歩兵操典

第二篇 中隊教練
第二章 戦闘
第三節 中隊
第一款 攻撃

戦闘の為の前進
  1. 第174
    戦闘の為前進する大隊疎開せる隊勢に移れば、中隊は捜索、警戒、対空、対戦車、及び対瓦斯の処置を講じ、地形ならびに重火器、砲兵等の射撃の効果を利用して前進し、所要に応じ疎開し、速やかに敵に近接す
    中隊長は中隊の使用せらるべき方面を予知せば、機を失せず攻撃の為必要なる資料を収集し、重火器には所要に応じ爾後の使用を考慮し偵察せしむ
  2. 第175
    中隊の疎開に在りては、通常小隊を二線若しくは三線に配置し、要すれば更に小隊を疎開せしむ。小隊間の距離間隔は適宜伸縮すべきも、別命なければ約100米(小隊更に疎開せるときは約50米)とす
    中隊の運動を律する為、中隊長は通常基準小隊、及び其の前進目標(方向)を示す
  3. 第176
    戦闘の為の前進間、中隊長は通常中隊の前方に位置し、敵情、地形を観察し、適時中隊を部署す。又、指揮班をして中隊長と小隊長及び要すれば大隊長、重火器、隣接部隊との間に連絡の処置を講ぜしむ
  4. 第177
    中隊長は重火器をして、勉めて駄載にて前進せしむ。状況之を許さざるに至れば卸下し、駄馬は通常指揮者を附し、適宜中隊の後方を躍進せしむ。状況に依り、弾薬小隊長をして駄馬を併せ指揮せしむることあり
  5. 第178
    小隊疎開せば、馬は通常小隊長の命に依り、分隊毎に各馬の距離間隔約25米の適宜の隊形に散開す

展開、運動及び射撃
  1. 第179
    展開を行うには、中隊長は中隊を第一線と予備隊とに区分し、重火器を直轄使用す
    展開に方り、中隊長は現地に就き各小隊長に状況、自己の企図、就中中隊の攻撃目標を示し、第一線小隊及び其の攻撃目標、重火器の任務、予備隊、各小隊の関係位置、要すれば基準小隊等所要の事項を命ず。此の際、小隊の攻撃目標を示す能わざるときは、爾後速やかに之を示す
    小隊の攻撃目標を示すには、通常攻撃すべき最前線の敵、若しくは敵の第一線をを以ってし、要すれば爾後攻撃前進すべき方向を示す
  2. 第180
    機関銃は通常第一線小隊の近距離に於ける攻撃に密に協同せしむ。機関銃に任務を与うるには通常射撃目標及び射撃開始の時期を以ってし、且つ要すれば陣地の概要等、所要の事項を示す
    自動砲は主として近距離に於ける対戦車射撃に任ぜしめ、所要に応じ近距離に於ける側防機能、特に銃眼(砲門を含む、以下同じ)等を射撃せしむ。自動砲に任務を与うるには通常対戦車射撃を準備すべき方向及び行動の準拠を、側防機能を射撃せしむるには射撃目標及び陣地の概要を以ってす
  3. 第181
    展開に方り、中隊長は指揮班をして連絡の処置を補足し、戦闘間の連絡に遺憾ならしむると共に、不断の敵情監視に任ぜしむ
  4. 第182
    戦闘間、中隊長は勉めて前方に位置す。此の際、大隊長との連絡及び隣接部隊の状況の観察に便なることを考慮す
  5. 第183
    戦闘間、中隊長は敵情、就中我が行動を特に妨害すべき敵の位置及び状態、我が重火器及び砲兵の射撃の効果等に関し大隊長に報告し、重火器等に通報し、所要の事項を要求し、且つ小隊長に通報して密に協調せしむ
  6. 第184
    戦闘間、中隊長は逐次判明せる敵情、地形に応じ、適時小隊に新たなる任務を与え、要すれば部署を変更し、自己の意図の如く戦闘を指導す。此の間、敵の弱点を看破し、機を失せず之を利用し、或は敵配備の間隙、地形、我が火力の掩護、煙等を利用して極力包囲を行い、或は逐次要点に火力を集中して敵陣を奪取し、或は敵を欺騙して不意に乗ずる等、常に溌剌たる企図心と、追随を許さざる創意とを以って、積極的に戦闘を指導するを要す
  7. 第185
    敵に近接し、前進愈々困難となるも、中隊長は益々火力を発揚し、所要に応じ器具を使用せしむる等、手段を尽くして極力攻撃を続行す。然れども、器具使用の為、毫も攻撃の気勢を殺がざるを要す
  8. 第186
    予備隊は、主として戦火を拡張し、所要に応じ第一線を増加する等の為、之を用う。中隊長は縦い予備隊を使用し尽くすも、状況之を許せば新たに之を設く
    予備隊の長は、絶えず上空、依托なき側面及び背面を警戒し、常に当面の状況を詳かにし、中隊長と確実に連絡を保ち、其の意図に従い行動す。此の際、地上及び上空に対し遮蔽すると共に、損害を減少するの着意緊要なり
  9. 第187
    戦闘間、敵飛行機、戦車の攻撃を受くるに方りては、直接之に対応すべき部隊の外、拘束せられざるを要す
    敵飛行際が有効射程に進入せば、予備隊は直ちに之が撃墜を図るべし
    敵戦車に対しては、自動砲は機を失せず射撃し、中隊長は一般の状況之を許せば、機関銃をして一時対戦車射撃を行わしめ、又肉薄攻撃班(組)をして攻撃を敢行せしむ
    瓦斯内の指揮は簡明を旨とし、記号に依り、若しくは基準部隊に倣わしむ

