なりと雖 現時普通野戦に於て現出すべき敵の十五加級の火砲の威力に対し庇掩せしめんには 開進の位置と我陣地との距離は 少なくも十五、六粁を隔てざるべからずを一般とす 而して開進の位置と陣地との距離十五、六粁なるときは展開の為昼間行動を許さず 又其展開の一夜以上に亙る場合に在りて 日没後開進の位置より行動を開始し翌払暁迄に同地に帰還遮蔽するの巡環運行は 其速度最も遅き牽引自動車に於ても之を許すものとす

      開進の為必要なる地幅は 四五式火砲一中隊の全材料の為 一辺八〇米及六〇米の矩形地域を標準とすれば足る

    3. (ハ)展開の実施要領

      展開の動作は 其任務に基き選定せる陣地に向て 備砲作業の計画に基き作業の進捗に適確に順応一致する如く混雑遅滞なく所要の材料を到着せしめ 以って些の死節時なく備砲作業即ち放列布置を完了するを以って 本砲兵の砲側に於ける作業の要訣とす、砲側に於ける備砲作業の基礎作業として行う可き掘土量大なる砲床壕の掘開は 備砲作業全般の時間を長延ならしむる一因にして 又起重機の不足は重材料組立作業を遅延せしむるの第二因をなすものとす

      備砲作業は砲床壕内に砲床材料を組立たる後、二十四榴に在りては先ず架匡、次に砲架、次で砲身、搖架の合成体の順序に、十五加に在りては先ず砲架、次に砲身、搖架の合成体、次で防楯の順序にするものとす 而して両砲種共 砲床壕の底面には植杭し 且 其水準規正を行いて射撃精度の増進に資し 又砲身と搖架とは予め其合成作業を行いたる後据付を行うものとす

      展開作業を昼間行うべきや夜間に於てすべきやは 状況 就中 陣地附近及開進位置と放列陣地間の交通網の上空遮断、彼我の空中威力の関係に依るもの多く 企画秘匿の為 夜間展開を行うを要すること多し

    4. (ニ)展開の速度

      展開速度は状況 就中 地形特に交通網の状態 及 陣地遮蔽の度 並 使用し得べき自動車の種類数量 及 展開距離(開進位置と放列陣地との距離)等に依りて左右せらるるものにして 其基礎たるべき条件は 一門備砲作業の速度標準 及 該作業の遂行に支障なき如く各種材料を砲側に到着せしむるの巧拙に関し 且 使用し得べき道路の素質 及 其数量の及ぼす影響は至大なりとす

      展開作業を迅速ならしめんには 能く状況を判断して予め所要の準備作業を行い 以って材料の到着と共に直に本然の備砲作業に着手し得る如くし 又起重機の不足を補うの一手段として 起重機を要せずして実施し得る作業は 状況之を許す限り手段を尽して予め之を行い 然らざる場合に在りても他の作業間に逐次之を進捗せしめ置くこと肝要にして 之が為施す可き手段左の如し

      1. 一、

        状況之を許せば 予め一部の人員、偽装材料、土工器具、力作器具等を自動貨車に依りて陣地に先行せしめ 以って砲床材料の到着に先ち砲床壕の掘開を完了し 為し得れば水準規正をも完了し置かしむ

      2. 二、

        予め砲床壕を掘開し得ざる状況に在りても 成るべく第一及第三砲車の備砲作業間に第二及第四砲車の砲床壕の掘開、水準規正を行い 尚何れの場合も第一及第三砲車の備砲作業間に 為し得れば第二及第四砲車の砲床材料の組立をも完了し置かしめ 以って第一及第三砲車の重材料の備砲作業を終了するや 直に第二及第四砲車の起重機作業に着手し得る如くす

      以上の如く 予め砲床壕の掘開を部署し 状況之を許さざる場合に在りても 作業の順序及配列を適切ならしむる時は作業時間全般の短縮となり 又前進部署を適好にして人員及材料の到着と使用とを按配するを肝要とし 之が為 速度遅緩なる重材料に挺進して 軽材料を積載又は牽引せる自動貨車の快速を善用すべきものとす

