砲兵操典

第二篇 銃教練
第一章 基本

第二節 軽機関銃
  1. 第五十二
    軽機関銃には銃長一名、銃手二名を属し銃手には一番、二番の番号を附す
    銃長は属品嚢を帯革に通して携行し一番は銃を持ち眼鏡嚢を負革にて左肩より右脇に掛け手入具嚢を帯革に通して携行し(十一年式軽機関銃 一番は銃を持ち手入具嚢を帯革に通して携行し)二番は弾薬嚢を負革にて肩より両脇に掛け装弾器嚢を帯革に通して携行す(十一年式軽機関銃 二番は弾箱を提ぐ)
  2. 第五十三
    装填を為さしむるには左の号令を下す
    • 弾薬を込め
    銃長は装填を監視す
    不動の姿勢にあるときは一番は銃に注目して之を体に托し両手を以て脚桿を開き右手を以て提把を握ると同時に左足を約一歩前に踏み出し銃を据えたる後右膝を地に著け右手を持って握把を握り左手を以て槓桿を十分引き之を旧に復し弾倉室蓋を開き弾倉を二番より受け取り確実に之を装したる後安全装置をなし右手を以て提把を握り銃を取り右足を左足に引き著けて起ち両手を以て脚桿を閉ず
    二番は弾倉嚢より弾倉を取り出して之を一番に渡す
    十一年式軽機関銃に在りては一番は銃に注目して之を体に托し両手を以て脚桿を開き左手を以て脚桿の基部を、右手を以て銃把を握ると同時に左足を約一歩前に踏み出し銃を据えたる後右膝を地に著け右手を以て銃把を握り左手を以て圧桿を上方に起し弾箱の蓋を開き弾薬を撮み出し弾頭を前にし装填架内に込め圧桿を閉じ安全装置を為し弾箱の蓋を閉じ次で握革に依り放熱筒の中央部附近を下より握りて銃を取り右足を左足に引き著けて起ち両手を以て脚桿を閉ず
    二番は弾箱を一番の左側に置き一番装填し終わるや之を提ぐ
    操作終われば銃長以下不動の姿勢に復す
  3. 第五十四
    弾薬を抽出さしむるには左の号令を下す
    • 弾薬を抽け
    銃長は弾薬の抽出を監視す(十一年式軽機関銃 更に弾丸なきやを確かめ之を一番に告知す)
    不動の姿勢にあるときは一番は装填するときに準じ姿勢を取り注目して安全装置を解き左手を以て槓桿を引き之を旧に復したる後弾倉止めを前方に圧しつつ弾倉を握り之を前上方に脱して二番に渡し残弾なきやを確かめ槓桿を引き之を保持したる侭引鉄を引きて遊底を静かに前進せしめ弾倉室蓋を閉じ装填するときに準じ銃を取りて起ち両手を以て脚桿を閉ず
    二番は弾倉を一番より受け取りて之を弾倉嚢に納む
    十一年式軽機関銃に在りては一番は装填するときに準じ姿勢を取り注目して安全装置を解き左手を以て槓桿を十分に引き之を旧に復し圧桿を起し上層の弾薬を撮み出し最下層の弾薬は左手の指を装弾子落下窓に入れて装弾子を押し上げ右手を以て撮み出し弾箱に入れ其の蓋を閉じたる後左手を以て圧桿を閉じ残弾なき告知を受くるや槓桿を引き之を保持したる侭引鉄を引きて遊底を静かに前進せしめ装填するときに準じ銃を取りて起ち両手を以て脚桿を閉ず
    二番は弾箱を銃の左側に置き一番弾薬の抽出終わるや之を提ぐ
    操作終われば銃長以下不動の姿勢に復す
  4. 第五十五
    射撃の位置における銃長以下の定位第二図の如し
    {第二図}
  5. 第五十六
    射撃姿勢を取らしむるには目標(後者に在りては状況に依り方向)を示したる後左の号令を下す
    • 伏射(膝射)
    不動の姿勢にあるとき目標(方向)を示さるるや先ず之に正対す
    銃長は定位に就き属品嚢より打殻抜を出して片手に持ち銃手の操作を監視す
    伏射の姿勢を取るには銃長は伏臥し一番は銃に注目して之を体に託し両手を以て脚桿を開き右手を以て提把(十一年式軽機関銃 左手を以て脚桿の基部を、右手を以て銃把)を握ると同時に左足を約一歩前に踏み出し銃把を概ね左足尖の右傍にあらしむる如く示されたる目標に対し銃を据えたる後床尾の両側に両手を就き体の方向銃と平行する如く後方に伏臥し右手を以て握把を握り左手を以て弾倉嚢より弾倉を取り出し之を装填したる後銃把を下より握り(十一年式軽機関銃 銃と約十度の角度を保つ如く左後方に伏臥し右手を以て銃把を握り装填したる後左手を以て確実に槓桿を握り一挙に十分に引き之を旧に復したる後床鼻の前方を左上方より握り)目標に注目す
    二番は弾倉嚢(十一年式軽機関銃 弾箱)を一番の左側に送り定位に就き伏臥す