突撃、陣内の攻撃
  1. 第188
    戦闘の進捗に伴い、中隊長は逐次突撃を準備す。之が為、突撃を妨害すべき敵の機関銃、側防機能、障碍物、我が火力の効果等を大隊長に報告し、敵の弱点を看破し、突撃に関する自己の企図を確定し、此等を重火器等に通報し、突入後に於ける第一線小隊の進出地点若しくは前進方向を示し、特に不意に現出すべき側防機能を機を失せず処理する為、機関銃、為し得れば自動砲、煙、肉薄攻撃等を準備し、要すれば之に専任すべき重火器を指定し、益々火力を増大し、障碍物を破壊する等、状況に適する如く処置す。
    中隊長は状況に依り予備隊の火力を以って突撃を援助せしむることあり
  2. 第189
    戦車の協力を受くるときは、中隊長は戦車の威力を必要とする目標及び時機、戦車を阻止すべき障碍、敵の対戦車下記の位置等を速やかに大隊長に報告すると共に、勉めて関係戦車隊長と直接協定を遂げ、且つ歩戦間の連絡の処置を講じ、戦車の獲得せる成果を機を失せず利用す
  3. 第190
    敵に近迫せば、中隊長は好機に乗じ、或は自ら突撃発起の動機を作為し、突撃を敢行すべし
    突撃発起に関し予め指示せられたるときは、小隊長は速やかに突撃準備を整え、之を中隊長に報告し、所命の如く突撃を敢行すべし。而して、砲兵の突撃支援を受くる場合に於いて突入時機の規正あるときは、中隊長は砲兵射撃の要領を部下に徹底せしめ、最後の突撃支援射撃開始と同時に第一線小隊を発進せしめ、我が集中砲弾の濃密部に近迫し、最後の砲弾に膚接して突入せしむ
    重火器の射撃効果を利用して突撃する場合、若しくは砲兵の突撃支援を受くるも突入時機の規正なきときは、自ら射弾の効果を判断し、好機に乗じ突撃を敢行すべし。此の際、密に重火器と協調し、且つ第一線小隊をして適宜戦線を標示せしめ、砲兵の射程延伸を適切ならしむ
  4. 第191
    突撃に方り、中隊長は率先先頭に立ち、中隊の全能力を尽くして突撃すべし。此の時機に於ける中隊長の勇敢なる動作は良く部下を奮起せしめ、既に勝利の第一歩を占むるものなり
  5. 第192
    中隊長は、重火器をして第一線小隊の突入に引き続き之に跟随し、機を失せず射撃に便なる地点に進出し、突撃歩兵の戦闘に密に協同せしめ、或は敵戦車を破摧せしむ
  6. 第193
    陣内の攻撃に在りては、中隊長は良く部下を掌握し、断乎たる決意を以って敵陣動揺の機に乗じ飽く迄猛烈なる攻撃を続行し、敵の逆襲を破摧し、速やかに所命の目標に突進すべし。中隊の精神的団結の鞏固は、実に此の時機に於いて発現するものなり
  7. 第194
    中隊は縦い突撃頓挫し、或は陣内の攻撃意の如くならざることあるも占領せる地点を確保し、隊勢を恢復し、百方手段を尽くして其の原因を排除し、突撃を反復すべし。苟も死力を尽くして奮進せば、如何なる敵と雖も、之を敗滅に陥らしめ得るものなり
  8. 第195
    攻撃奏功せば、中隊長は直ちに敵を急追し、之が殲滅を期すべし。此の際、攻撃の劇動に疲れ、部下愛惜の情に囚われ、追撃を躊躇すべからず