歩兵操典

第三篇 機関銃及び自動砲教練
第三章 戦闘
第一節 分隊
  1. 第286
    小隊疎開せば、各分隊は通常縦散開にて前進す
    分解搬送にて縦に散開せしむるには、左の号令を下す
    • 分解搬送 縦ニ散レ(ぶんかいはんそう たてにちれ)
    銃《砲》手は銃《砲》を分解し、第九図の如く散開しつつ前進す。但し、機関銃の三脚架は折畳まず、自動砲の砲身後方被、活塞栓は之を装す。又、尾筒及び揺架を担い、或は下ろすに方り、通常二番、要すれば四番は前脚を握りて之を補助す
    二人搬送にて縦に散開せしむるには、左の号令を下す
    • 二人搬送 縦ニ散レ(ににんはんそう たてにちれ)
    二、三番は銃《砲》を提げ、第九図の如く散開しつつ前進す。時として銃《砲身》のみを脱して一番に携行せしむ
    第九図
  2. 第287
    機関銃に在りては、通常陣地進入に先だち眼鏡照準具を銃に装し、駄載に先だち之を脱す。又、分解搬送に在りては通常之を脱す
    • 照準具を装するには、分隊長の指示にて三番は照準具托坐蓋を脱し、照準具を照準具托坐に装し、照準具托坐蓋を嚢に納め、諸分画を定位に装す
    • 照準具を銃より脱すには前項と反対の順序に操作す
    自動砲に在りては、通常陣地進入に先だち空弾倉を填実す。又、分隊長及び砲側に位置すべき砲手は通常耳に綿等を込む
  3. 第288
    陣地進入に先だち、分隊長は通常四番を伴い、先行して銃《砲》の位置を選ぶ。銃《砲》の位置は示されたる目標を射撃するに適し、勉めて遮蔽し、且つ銃《砲》の安定良好なるを要す
    銃《砲》の位置に於いては、巧に地形地物を利用し、器具を使用し、偽装を施し、適宜遮障を設け、且つ射撃に方り沙塵の揚らざる如く処置す
  4. 第289
    分隊を陣地に進入せしむるには、方向(目標)、進入要領、要すれば銃《砲》の姿勢を示し、左の号令を下す
    • 銃《砲》ヲ据エ
    分隊長は銃《砲》の位置を示し、兵の動作を監視す
    • 機関銃
      匍匐して陣地に進入するには、二、三番は銃を銃の位置の後方に運び、三番は通常後棍を脱す。二、四番は匍匐して銃を分隊長の示す位置に運び、所命の方向(目標)に向けて置き、四番は後脚を堅固に据え、要すれば昇降軸を上下し、射撃の姿勢を取る
      (昇降軸を上下するには、二番は緊定桿を緩め転把を廻わし、四番と協同して銃を四番の希望する高さにし、二番は緊定桿を緊む)
      前棍を脱すを要するときは、分隊長の指示にて二番之を脱し、身辺に置く
      五番は銃を据え終らんとするに先だち、弾薬箱を二番の身辺に搬送す。二番は装填を準備す
      五番は六番より充実せる弾薬箱を受取り、位置に就き、一、三、六、七、八番は位置に就く
      一挙に陣地に進入するには、二、三番は銃を分隊長の示す位置に置き、四番は後脚を堅固に据う。此の際、分隊長は要すれば後棍を脱さしむ。又、最初より二、四番をして銃を据えしむること少なからず
    • 自動砲
      二、三番は砲を分隊長の示す位置に運び、所命の方向(目標)に向けて置き、三番は後棍を脱し位置に就き、四番は射撃の姿勢を取り、砲の方向を正す。二番は前脚頭廻止を90度旋回し、前脚転輪を操作して四番の希望する如く高さ及び傾斜を修正し、装填を準備す
      五番は弾薬箱を八番に渡し、砲を据え終らんとするに先だち、実弾倉入弾薬嚢2箇を二番の身辺に運び、六番より実弾倉入弾薬嚢を受取り、位置に就き、六番は七、八番より実弾倉入弾薬嚢を受取り、位置に就き、弾倉填実の準備を為す。一、七、八番は位置に就く
      最初より二、四番をして銃を据えしむること少なからず
      匍匐して陣地に進入する要領は機関銃に準ず
    銃《砲》を据うるや、直ちに射撃操作を開始す