    高射の姿勢取るには銃長は両膝を開きて地に著け一番は銃に注目して之を体に托し両手を以て槓桿を開き右手を以て提把(十一年式軽機関銃 左手を以て脚桿の基部を、右手を以て銃把)を握りて銃を前に差し出し之を二番に保持せしめ両膝を開きて地に著けたる後伏射に準じ銃を保持し装填したる後左手を以て銃把を下より握る(十一年式軽機関銃 左手を以て確実に槓桿を握り一挙に十分に引き之を旧に復したる後床鼻の前方を左上方より握る)
    二番は弾倉嚢(十一年式軽機関銃 弾箱)を一番の左側に送りたる後定位に就き一番に正対し両膝を開きて地に著け一番の差し出す銃の脚桿の踵鉄部を両手にて握り両腕を外方に張り之を保持す
    眼鏡を銃に装着するには両手を以て眼鏡を嚢より取り出し右手を以て遮光筒を前にして上方より握り之を眼鏡托座に確実に装し左手にて支え右手を以て緊定す
    眼鏡を銃より離脱するには左手を以て眼鏡を上方より握り右手を以て緊定を解き両手を以て之を脱し嚢に納む
  6. 第五十七
    射撃は点射(約三乃至五発)を用う
    射撃を為さしむるには予め照尺要すれば横尺、照準点を号令し又射撃姿勢を取らしむる際方向を示したる場合に於ては照尺の前に目標を示す
    照尺、横尺を号令せられたるときは一番は之を装し其の結果を銃長に報告す
    転写を反復〔移動〕せしむるには発数を示したる後左の号令を下す
    • 撃て〔右(左)より撃て〕
    銃長は射弾の景況に注意し要すれば照準点の修正を命ず
    一番は概ね示されたる発数宛発射す
    二番は弾倉(十一年式軽機関銃 弾箱)を逐次一番の左側に送り空弾倉(十一年式軽機関銃 空弾箱)と交換し之に弾薬を充填す
    弾薬を弾倉に充填するには装弾器を嚢より取り出し吊紐を顎に懸け弾倉を確実に装弾器に装し押鉄を開き次で左手にて弾倉を握り右手にて弾薬を保持し弾頭を前にして装弾器内に込め左手の食指を以て弾薬を下方に圧し右手を以て押鉄を内方に一挙に圧して装填す
  7. 第五十八
    射撃を中止せしむるには左の号令を下す
    • 撃方待て
    一番は引金を放ち床尾を肩より下ろす(十一年式軽機関銃 次で装弾架に弾薬を補う)
  8. 第五十九
    射撃を止めしむるには左の号令を下す
    • 撃方止め
    銃長は一番の右側に起ち打殻抜を属品嚢に納む
    伏射に在りては一番は引鉄を放ち床尾を肩より下ろし注目して銃を安全装置にし照尺、横尺を旧に復し頭を目標の方向にし銃を地に置きたる侭右足を曲げ両手を著き上体を起こし左足を約一歩前に踏み出し床尾の左側に起つ
    二番は一番の左側に起ち弾倉嚢を取りて旧の如く負う(十一年式軽機関銃 弾箱を提ぐ)
    高射に在りては一番は引鉄を放ち注目して銃を安全装置にし照尺、横尺を旧に復し左手を以て銃把を下より握り右手を以て提把を握り(十一年式軽機関銃 左手を以て脚桿の基部を下方より握り右手を持って銃把を握り)銃を地に置きて起つ
    二番は一番提把(十一年式軽機関銃 脚桿の基部)を握るや脚桿の踵鉄部を放ち其の姿勢を取りたる時と概ね反対の順序を以て起つ
  9. 第六十
    軽機関銃の射撃位置を選定するに当りては射撃威力の発揚を主とし顕著なる目標と呈せざる如く地形、地物を利用するを要す此の際要すれば速やかに地形、地物を改修し巧に之を利用するの著意緊要なり
  10. 第六十一
    地形、地物を利用して射撃するため銃を据うるには目標に対し両脚桿及両肘の高低の関係を適当ならしむること特に緊要なり又銃の位置は発射に方り銃口前に塵煙の揚らざる如く考慮するを要す
    両脚桿の位置は概ね水平にして射撃に際し両脚桿の地中に没入せざる所に選び両肘の位置は発射中低下し又は側方に変位するが如きことなきを要す
    脚桿の高さを変じて照準高を低(高)くせんとするときは銃を後方に引き右手を以て提把を握り左手の拇指を以て脚桿頭駐子を下方に圧し脚桿の位置を前方(後方)に移し銃を旧に復す〔十一年式軽機関銃 脚桿の位置を移動することなく銃を僅かに前方に出し且体を少しく前に進め右手を持って脚駐栓を抽出し(押し入れ)体を後退し銃を後方に引く〕
    銃を直接地物に依託して射撃するの止むを得ざる場合に於ては「ガス」排出口を塞がざる事、銃口は地面より少なくも約十糎離隔せしむること及十一年式軽機関銃に在りては装弾子の落下を妨げざる事に注意すべし
    軽機関銃座による射撃は身体の前部を内斜面に接し両肘を腕座に置き伏射と同法により射撃するを可とす
    樹木に遮蔽して射撃する場合に於ては之が為装填の操作或は薬莢の蹴出しを妨げざる事に注意すべし
    地形、地物の状態により小銃に於ける膝射の姿勢を準用することあり