歩兵操典

第四篇 歩兵砲教練
第三章 戦闘
第二節 小隊
第一款 攻撃
  1. 第424
    戦闘の為前進する中隊疎開せば、小隊は地形地物を利用し、隊形を選び、偽装を施す等、手段を尽くして行動を秘匿し、速やかに敵に近接す
    卸下(脱駕)は通常中隊長の命に依る。此の際、馬の処置に関し別命なければ小隊長は指揮者を附し其の行動を命ず
    卸下(脱駕)後に在りては、手段を尽くし、要すれば分解搬送を行い、有ゆる障碍を突破して歩兵の行動に追随す
  2. 第425
    小隊長は任務を受くるや、通常所要の人員を随え先行して陣地を偵察し、陣地進入、射撃等に関し準備を整う
    射撃準備は其の方法を状況に適合せしめ、且つ最初より有効なる射撃を実施し得る如く、為し得る限り綿密に行うこと緊要なり
  3. 第426
    連、大隊砲の陣地は、状況、特に任務に適合し、勉めて敵に近く、且つ遮蔽し、不意に射撃を開始するに適し、特に砲の位置附近に良好なる観測所を有することに着意し、又、所属指揮官との連絡容易なること、及び瓦斯の滞留せざることを考慮す
    連、大隊砲の陣地に於ける砲の間隔は50米を標準とし、適宜伸縮す
    速射砲の陣地は特に進入容易にして、且つ著明なる地物の附近を避け、遮蔽物、陰影等を利用し、背景に注意し、又偽装を施す等、極力所在を秘匿す
    陣地には状況の許す限り工事を行う
  4. 第427
    観測所は、勉めて砲側に近く、射撃指揮、特に射弾の観測容易にして戦闘の経過を観察するに適し、且つ著名なる地物の付近を避け、遮蔽するを要す。此の際、為し得る限り予備観測所を設くると共に所要の工事を行い、且つ観測手は適宜相互に離隔し地形地物を利用す
    射撃指揮を容易ならしむる為、小隊長は為し得れば補助観測所を設く。補助観測所は、小隊長との連絡容易にして、成るべく観目距離略々砲目距離に等しき地点に選び、通常観測掛下士官及び兵1名を派遣す。此の際、特に射撃目標を確認せしめ、且つ射弾の方向偏差を正確に観測し、其の結果を迅速的確に報告するの処置を講ぜしむ
  5. 第428
    小隊長、陣地を決定せば、観測掛下士官に観測所、砲の位置、原点、照準点、目標の捜索、遮蔽角の測定等を示し、準備せしむ
    小隊長は自ら目標を捜索すると共に、観測掛下士官に特に捜索すべき区域を示し、又、附近の部隊と連絡し、速やかに目標を発見するに勉む
  6. 第429
    観測掛下士官は任務を受くるや、観測所内の配置を定め、観測手に任務を与え、射撃準備を為し、且つ観測手の監視、観砲間の連絡、及び目標等の捜索に任じ、要すれば射弾の観測を行う等、小隊長の輔佐に遺憾なきを要す
    目標の捜索に方り観測掛下士官は、通常捜索すべき区域を観測手に分担せしむると共に、自らも亦捜索に任ず。此の際、特に示されたる区域に対し捜索を綿密ならしむる如く捜索範囲を制限し、且つ適切に器材を配当す。而して目標を発見せば、其の状態、附近の地形、目標と所要なる地物及び友軍との関係等を詳かにす
  7. 第430
    陣地進入に方り、小隊長は所要に応じ進出すべき地域に在る関係部隊に連絡し、速やかに当面の状況を明かにし、小隊の陣地、射撃区域(目標)等を通報し、要すれば爾後の射撃、又は前進等に関し協定す
  8. 第431
    陣地進入は小隊長の号令又は命令に依る
    連、大隊砲の小隊長は、通常陣地進入に先立ち、分隊長に観測所、砲の位置、原点、照準点、射撃区域(目標)、射向附与法、進入法、準備すべき弾薬数《装薬号共》、要すれば射撃準備の程度、信管の種類等を示す
    速射砲の小隊長は、分隊長に分隊の陣地、中隊の基点、射撃目標、要すれば射撃を準備すべき方向、射撃開始の時期、射距離等を示す
  9. 第432
    連、大隊砲の射撃目標は、任務に基き、主として敵の重火器、就中我が第一線歩兵に最も危害を与うるもの、若しくは速やかに撲滅を要するもの等、戦術上の価値に従い選択す。此の際、他の重火器及び砲兵の射撃目標を考慮するを要す
  10. 第433
    対戦車射撃は通常中距離内に於いて行い、成るべく短時間に敵戦車を撲滅するに勉む。此の際、過早に射撃を開始して、位置を暴露し損害を被らざる如く留意す
    小隊長は通常射撃すべき戦車群を示し、分隊をして其の対向せる部分に於いて有利なるものを射撃せしむ。状況に依り分隊毎に目標を示すことあり
  11. 第434
    戦闘間、小隊長は指揮に便なる所に位置し、戦況及び射撃の効果を観察し、分隊長以下の動作を監視し、且つ中隊長との連絡に注意す
    小隊長は他の重火器及び砲兵の射弾を観察し、縦い此等部隊との連絡困難なる場合に於いても弾丸先の協調を適切ならしめ、以って第一線歩兵戦闘の機微に即応すること緊要なり
    小隊長は、敵の意表に出で、或は損害を避けんが為、状況之を許せば砲の位置を移動して射撃す。之が為、予め砲の位置を偵察し、成るべく所要の準備を整うるを可とす
  12. 第435
    小隊の陣地変換は通常中隊長の命令に依る
    陣地変換は通常小隊同時に行う。状況に依り梯次に行うことあり
    陣地変換に方りては、小隊長は予め前進地点、進路、前進要領等を示し前進を命ず。分隊の運動は分隊長直接指揮す
    状況、特に地形に依り、観測所のみを前進することあり。此の際、観測所は勉めて射面に近く選び、且つ観砲間の連絡施設を十分ならしむ
    速射砲小隊は第一線の前進に伴い遮蔽して跟随し、或は逐次陣地を占領して躍進す。何れの場合に於いても、行動間機を失せず陣地に進入し、直ちに射撃を実施し得る如く準備を整えあること緊要なり
  13. 第436
    第一線歩兵突撃を準備するに至れば、歩兵砲は最も有利なる位置に進出し、準備を周到にし、第一線歩兵に密に連絡し、我が突撃を妨害すべき敵の重火器、特に側防機能を撲滅若しくは制圧すべし
    側防機能の射撃に専任すべき速射砲、連隊砲は、通常分隊毎に1目標を配当し、且つ地形地物を利用し、勉めて工事を施す
  14. 第437
    第一線歩兵突撃を開始するや、歩兵砲は新たに現出する敵の重火器、就中側防機能を速やかに射撃し、突撃の支援に万遺憾なきを期すべし
  15. 第438
    第一線歩兵敵陣に突入せば、連、大隊砲小隊は中隊長の企図に基き、機を失せず極力前方に進出し、第一線歩兵の突進を阻止する敵の重火器を射撃す。此の時機に於ける幹部以下の勇敢なる動作及び戦機に投ずる射撃は、戦闘の成果を特に大ならしむるものなり
    敵の逆襲に対しては、速射砲小隊は逆襲する戦車を撲滅し、連、大隊砲小隊は主として逆襲に協同する敵の重火器を射撃して其の企図を破摧す。状況に依り、連隊砲小隊は砲兵の射撃を考慮し敵の逆襲部隊を射撃することあり