砲兵操典綱領

砲兵操典

綱領

第一

軍の主とする所は戦闘なりゆえに百事皆戦闘を以て基準とすべし而して戦闘一般の目的は敵を圧倒殲滅して迅速に戦勝を獲得するにあり
第二

戦勝の要は有形無系の各種戦闘要素を綜合して敵に勝る威力を要点に集中発揮せしむるに在り
訓練精到にして必勝の信念硬く軍紀至厳にして攻撃精神充溢せる軍隊は能く物質的威力を凌駕して戦勝を完うし得るものとす
第三

必勝の信念は主として軍の光輝ある歴史に根源し周到なる訓練を以てこれを培養し卓越なる指揮統帥を以てこれを充実す
赫々たる伝統を有する国軍は愈々忠君愛国の精神を砥礪し益々訓練の精熟を重ね戦闘惨烈の極所に至るも上下相信倚し毅然として必勝の確信を持せざるべからず
第四

軍規は軍隊の命脈なり戦場至る所境遇を異にし且諸種の任務を有する全軍をして上将帥より下一兵に至るまで脈絡一貫克く一定の方針に従い衆心一致の行動に就かしめ得るもの即ち軍紀にしてその弛緩は実に軍の運命を左右するものなり而して軍紀の要素は服従にあり故に全軍の将兵をして身命を君国に捧げ至誠上長に服従しその命令を確守するを以て第二の天性と成さしむるを要す
第五

凡兵戦の事たる独断を要するもの頗る多し而して独断はその精神に於ては決して服従と相反するものにあらず常に上官の意図を明察し大局を判断して情況の変化に応じ自らその目的を達し得べき最良の方法を選び以て機宜に制せざるべからず
第六

軍隊は常に攻撃精神充溢し士気旺盛ならざるべからず
攻撃精神は忠君愛国の至誠より発する軍人精神の精華にして強固なる軍隊士気の表徴なり武技これに依りて精を致し教練之に依りて光を放ち戦闘之に依りて勝を奏す蓋し勝敗の数は必ずしも兵力の多寡に依らず精練にして且攻撃精神に富める軍隊は克く寡を以て衆を破る事を得るものなればなり
第七

協同一致は戦闘の目的を達するため極めて重要なり兵種を論ぜず上下を問わず戮力協心全軍一体の実を挙げ始めて戦闘の成果を期し得べく全般の情勢を考察し各々その職責を重んじ一意任務の遂行に努力するは即ち協同一致の主旨に合するものなり而して諸兵種の協同は歩兵をしてその目的を達成せしむるを主眼とし之を行うを本義とす
第八

戦闘は輓今著しく複雑靭強の性質を帯び且資材の充実、補給の円滑は必ずしも常に之を望むべからず故に軍隊は堅忍不抜克く困苦欠乏に堪え戦局を打開し戦勝の一途に邁進するを要す
第九

敵の意表に出づるは機を制し勝を得るの要道なり故に旺盛なる企図心と追随を許さざる創意と神速なる機動とを以て敵に臨み常に主導の位置に立ち全軍相戒めて厳に我が軍の企図を秘匿し困難なる地形及び天候をも克服し疾風迅雷敵をして之に対応するの策なからしむること緊要なり
第十

指揮官は軍隊指揮の中枢にして又団結の核心なり故に常時熾烈なる責任感念及び強固なる意思を以てその職責を遂行すると共に高邁なる徳性を備え部下と苦楽を共にし率先躬行軍隊の儀表としてその尊心を受け剣電弾雨の間に立ち勇猛沈着部下をして仰ぎて富嶽の重きを感ぜしめざるべからず
為さざると遅疑するとは指揮官の最も戒むべき所とす是此両者の軍隊の危殆に陥らしむること其の方法を誤るよりも更に甚だしきものあればなり
第十一

砲兵の本領は威力強大、機動迅速なる火力に依り戦闘の骨幹を成型して敵を震駭撃滅し友軍の士気を鼓舞作興し諸兵守共同戦闘の実を挙げ以て全軍戦勝の途を拓くに在り
砲兵は周密にして機敏、剛胆にして沈着能く戦技に成熟し各々責務を完遂し全軍の犠牲たるべき気迫と諸兵種一身同体たるの信念とを堅持し以て常に正確主導の火力を発揮し其の本領を完うすべし
火砲は砲兵の生命なり故に砲兵は必ず是と死生栄辱を共にし縦い一問の火砲一命の砲手となるも尚毅然として戦闘を遂行すべし
砲兵は常に兵器を尊重し弾薬を節用し馬匹を愛護すべし
第十二

戦闘に於ては百事簡単にして勝つ精練なるもの能く成功を期し得べし典令は此の主旨に基き軍隊訓練上主要なる原則、法則及制式を示すものにして是が運用の妙は一に其の人に存す固より妄りに典則に乖くべからず又之に拘泥して実効を誤るべからず宜しく工夫を積み創意に努め以て千差万別の状況に所し是を活用すべし