巡洋戦艦たち
1907年竣工
ドイツ装甲巡洋艦 シャルンホルスト級
 この時期までに英国は多数の装甲巡洋艦を持ってたわけで、シャルはその対抗的な意味合いもあります
1909年竣工
ドイツ装甲巡洋艦 ブリュッヒャー
 シャル級2隻に続いて建造された、事実上ドイツ最後の装甲巡洋艦
 装甲巡洋艦から巡洋戦艦にスイッチしちゃうんですね。
 
比較対照として、英国の装甲巡洋艦も並べてみる
コロネル海戦でシャルに負けたグッドホープ
ウォーリア
デューク・オブ・エジンバラ
 このあとに最終型マイノータ級があるのだが、まあ大差ないので割愛
 ウォーリアやエジンバラ級のブラックプリンス、そしてマイノーター級のディフェンスはジュットランドで沈んでます。
 コンウェイによるとディフェンスは戦艦主砲級7発を、ブラック・プリンスは12発を食らって、跡継である巡戦たちと同様に爆沈しました。
 ウォーリアは爆沈じゃないんですが、15発食らって助かりませんでした。
 ジュットランドでは巡洋戦艦のことばかり目立ちますが、末期装甲巡洋艦たちも苦闘していたのです。
 
1910年竣工
巡洋戦艦 フォン・デア・タン
 まあ、巡戦というよりは強力で高速な装甲巡洋艦って感じです。
 これはこれで良い感じのフネなんですが、やはり28サンチ45口径は不足だったのでしょうか、一隻の建造にとどまってます。
 
 ライヴァル
インヴィンシブル
インディファティガブル
 
1911年竣工
巡洋戦艦 モルトケ級
 
 武装、装甲、速度が全て強化されてますが、まあ見てのように前級の小拡大改良型です。
 二番艦ゲーベンは大戦序盤の追跡劇やトルコへの譲渡など興味深いエピソードをたくさん生んでますね。
 
1913年竣工
巡洋戦艦 ザイドリッツ
 これまでの集大成とも言える艦です。
 モルトケよりも幅を減らして速度を稼いでます。元々足りない凌波性の改善で艦首を一層嵩上げしてるあたり、既に元設計の限界を感じますな。
 ドッガーバンクやジュットランドでの不死身ぶりは有名です。攻防に優れた見事な艦ではあり、源流からここまで発展させた事には敬意を表すべきでしょう。
 
 ライヴァル
ライオン
クイーンメリー
 
1914年竣工
巡洋戦艦 デアフリンガー級
 実はザイドリッツと武装重量は変わらないし、防御スペックも大差無し。
 主砲が30.5サンチになって、配置もすっきりとしてますが、何故コレで、排水量が1割も大きくなるか?
 つまり、ザイドリッツまでの設計はもう限界だったわけです。デアフリンガーはそれを払拭するべくまったく新しい船体設計になってるんです。
 ジュットランドでは主役を張り、デアフリンガーはは21発、リュッツオゥは24発の戦艦主砲を被弾。リュッツオウは沈没。
 
 ライヴァルと言えるのは・・・
タイガー
 
未成艦
 未成に終わったマッケンゼン級と、その次であるヨルク代艦級ですね。事実上ナチス時代のシャルやビスはこれらの焼き直しでしかありません。
 見てのようにデアフリンガーの拡大強化型ですが・・・。個人的には凌波性の不足を来たしたんじゃないかなとか思ったりします
 
 まあこのフッドの対抗だったわけですな。
 
 
 
どうでも良い話
 英独の巡戦の開発競争を眺めてみると、英のインヴィンシブルと独フォン・デア・タンでは、主砲数こそ同じですが、配置面で独艦の方が優れています。
 まあ、これはインディファティガブルでは改善されており、ここで比較すると、12インチ8門と11インチ8門で、一斉射撃量では3,100:2,416で英優位。
 防御でいうと、比較的狭い範囲に最大152mmの英艦に対して、広範囲で最大250mmの独艦が圧倒的に優位です。
 余談ですが、英巡戦の舷側装甲は水線付近の甲板一層分しかありません。また機関等にも場所を取られて、舷側装甲裏の傾斜甲板部分も狭くかなり弱体です。
 