  5. 第290
    陣地進入に方りては、勉めて行動を秘匿す。之が為、地形地物、陰影等を利用し、偽装を巧にし、且つ銃《砲》側に蝟集せざるを要す
    射撃の準備は勉めて陣地進入に先だち之を整え、特に銃《砲》の機能、照準具を点検し、進入後速やかに発射し得るを要す
  6. 第291
    射撃間、銃《砲》側に弾薬を補充する要領、左の如し
    • 機関銃に在りては、二番は弾薬1箱を撃終らんとするに先だち、五番に合図し、撃終れば空箱を後ろに置く。五、六、七(八)番は、各々充実せる弾薬箱を携え前進し、五番は之を二番の身辺に置き、空箱を携え後退し、之を六番に、六番は之を七(八)番に渡し、各々充実せる弾薬箱を受取る。七(八)番は弾薬小隊の充実せる弾薬箱と交換す
    • 自動砲に在りては、二番は1弾倉を撃終れば実弾倉と交換し、空弾倉を嚢に納め後ろに置く。五番は実弾倉入弾薬嚢を二番の身辺に運び、空弾倉入弾薬嚢を六番の身辺に運び、実弾倉と交換す。六番は空弾倉を受取るや、直ちに之に弾薬を填実し、弾薬箱空とならんとするや、後方砲手に合図す。七(八)番は充実せる弾薬箱を六番の身辺に運び、空箱を受取り、旧に復す
  7. 第292
    陣地変換に方り、分隊を同時に前進せしむるには、要すれば方向、隊形等を示し、左の号令を下す
    • 前進用意〔前進用意駈歩(早駈)(匍匐)〕 前へ
    前進用意〔前進用意駈歩(早駈)(匍匐)〕の号令にて、二、四番は撃方止メに準じ操作し、分隊長以下姿勢を高くすることなく前進を準備し、前への号令にて前進す。前進の当初、銃《砲》は二、四番之を搬送す
    機関銃に在りては、一乃至四番は通常横に散開して分隊長に続行し、五番は携行せる弾薬箱を、六番は携行せる弾薬箱及び銃側の弾薬箱を、七、八番は携行せる弾薬箱を携え、概ね現態勢にて前進す
    自動砲に在りては、一乃至四番は通常横に散開して分隊長に続行し、五番は携行せる弾倉嚢を、六番は弾薬箱及び銃側の弾薬嚢を、七番は弾薬箱及び六番の位置に在る弾薬嚢を、八番は弾薬箱2を携え、概ね現態勢にて前進す
    射撃姿勢より銃《砲》を後方に撤去して銃《砲》の位置を移動し、或は陣地を変換するには変換用意の号令にて前進用意に準じ操作し、通常匍匐して銃《砲》を後方に移し、爾後の行動を準備す
  8. 第293
    陣地変換に方りては、成るべく予め所要の準備を整え、動作を敏活にし、遮蔽に勉め、新陣地に於いて急襲的に射撃を開始す
    前進に方り、分隊同時に前進すべきや、区分して前進すべきや、各個に全身すべきや、或は匍匐して前進すべきや等は状況、特に地形及び敵火の状態に依るも、勉めて損害を減少するとともに、射撃の機を逸せざること緊要なり
    運動間、分隊長は搬送法を適切ならしめ、適宜銃《砲》手を交代せしむ
  9. 第294
    戦闘間、分隊長は敵情、銃《砲》の機能に注意し、弾着を観測修正し、且つ分画の装定、射撃の修正、兵沈着して動作するや等を監視し、所要に応じ自ら射撃す。又、弾薬の現数、兵器の欠損及び故障等に関し、適時小隊長に報告すると共に機宜の処置を講じ、射撃を継続す
    戦闘間、分隊長は状況、特に地形之を許せば、敵の意表に出で、或は損害を減少する為、銃《砲》の位置の小移動を行うを利とす。但し、機関銃に在りては小隊長の意図に基きて行い、其の射撃指揮に支障なからしむるを要す
  10. 第295
    防禦に在りては、分隊長は状況の許す限り銃《砲》の位置、射撃区域内の地形、弾薬補充路等に関し綿密に偵察し、又、勉めて工事、特に偽装、弾薬集積の設備を施し、且つ秘匿して行動し得る如く設備し、以って、急襲的射撃を行うに遺憾なからしむ
    至近距離に於ける機関銃の不意且つ適切なる射撃は、敵を潰乱せしめ、或は殲滅し得るを以って、分隊長以下特に沈着し、銃の威力を最高度に発揚するを要す