      兵器材料を装備及編制の範囲内に於て運用せんとする術策に依り其展開速度には差異を生ずべく 更に起重機を増加し 且 人員一部の増加を行うときは大に其展開速度を増加するものにして 一門備砲作業の標準速度を以って概ね四門中隊の展開速度の標準(六乃至二十二時間)たらしむることを得るものとす 然れども一度陣地を占領したる此種砲兵をして 更に戦況の推移に応じて陣地を推進せしめ 若は戦機に応じ機動的に他方面に陣地を変換せしめんとするが如きは 攻城重砲兵の寧ろ不得意とするところにして 之を同種類の某軍現用火砲に就いて見るに 其二十四榴は六時間、十五加は二時間を以って放列布置することを得るが如き相違を呈しあり

  2. 二、改造四五式十五加部隊
    1. (イ)所要運搬機関

      改造四五式十五加部隊の火砲材料及弾薬を輸送する為必要なる自動車の種類 及同時輸送の為に要する数量は口述に譲る

    2. (ロ)展開速度
      • 一門の備砲作業に要する時間

        一門の為に要する時間は 夜間に於ても砲床壕の掘開の為に一時間、其他の作業に四時間、合計五時間を充当すれば十分にして 昼間の作業を行い得る状況に於いては 更に少なくも一時間を短縮し得るものとす

      • 四門中隊の展開に要する時間

        既に四五式火砲部隊に於て説述せし趣旨に依り 四門中隊の同時展開を考察するに 假令起重機車を各小隊毎に使用するの不便なる装備を採用する場合に於ても 夜暗を利用し同夜中に中隊の展開を完了すること極めて容易なり

  3. 三、其他の火砲部隊

    四五式火砲及改造四五式火砲部隊以外の攻撃重砲兵部隊の展開速度概察の標準を 砲側準備のみに就いて示せば 左の如し

    1. (イ)鋼製十五臼
      二時間
    2. (ロ)三八式十加
      三十分間
    3. (ハ)双輪式十五加
      一時間三十分

第三節 陣地変換

陣地変換は 即ち砲兵の陣地移動の行為にして 大小の範囲に於ける陣地の前方推進、横方向に於ける陣地の移動、或は陣地の後退等に関する一切を包括し 此等の総括的行為は之を通覧するに 旧陣地より新陣地に向てする展開行為とも称し得べし 但 敵火及瓦斯の損害を避くる主陣地近傍への転位は含まざるものとす

抑々陣地変換は 砲兵をして一時戦闘力を失はしむるものにして 特に多数部隊同時の陣地変換は高級指揮官の全般の戦闘指導に最も大なる関係を有するを以って 砲兵の移動を画策し或は之を下命せんとす高級指揮官及其幕僚は 深甚の注意を要す 然れ共状況の要求に応じては其実施を躊躇することなく 断乎として之を決行せしむるの要亦大なり 状況の要求とは 戦闘の進捗に伴い現陣地に於て任務を達成し得ざるか 若は一層有効に任務の達成を期せんとするときにして 状況に依り観測所の変換若は補助観測所の変換に依り 此目的を達し得ることあるに注意するを要す 之を要するに 高級指揮官及其幕僚は 能く砲兵移動に伴う利害を較量し 勉めて其害を消去し其利を発揮せしむる如く配慮するところあるを要し 軽々不準備なる移動を唐突に下命するが如きは 砲兵の性能に関し無識の謗を免れ能はざるべし