 フォン・デア・タンで英巡戦に劣っているのは火力です。彼女の優位な装甲はカタログ上では1万mぐらいで12インチに抜かれます。つまり、実際に英巡戦と殴りあったら双方とも貫徹続出、ならば打撃力で勝る英巡戦はあなどれません。
 以前に国本さんからお伺いした話によると、この時期の独では大型主砲の製造に足枷があったそうです。つまり英と対等な12インチの製造数が確保できないわけですね。
 よって、28サンチ砲の砲身を伸ばして打撃力を増し、更に門数を増加させたのがモルトケ級な訳です。
 
 もっとも打撃力の増加といっても、前級の45口径砲の初速855m/sに対して、モルトケの新型50口径は880m/sですから、実際にはたいした違いじゃないですな。砲口で消費税分、実際の威力でも何も変わってないと思います。
 まあ、28サンチに止めざるを得ない以上、この処置は僅かでも戦力を上げたかったのだという事なのでしょう。
 それよりも、主砲搭載数を増した事の方が意味は大きいわけです。これで一斉射撃で英巡戦と対等です。装甲も270mmに強化されてますから。総合戦力はかなり向上しています。
 
 ですが、同時期に英はライオン級を竣工させます。343mm砲を備え、舷側装甲も水線付近だけとは言え229mmと大きく改善された化け物です。
 ライオン級は一斉射撃重量で4,600kgですから、英巡戦やモルトケの3,000kgを大幅に上回ります。更に1万m以上でもカタログ上ではモルトケの装甲を抜きます。モルトケは投射量で大幅におとり、恐らく相互貫徹力でも優位とは言いがたくなってしまうのです。
 
 独は12インチ砲を巡戦に回すだけの余力が無いので、そしてモルトケは基本的に悪い船ではないので、二番艦ゲーベンを翌年、そして改良型のザイドリッツをその翌年に建造します。
 このファミリーの最終型のザイドリッツでは、舷側装甲を遂に300mmにまで強化しています。ドイツ巡戦が英艦よりも主砲が弱いのは恐らく主砲製造能力に起因するのでしょう。彼らは決して小さい主砲に満足していたり自己の火力に合わせた防御性能だったわけではないのです。ザイドリッツは火力が前級と変わらないのに防御を引き上げています。これは英国の343mm砲への対処だったのです。
 
 英国はライオン級の最後にタイガーを建造します。武装配置を改善して、改良された主砲を搭載して、金剛と同様に広い範囲に装甲を張った代物です。
 この時期になって、独は漸く巡戦にも12インチ砲を搭載可能になり、洗練された武装配置をしたデアフリンガー級を生み出します。
 デアフリンガーは実は武装重量ではザイドリッツと事実上変わりません。また装甲も同レベルです。機関等を別にしても、独は技術的にはいつでもデアフリンガー程度の艦を作ることは出来たのです。
 ですが、デアフリンガーの登場は決定的に遅かったと言えるでしょう。英軍は超弩級巡洋戦艦とQE級高速戦艦を揃えてしまっています。
 デアフリンガーの火力は確かに中々のものですが、一斉投射量は3,200kg。所詮は弩級でしかなく、砲口エネルギーで英343mmの新型に対して2割劣ります。つまり当時の一般的交戦距離では超弩級には勝てません。
 以降のドイツは超弩級艦建造に邁進するのですが、結局戦争によってそれは果たせませんでした。
 ジュットランドで独巡戦群を叩きのめしたのは343mmと381mmの打撃力であり、また爆沈艦(これは火薬にも問題があるというべき)を別にすると、無数の命中を送り込みながらも独巡戦は英軍巡戦を叩き潰せませんでした。その原因は勿論色々あるわけですが、独巡戦の主砲弾は英軍艦の主要装甲に穴を開けにくかったのです。15発も食らったウォースパイトは結局重要部分への命中は殆ど跳ね返しています。
 20発以上の被弾に耐えた独巡戦は称えられるべきでしょう。ですが敵を叩く火力を持たないからこそ、それだけ無茶苦茶撃たれたのだともいえます。もしジュットランドでヒッパーの隷下の艦が全部35サンチ砲を搭載した超弩級巡洋戦艦のマッケンゼン級だったら? 英巡戦隊は壊滅していたかもしれません。そうしたらあの海戦はどうなったでしょう。
 大きな大砲を作れないという哀しい枷が、あの海戦の裏にあったともいえるでしょう。