  1. 一、陣地変換の権限及独断

    陣地変換は 高級指揮官の命令に依り若は其認可を得て 砲兵指揮官之を行うを本則とす 是砲兵の陣地変換は高級指揮官の全般の戦闘指導に最も大なる関係を有すればなり 然れども又状況に応じ砲兵指揮官の独断に依る陣地変換は 素より之を認むるところにして 其主旨は 当面の戦況の推移にして予め判断せし如く進展せざるか 又は神速機敏に獲得染手すべき戦機を呈したる際 高級指揮官の認可を請ふの遑なくして迅速なる前進を要することあるを以ってなりとす 然る場合には陣地変換後直に之を報告するものとす

    陣地変換に関する命令の権限及独断の範囲は以上の如くなるも 本節の冒頭に於て述べた広義に於ける陣地変換の範囲に関連し 命令及独断に関する特異の事項を附加せんとす

    1. (イ)

      第一線附近に在る直協砲兵にして 遮蔽陣地を占領せるものの内 所要の砲兵は必要に応じ至近距離を射撃し或は戦車に対する為 前記遮蔽陣地の外 其近傍に於て直接照準に依りて目的を達成し得べき予備陣地を選定し置くことを要することあり

      以上の場合に於ける予備陣地への移動も亦一の陣地変換と称し得べきも 斯の如きは戦闘の当初より一定の砲兵使用計画として高級指揮官等も亦之を認定しある既定事項にして 両陣地は一体のものなりと認め得べく 状況の必要に臨み其陣地変換を行うが如きは 砲兵の指揮官の職責として敢行すべき件にして 高級指揮官等の命令を待つべき性質のものに非ず

    2. (ロ)退却路若は陣地の撤退

      斯の如きは 砲兵指揮官として 例え当面の状況上 砲兵の退却又は撤退を必要なりと判断せる場合に於ても 必ず高級指揮官の命令に依りてのみ発動すべきものにして 独断行為を認めざるを本則とす

  2. 二、陣地変換の準備

    陣地変換の実施を適切ならしめんには 高級指揮官は全般の戦闘指導の企画を明示し 之に基き 砲兵指揮官をして 戦闘の進捗に伴う陣地変換に関し予め準備を行い得しむるを肝要とし 且 単に戦闘の初動に於て之を勉むるのみならず 戦闘の経過に伴い発生せし新情報に基き 遅滞なく之を指示するを要するものにして 陣地変換に関し 砲兵として準備すべき要件は左の如し

    1. (イ)
      新陣地 及 之に対する所要の前進路若は前身地域の偵察
    2. (ロ)
      要すれば前進路の補修実施
    3. (ハ)
      新陣地に於ける射撃準備
    4. (ニ)
      弾薬の前送
    5. (ホ)
      指揮及連絡通信の設備
  3. 三、陣地変換の実施

    陣地変換は 砲兵をして一時戦闘力を失わしむるの弊を醸生し易きを以って 多数部隊同時の陣地変換は 特に之を戒むるを要し 梯次に之を行うを通常とす 即ち連隊は各大隊を梯次に陣地変換せしめ 各大隊も亦各中隊を梯次に陣地変換せしめ 以って大なる火力の中絶なからしむるを本旨とするも 中隊は同時に陣地変換するを一般とす

    陣地変換に関し附言すべきは 陣地変換とは必ずしも放列陣地の変換をのみ意味するに非ずして 観測所の推進も亦一部の陣地変換なり 近時砲兵の射撃指揮は観測所に於て行はるるを通常とし 従って火砲の射界(射程及方向共)尚十分にして放列陣地の推進を要せざる時期に於ても 観測所よりする戦場の観察 及 捜索監視 並 射弾の観測等の実施困難となるや 茲に砲兵威力の減退を呈するものにして 之即ち観測所の推進を要することあるの理となす 而して観測所の推進も亦陣地変換に関する全般的準則の如くにして 各部隊の観測及指揮機関毎に其編制及配置の範囲内に於て 各々梯次に之を行い 以って各機関指揮の中絶なきを期すべきものとす

    陣地を変換せる砲兵各級指揮官は 予定の指揮系統に入ることを努むべし 戦況に依りては機宜に適する如く行動するものとす